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第7話 元勇者のおっさんは奴隷をどうするか話し合うそうです

 翌朝、ノルバは足元でごそごそと何かが動く感触で目を覚ました。

 何かが毛布に入り込んでいる。

 毛布をどけてみると、そこには昨日助けた獣人の少女がいた。


「何してる」


 まさかと思いつつ、ノルバは怒りを押し殺して聞いた。


「ん……? おれい……」

「やめろ!」


 何の躊躇もなく少女の手がズボンに伸びる。

 その瞬間、全身に鳥肌が立つほどの嫌悪感がノルバを襲い、反射的に少女を蹴り飛ばした。

 咄嗟の行動にノルバ自身も驚き固まってしまうが、すぐに自身のやらかしに気付く。


「大丈夫か⁉」


 ノルバは慌てて床に転がる少女に駆け寄り安否を確認した。

 強くは蹴っていない。幸いにも倒れただけで怪我はなかった。

 胸を撫で下ろしたノルバは少女を持ち上げ、立ち上がらせる。


「ごめんな。痛かっただろ」


 目線を合わせて謝るノルバに、少女は微笑みで返事をした。

 そんな少女の頭に手を置くと、ノルバは優しくも厳しい口調で伝える。


「いいか? 次からはこんなことはするな。絶対にだ。分かったか?」

「でも……そうしないとおこられる……」

「オレは怒らない。逆にさっきのことをした方がオレは怒る」

「わかった……」

「よし。いい子だ」


 ノルバが少女の頭を撫でるが、その表情に変わりはない。まるで仮面を張り付けられているみたいだ。

 だが最初からそうだった訳ではない筈だ。

 奴隷として生き抜く為に身に付けざるを得なかった術の一つなのだろう。

 罪のない子供をこんな目に合わせ、加えて身体労働までも教え込む。外道極まりない所業に、ノルバの怒りは爆発寸前だった。


「おい! 何があった⁉」


 バンバンと勢い良く扉が叩かれる。

 騒ぎを聞いて隣室のシャナが確認しに来たのだ。

 ノルバは扉を開けて事情を説明する。


「何もねぇよ。大丈夫だ。助けたガキが暴れただけだ」

「そうか。何もないならいいが」

「ちょうどいいや。改めて続き話そうぜ」


 ノルバが踵を返すと、突然少女が目を見開いた。

 少女の視線はノルバのズボンのポケットに向いている。

 視線に気が付いたノルバも同じ箇所に視線を向けると、そこにはポケットからはみ出した奴隷の首輪があった。

 徐々にひきつっていく顔は次第に絶望と恐怖に満ちた顔へと変わる。そして少女は気が狂ってしまった様に頭を抱えて叫び出した。


「おねえちゃ……おねえちゃん……おねえちゃん! あぁ……あぁ……あああぁぁぁぁ!」


 少女は逃げようとしているのか窓の方へと走り始めた。


「ダメだ!」


 ノルバはその場からジャンプして咄嗟に少女を捕まえると、そのまま床に落ちる。

 その際、少女を守る為に肩から落ちるが何の問題もない。ノルバは少女を抱き締めたまま声をかけた。


「大丈夫だ。もうここには怖いやつはいない。逃げなくていい。大丈夫だ。怖いやつはもう倒したから。だから安心しろ。な?」


 毛は逆立ち、目は血走っている。

 迂闊だった。フラッシュバックの可能性も考えずに首輪を持ってしまっていた。


「大丈夫だ。落ち着け。何も怖くないからな」


 ノルバは自身の行動を悔いながら、少女の頭を撫でて声をかけ続けた。

 そして長い時間の末、少女の呼吸は落ち着き、心拍数は戻っていく。


「だ、大丈夫なのか……?」

「あぁ、落ち着いたんだろう。寝たよ」


 相当な心的ストレスがかかったのだ。体が心の修復の為に眠らせたのだろう。

 少女をベッドに寝かせると二人は昨日と同じ位置に座った。


「昨日の続き……つっても何も話してねぇか」

「獣人の子供の扱いをどうするか話し合わねばならない」


 獣人。その言葉にノルバは「へぇ」と内心驚く。

 そんなことなど知る由もなくシャナは言葉を続けた。


「奴隷の首輪を持っているだろう。貸してくれないか」

「あぁ」


 ノルバは奴隷の首輪をテーブルに置くと、シャナは首輪を手に取り観察し始めた。


「やはりあった。見てみろ」


そう言うとシャナはノルバに首輪を見せつける。


「あ?」


 見せてきた箇所を確認すると、そこには何やら奇妙なマークが施されている。


「一つ目の獅子のマーク。ライオネットアイ商会のものだ」

「どこだよ。聞いたことねぇ」

「奴隷の出所なんて知らない者の方が多いから無理はない。ライオネットアイ商会は大戦終結後から奴隷売買で財を成していった大型商会だ。元は冒険者用のアイテム販売を主としていたのだが、その繋がりを通して奴隷売買を始めたらしい。奴隷業の先駆けだ」


 つまりは全ての元凶。


「じゃあそこを潰せばこのガキは解放されるのか?」

「無理だな。ライオネットアイ商会は各国とのパイプが太い。今や奴隷も商品として相当な価値を持って各国が運用している。喧嘩を売れば国を敵にまわすことになるだろう」

「何だよそれ……」


 怒りで血管がはち切れそうだった。だがここで怒りを露わにしても何も変わらない。

 ノルバは何とか気持ちを抑えていく。


「エルバニアにもいるのか……?」

「いない。前国王は獣人含め、異種族全てを嫌っていたからな。奴隷であろうと入国を禁じていた。ただし、これからはどうなるか分からないがな」

「そうか」


 結果としてだが自分の故郷が非道な行いに加担していなかったのは喜ばしいことではある。


「話を戻すがこのガキを解放するにはどうしたらいいんだ? 見たところまだ呪いは発生してねぇが解呪された訳じゃねぇだろ」

「その通りだ。おそらくこの子は買い手がついて運ばれていく最中だったのだろう。今頃購入者が探している可能性もある。そうなると商会がこの子を回収しにくるかもな」

「場所が分かるのか?」

「商品に逃げられないように首輪には位置情報が分かる呪いがかけられている」

「勝手に連れていくことも出来ないって訳か」


 解呪しようにもそんなことをすれば位置が把握されているのだから逃げられたと分かる。

 奴隷一人取られたくらいで大事にはならないと思うが、万が一にでも国を敵にまわせば、それが発端となり国家間の戦争へと発展してしまうかもしれない。

 国を相手に一人戦う覚悟はあっても、ノルバは平和を侵害したい訳ではない。

 つまり残された手段は一つしかないということになる。


「解放する為には買い取るしかない……か」

「そうなるな。ちなみに商会と連絡をとれる者なら今日この村に来ると思うぞ」

「本当か?」

「あぁ。キマイラの死体の処理と調査をしないといけないから、王立研究所の職員が何日か村に来る筈だ。その時に聞いてみるといい」


 テーブルに置かれた首輪をノルバがしまうと、シャナの雰囲気が変わる。

 言うなれば仕事モードから探求モードへの移り変わり。何かを疑う様な、はたまた興味を持つ様な雰囲気だ。


「獣人の子供についてはそれからだ。それよりも私はアナタについて知りたい。率直に聞く。アナタは何者なんだ?」

「ただの新人冒険者だよ」


 ノルバは適当に答えるが、シャナは退かない。


「嘘をつかないでもらいたい。ただの新人がキマイラを倒せるものか。勇者ノルバと同じ名を持ち、その軽装と使い古した安物の剣でキマイラを討つ実力。並の者ではない」


 真剣な眼差しの奥がキラキラと輝いている。

 答えなければ一生追及してきそうな雰囲気にノルバはため息をついた。そして頬杖をつきながら答える。


「名前は偶然。昔、従軍してた。本物だったらこんなみすぼらしい格好してねぇだろ」

「……そうか。分かった」


 明らかに不服ながらも、何とか納得した様子を見せたシャナは一人何かを考え始める。


「……ブロンズにしておくのは勿体ないな……。私の権限でいけるだろうか……」

「何ぶつぶつ言ってんだ」

「す、すまない! アナタほどの猛者をブロンズにしておくのは勿体ないと思ってな。特例で昇級させられないかと考えていたんだ」


 慌てて弁解するシャナの言葉にノルバは引っ掛かりを覚える。


「特例ってなんだよ。お前も冒険者だろ。何で、んなことが出来る」

「ん? あぁ。私は自分で言うのもあれだが、冒険者の中では特別だからな」


 シャナは胸元に掛けたネームプレートを見せた。

 その色は透き通る白の光沢を放っており、ノルバの聞いた三色のどれでもない。


「プラチナ。これが私のランクだ。ゴールドランクの更に上。二年前に作られたランクで、今はまだ私と他に二人しかいないらしい」

「へぇ」


 それならば自分の脚力についてきた理由にも納得出来る。ノルバは感心を示した。


「プラチナは流石に無理だが、シルバー1。いや、ゴールド3に推薦しよう。アナタほどの実力ならば、すぐにでもプラチナにいける筈だ」


 冒険者にとってはまたとないチャンスだ。断る理由がない。

 だがノルバは断る。


「いや、いいわ。別に上にいきたい訳じゃねぇし。オレは気ままに過ごしたいだけだから」


 ノルバの言葉に愕然とした様子で、シャナは身を乗り出す。


「アナタほどの才を放っておくなど世界の損失だ!」

「いいだろ別に。とにかくオレはランクに興味はねぇ。んじゃオレは一時間くらい出てくるから、そのガキみといてくれ」

「ま、待ってくれ! まだ話は!」


 席を立ったノルバは制止も聞かず、剣を持って出て行ってしまう。

 シャナは立ち上がりかけた体を再び椅子に戻すと、項垂れる様に机に突っ伏して大きなため息をつくのだった。

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