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第4話 元勇者のおっさんはクエストに挑むそうです

 出発前にカーデリックは武器屋に行き剣を新調し、そして一行は馬……ではなく、冒険者御用達の鳥獣ポッチに乗り込み目的地へと向かった。

 ポッチは家畜用に改良された大型の鳥の獣だ。羽は退化し飛べない代わりに、人の胴体ほどの太さの足で悪路だろうと容易く走り抜け、休憩せずとも丸一日走れる体力を持つ。

 ノルバはチッパの操作するポッチの背で風を切る。そして1時間ほどで目的地に到着した。


「さーてと、おっさん。森の中にいるレッドファングを見つけるのは難しい。手分けして探すぞ」

「見つけたら大声で叫べよ。オレ達が助けてやるからな。ヒャヒャヒャ」

「人里に逃がすんじゃねぇぞ。オイラ達の報酬が減るからな」

「分かった」


 ポッチを待機させ、カーデリックらは鬱蒼とした森の中へとバラバラに消えていく。


「久しぶりだな。こういうの」


 その背中を見送った後、ノルバも森の中へと消えていった。


※※※


 そこから少し時間が経った頃、森の中で合流している者達がいた。


「ヒャヒャッ。アニキ、あのおっさんどうなるでしょうね」

「きっと泣きついてきますぜ」


 悪どい笑みを浮かべるチッパとプルース。その間で切り株に腰を落とすカーデリックは、更に邪悪な笑みを浮かべている。


「レッドファングは初心者が倒せるようなザコじゃねぇ。体が残りゃ御の字ってところだろ。いい年して夢見てるような奴に冒険者の厳しさを教えてやらねぇとなぁ」


 カーデリック達の笑い声が響く。

 しかしその声は生命溢れる森の中ではさえずりにしかならず、ノルバには届くことはなかった。


※※※


 一方その頃、ノルバはレッドファングを見つける為、木々の間を縫いながら歩いていた。


「あぁクソッ。鬱陶しい場所だな」


 久しく森なんて入っていなかったからか、草木の触れる感触が不快だ。

 ノルバは愚痴を吐きながら開けた場所に出ると、そこで空を向いて伸びる赤い牙を携えた巨大なイノシシを見つける。


「レッドファング。見つけたぞ」


 運良く5頭全て揃っていた。

 ノルバが剣を抜くと、その音でレッドファング達は外敵の存在に気付く。

 【レッドファング】はその名の通り赤い牙が特徴の獣だ。何故牙が赤いのか。それは串刺しにした獲物の血が染み込んでいるからだ。

 成人男性の一回りも二回りも大きな体躯が突進してくるだけでも脅威だが、そこに加えて鋭利な牙もある。だがそれだけなら、せいぜいブロンズランク2止まりの脅威。

 レッドファングがブロンズランク1に設定されている理由。それは突進力にあった。

 一頭のレッドファングが唸り声を上げると、前足で地面をかく。

 次の瞬間――発砲音が鳴ったと同時、レッドファングの姿が消えた。

 これがレッドファング最大の武器にして脅威。強靭な脚による突進は弾丸並の速度を出す。

 牙の付いた岩石が弾丸の速度で襲ってくるのだ。実力のある冒険者でも気を抜けば危険を伴う。

 しかし、今回は相手が悪かった。

 剣閃が揺らぐと、突進したレッドファングはノルバの背後で真っ二つに裂けた。


「こちとら散々お前らとは戦ってきてんだよ。さぁ来いよ」


 仲間が殺られ怒ったのか、残りのレッドファングは雄叫びを上げる。

 一斉に突進してくるレッドファング。

 ノルバは余裕の表情で跳躍すると、その上を越えていく。

 そして去り際に真下にいるレッドファングを一刀両断。


「あと3頭」


 ノルバは身を翻して着地すると、固まっている群れに突っ込んだ。

 レッドファングの突進は、急停止は出来ても急旋回は出来ない。

 つまり突進は脅威であると同時に隙となる。

 それは瞬きよりも短い時間。だがしかしノルバにとっては欠伸が出るほどに長い時間。

 一振りにしか見えぬ剣裁きが披露されると、ノルバの背後には残りのレッドファングが倒れていた。


「久しぶりだが案外出来るもんだな」


 常人ならざる芸当。しかしノルバはさも当たり前かの様に呟いた。

 血を払って剣をしまうと、ノルバはカーデリック達を探しに行こうとした。

 だがその時、森の奥で目視出来るほど、巨大な爆発が起こった。


「何だ?」


 続く獣の雄叫びが森を揺らす。

 爆発があった方の森がざわめき始める。一斉に鳥が飛び立ち、動物達が逃げて来る。

 この地域には爆発を起こせる生物がいた記憶はない。

 ノルバは剣を抜き、警戒しつつ森の奥へと入っていく。

 足音が近付いてきた。ノルバは身構えた。だが、飛び出してきたのはチッパとプルースだった。


「お前ら何があっ―――」

「死にたくなかったら早く逃げろ!」

「何であんな奴がここにいるんだよ⁉」


 チッパはノルバの声を遮ると、死にもの狂いで走っていく。プルースもノルバに構うことなく逃げていく。

 力量のほどは分からないが、仮にも冒険者の2人が必死の形相で逃げるのだ。予想だにしない事態が起きたことは明白。

 再度森の奥に目をやると、重厚な足音と共に木々をなぎ倒して、爆発の正体が姿を現す。


「そういうことかよ」


 針の様に鋭い毛で覆われた獅子のたてがみ。鱗と毛が交互に生えた巨大な体。そして何より特徴的な蛇の頭の付いた尾。


「こんなところにキマイラなんてな」


 並の冒険者では敵わない。2人が逃げたのも納得だ。

 キマイラが現れた影響で、レッドファング達は住処を追われて人里近くまで来たといったところか。そうなるとキマイラはレッドファングがいた場所に住み着く筈だが、どうしてか今目の前にいる。

 獲物を追ってここまで来たのか。それとも別の理由か。


「まぁごちゃごちゃ考えても仕方ねぇか」


 理由なんて何でもいい。分かっていることは一つ。野放しにすれば人が死ぬ。

 そう。カーデリックのように。

 ノルバの視線の先には、尾の蛇に咥えられてピクリとも動かないカーデリックがいた。

 尾の蛇の猛毒が全身に回っているのだろう。皮膚の色は毒々しい紫色に染まっている。仮に生きていたとしても時間の問題だ。

 ノルバは小さく深呼吸をした。

 キマイラはレッドファングなどとは比べものにならない強敵。

 勇者であった頃ならともかく、一線から退いたノルバにとっては気の抜けない相手だ。

 迂闊に突っ込むことはしない。ノルバは出方を伺い、間合いをとった。

 対してキマイラは堂々たる態度で歩を進める。まるでノルバなど眼中にないかの様に。


「こっちは無視かよ」


 当たり前といえは当たり前だ。

 本来キマイラにとって人間など、地を這う蟻に等しい存在。歩いていれば勝手に死んでいく矮小な生物でしかない。

 ちょっかいをかけられれば払いはするが怒る必要もない。

 カーデリックを咥えているのも力を誇示している訳ではない。ただの気まぐれだろう。


「舐めやがって。そっちがその気なら、こっちは好きにやらせてもらうぞ」


 ノルバは軽くジャンプしてから駆けた。剣を水平に滑らせる。

 狙うは前脚。

 レッドファングを仕留めた速度で斬り掛かる。しかし剣は脚ではなく空を斬った。

 頭上に上げられた右前脚が、勢い良くノルバを踏みつける。

 地面が粘土を潰すかの様にへこんだ。大地が揺れ、草が舞う。

 ただの踏みつけでさえ即死級の威力だ。

 しかしそこにノルバはいない。


「危ねぇ危ねぇ」


 寸前のところで避けたノルバは、言葉とは裏腹に余裕な表情をしていた。


「もうちょいギア上げるか」


 ノルバが再度剣を構えて大地を踏みしめると土が盛り上がる。

 まだキマイラがノルバを気にする様子はない。

 ならば今がチャンスだ。


「さぁ、避けろよ。ネコ野郎!」


 地面が大きく抉れた。

 刹那――蛇の尾が宙を舞った。

 ノルバはカーデリックをキャッチすると、状態を確認する。

 首元に当てた指からは生命活動は確認出来ない。ノルバはそっと開いた目を閉じさせた。

 そんな傍らでキマイラは苦痛の声を上げていた。

 しかしそれも一瞬。キマイラはブンブンと首を振ると冷静さを取り戻す。

 そして赤い目がギロリとノルバをとらえると、背中から翼が生え、空を飛んだ。

 口から炎が溢れ出す。その炎は口の中で球を作ると、大砲の様に発射された。


「ここら一帯消し飛ばす気か!」


 火球の大きさから、その前の爆発とは比べ物にならない被害が出ると予想される。

 止めなければチッパとプルースが巻き込まれるだろう。森が燃えれば近隣の村にも被害がいく。

 ノルバは両手で剣を握り、頭上に振り上げた。

 バチバチと音が鳴り始め、剣が青いイナズマを放ち始める。

 その状態のまま――ノルバはギリギリまで火球を引き付けた。


「いくぞ!」


 そして限界まで火球が迫った時、大きく踏み出すと同時、全力で剣を振り下ろした。

 曰く、近隣の村人はその後、こう証言したという。「夕焼けの空が昼に戻ったと思ったら雷鳴が轟いた」と。

 火球はかき消され、キマイラは縦に裂けて地に落ちた。

 ノルバが剣をしまうと、そのタイミングで何処にいたのか、チッパとプルースが駆け寄ってきた。


「ア、ア、アニキ!」

「生きてますかい!」


 カーデリックの顔を覗き込む2人。沈黙が流れると、大粒の涙をこぼし始めた。

 そんな様子をノルバが黙って見ていると、チッパが突然掴み掛かる。

 助けられなかった悔しさで殴りかかってくるのかと思ったが、どうやら違うらしい。


「アニキは最後に何か言ってたか……?」

「いや。助けた時には死んでいた」

「うぅ……うぅ……。アニキ、オレらを助けて……」


 チッパは泣き崩れる。

 その後ろでプルースは涙を拭うと立ち上がった。


「オメェがキマイラを倒してくれたのか?」

「あぁそうだ」


 衝撃の返事にプルースだけでなく、泣き崩れていたチッパさえ目を見開く。


「すまなかった!」


 プルースは突然頭を下げた。

 突拍子もない行動にノルバとチッパは固まる中、プルースは言葉を続ける。


「オイラ達、実はオメェを騙してただ。レッドファングに襲わせるつもりで、このクエストを受けたんだ。今までそうやって新人を虐めてきた。だからその報いが来たんだ」

「お……おいプルース! 何いきなり変なこと言ってんだ!」


 衝撃のカミングアウトにチッパは慌ててプルースに掴み掛かった。

 どう考えたってここで言う話ではない。キマイラを倒したのが本当だとすれば尚の話。

 チッパは恐る恐る振り向き、ノルバの顔を見た。

 表情に変化はない。しかし溢れ出る気迫なのだろうか。

 チッパは思わず声を上げて尻込みする。


「わ……悪かったよ。ちょっとからかってやろうと思っただけなんだって」


 表情は変わっていないのに、チッパは蛇に睨まれた蛙の様に動けない。そして恐怖のあまり泡を吹いて倒れてしまった。

 そんなチッパを無視してプルースは土下座をした。


「金も武器もあるものは全て渡す。もう冒険者も止める。だから頼む。殺さないでくれ!」


 黙って聞いていたノルバだったが、呆れた様子でため息をつく。

 結局は保身だ。報いが来たと言うのなら命の一つでも差し出す覚悟を持つべきだ。

 それにそもそも――


「オレが気付いてないとでも思っていたのか?」

「え?」

「全部分かった上でオレはお前らと一緒にいたんだよ」


 幼稚な企みが分からないほど愚かじゃない。それにノルバは今回以上の企みを幾度となく経験している。


「あ……あぁ……」


 ノルバの射殺すほどの圧を放つ目に、プルースは腰が抜ける。


「い……嫌だ。嫌だ……」


 後退りするプルースにノルバは剣を抜き歩み寄っていく。

 そしてプルース目掛けて剣を振り下ろした。


「ひっ!」


 死ぬ。

 反射的に目を瞑ったプルース。しかし体に痛みはなかった。生きている。

 怯えながら目を開けると、その剣は地面を叩いていた。


「オレに人殺しの趣味はねぇ。報酬は貰わず、冒険者も辞めて二度とオレの前に姿を現すな。分かったか」

「や、約束する! 約束するだ!」

「ならコイツらを連れてさっさと消えろ」

「は、はいぃー!」


 プルースはチッパと死亡したカーデリックを抱えると、逃げる様に消えていった。


「バカ共が」


 一人悪態をつきつつ、ノルバもその場を後にしようとした。

 その時だった。ふとキマイラの牙に何かが引っ掛かっていることに気付く。

 拾ってみるとそれは千切れた首輪だった。

 青い宝石が付いたその首輪は、契約の腕輪と似た光を纏っている様に感じられる。

 そんな気味の悪い首輪だが、ノルバはあの3人の持ち物かもしれないと思い、持ち帰るのだった。

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