第31話 学園外の視線
解析運用が「補助」として定着し始めてから、学園には一つの変化が起きていた。
――見られている。
それも、生徒や教師の視線とは違う、もっと重く、評価する目だ。
◆
最初に異変を感じたのは、朝の登校時だった。
正門前に、見慣れない馬車が停まっている。装飾は控えめだが、作りがいい。学園関係者のものではない。
「……来てるわね」
セリアが、低く呟いた。
「うん」
アルトも、視線を逸らさずに答える。
馬車のそばには、制服ではない人間が数人立っていた。姿勢が良く、周囲を観察する目に無駄がない。
――軍。
確信に近い感覚だった。
◆
午前の講義は、妙に落ち着かなかった。
教師の説明はいつも通りだが、教室の後方に、見知らぬ大人が二人座っている。記録用の紙に、淡々と何かを書き留めていた。
生徒たちも、落ち着かない。
「誰だよ、あれ」
「視察?」
「なんで今……」
アルトは、ノートを取りながら考えていた。
学園編・前半で作った仕組みは、まだ不完全だ。
それでも――。
外の世界から見れば、「使えそう」に見える。
◆
昼休み。
ローディアスが、解析運用班を呼び集めた。
「正式な通達は、午後になる」
短い前置き。
「軍と、中央研究機関から、合同視察が入った」
ミナが、思わず息を呑む。
「研究機関……?」
「解析に興味があるのは、軍だけじゃない」
ローディアスは、アルトを見る。
「特に、“判断を止める仕組み”にな」
言葉を選んでいるのが分かる。
「今日は、いつも通り動け。余計なことはするな」
「……いつも通り、ですね」
「そうだ」
ローディアスは、少しだけ声を落とした。
「評価されるのは、派手な成果じゃない。運用そのものだ」
◆
午後の実習。
内容は中規模の連携訓練。危険度は低いが、判断ポイントは多い。
アルトは、いつも通り兆候を拾う。
「音、わずかに遅延」
「循環、軽度の偏り」
それだけ告げる。
現場が、動く。
「了解、出力調整」
「間隔を広げろ」
誰も、アルトに答えを求めない。
だが、無視もしない。
――それが、今の形だ。
◆
実習の端で、視察団の一人が、隣の人物に小声で話しかけた。
「判断を止めないのか」
「止めない」
低い声が返る。
「情報だけを出している。……興味深いな」
アルトは、その視線を感じ取っていた。
評価されている。
だが、それは――。
使えるかどうか、という評価だ。
◆
実習後、学園長代理が全体に向けて告げた。
「本日は、外部視察が入っている」
ざわめき。
「詳細は後日説明する。各自、通常通り行動するように」
それ以上は、語られなかった。
◆
夕方。
図書棟の窓際で、アルトは一人、外を見ていた。
学園の中で積み上げてきた仕組みが、
学園の外に出た瞬間、
まったく別の意味を持ち始める。
守るための解析。
育てるための判断。
それが、外では――。
効率化の道具になりうる。
切り捨ての免罪符にもなりうる。
◆
背後から、静かな声がした。
「……始まったわね」
振り返ると、リィナが立っていた。
「学園の中だけで完結すると思ってた?」
「思ってない」
アルトは、正直に答える。
「でも、来るのが早い」
リィナは、窓の外に視線を向けた。
「外は、余裕がない。成果がすべて」
一拍置く。
「あなたのやり方は、嫌われる」
「分かってる」
「それでも、やる?」
試すような問い。
アルトは、少しだけ考えてから答えた。
「……だから、やる」
嫌われるやり方だからこそ、
残す意味がある。
リィナは、わずかに口角を上げた。
「面倒な人ね」
「今さらだろ」
◆
その日の夜。
アルトは、ログの新しいページを開いた。
《学園外視察・初日》
ここから先は、
学園の論理だけでは通らない。
それでも、
判断を奪わない解析が、
どこまで通用するか。
試されるのは、
仕組みではない。
――覚悟だ。
学園の外から向けられた視線は、
静かに、
だが確実に、
次の舞台を指し示していた。
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