第27話 二つの運用
比較試験の当日。
実習場には、いつもより多くの教師と生徒が集まっていた。上級生と下級生が混じり、視線の交差が増える。緊張は、隠しようがない。
結界は二重。
条件は同一。
違うのは――運用だけ。
◆
配置は左右に分けられた。
左が、解析運用班の“委ねる運用”。
右が、リィナ案の“最適化運用”。
同じ規模、同じ模擬魔獣、同じ属性構成。
ローディアスが、低い声で告げる。
「開始」
◆
右側――最適化運用。
数式化された警告が、淡々と表示される。閾値に近づくたび、短い通知。危険域に入る前に、詠唱が自動で抑制される。
速い。
迷いがない。
連携は滑らかで、無駄がない。
「……きれいだ」
誰かが、思わず呟いた。
事故は起きない。
判断は、装置が下す。
◆
左側――委ねる運用。
アルトは、兆候だけを拾って伝える。
「音、遅延」
「圧、微増」
「循環、引っかかり」
それだけ。
上級生の班が、短く言葉を交わす。
「どうする」
「出力、下げる」
「間に合うか?」
判断に、数秒の間が生まれる。
動きは、遅い。
連携は、ぎこちない。
◆
結果は、明確だった。
最適化運用は、予定より早く討伐を終えた。
委ねる運用は、時間がかかった。
事故は、どちらもなし。
見た目の勝敗は、誰の目にも明らかだ。
◆
教師たちの間に、ざわめきが走る。
「効率が違う」
「判断の質が安定している」
「学生向きだ」
評価は、右に傾く。
リィナは、表情を変えない。
アルトは、視線を外さない。
◆
だが、実習は終わらなかった。
討伐後の処理。
魔力残滓の回収。
そこで、想定外が起きた。
◆
最適化運用側。
警告が、一瞬だけ遅れた。
魔力質の変動。
上級生の一人が、顔色を変える。
「……気分が」
装置は反応しない。
数値は、閾値以下。
だが。
空気が、重くなる。
◆
委ねる運用側。
アルトが、即座に告げる。
「兆候、変質。理由不明」
それだけ。
班が、即断する。
「止める」
「距離取れ」
「回復、準備」
処理が、中断される。
◆
最適化運用側。
装置が、ようやく警告を出す。
遅い。
詠唱が乱れ、魔力が跳ねた。
「――っ!」
寸前で、教師が介入する。
大事には至らない。
だが、冷や汗が残る。
◆
実習は、完全停止となった。
静まり返る実習場。
リィナが、唇を噛む。
アルトは、何も言わなかった。
◆
ローディアスが、両陣営を見渡す。
「結果をまとめる」
低い声。
「最適化運用は、速く、安定していた。だが――」
一拍置く。
「想定外への対応が、遅れた」
視線が、委ねる運用側に向く。
「こちらは、遅い。効率も悪い。だが――」
再び、間。
「人が、人を見て、止めた」
◆
誰も、すぐには声を出せなかった。
勝敗は、簡単じゃない。
効率か。
判断か。
安全か。
主体性か。
◆
アルトは、静かに息を吐いた。
これは、勝負じゃない。
選択だ。
どちらを、学園は残すのか。
歯車は、今まさに、
別の未来へ噛み合おうとしていた。
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