第23話 静かな反発
最初の運用が無事に終わった翌日。
学園は、目に見えるほどは変わっていなかった。事故もなく、騒ぎもない。だが、空気だけが、わずかに硬くなっている。
――注目され始めた。
それが、アルトにははっきり分かった。
◆
朝の講義。
席に着くと、周囲の視線が一瞬だけ集まり、すぐに逸らされる。好奇の目もあれば、警戒の色もある。
「昨日の実習、止めたんだって?」
「何も起きなかったのは、偶然じゃない?」
囁き声。
称賛ではない。
だが、否定とも違う。
“判断保留”という名の距離感。
◆
昼休み。
解析運用班の四人は、図書棟の一角に集まっていた。
「思ったより、反応が静かね」
セリアが言う。
「もっと騒ぎになるかと思った」
「騒がない方が、厄介だ」
リィナが即座に返す。
「反論は、まだ材料を集めてる段階」
アルトは、頷いた。
「規制派は、失敗を待つ。成功は、証拠になりにくいから」
ガルドが、眉をひそめる。
「性格悪いな」
「合理的なだけよ」
リィナは、淡々と続ける。
「事故が起きれば、“やはり危険だった”で終わる。起きなければ、“たまたま”で片付けられる」
現実的で、冷たい論理。
◆
午後、別の実習場。
解析運用班は、今回は“待機”だった。判断権はあるが、介入は要請があった場合のみ。
中規模の連携訓練。
危険度は、低から中。
アルトは、遠巻きに観測していた。
――問題はない。
兆候も、干渉も、見当たらない。
だからこそ。
「……来るとしたら、別の形だ」
小さく呟く。
◆
実習終了後。
ローディアスが、眉間に皺を寄せていた。
「報告が来ている」
「何ですか」
「生徒からの“苦情”だ」
意外な言葉だった。
「解析運用班が現場にいると、判断が遅れる、と」
アルトは、一瞬だけ目を伏せた。
「……監視されている感覚、ですか」
「そう取る者もいる」
ローディアスは、低く言う。
「自分の判断が、後から評価される。そう感じれば、動きが鈍る」
正しい。
そして、予想していた問題だ。
◆
夕方。
解析運用班のミーティング。
「想定通りね」
リィナが言う。
「安全のための仕組みが、“縛り”として認識され始めた」
「じゃあ、どうする」
ガルドが、腕を組む。
「放置すると、反感が増す」
ミナが、控えめに言った。
「でも、介入しなければ、意味が……」
全員の視線が、アルトに集まる。
責任者。
決断する立場。
「……一つ、やり方を変える」
アルトは、静かに言った。
「判断を“上から出さない”」
「どういうこと?」とセリア。
「兆候だけを、現場に返す」
ノートを開く。
「使うかどうかの判断は、班自身に委ねる。俺たちは、答えを出さない」
リィナが、目を細めた。
「責任を、分散させる?」
「違う」
アルトは、首を振る。
「“取り戻してもらう”」
判断する感覚を。
現場の主体性を。
◆
その夜。
アルトは、一人でログを書き足していた。
《運用記録・反発事例》
解析は、力だ。
だが、力は必ず、使われ方を問われる。
守るための仕組みが、
縛るものに見えた瞬間、
それは敵になる。
だからこそ。
理解させる必要がある。
奪わずに、渡す形で。
次の実習が、試金石になる。
解析が、
“管理”ではなく
“支え”として受け入れられるか。
歯車は、また別の角度で噛み合おうとしていた。
静かに、だが確実に。
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