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第30話 元勇者のおっさんは魔族に出会うそうです

「リッカ! エルノ!」


 ノルバの声に二人が振り向く。


「あの獣人はどうした」

「シャナが来てな。任せてきた」

「シャナが⁉」


 ノルバの発言にエルノは目を見開く。


「大丈夫だ。アイツは強い。それはエルノが一番知ってるんだろ?」

「はい……そうですね」


 エルノが不安気に返事をすると、突如轟音と共に熱波が押し寄せた。


「何だこれは⁉」

「シャナです!」


 顔を覆わなければ爛れてしまいそうな熱の中、エルノはシャナの行方に目をやった。


「シャナ……」


 心配して声が漏れるエルノだが、そんな彼女の肩をリッカが叩く。


「行くぞ。私達に止まっている暇はない」


 エルノの表情が引き締まる。

 そうだ。立ち止まっている暇なんてない。ここに来たのは友の心配をする為ではなく、潜む巨悪を討ち取る為。


「だけどどうすんだ。アルがいねぇんじゃ道が分からねぇ。適当にぶっ壊してくか?」

「馬鹿者。そんなことをして崩落に巻き込まれたらどうする」

「だよな」


 現状手詰まり。

 頭を掻くノルバだが、不意にノイズが脳内に響いた。

 そしてそれはノルバだけでなくリッカ達にも聞こえていた。


「お師匠ですよ!」


 エルノの言葉通り、ノイズがクリアになっていくとアーリシアの声が聞こえた。

(もしもし? 誰か聞こえる?)

「アル、お前何してんだよ」

(ノルバ? 良かった、繋がって。ちょっと寄り道してたのよ)


 軽口を叩く余裕があるのだ。無事だろう。

 三人はほっと胸を撫で下ろした。


(今アンタ達一緒にいるのね。なら丁度いいわ。そこから三階層分床を壊しなさい。合流出来るわ)

「んなことしたら崩落しちまうんじゃねぇのか?」

(大丈夫よ。そこら辺は考えてる)

「なら行くぞ!」


 ノルバは声高に返事をすると、雷を纏った剣で地面を割った。

 雷は一気に三層の地面を突き破る。


「無事だったか」


 飛び降りて来たノルバを見て、アーリシアは呆れた様子で顔に手を当てた。


「エルノに任しなさいよ、バカ。ぐちゃぐちゃじゃない」

「いいだろ別に。てかそいつ何だよ」

「あぁこれ?」


 アーリシアは拘束した男の魔法の紐を引っ張った。

「私に喧嘩売ってきたからボコしたの。で、コイツのせいでいまいち場所が分かんなくなっちゃったから案内させてたって訳」


 焼けた皮膚と片腕のない姿は痛々しく、目を背けたくなる。だがこの場で彼に同情する者は誰もいない。

 男には冷たい視線だけが向けられる。


「でもまぁ、もう用済みね」


 杖が男の顔に向けられる。

 涙を流し必死に何かを訴えるが、口を封じられている男の声は誰にも届かない。

 静かに、そして一瞬で男の頭が吹き飛んだ。男の倒れる地面には赤い染みが広がっていく。


「さ、行きましょ。工場までは後少しよ。ノルバももう離れないでね」

「分かってる」


 合流を果たしたノルバ達は工場へと向かった。

 そこからは敵を倒しきったのか何も起きず、一行は一つの扉の前に到着する。


「ここか?」

「その筈だけど。ねぇここで合ってるわよね」


 アーリシアはシーの口の拘束を解くと、頭に杖を突き付けた。


「あ……合っている! ここが工場だ!」

「そう。なら良かった。皆下がりなさい」


 アーリシアはノルバ達を後ろに下げると杖を構える。

 杖の先端に光の粒が集約していく。そして溜め終わると光線が飴細工を作る様に扉を貫いた。


「行って」


 アーリシアの合図でノルバは間髪入れずに突入していく。

 するとそこには無数の巨大な機械と、一人の青年が笑みを浮かべて立っていた。


「おめでとう。よく来たね」


 称賛する青年の頭の左右には、大きく弧を描く黒い角が生えていた。

 それを備える者の正体をノルバ達は知っている。目の前にいるのは正真正銘の魔族だ。


「シャプール様ぁ!」


 手足を縛られているシーはシャプールと呼ぶ魔族に助けを求めて、イモ虫の様に擦り寄っていった。


「申し訳ございません。彼の者達の侵入を許してしまいました。どうか、どうかシャプール様のお力をお貸し下さい。貴方様の圧倒的な力で蹴散らして下さい」


 ウジ虫を見るような冷たく嫌悪感に浸った目がシーを見下す。

 だが気付いていないのか、それとも見て見ぬふりをしているのか、シーはごまをすり続ける。

 そんな姿に呆れた様子でシャプールは大きな嘆息を漏らした。


「もういいよ。鬱陶しい」

「え?」


 瞬間、シーが三枚におろされた。それまでシーだったものは、赤い糸を引きながら崩れ去る。


「さてと」


 シャプールは躊躇なく肉塊を踏んでノルバ達の元へと歩んでくる。


「改めて、よくここまで来たね」


 仮面を貼り付けた笑顔が向けられる。


「何で魔族が……生きてるッ!」

「待ちなさいノルバ!」


 アーリシアは慌てて止めた。しかしノルバは制止も聞かず剣を振る。

 シャプールの首が飛んだ。

 一瞬の決着。だがノルバは違和感を覚えた。斬った首が異様に軽かったのだ。

 その違和感を証明するかの様に、落ちた首が糸屑に変わる。残された胴体から糸が伸びると頭が形作られていく。


「いきなりなんて酷いじゃないか」


 紡がれ、形を成した口が喋った。


「どうするんだい? ボクがただの人間だったら」

「間違える訳ねぇだろ。テメェらの腐った魔力は鼻に染み付いてる」


 ノルバは吐き捨てる様に言うと、もう一度シャプールを斬った。

 剣を一度振っただけにしか見えない速度だった。だがシャプールは一瞬のうちに細切れとなる。

 しかしそれは糸で出来た人形。命持たぬ代弁者。

 糸が地面から生えると、新たなシャプールが作り出される。


「なるほどね。戦争経験者か。でも剣を収めてほしいな。ボクは争いが好きじゃないんだ。話し合おうよ」

「テメェらと話し合うことなんてねぇよ」


 再度剣を振るおうとするノルバだったが、それをアーリシアが前に出て止める。


「落ち着きなさい。こっちにも聞かないといけないことが山程あるの。アンタが剣を振るのはそれからにしなさい」

「さっすが。話が分かるね、キミは」


 シャプールは大袈裟に拍手をして褒め称えた。

 そんな相手にアーリシアは隠しもせず、殺意を含んだ鋭い視線を向ける。


「勘違いしないでもらえるかしら。私だって今すぐ殺してやりたいわ。けどね、そこまで短絡的じゃないってだけ」

「いいね。そういうのは好きだよ。好きのお礼だ。何でも聞いてよ」

「なら最初の質問。何で魔族のアナタが生きているの? 魔王は死んだ筈でしょ」


 一番の疑問にして最重要の質問。

 シャプールは「そこが一番気になるよね」と大きく頷いた。


「確かに魔王様は死んだよ。それで多くの魔族も死んだ。ボクだって死ぬんじゃないかとビクビクしていたさ。けど死ななかった。何故だか分かる?」

「くだらない雑談に付き合う気はないわ。さっさと答えなさい」

「分かったよ、つれないなぁ」


 口を尖らせ、わざとらしく落ち込んで見せるとシャプールは続けた。


「正解はボクが一つの種として確立したからさ」

「どういうこと?」

「何百年という時間はボクを魔法生命体ではなく、個として認めたということさ」


 つまりは魔王の魔法という位置付けではなく、人間や獣人といったと独立した生命体となったということ。シャプールは魔族という種族になったのだ。


「そんな話は聞いたことがないわ」

「そりゃそうでしょ。ボクも戦争の後、ボク以外の魔族には会ったことないし」


 前代未聞の事態。それが本当ならこれまでの常識を根底から覆す出来事だ。

 アーリシアの脳は必死に否定しようとした。しかし目の前に映る現実が、それを事実だと証明している。

 無意識の内に手汗が滲んでいた。

 シャプールは戦後、自分以外の魔族には会っていないと言った。だがそれが真実である証拠はない。例え真実であったとしても、他に魔族が生き残っていないという証明にはならない。

 考えれば考えるほど、気が狂いそうになる。

 そんな中、逞しく大きな手がアーリシアの肩を叩いた。


「つまりは隠れてただけの臆病者だろ? そんな奴に負けるほどオレ達は弱くねぇだろ」

「ノルバ……」


 その手には、声には、微塵の動揺も恐怖もない。

 あるのは世界を救わんとする確固たる意志だけ。


「テメェが作った首輪のせいで苦しんでる奴らがいる。楽に死ねると思うんじゃねぇぞ」


 剣の切っ先とギラつく目がシャプールに向けられる。

 しかしシャプールは穏やかなまま態度を崩さない。


「ボクはビジネスをしただけだよ。魔族だからって殺すのはおかしいとは思わないの?」

「思わねぇよ」


 ノルバの一太刀がシャプールの胴が飛ばした。

 しかしそれも糸で出来た傀儡。ダメージにはならない。

 新たな糸がすぐに形を成す。


「何で分かり合おうとしないの? ボクのやってることは世界に認められてる。他から見たら悪は君達だよ」


 口の立つ魔族だ。

 確かに魔族を知らぬ者からすればシャプールの言い分は正しく思えるだろう。

 今や奴隷は一つの産業だ。それをなくそうとするノルバ達こそ悪。

 だが――


「舐めんじゃねぇ。感じんだよ。テメェのドス黒い悪意が」


 溢れ出る悪意が肌に打ち付けている。

 魔族とは、人間や異種族を害する為だけに創られた存在。それは種として確立しようとも変わる筈がない。


「話し合いは無駄……か。残念だよ、ここでキミ達を殺さないといけないなんて」

「やってみろよ。ぶっ殺してやる」

「いいよ。やってみなよ」


 地面から生えた糸から無数のシャプールが形成されると、一斉にノルバに襲い掛かった。

 しかし雷が弾けると、それらは一瞬にして糸屑へと還る。


「アル! 本体は何処だ!」

「あそこよ!」


 アーリシアの指差す方向にノルバは雷撃を飛ばした。

 すると、突如として見えない壁にぶつかり、何もない空間を稲妻が走った。

 目の前の風景が燃え広がっていく。糸が解れていき、偽装されていた空間が姿を現す。


「あーあ、バレちゃったか」


 気怠そうに首を鳴らして現れたのは、本物のシャプール。

 彼が一歩踏み出すと、吐き気を催す邪悪がノルバ達に纏わりつく。


「よく見つけたね。ボクが正真正銘、本物のシャプールだ」


 傀儡越しとは比べものにならない膨大な魔力。

 その圧に押され、エルノは思わず後退りしてしまう。


「隠れて生きてたくせに随分な力だな」

「何とでも言えばいいよ。キミ達はここで死ぬんだからね」

「誰も死なねぇよ」

「どうだろうね」


 シャプールの言葉と同時、エルノの悲鳴が上がった。

 ノルバとアーリシアが振り向くと、リッカとエルノが傀儡に襲われていた。


「リッカ! エルノ!」


 ノルバは駆け付けようとした。だが、リッカの力強い声がその足を止めさせる。


「気にするな! これくらい私達で対処出来る!」


 その言葉通り、リッカは次々と傀儡を倒していく。リッカだけではない。エルノも魔法をもって敵を蹴散らしている。


「ノルバさんとお師匠は本体を!」

「任せろ」

「分かったわ」


 シャプールに向き直った二人はそれぞれ武器を構え直した。

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