第28話 人の判断
実習場の緊張は、完全には解けていなかった。
最適化運用側で起きた“遅れ”は、致命傷にはならなかった。だが、教師も生徒も、はっきりと見てしまった。
――完璧ではない。
◆
臨時の検証時間が設けられた。
実習は中断されたまま、両陣営の運用を、同じ条件でもう一度だけ確認する。今度は討伐ではない。残滓処理と魔力安定化だけに絞られた、地味な工程だ。
だからこそ、誤魔化しがきかない。
◆
最適化運用側。
数式に基づいた警告は、正確に機能している。閾値に近づくたび、即座に通知。詠唱は抑制され、全体の安定度は高い。
――だが。
「……集中、切れてる」
上級生の一人が、わずかに肩で息をしている。
装置は反応しない。
数値は、問題なし。
リィナが、眉をひそめた。
「出力、予定より下げて」
指示は的確だ。
だが、ワンテンポ遅れる。
◆
委ねる運用側。
アルトは、数字を見ていない。
装置もない。
見ているのは、人だ。
「……疲労、出てる」
ミナが、小さく言う。
「魔力の戻り、鈍い」
セリアが続ける。
アルトは、短く告げた。
「一旦、止めよう」
理由は、説明しない。
判断を、奪わない。
班は、即座に頷いた。
◆
その瞬間。
最適化運用側で、魔力がわずかに跳ねた。
「――っ!」
警告音。
強制抑制。
間に合った。
だが、ぎりぎりだ。
教師の一人が、低く息を吐く。
「……数値は、まだ余裕があった」
ローディアスが、即座に返す。
「だが、人は限界だった」
◆
リィナが、歯を食いしばる。
「想定外じゃない……疲労も、数値化できる」
「できるだろうな」
アルトは、静かに言った。
「でも、それを入れたら、閾値は下がり続ける」
リィナが、こちらを見る。
「安全になる」
「動けなくなる」
一言で、突き返した。
◆
沈黙。
効率を取れば、余白が消える。
余白を残せば、迷いが生まれる。
どちらも、完全ではない。
◆
学園長代理が、ゆっくりと口を開いた。
「結論を急ぐ必要はない」
教師たちを見る。
「だが、今日分かったことがある」
一拍置く。
「判断を、完全に装置に任せることはできない」
「同時に、判断を人にだけ任せるのも危うい」
視線が、アルトとリィナの間を行き来する。
◆
実習は、正式に終了となった。
評価は、保留。
勝敗も、保留。
だが。
“選択肢”は、はっきりした。
◆
帰り道。
リィナが、アルトに並んで歩いた。
「……あなたの言う通りね」
低い声。
「最適化は、切り捨てが早すぎる」
アルトは、歩みを止めずに答える。
「でも、君の案がなければ、ここまで見えなかった」
リィナは、少しだけ目を伏せた。
「中途半端よ、あなたは」
「そうだな」
否定しない。
「でも、中途半端だから、残るものもある」
◆
その夜。
アルトは、ログに新しい一文を書き足した。
《人の判断は、数値化できないノイズではない》
それは、制御されるべき誤差ではなく、
最後に残る、安全装置だ。
歯車は、完全には噛み合わない。
だが、だからこそ、
壊れずに回り続ける。
次に問われるのは、
この“不完全さ”を、
学園がどう扱うか――だ。
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