第22話 最初の運用
解析運用班としての初仕事は、思っていたより地味だった。
大規模実習ではない。
派手な魔法も、強力な魔獣も出てこない。
対象は、一年生合同の基礎応用実習。
内容は、結界内での複数属性連携の反復訓練。
だが――。
「事故が起きやすい条件」は、ほぼ揃っていた。
◆
実習開始前。
アルトは、簡易的な配置図を地面に描いていた。結界の範囲、魔力供給点、生徒の立ち位置。
「ミナ、体調は?」
「問題ありません。魔力循環も安定しています」
「ガルド」
「前衛役、問題なし。動きやすい」
「リィナ」
少し間を置いてから声をかける。
「理論側、どうだ?」
リィナは、手元の紙束から視線を上げた。
「結界構造は標準型。安全寄り。だけど……」
一拍置く。
「魔力供給点が三つある。重なる時間帯があるわね」
アルトは、頷いた。
「重なった瞬間に、干渉が起きる可能性がある」
「兆候は?」とセリア。
「音の遅延。空気の圧。魔力の戻り」
全員が、短く頷く。
これが、運用だ。
◆
実習が始まる。
詠唱が重なり、魔法が飛び交う。結界は安定している。表面上は、何の問題もない。
だが。
「……今」
アルトが、小さく呟く。
誰もが一斉に集中する。
空気が、ほんのわずかに重くなる。
音が、半拍遅れる。
「兆候あり」
アルトが告げる。
「三番供給点、重なってる」
リィナが即座に応じる。
「干渉予測、二十秒後。軽度だけど、詠唱乱れが出る」
セリアが、即断する。
「詠唱、ずらす。全員、半拍遅らせて」
ガルドが前に出る。
「前列、距離取るぞ!」
ミナが、回復魔法を構える。
「異常が出ても、即対応できます」
指示が、滑らかにつながる。
そして。
何も起きなかった。
◆
実習は、そのまま終了した。
事故も、怪我も、混乱もない。
だが――。
ローディアスが、腕を組んだまま、こちらを見ていた。
「……今の判断」
低い声。
「誰が?」
「俺です」
アルトが答える。
「兆候検知、判断共有、行動分担。すべて、班で行いました」
ローディアスは、短く頷いた。
「事故が起きなかったことを、成果とするのは難しい」
厳しい言葉。
だが、続けて言う。
「だが、“起きるはずだったものを止めた”なら、話は別だ」
周囲の教師たちが、わずかにざわめく。
◆
実習後、リィナが小さく息を吐いた。
「……理論通りね」
「感覚通りだ」とガルド。
ミナは、少し緊張が解けたように笑った。
「何も起きないのが、こんなに疲れるとは……」
セリアが、アルトを見る。
「派手じゃないけど」
少しだけ、口元が緩む。
「悪くない初仕事ね」
◆
夕方。
ローディアスが、アルトを呼び止めた。
「一つだけ、言っておく」
「はい」
「今日の運用は、教科書に載らない」
一拍置く。
「だが、現場では最も価値がある」
それだけ言って、去っていった。
◆
帰り道。
アルトは、空を見上げていた。
事故は起きなかった。
評価も、まだ曖昧だ。
だが。
解析は、個人の力ではなく、
運用として、確かに機能した。
次は、もっと大きな現場になる。
失敗は、許されない。
それでも――。
歯車は、噛み合った。
静かに。
確実に。
解析は、止めるための力として、
初めて“役割”を得たのだった。
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