第21話 引き受ける条件
教師会からの呼び出しがあってから、一夜が明けた。
学園は、相変わらず動いている。鐘が鳴り、生徒が行き交い、授業が始まる。だが、アルトの目には、どこか“様子見”の色が混じって見えた。
解析の扱いが、宙に浮いている。
誰もが分かっているが、誰も決めきれていない。
だから、空気が重い。
◆
朝の講義が終わった直後、ローディアスがアルトを呼び止めた。
「条件が固まった」
早い。
「教師会としては、君の案をベースにする。解析は、個人ではなく“班”で運用する」
アルトは、小さく息を吐いた。
「役割は三つ」
ローディアスが指を立てる。
「一つ、現場観測。異常兆候の検知」
「一つ、理論整理。記録と再現性の検証」
「一つ、実戦判断。使うか、止めるか」
聞き覚えのある分担だ。
「人選は?」
「君が推薦する」
責任を与えた上で、裁量も渡す。
半端な信頼ではない。
「期限付きだ」
ローディアスは、言葉を続ける。
「次の大規模実習まで。そこで結果が出なければ、解析は正式に凍結される」
アルトは、静かに頷いた。
「分かりました」
◆
昼休み。
アルトは、図書棟の奥で三人を待っていた。
最初に現れたのは、セリア。
「……顔、疲れてる」
「責任が増えた」
「でしょうね」
次に、ミナが小走りでやって来る。
「呼ばれたって聞きました……」
「うん」
最後に、ガルド。
「面倒な役、押し付けられたな」
全員揃ったところで、アルトは話し始めた。
「教師会から、条件付きで解析の再開を任された」
三人の表情が、引き締まる。
「俺一人じゃ、引き受けない。だから――」
視線を順に向ける。
「手伝ってほしい」
沈黙。
最初に口を開いたのは、セリアだった。
「当然でしょ」
迷いのない声。
「あなた一人に背負わせる気、最初からない」
ミナも、震えながらも頷く。
「私……現場の回復や補助なら、異常を感じ取れます。役に立ちたいです」
ガルドは、腕を組んでから言った。
「正直、難しい理屈は分からねえ。でも」
アルトを見る。
「前に立つなら、俺は立つ。判断ミスがあっても、逃げねえ」
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
「ありがとう」
それ以上、言葉はいらなかった。
◆
その日の夕方。
アルトは、一人で実習場を見下ろしていた。
期限付き。
結果を出さなければ、終わる。
だが、これは“試験”じゃない。
解析が、運用として成立するか。
責任を分散した形で、事故を防げるか。
――証明する必要がある。
◆
そのとき、背後から声がした。
「……ずいぶんと、重いものを背負ったわね」
振り返ると、リィナ・クロウフェルが立っていた。
「聞いた」
淡々とした声。
「解析運用責任者。班で管理。期限付き」
情報が回るのは、早い。
「どう思う?」
アルトは、正直に答えた。
「正解かは、分からない」
「でしょうね」
リィナは、腕を組む。
「でも、面白い」
少しだけ、口角が上がった。
「あなたは、独占もしない。放棄もしない。中途半端で、だからこそ危険」
そして、はっきりと言った。
「だから、私も関わる」
「……え?」
「理論整理役が足りない」
当然のように続ける。
「再現性を取るなら、私が一番向いてる」
アルトは、言葉を失った。
リィナは、こちらを見て言う。
「誤解しないで。これは善意じゃない」
一拍置く。
「あなたのやり方が、どこまで通用するか――確認したいだけ」
挑戦状のような言葉。
だが、断る理由はなかった。
「……歓迎する」
短く答える。
リィナは、小さく頷いた。
「決まりね」
◆
こうして、解析運用班は動き出した。
善意と理論と現場判断。
それぞれが、違う方向を向きながら。
成功すれば、学園の常識が変わる。
失敗すれば、解析は封じられる。
引き受けた条件は、重い。
だが――。
アルトは、空を見上げた。
一人ではない。
それだけで、歯車は、確かに回り始めていた。
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