第34話 元勇者のおっさんは魔王を追い詰めるそうです
「リッカ! 全力でアルを守るぞ!」
「了解だ!」
ノルバとリッカはシャプールに突撃する。
その様子を見て、シャプールは戦闘態勢を取った。
「作戦会議は終わったかい? ならその作戦ごと捻り潰してやるよ!」
シャプールの叫びが大気を揺らした。
その肉体が衰えている気配はない。きっと何度攻撃を打ち込もうとも倒れはしないだろう。
だが今回は倒す必要はない。時間を稼げればそれでいい。
ノルバの剣が揺らいだ。次の瞬間、巨躯を覆うほどの雷撃がシャプールを襲う。
「効かないって分かってるよね⁉」
大剣がノルバの元いた箇所を抉る。同時に炎に似た闇が地面から噴き出す。
「リッカ! あの闇には触れるな! 一気に削られるぞ!」
「了解だ!」
リッカはシャプールの周囲を走りながら光剣を振るった。光の刃が五月雨の如く放たれるが、その巨体に効果はない。
「この程度では怯みもしないか」
「無意味な攻撃はいつまで続くかな!」
シャプールの剣が大地を裂き、衝撃波が走る。
だが深入りをしていなかった二人が避けるのは容易い。
「くらえ!」
「グッ……」
攻め込んだノルバの一撃が胴へと刺さり、シャプールを怯ませる。
反撃の隙を作らせない。
間髪入れずにリッカも光剣をシャプールに突き刺し、爆発させた。
反撃の隙を与えぬ二段攻撃が絶え間なく浴びせられる。
シャプールにとっては鬱陶しいものだろう。
小さな蝿が集るだけでなく、対処せざるをえない攻撃までしてくるのだから。
「ウガァァァァァァ!」
終わりのない嫌がらせ攻撃に、シャプールは怒りを叫んだ。
そして広がる闇の波動。
予兆のない全方位攻撃にノルバは吹き飛ばされる。
それを好機と見たシャプールはノルバを捉えた。
『ここだ!』
意識は完全にノルバに向いている。リッカもまた好機と捉えた。
もう一度怯ませる為、リッカは踏み入る。
だがその時、グリンッとシャプールの首がリッカに向いた。
「リッカ避けろ!」
叫ぶノルバの声がゆっくりに聞こえた。
声だけではない。目の前に迫る剣も、流れる空気も、そして自分の体さえも。意識だけが異なる時間の流れを歩んでいた。
『これは……。私は死ぬのか……?』
まんまと罠にハマった。
無理に攻め入らなくともいい戦いで欲をかいた。勇者の横に並び立てたと舞い上がったのだろうか。
いや違う。あったのは対抗心だ。
あの日、ノルバに負けて心に刺さった屈辱という名の棘。
くだらないプライドが今を招いた。
『自業自得か……』
ならば受け入れるしかない。
今日、天命は尽きると決まっていたのだ。
リッカはゆっくりと目を閉じた。
だがその時――ある人物の顔が電流の様に脳裏に走った。
『駄目だ。私は死ねない』
かつて手を取ってもらった少年を生涯守ると誓った。
彼に守ってやってくれと頼まれた。
『私は守りきる! そして生きて帰り、陛下の隣に立つ!』
光がリッカを包んだ。
それは剣が彼女を叩き落とすまでの刹那の出来事だった。
リッカは光と共に轟音を立てて沈む。
土煙が晴れていく。するとそこには、地に足を付けて立つリッカの姿があった。
「へぇ、凄いじゃん。さっきは力尽きてたのに」
その左腕には身の丈ほどの黄金の盾が備わっていた。リッカはその盾で剣を防いだ。
「よそ見してんじゃねぇ!」
ノルバの雷を纏った斬撃がシャプールの顔面に炸裂する。
大きく体勢を崩しながらもシャプールは怒り任せに剣を叩き付ける。だがノルバには当たらない。
「リッカ無事か⁉」
隙間を縫ってリッカの元に駆け付けたノルバは、傷のない姿を見て安堵した。
「何度も受けられる訳では無いが、この盾ならば奴の攻撃を防げる」
「そうか。なら後もうひと踏ん張りだ」
ノルバの言葉にリッカは強く頷いた。
二人を潰さんとする斬撃をそれぞれ左右に避けると、ノルバは右から、リッカは左から攻め立てる。
青い雷撃と黄金の爆発が、絶え間なくシャプールを襲い続ける。
そしてその猛攻に、遂にシャプールは膝を付く。
「ヴゥ……」
俯き、苦しみに似た声が出る。
『どうしてだ。ボクは最強の力を持っている筈なのに』
一人一人は魔王には及ばない。
なのにずっと振り回されている。
『ふざけるなよ。ボクが最強なんだ』
負ける筈がない。負ける訳にはいかない。
人間への憎しみを奥底で燃やし続けてきたのは、この日の為。
こんな所では止まらない。止まれない。魔王完全復活という悲願を成し遂げるまでは。
シャプールは顔を上げた。その時、彼に転機が訪れる。
視界の先に映るのは二人の人間だった。その一人が魔力を溜めている。
「そういうことかぁ!」
「クソッ、バレた!」
「マズイぞ!」
シャプールは地面を大剣で削りながら、嬉々として走り出した。
攻撃をし続ける二人は陽動。本命の攻撃は限界まで高めた魔法での一撃。
つまり人間にはそれ以外に打つ手がない。魔法使いさえ潰せば人間共の心は折れる。
確信してシャプールは跳躍した。
両手に握られた大剣に闇の炎が燃え盛る。
「お師匠!」
アーリシアとエルノに迫る魔王の一撃。
命あるものを燃やし尽くす地獄の業火の斬撃を防ぐ手立ては、今の二人にはない。
『魔力は充分溜まってる。けど今撃てばエルノまで巻き沿いになる……』
絶望的な状況。
決断を迫られるアーリシアは唇を噛んだ。
選ぶべきはどの未来か。コンマ何秒という逡巡の末、彼女は選び出す。
杖をシャプールに向けた。その瞬間――
リッカがアーリシアとシャプールの間に割り込んだ。
「やらせはせんぞ!」
黄金の盾が炎諸共受け止めた。ぶつかり合った衝撃で周囲の地面が砕ける。
しかし攻撃は止まらない。
空中で受け止めたリッカは、抑えきれずに吹き飛ばされる。
再度大剣が迫った。
どうにもできない。アーリシアは魔法を放とうとした。
だが――
「リッカ良くやった! お陰で間に合った!」
颯爽と現れたノルバが剣を受け止めた。
鍔迫り合い、炎と雷が飛び散る。
そしてノルバは腹の底から叫んだ。
「アル! 任せろ!」
アーリシアの顔に思わず笑みが溢れる。
盤面は最悪。だがノルバがいるだけで安心してしまう自分がいる。
「アンタはいつもそうやって……」
いつだって逆境を覆してくれる。
その信頼と実績が、アーリシアの決断を変える。
「邪魔をするなぁぁぁぁぁ!」
「ぶっ飛べぇ!」
更に荒ぶる業火。だがそれを上回る雷がノルバを包んだ。
柄を潰れそうなほどに握り締め、ノルバは剣を振る。
腕から血が吹き出る。体が止まれと悲鳴を上げる。
だが止まらない。止まる訳にはいかない。
全身全霊。今この瞬間に出せる力を全て雷に変え、ノルバはシャプールを空へと打ち上げた。
「バカな……ッ!」
雷が身を灼く。痺れて体が動かない。
しかしそれも一瞬。シャプールの肉体は回復する。だがそれはこの瞬間では充分過ぎる隙。
「これで終わりよ!」
虹色の光が杖の尖端に集約する。
アーリシアの全魔力。
地図を書き換える威力の光線がシャプールを覆い尽くした。




