第25話 試験の条件
教師会の招集は、予告なく行われた。
放課後、解析運用班の全員が呼び出され、会議棟の小会議室に通される。以前より人数は少ない。だが、その分、空気は張りつめていた。
円卓の向こうに、学園長代理、ノイン教授、ローディアス。そして、学生代表として――カイル・フォン・レグナスの姿があった。
アルトは、嫌な予感を確信に変える。
◆
「結論から言おう」
学園長代理が口を開く。
「解析運用は、現時点では“成功とも失敗とも言えない”」
重たい評価だった。
「事故は防げている。一方で、軽傷は発生した。判断委譲型運用は教育的だが――」
視線が、アルトに向く。
「責任の所在が、曖昧だという指摘もある」
その言葉を受けて、カイルが一歩前に出た。
「発言を許可いただけますか」
学園長代理が、短く頷く。
「解析運用班のやり方は、理念としては理解できます」
カイルの声は、冷静で、感情を挟まない。
「ですが、学生に“判断を委ねる”という形は、責任放棄に近い。結果的に怪我人が出た以上、それは否定できません」
反論しにくい、正論だった。
「判断材料を与えた、という主張も分かります。しかし――」
一拍置く。
「判断を誤った場合、誰が止めるのですか」
視線が、アルトに突き刺さる。
◆
沈黙。
アルトは、すぐには答えなかった。
感情で返せば、負ける。
ここは、議論の場だ。
「……止める役は、現場です」
静かに、そう答える。
「俺たちは、兆候を伝える。選択肢を示す。その上で、現場が判断する」
「それが、問題だと言っている」
カイルは、即座に返した。
「判断できない現場があったら? 迷ったら? その時間が、事故を呼ぶ」
ノイン教授が、低く言う。
「理論的には、彼の指摘は正しい」
アルトの胸が、わずかに軋む。
「委ねる運用は、成熟した現場向けだ。学生には、荷が重い」
学園長代理が、手を上げた。
「だからこそ、試験を行う」
その一言で、空気が変わった。
◆
「次の実習を、“最終試験”とする」
言葉が、淡々と落とされる。
「対象は、上級生との合同実習。規模は中〜大」
ミナが、小さく息を呑んだ。
「条件は三つ」
学園長代理が指を立てる。
「一つ、解析運用は継続を認める」
「一つ、別案の提示も同時に行う」
「一つ、事故が起きた場合、解析運用は即時凍結」
アルトは、ゆっくりと理解した。
――比較試験だ。
「つまり」
セリアが口を開く。
「私たちのやり方と、別のやり方を、同じ場で試すってこと?」
「そうだ」
学園長代理が頷く。
「より安全で、より責任の所在が明確な運用を、学園は採用する」
カイルが、静かに続けた。
「感情論ではなく、結果で決めましょう」
◆
会議が終わり、廊下に出たとき。
解析運用班の誰も、すぐには口を開かなかった。
「……期限を切られたわね」
セリアが、ようやく言う。
「失敗したら、終わりだ」
「試験内容、きついです……」
ミナの声が、少し震えている。
ガルドは、拳を握りしめた。
「上級生相手か。容赦ねえな」
アルトは、足を止めた。
「でも」
三人を見る。
「逃げ道は、最初からなかった」
◆
その日の夜。
アルトは、ログを整理しながら、静かに考えていた。
試されているのは、解析の正しさじゃない。
効率でもない。
――責任を、どう引き受けるか。
委ねる運用は、弱い。
だが、人を育てる。
次の実習は、その価値が問われる場だ。
そしてもう一つ。
“別案”が、必ず出てくる。
それが誰の案かは、考えるまでもない。
アルトは、ペンを止めた。
歯車は、もう後戻りしない位置まで来ている。
次に噛み合うのは、
思想そのものだ。
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