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魔法が使えない落ちこぼれの俺だが、解析スキルで魔法学園の戦闘を支えてます ~最強じゃないけど、いないと困る~  作者: 天城ユウ


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第1話 努力が報われなかった俺が、魔法のある世界で目を覚ました

この物語は、

強い魔法で無双する話ではありません。


最初に評価されるのは、いつも派手な力です。

でも、現場で本当に必要なのは、

「なぜ失敗するのか」を理解する力でした。


ゆっくりですが、確実に積み上がる成長譚です。

合う方には、長く楽しんでいただけると思います。

 終電の車内は、窓に映る自分の顔だけがやけに鮮明だった。


 吊り革に掴まったまま、アルト――いや、前世の俺は、スマホの画面を何度も見返していた。通知欄には、たった一行のメッセージ。


『今期の評価:据え置き。来期も期待しています』


 期待、か。便利な言葉だ。期待していると言いながら、何も変えない。努力が足りないと言わず、頑張りが足りないとも言わず、ただ“据え置き”で終わる。文句を言えば「次は頑張れ」で片付けられ、黙れば「納得した」と解釈される。どちらに転んでも、俺の時間だけが減っていく。


 残業続きの三か月。休日返上の提案資料。顧客の理不尽を飲み込むたび、喉の奥に小さな棘が増えていった。それでも折れないように、折れないようにと、笑っていた。


 だけど、数字は変わらなかった。


 ――努力が報われるって、誰が決めたんだ。


 車両が揺れる。車内アナウンスが次の駅を告げる。乗客たちは疲れた顔で、疲れたまま、何も言わずに立っている。俺だけじゃない。みんな、何かを抱えて、どこにも出せずにいる。


 ドアが開き、冷たい風が足元を撫でた。ホームに降りる人々の背中を眺めながら、ふと、俺は思った。


 もしも。


 もしも、もう一度やり直せるなら。


 努力の結果が、目に見える世界なら。


 才能があるかないかが、最初からはっきりしていて、足りないなら足りないなりに進める世界なら。


 俺は、ちゃんと――。


 ――ドンッ。


 背中に衝撃が走った。視界がぐらりと揺れて、吊り革から手が離れる。誰かがぶつかった? いや、違う。床が、足元が、俺を持ち上げるように傾いた。耳の奥で、鋭い金属音が鳴った。


 世界が、白く弾ける。


 声が聞こえた気がした。誰かが叫んでいた気がした。けれど音は遠く、遠く、溶けていく。


 俺の身体は、浮いた。


 いや、落ちた。


 暗闇の中へ――。


          ◆


 最初に戻ってきたのは、匂いだった。


 土と、木と、湿った草の匂い。雨上がりの公園みたいな、懐かしい匂い。次に肌に触れたのは、やわらかな布。耳には、鳥の声。遠くで風が葉を擦る音。


 目を開ける。


 見知らぬ天井があった。木材の梁が走り、窓から斜めに光が差し込んでいる。部屋は質素だが清潔で、壁には小さな棚。棚には瓶が並び、どれも透明な液体や粉を入れていた。


 ここは……病院? いや、違う。天井の造りが古い。いや、古いというより――物語の中の家みたいだ。


 俺は身体を起こそうとして、妙な違和感に気づく。


 腕が、短い。


 手が、小さい。


 指先が、丸い。


 息を呑む。胸に手を当てると、鼓動がやけに速い。心臓が小さくて、軽い。視界の高さも低い。布団の端から覗く足も、細く短い。


 ――子ども?


 混乱していると、扉が軋む音がして、誰かが入ってきた。


「アルト、起きたのね」


 女性だった。栗色の髪を後ろで束ね、柔らかなエプロンを付けている。年齢は二十代後半くらいだろうか。目尻が優しく、疲れた顔をしているのに笑うと安心する。


 女性は俺の枕元に座り、額に手を当てた。


「熱は下がってる。よかった……。ほら、お水」


 木製のコップが差し出される。俺は反射的に受け取り、口をつけた。冷たい水が喉を通り、乾いた内側を潤した。体が、確かに“生きている”と感じる。


「……ここは」


 声が出た。高い。子どもの声だ。


 女性は少しだけ目を丸くし、それから安心したように息を吐いた。


「ここはレインフォードの家よ。覚えてる? あなた、三日前に森で倒れてたの。魔力酔いって言われて……」


 魔力酔い?


 聞き慣れない単語が出た瞬間、頭の奥で何かが弾けた。ざざっ、と風が吹き抜けるように、知らないはずの記憶が流れ込んでくる。


 ――アルト・レインフォード。十二歳。平民。母子家庭。町の外れの小さな家。魔法学園の入学試験が間近。適性判定で人生が決まる。


 ぐらり、と視界が揺れた。


「……っ」


 俺は額を押さえる。頭が痛い。だが痛みの向こうで、理屈では説明できない確信が芽生えていた。


 ここは、俺がいた世界じゃない。


 魔力、魔法、学園、適性判定――そんなものは、前世にはなかった。


 女性――この身体の“母”は、俺を心配そうに見つめている。


「大丈夫? まだ辛い?」


「……大丈夫。ありがとう」


 言葉は自然に出た。ここで“おかしい”と思われるのは避けたい。俺は短く息を整え、周囲を観察する。部屋の棚の瓶、壁に掛けられた乾いた薬草、窓辺に置かれた小さな石――いや、石じゃない。透明な結晶みたいなものが、淡く光っている。


 光が、脈打っている。


「それ……」


 俺の視線に気づいた母が、結晶を手に取った。


「ああ、スパークルよ。お医者さんが置いていったの。あなたの魔力が暴れないようにって。触らないでね、割れると危ないから」


 スパークル。聞いたことがある。今流れ込んできた記憶の中で、魔法の媒体として使う小さな結晶。これを通して魔力を放出する――。


 母は結晶を棚に戻し、エプロンの端で手を拭いた。


「アルト。入学試験のこと、心配してる?」


 入学試験。


 胸の奥がきゅっと縮む。前世で言うなら就活みたいなものか。いや、それ以上だ。学園に入れなければ未来が閉ざされる。学園に入れても、適性が低ければ……。


 俺は答えに詰まり、代わりに自分の掌を見つめた。


 小さい手。けれど、ここから始められる。


 やり直せる。


 前世で抱えていた“棘”を、ここで抜けるかもしれない。


「……心配は、してる」


 正直に言った。母はうなずき、少しだけ目を細めた。


「そうよね。でもね、アルト。学園に入れたら、それだけで十分すごいの。みんながみんな、魔法を学べるわけじゃない。あなたは、きっと大丈夫」


 優しい言葉だった。けれど、その優しさの裏にある現実も、俺には見えた。


 “きっと大丈夫”。それは祈りだ。確信じゃない。


 前世で何度も聞いた。“きっと”“いつか”“そのうち”。どれも現実を変えないための言葉だった。


 俺は、祈りではなく、確信が欲しい。


 努力の結果が、見える確信。


 この世界には、それがあるのか。


 母が立ち上がり、窓を少し開けた。風が部屋に入り、草の匂いが濃くなる。鳥の声が近づいた。


「今日は無理しないで。夕方になったらお粥を持ってくるね。試験のことは……元気になってから考えましょう」


 扉が閉まる。俺はひとりになった。


 静寂。


 胸の鼓動が落ち着くにつれて、頭の中が整理されていく。


 俺は死んだ。事故かどうかは分からない。でも、あの白い光のあと、ここにいる。十二歳の少年として。


 転生。


 そんな言葉しか当てはまらない。


 前世の俺が願ったこと――やり直し。努力が報われる世界。才能の有無が明確な世界。


 だとしたら、この世界は、残酷なくらい“分かりやすい”のかもしれない。


 適性判定で、人生が決まる。


 努力だけでは覆らない部分がある。


 でも――それでも。


 前世の俺が折れたのは、努力が“見えなかった”からだ。何が足りないのか、どこが間違っているのか、評価がどう決まっているのか。全部が曖昧で、ただ時間が削られていった。


 ここでは、少なくとも魔法は“現象”だ。結晶が光る。魔力が暴れる。医者が制御する。原因があり、対処がある。


 なら、学べば、理解すれば、変えられるはずだ。


 俺は布団から抜け出し、ふらつく足で棚に近づいた。母が触るなと言ったスパークルに、手を伸ばす。


 怖い。割れたら危ない。だが、確かめたい。自分がこの世界で何者になれるのか。


 指先が結晶に触れた瞬間――


 ひやり、と冷たさが伝わると同時に、胸の奥が熱くなった。


 見えないはずの何かが、流れ込んでくる感覚。


 結晶の中に、細い光の筋がいくつも走っている。まるで血管のように。いや、これは……魔力の通り道?


 俺は息を止めた。


 目で見ているわけじゃない。けれど、“分かる”。結晶の中を何がどう流れているかが、直感ではなく、情報として入ってくる。


 さらに、窓の外から微かな揺れが伝わった。風が葉を揺らす。揺れの中心に、小さな“渦”がある。空気が巻かれている。そこに、淡い青白い粒が混じる。


 ――魔力?


 鳥が鳴く。鳴き声に合わせるように、粒が散る。草が擦れる音に合わせて、粒が震える。


 世界が、目に見えない層を一枚剥がしたみたいに、情報を晒し始めた。


 俺は、恐る恐る、スパークルから手を離した。


 視界は元に戻る。けれど、胸の奥の熱だけは残っている。


 今のは、錯覚じゃない。


 俺は、確かに“何か”を感じ取った。


 この世界には、魔法がある。


 そして――俺には、それを“理解する”入口がある。


 俺は自分の小さな手を握りしめ、静かに呟いた。


「……今度こそ、折れない」


 窓から差し込む光が、指の隙間を白く照らした。


 それは、前世で一度も掴めなかった“確信”の形に、少しだけ似ていた。


ここまでご覧いただきありがとうございます。


当面の間は、1日に3話を投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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