第20話 教師会という名の現実
その日の放課後、アルトはローディアスに呼び止められた。
「来い」
それだけだった。
案内されたのは、普段立ち入ることのない校舎奥の会議棟。重い扉の前に立った時点で、ただの個別面談ではないことは分かっていた。
――来たな。
扉が開く。
中には、十名ほどの教師が円卓を囲んで座っていた。実技担当、座学担当、結界専門、そして中央には学園長代理。その視線が、一斉にアルトに向く。
「アルト・レインフォード」
名を呼ばれ、軽く頭を下げる。
「君を呼んだ理由は、分かっているな」
「……はい」
学園長代理が、淡々と続ける。
「解析ログの件だ」
空気が、ぴんと張り詰める。
「事故が起きた。幸い重傷者はいない。だが――原因の一端に、君の解析があったのも事実だ」
否定はしない。
事実だからだ。
「一方で」
別の教師が口を開く。
「解析を完全に排除してから、現場の不具合報告が増えている。致命的ではないが、無視できない数だ」
小さなざわめき。
評価は、割れている。
完全に。
ノイン教授が、腕を組んだまま言った。
「解析は未成熟だ。学生が扱うには危険が大きい」
だが、続けて。
「しかし、“不要”とは言わない。現場で機能していたのも事実だ」
アルトは、黙って聞いていた。
ここは、主張する場じゃない。
判断される場だ。
「そこでだ」
学園長代理が、視線を落とす。
「条件付きで、解析の使用を再開する案が出ている」
胸が、わずかに高鳴る。
「ただし、無制限ではない。責任の所在を明確にする」
机に、一枚の紙が置かれる。
「解析運用責任者を置く」
その言葉に、空気が変わった。
「現場で解析を使うか否か」
「使用を止める判断」
「異常が起きた場合の即時報告」
一つずつ、読み上げられる。
「これらを、一括して判断する者が必要だ」
そして。
学園長代理が、アルトを見た。
「君に、その役を打診したい」
一瞬、思考が止まる。
名誉でも、昇進でもない。
これは――。
責任だ。
「事故が起きた場合、真っ先に問われるのは君だ」
逃げ場のない言葉。
ノイン教授が、低く言った。
「理論が正しくても、現場で事故が起きれば意味はない。君は、それを引き受けられるのか」
アルトは、拳を握った。
前世なら、断っていた。
責任だけ押し付けられる立場には、もう立ちたくなかった。
だが。
「……一人では、引き受けません」
静かな声で、そう言った。
教師たちが、わずかにざわつく。
「条件があります」
視線を上げる。
「判断を、俺一人に集中させないこと」
続ける。
「現場補助、実戦検証、理論整理。それぞれ役割を分ける。解析は、個人技じゃなく、運用体制として扱ってほしい」
沈黙。
やがて、ローディアスが小さく頷いた。
「……妥当だ」
ノイン教授は、しばらく考え込んだあと、短く息を吐く。
「責任を分散させる、か。逃げではないな」
学園長代理が、紙に目を落とした。
「検討しよう。だが、覚えておけ」
一拍置く。
「それでも、最終的な責任は――君に集まる」
「分かっています」
即答だった。
だからこそ、一人ではやらない。
会議が終わり、廊下に出たとき、アルトは深く息を吐いた。
解析は、危険な力だ。
だが、必要とされてしまった。
ならば、逃げない。
だが、独りで背負わない。
それが、アルトの選んだ答えだった。
歯車は、また一段重くなった。
回せるかどうかは――これからだ。
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