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第33話 元勇者のおっさんは仲間との連撃で魔王を追い詰めていくそうです

「エルノは私達の補助、ノルバとリッカはアイツをぶちのめしなさい」


 アーリシアの指示が飛ぶ。しかしそれを聞いてノルバの頭に疑問が浮かんだ。


「補助って何だよ。エルノは魔法使いだろ」

「エルノの適職は僧侶よ」

「そうなのか? それにしちゃあ魔法の練度が高いな」

「当たり前でしょ。僧侶は最後の要。それが最初に倒れる訳にはいかないんだから、みっちり魔法の鍛錬もさせてるのよ」


 後進育成をちゃんと行っていることにノルバは感心し、驚いた様子を見せる。


「なるほどな。んじゃ、エルノ頼むぜ!」


 たが今は雑談をしている暇はない。

 ノルバが走り出すとリッカもそれに続く。


「攻撃力、防御力、魔力を強化!」


 エルノの魔法が発動すると全員の体に力がみなぎる。


「スゲェじゃねぇか」


 アリがゾウに変わるほどの変化。そこらの僧侶では、どう頑張ろうとも辿り着けないレベルの強化魔法だ。

 僧侶適性の方が高いと言うのも納得でしかない。

 これならば、とノルバはより強く地面を踏み込んだ。

 稲妻が地面を走る。

 しかしそこにノルバはいない。稲妻を置き去りにし、シャプールの眼前に跳躍していた。

 掲げた剣が激しく雷鳴を鳴らす。剣が振り下ろされると、稲光と共にシャプールを雷の嵐がのみこんだ。


「とんでもねぇな」


 その威力を見て、ノルバは思わず言葉を漏らした。

 それなりの力は込めた。だが相手の出方を伺う為、ジャブ程度のつもりだった。それにも関わらず、今の一撃はダンジョンボスに放った一撃など優に超える威力だ。

 とてつもない才能の登場にノルバは乾いた笑いが出た。

 しかし――


「効かないなぁ!」


 雷の嵐を掛け分け、シャプールが姿を現す。その体に傷はない。


「だろうな」


 ノルバは冷静にシャプールを見据えた。

 この程度で傷つく訳がない。完全体でなかろうとも魔王の肉体を有しているのだから。


「ならば、これはどうだ!」


 ノルバの横をリッカが走り抜けた。

 白い光を纏った剣がシャプールの腹に突き刺さる。そして剣が強く発光した瞬間、シャプールを覆い尽くす大爆発が起きた。

 その威力は絶大で、シャプールの巨体がのけ反る。だがやはりその体に傷は付かない。


「硬いな」

「当たり前だろ。魔王だぞ」


 ノルバの嫌味な発言にリッカは渋い顔をする。


「拗ねてねぇで構えろ。来るぞ」

「拗ねてなどいない!」


 リッカは一瞬ムスッとしながらも、すぐに戦闘モードに切り替える。ノルバも敵の出方を伺い、剣を構えた。


「次はこっちの番だ」


 遂にシャプールが動き出す。

 右手を突き出すと、霧状の闇がその手に集まり出した。禍々しい闇は、徐々に形を成していく。そして巨大な大剣となる。


「気張れよ、リッカ」

「あぁ」


 身の丈のほどの大剣が片手で振るわれる。

 距離はある。二人に剣が届くことはない。だがシャプールも無意味な行動をした訳ではなかった。漆黒の斬撃波が地面を抉りながら飛んだ。

 横薙ぎで放たれた斬撃波が迫る。避ければ背後にいるアーリシアとエルノが被害を受けてしまう。

 ノルバは迎え撃つ為、剣を引く。

 だがその前にリッカが立った。


「何してんだ! 退け!」

「私がやる!」


 ノルバの言葉を押し退け、リッカは左腕に力を込めた。

 すると魔王の巨躯に匹敵するほどに巨大な盾が出現する。

 鏡のように艶やかな銀色の盾を地面に突き立てると、斬撃波がぶつかる。

 黒と銀の火花が散る。盾が削れ、耳を割く不快音が響き渡る。


「ぐっ……」

「盾を消せ! オレが打ち消す!」


 このままでは押し負ける。

 そう思ってのノルバの発言だった。

 だがそれがリッカの逆鱗に触れた。


「……ッ舐めるな! キサマの助けなどいらん! 初めて会った時からそうだ。ずっと私を見下して……。そんなに私が頼りないか⁉ 軟弱者に見えるか⁉」

「急に何だよ……」


 思わずノルバはたじろぐ。しかしリッカの怒りは鎮まらない。


「腑抜けたキサマの力など借りずともこんなもの……ッ! うおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 一歩、また一歩とリッカの足が進み始める。


「私はこんな所で負ける訳にはいかんのだ! 陛下を護るのは……この私だぁ!」


 目が眩むほどに強烈な光が盾なら放出された。その次の瞬間、斬撃波が砕け散った。


「良くやった」


 肩で呼吸をしてその場に膝を付くリッカの背に手を置いて称えると、ノルバは駆け出す。

 稲妻を纏い大地を駆ける姿は正に雷竜の如し。


「お前じゃボクは倒せない!」


 大剣が振り下ろされる。完全体でなくともその一撃は即死級の威力。

 だがノルバは臆することなく突っ込んだ。大剣はノルバの真横を裂く。

 一撃――懐に入り込んだ雷竜の牙がシャプールを襲った。

 雷轟と共に巨躯が浮く。


「うぐっ……。効かないって!」


 だがそれだけ。今のシャプールはその程度の攻撃では倒れはしない。

 シャプールは空中で剣を構えるとノルバに振り下ろした。

 ノルバが瞬時に距離を取るが逃しはしない。

 闇を纏った斬撃波を放とうとする。

 しかし――アーリシアの光弾がその巨躯を撃ち、体勢が崩れる。

 ノルバの攻撃に勝るとも劣らない威力の魔法。

 シャプールの手は止まり、一瞬アーリシアに意識が向いた。

 その一瞬でノルバは再度距離を詰め、雷刃の一撃を見舞う。

 地面に落ちたシャプールは体勢を立て直す為、雑に剣を振るいノルバを追い払うが、そこにすかさず光弾が撃ち込まれる。

 ノルバが離れればアーリシアが。アーリシアに意識が行けばノルバが。互いを補い合う、隙のない連携がシャプールを追い詰めていく。


「凄い……」


 完成されきった連携にエルノは尊敬と感動を覚えた。

 言葉などいらない。長い時の信頼が、空白を経ても尚、その身に刻み込まれている。


「いい加減にしろぉ!」

「くッ!」


 突然、闇の波動がシャプールを中心に広がった。

 攻撃力は皆無。だが防御不可。距離を詰めていたノルバは吹き飛ばされ宙を舞う。

 大きな隙。だがシャプールはノルバを狙わない。狙ったのはアーリシアだ。

 妨害してくる者を先に潰しにかかった。

 その体躯に似合わぬ俊敏さでの跳躍でリッカの頭上を越えていく。

 そしてシャプールは光を一切通さぬほどに濃い闇を剣に宿した。


「アル! エルノォ!」


 空中でノルバは叫んだ。

 振り下ろされる剣にノルバは手を伸ばすが届く筈もなく。

 無情にも剣は二人を襲い、闇が周囲を覆い尽くした。


「ハハハハハ! どうだ! ザマァないね!」


 意気揚々と剣を掲げるシャプールの足元には、ヘドロの様に広がる闇と土煙が舞っていた。

 二人がどうなったのか。目視は出来ない。


「さぁ次はキミだ」

「……」


 ノルバの方を向くシャプールだったが――


「何処行くのよ」


 土煙の中から現れた光弾の豪雨がシャプールを撃った。


「勝手に殺さないでくれるかしら?」


 シャプールが振り向くと、そこに立っていたのは無傷のアーリシアとエルノだった。


「防御魔法が間に合って良かったわ」

「ならもう一度――」


 再び剣が振るわれる。だがそれよりも速く、雷撃がシャプールを襲う。


「させねぇ!」

「……だから鬱陶しいんだよぉ!」


 闇の波動が三人を吹き飛ばす。


「さっきからチマチマチマチマと。もういい。生け捕りなんてしない。殺してやる」


 荒ぶっていた怒りが静かな怒りへと移り変わっていく。


「やばいか?」


 全盛期ならともかく、今のノルバはブランク16年のおっさんだ。

 魔王が本気で来れば流石に分が悪い。


「でもやるしかねぇな」

「そうね。やるしかないわ」


 いつの間にかノルバの隣にはアーリシアが立っていた。


「まだまだいけるでしょ?」

「当たり前だ」


 ノルバはニヤリと笑い、答えた。

 分は悪い。だが一人じゃない。信頼出来る仲間がいる。

 それだけで逆境なんて跳ね返せる力が湧いてくる。


「リッカさん、大丈夫ですか?」


 同じくこちら側に来ていたエルノがリッカにポーションを渡す。

 ポーションを飲み干すと、リッカの疲労はたちまち吹き飛び、蓄積したダメージも回復する。


「ありがとう。助かった」


 リッカとエルノも集合するとアーリシアはすぐに指示を出した。


「ノルバ。もう生け捕りはいいわ。限界まで力を込めなさい。私達が時間を稼ぐ」


 この状況を打開するには、かつて魔王と渡り合った勇者への厚い信頼と実績に賭けしかない。

 だがノルバはきっぱりと断る。


「いや、駄目だ。アイツを倒すのはアル。お前だ」

「何言ってんのよ⁉」


 堪らずアーリシアは声を荒げた。

 しかしノルバは彼女を見ない。それどころか剣の握り具合を確認しつつ、シャプールに目を向けている。


「ずっと鍛錬をしてきたお前と引き籠もってたオレ。どっちが強いかなんて分かりきってるだろ。決定だ。行くぞ、リッカ」


 言い切って行動に移るノルバに、アーリシアは手を伸ばす。

 だがすぐにその手は胸元に移動され、強く握られた。


「お師匠」

「分かってるわ」


 アーリシアがノルバを信頼するように、ノルバもまたアーリシアを信頼している。


「エルノ。私に魔力強化を限界までかけなさい」

「はい!」


 ならば持てる全てを使い、期待に応える。

 アーリシアは魔力を溜め始める。

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