最終話 元勇者のおっさん、旅に出る
数日後、ノルバ宅にて。
「本当に行くのか?」
「あぁ。フューにいろんな世界を見せてやりたいからな」
リーヴェル王の問いに、ノルバはフューの頭を撫でて答えた。
「そうか……。残念だな」
ノルバの返答にリーヴェルは悲しそうに笑みを浮かべる。
そんな様子を見て、車椅子に乗ったリッカが言葉を掛ける。
「国王陛下。会えなくなる訳ではありません。それに彼は曲がりなりにも勇者です。無事に帰って来るでしょう」
「何だよ、曲がりなりにもって」
「その通りだろう?」
「へいへい」
一命を取り留めて尚、棘は抜けていないらしい。
突っ掛かったら負けだとノルバは適当に返事を返す。
そこに今度はエルノとシャナが話し掛けてくる。
「ノルバさん。いえ、勇者様とご一緒出来たこと、ワタクシ誇りに思います」
「まさかアナタが勇者だったとは。今でも驚いている」
「やめろよ。もうオレは勇者じゃねぇって何回も言ってんだろ」
二人はノルバが勇者だと分かってからずっとこの調子だ。何度言っても態度が戻らない。
ノルバは逃げる様にアーリシアに話を振った。
「そんなことより老けたよなぁ、アル」
ノルバの目に映るアーリシアは再開したときとは異なり、ノルバと同じく三十代の見た目になっていた。
「しょうがないでしょ。薬を渡してリッカを助けようとしたら、何かを代償にするしかなかったんだから。ババアになったくらいで済んでよかったわよ」
ノルバが後から聞いた話によると、リッカが瀕死になった際に、アーリシアは転移の魔法を使用したらしい。そして彼女の研究室にあったダンジョンの宝とリッカを交換したのだと。
転移の魔法は人の手には余る技術だ。使用にあたって代償を支払った結果、若さを取られたらしい。ちなみにだが、その話を聞いた時、ノルバは心底安堵していた。
「それとも何? アナタ的には、あの姿の方が好みだったかしら?」
「そんなことは言ってねぇだろ。漸く年相応って感じだ。それにオレはどんなアルだろうと好きだぜ。なぁフュー」
「うん!」
フューを抱え、ノルバはサラリと答えた。
そこに深い意味などないとアーリシアは知っている。しかしその言葉はあの日、ノルバと切り離されてから掛けられた、どの言葉よりも嬉しかった。
ポーカーフェイスのまま、だが誤魔化す様にアーリシアは返す。
「ま、私の研究があんな薬一個に負けてたのは屈辱だけどね」
「いいじゃねぇか。更に研究しがいがあるだろ」
「そうね」
アーリシアの微笑にノルバも笑い返した。
願うことなら、この時間がずっと続いてほしい。だけど引き止める言葉をアーリシアは持ち合わせていなかった。
「ノルバ。はいこれ」
アーリシアは小さな用紙を手渡した。
「何だこれ?」
広げてみると、そこにはアーリシアの直筆で、かつてのパーティーメンバーの所在地が書かれていた。
「行く所決まってないんだったら、顔見せにいってあげなさい」
「そうだな。ありがと」
「後のことは私達に任してやりたいことをしなさい」
「あぁ、その言葉に甘えさせてもらうぜ」
ノルバは荷物を取ると、フューと共にポッチの背に乗った。
「んじゃ、行ってくる」
手綱を揺らすとノルバとフューを乗せたポッチは、鳴き声を上げて歩み始める。
「フューちゃーん! ちゃんとお勉強しないとダメですよー!」
「おべんきょうきらーい!」
フューのレイへの返事に笑いが起きる。賑やかな声を背にノルバは進んで行った。
二人を縛るものはもう何もない。
そんな二人の門出を祝う様に、そよ風が野花を巻き上げる。
「どこいくの?」
「ん? そうだなぁ……」
フューの質問にノルバは用紙を眺めた。
人々は知らない。復活した魔王を倒す為に戦い抜いた男がいたことを。
その男の名はノルバ・スタークス。元勇者のおっさんだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
ノルバ達の話はここで一区切りとなります!
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また別の作品でお会いしましょう!




