第30話 役割としての解析
解析運用の新方針が正式に通達されたのは、翌週のことだった。
掲示板に貼られた文書は、簡潔だ。
『解析補助運用について
本学園では、解析を「警告・観測補助」として限定的に運用する。
最終判断は、必ず現場責任者が行うこと』
拍子抜けするほど、地味な内容だった。
だが――。
それは、解析が“排除されなかった”証でもある。
◆
実習場。
解析運用班は、これまでと変わらず配置についた。だが、周囲の視線は、少しだけ違っている。
警戒でも、期待でもない。
――受け入れ始めた目だ。
「兆候、南側。軽度」
アルトが告げる。
以前なら、誰かが身構えた。
だが今は、班の代表が即座に返す。
「了解。出力、五%下げる」
それだけで、動きが変わる。
誰も、アルトに答えを求めない。
だが、無視もしない。
それでいい。
◆
実習後、ローディアスが声をかけてきた。
「……定着し始めたな」
「はい」
「派手さはない」
「それでいいと思っています」
ローディアスは、短く笑った。
「英雄にならなくて済む」
その言葉に、アルトは小さく息を吐いた。
◆
昼休み。
解析運用班の四人が、いつもの場所に集まっていた。
「結局、完全な勝ちじゃなかったわね」
セリアが言う。
「でも、全部奪われもしなかった」
ミナは、少し安心したように微笑んだ。
「現場の人たち、前より落ち着いてます」
「判断が、戻ったからな」
ガルドが頷く。
リィナは、腕を組んだまま、少し離れたところで聞いていた。
「……あなたのやり方、効率は悪い」
いつもの評価。
「でも」
一拍置く。
「組み込まれる余地はある」
それだけ言って、背を向ける。
完全な和解ではない。
だが、決裂でもない。
◆
夕方。
アルトは、図書棟の窓から学園を見下ろしていた。
解析は、主役じゃない。
戦わない。
勝たない。
だが。
止めることができる。
考える余地を残せる。
それが、役割だ。
◆
そのとき、背後でページをめくる音がした。
「……面白い制度だ」
振り返ると、見慣れない教師が立っていた。
制服ではない。
外部の人間。
「君が、解析の中心人物か」
低い声。
「学園の外でも、こういう仕組みは使える」
名乗らない。
だが、立ち居振る舞いで分かる。
――軍か、研究機関。
「いずれ、話をしよう」
それだけ言って、去っていった。
◆
アルトは、しばらくその場から動けなかった。
解析は、学園の中で役割を得た。
だが、それで終わりじゃない。
外の世界は、
もっと速く、
もっと苛烈で、
もっと簡単に切り捨てる。
そこで、このやり方は通用するのか。
分からない。
だが――。
歯車は、もう回り始めている。
学園という箱を越えて、
次の舞台へ向かって。
ここから先は、
選ばれる側ではなく、
選ばせる側の戦いだ。
解析は、
“役割”から、
“価値”へ。
物語は、次の段階へ進む。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




