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第6話 元勇者のおっさんは村に泊まるそうです

 女は短剣を使い、歩きやすい様に枝葉を切り落として進んでいく。

 その間、女からのアクションはない。

 ノルバから話しかける理由もない為、無言の時間が続く。

 そうして月明かりだけが頼りの中、迷わず足を進めていくと、一行は村へと到着した。

 何もない小さな村だ。夜ということもあり全員家にいるのだろう。外には誰もおらず静まり返っている。

 そんな静寂に包まれた村に入る前に、女は無言で自身の着ているフード付きの上着をノルバに投げ渡した。


「その子に着させろ。耳を隠してな」

「あー……そういうことか」


 理由を理解したノルバは深くフードを被せる。

 そして一行は静寂の中で唯一明かりが灯っている宿屋の扉を開けた。


「いらっしゃい。三人かね?」

「あぁ、二部屋頼みたい」

「おや、別々かい? まぁ深掘りするのは野暮だね。二部屋分で4000コインだよ」


 女は代金を支払うと宿屋の店主から受け取った二部屋の鍵の内、一つをノルバに差し出した。


「今日はその子と泊まっていけ。金はいらない」

「いいのか? 助かる」


 夜道を歩き、王都に帰るのもノルバ一人なら問題はない。

 しかし今は幼な子がいる。安全を考えれば宿に泊まる方がいい。

 ノルバは厚意に甘えて鍵を受け取った。

 部屋に入ると、ベッドと食事用の机があるだけの簡素な作りが出迎える。

 ノルバはベッドに少女を寝かせ、椅子に腰を下ろそうとした。するとそのタイミングで扉がノックされる。

 扉を開けると、立っていたのは隣の部屋に泊まる筈の女だった。


「あぁ、お前か。聞かせろよ」


 二人はテーブルを挟んで座る。

 楽しい対談という雰囲気ではない。

 放っておけば一生沈黙が続きそうな中、ノルバが口を開く。


「んじゃ、まずお前は何もんだ」

「私の名前はシャナ。冒険者だ」

「まぁそうだろうな。で、シャナ。お前はあそこで何してた」

「アナタを探していた。ギルドでキマイラ討伐の話が聞こえてきたのでな。どんな冒険者か確認したくなって追ってきたんだ」


 警戒して損した。

 ノルバは気が抜けた様に椅子にもたれかかった。


「だったら最初からそう言えよ。敵かと思っちまったじゃねぇか」

「す、すまない」


 シャナは申し訳なさそうに下を向く。その様子にそれまでの堅苦しさはない。


「別に気にしてねぇよ。ポーションも貰って、宿代も出してもらったしな。謝らないといけねぇのはこっちだ」

「それこそ気にしないで大丈夫だ」


 シャナの態度が戻る。


「私はやりたい様にやっているだけだ。それに亜人と言えど、子供を見捨てることは出来ない」


 憐れむ視線がベッドで眠る少女に向けられる。

 そんなシャナにノルバは若干の怒りを交えて指摘をした。


「亜人じゃない。獣人だろ」


 【亜人】とは人間以外の知的生命体の総称だ。

 差別用語ではない。人間が当たり前に使っている言葉だ。だがノルバはその言葉がたまらなく嫌いだった。


「亜人は亜人だ。何が不満なんだ」

「人間以外を下に見てる様な態度が言葉に表れているのが気にくわねぇ」

「実際問題、人間より下だろう。抗わずに魔王軍に与していた世界の敵だ」

「アイツらだって好きで従ってた訳じゃねぇ。戦場を知らないガキが知ったような口を聞くんじゃねぇよ」

「戦場を知らないだと……? ふざけたことを言うな!」


 ノルバの発言が逆鱗に触れたのか、シャナは怒り、バンッと勢いよく机を叩いた。


「私はこの身をもって亜人どもの卑劣さを体験した! キサマこそ知った様な口を聞くな!」


 感情が高ぶり、呼吸が荒くなっている。

 その様子からシャナの身に相当なことがあったのだと想像するのは容易い。

 ノルバ自身、間違ったことを言ったつもりはなかった。しかし、だからと言って今のシャナに自分の考えを押しつけるほど幼稚ではない。

 ノルバはシャナが落ち着くのを見計らって口を開く。


「悪かった。オレとお前では歩んだ道が違うんだ。意見も食い違う。だからこの話は終わりだ。もう戻れ。ガキのおもりはしとくからよ」

「そうさせてもらう。声を荒げてしまい申し訳なかった」


 シャナは頭を下げると、気落ちした様子で部屋を出ていった。

 扉が閉まると、ノルバは奴隷の少女に着いた首輪に手をやる。

 奇しくもそれはノルバが装着する契約の腕輪と似た効力を持つ魔具。

 だがノルバとは違い、この少女や死んでいた子供達は無理矢理首輪を着けられている。

 平和になった筈の世界。それなのに少女一人救えていない現実にノルバは唇を噛んだ。

 とりあえずは回復を待ち、明日少女の扱いについてシャナと相談しよう。

 ノルバは少女をベッドで寝かしたまま、自分は毛布一枚被って床で寝るのだった。

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