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第31話 元勇者のおっさんは魔族を追い詰めるようです

「出来れば生け捕りね。アンタのせいでまだ聞けてないことあるんだから」

「言ってくれるぜ。んじゃサポート頼むぞ」


 雷が弾けた。ノルバは一気に距離を詰めると剣を低く振るう。

 狙ったのは脚。だがそれは糸の束に止められる。

 ノルバはすかさず背後に回り込んで攻めた。斬撃の嵐を浴びせ続ける。

 その斬撃はシャプールの高硬度の糸であっても容易く切り裂いていく。

 だがいくら攻撃しようとも、斬ったそばからから糸が増殖し、勢いを殺して、悉く防いでしまう。


(力は本物だな)


 死角無し。ノルバは一度距離を取る。

 そこを狙って攻撃を仕掛けるシャプール。

 だが間髪入れずに火球が降り注ぎ、攻撃を許さない。

 防御に切り替えたシャプールはたまらず舌打ちをする。


「邪魔するなよ!」


 アーリシアに向かって糸の斬撃の束が放たれた。

 斬撃は地面を裂いて迫っていく。だがアーリシアは余裕の表情のまま、魔法の壁で防ぐ。


「おら! 敵は一人じゃねぇぞ!」


 その攻撃の隙を突いて懐に潜り込んだノルバの剣がシャプールの頬をかすめる。


「しくったか」


 途端、シャプールの顔が歪む。


「鬱陶しいなぁ! もぉ!」


 怒り任せの全方位攻撃。

 彼の全身から放たれた糸の斬撃が弧を描きながら広がった。

 飲み込まれれば全身はズタズタに斬り裂かれる。

 ノルバは剣で受け止めるも、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 攻撃が止むと、中心には項垂れて頭を抱えるシャプールが残っていた。


「あーもう、キレた。完全にキレた」


 ゆらゆらと揺れる姿には、それまでの親しみやすそうな雰囲気は微塵も感じられない。


「気ぃ抜くなよ」

「分かってるわよ」


 迂闊に手を出せない。ノルバとアーリシアは身構える。

 シャプールが天を仰いだその時、糸の束で出来た無数のドリルが二人に襲い掛かった。

 先程の斬撃よりも強力。気を抜けば剣を持っていかれる威力だ。


(重てぇな)


 武器を失わぬよう、ノルバは器用にも剣の腹でいなしていく。

 怒り任せの攻撃だが、よく考えられている。回転させることで貫通力と威力を増大させている。

 そしてそれはアーリシアの防御魔法の壁にもヒビを入れた。


「やるわね」


 魔法壁と糸のドリルの摩擦は、悲鳴に似た甲高い音を立て続けていた。

 それでもアーリシアは冷静さを欠かさない。

 ヒビが広がり、壁が破られた。ドリルが中を貫く。だが既にそこにアーリシアはいなかった。

 離れた位置にワープしたアーリシアは光の刃を召喚し、糸のドリルを粉微塵にした。


「さぁ、覚悟しなさい」


 杖の先端に光が集約していく。

 それに合わせてノルバはシャプールとの距離を詰めた。その背を無数の糸のドリルが追いかける。

 ノルバが貫かれるのも時間の問題。


「まずは一人だぁ!」


 シャプールが勝利を確信したタイミングで、ノルバは大きく後ろに跳躍した。


「え?」


 間抜けな声がシャプールから漏れた。

 ノルバの真下を通過するドリルは、狙うべき相手を失ったまま突き進んでいく。

 その行き先には発動者のシャプール。勢い付いたドリルを止めるにはもう時間がない。

 ドリル達は守るべき主人に襲い掛かった。

 加えてアーリシアの光線が放たれ、土煙の中を穿つと大爆発を起こした。


「さて、どうなったかしら?」


 アーリシアは訝しげに爆発を見つめた。

そこに全ての傀儡を倒したリッカとエルノが駆け付ける。


「倒したのか⁉」


 その体に傷はなく、苦戦することなく殲滅したことが伺えた。


「残念。まだらしいわ」


 言葉とは裏腹に、この状況になると理解していた様子のアーリシアは静かに再度、杖を構える。

 土煙が晴れていくと現れたのは、所々が焦げて煙を上げているシャプール。

 その顔には憤死しそうなほどに血管が浮き出ていた。


「どうして邪魔をするんだ。ボクはただ平穏に生きたいだけなのに。どうしてなんだ……」


 ブツブツと恨みつらみを呟き、シャプールは頭を掻く。その力は徐々に強くなり、皮膚が裂け、血が噴き出し始める。

 気でも狂ったとしか思えぬ行動にアーリシア、リッカ、エルノが動揺し固まった。

 だがしかし、ノルバだけは好機と捉え、斬り掛かった。


「何なんだよもおぉぉ!」


 シャプールの両腕が宙を舞う。

 ノルバは斬った勢いを利用して回転すると、地面に張り付くほどに超低姿勢になった。そして今度は両脚も斬り捨てる。

 流れる様な早業にシャプールは地に倒れる。


「残念だったな。これでチェックメイトだ」


 剣先をシャプールの首元に当て、ノルバは勝利を宣言した。

 だがシャプールは嘲る様に笑う。

 そして次の瞬間、その体が糸くずに変わった。


「なッ!?」


 まるで入れ替わり。ノルバはすぐに本体を探した。

 すると見つけるよりも早く、シャプールは機械の陰から姿を現した。


「驚いたでしょ」


 手足は糸で補われていた。

 つまりはそれまで戦っていたシャプールは正真正銘本物。何らかの方法で逃げだしたのだ。


「何をした」


 ノルバの問いに、それまでの怒りは消えた様子でシャプールは意気揚々と答える。


「ボクは傀儡と入れ替わることが出来る。つまりは傀儡がボクでボクは傀儡。事前に傀儡を配置しておいて入れ替わったのさ」


 替われる機会は何度もあった筈だが、このタイミングでだけというのは発動条件があるのだろう。

 だが今更替わったところでもう遅い。既に満身創痍。入れ替わりなど些細な問題だ。


「だったら外に配置しておくんだったな。お前はもう終わりだ」


 しかしノルバ達の予想とは裏腹に、シャプールは顔を押さえて不敵な笑みを浮かべる。


「何を言ってるのさ? まだまだこれからだよ!」


 シャプールは背後にある何かを隠してある巨大な布に手を掛けた。

 その布が取られると、ノルバとアーリシアは言葉を失う。

 それはかつて見た絶望。世界を覆った恐怖の象徴。


「何っ……で……」


 アーリシアが何とか絞り出した言葉の先にあったのは、十六年前に倒した魔王の亡骸だった。

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