第24話 委ねる判断
次の実習は、解析運用班にとって、これまでで一番“やりにくい”ものだった。
危険度は中。
だが、完全に安全とも言えない。
そして何より――。
今回は、解析運用班からの「指示」は出さない。
◆
実習開始前。
アルトは、参加班の代表生徒を集めて、短く説明した。
「俺たちは、兆候だけを伝える」
数名の生徒が、訝しげな顔をする。
「止めるか、続けるか。どう動くかは、君たちが決めてほしい」
「それって……」
一人が口を開く。
「結局、自己責任ってことか?」
直球の言葉だった。
「違う」
アルトは、即座に否定した。
「判断材料は、全部出す。見えない部分も含めて」
一拍置く。
「ただ、“答え”は出さない」
沈黙。
やがて、代表生徒が小さく息を吐いた。
「……分かった」
納得ではない。
だが、受け入れた。
◆
実習が始まる。
詠唱が重なり、魔力が結界内を巡る。表面上は、問題ない。
アルトは、兆候を拾う。
音の遅れ。
空気の圧。
魔力循環の引っかかり。
「……兆候あり」
声を張りすぎず、淡々と告げる。
「南側供給点。干渉の可能性、中」
それだけ。
判断は、現場に返された。
班の中で、短い議論が起きる。
「止める?」
「いや、出力を落とせば……」
「間に合うか?」
時間は、刻一刻と過ぎる。
アルトは、口を出さない。
◆
「……出力、下げる!」
代表生徒が、決断した。
詠唱が調整され、魔力が緩やかになる。
空気の重さが、少しずつ抜けていく。
――外れた。
異常は、起きなかった。
だが、それで終わりじゃない。
「……今度は北」
アルトが告げる。
「兆候、弱。判断は任せる」
再び、現場が迷う。
今度は、続行を選んだ。
結果、軽い乱れが起きる。
小さな転倒。
軽傷。
致命的ではない。
だが、“選択の結果”だ。
◆
実習終了後。
空気は、重かった。
「……俺たちの判断ミスだ」
代表生徒が、はっきりと言った。
「兆候は、出てた」
誰も否定しない。
アルトは、静かに頷いた。
「そうだ。でも」
視線を向ける。
「次は、もっと早く判断できる」
それだけ告げた。
◆
ローディアスが、腕を組んだまま近づいてくる。
「事故としては、軽微」
低い声。
「だが、記録は残る」
「はい」
「……だがな」
一拍置く。
「今のは、“管理された失敗”だ」
その言葉に、アルトは目を上げた。
「現場が考え、選び、結果を引き受けた。これは、教育だ」
初めて、はっきりとした評価だった。
◆
夕方。
解析運用班のミーティング。
「……思ったより、消耗した」
セリアが、肩を回す。
「自分で決めるって、疲れるのよね」
「でも」
ミナが、小さく言う。
「次は、判断が早くなると思います」
リィナが、腕を組んだまま呟く。
「理論的にも、筋は通ってる」
アルトを見る。
「あなたのやり方は、効率が悪い。でも」
一拍置く。
「“残る”やり方ね」
◆
夜。
アルトは、ログに新しい項目を書き加えた。
《判断委譲型運用》
解析は、答えを出すためのものじゃない。
選択肢を、正しく見せるためのものだ。
そして、選ぶのは――人。
今日の小さな失敗は、
次の大きな事故を、防ぐための代償だ。
そう信じているからこそ、
アルトは、書き続ける。
歯車は、また一つ噛み合った。
今度は、現場の意思と。
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