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第28話 元勇者のおっさんは強敵に出会うそうです

 アーリシアが消えた後、エルノとリッカはノルバの通過した道を辿っていた。


「ノルバ・スタークス。アイツは何処にいるんだ」


 ノルバの行動に不満げな顔を見せるリッカを、エルノは「まぁまぁ」とたしなめる。


「ノルバさんなら大丈夫ですよ。お強いですから」

「そんなことは分かっている。アイツはここにいる誰よりも強い。やられることは心配してはいないが少々急ぎ過ぎている。ことを急いては足元をすくわれてしまう」

「確かにそうですね。それじゃあ早くノルバさんを見つけましょう。お師匠との通信がなくなって心配しているかもしれませんし、ワタクシの念話が届く範囲に行って安心させてあげないと」

「そうだな」


 エルノの声は明るく威勢が良かった。

 アーリシアへの絶対的な信頼が前へ進む勇気を与えているのだろう。それだけではない。

 そこにはエルノの成長も起因している。その頼もしさにリッカは目を細めた。

 そんな時だった――


「待て、何か聞こえる」


 リッカは口元に指を立て、静かにするよう指示した。

 二人が耳を澄ますと破砕音が継続的に聞こえる。音は遥か前方から段々と近付いてきている。

 武器を構える二人は乾いた喉に唾を飲み込んだ。


「来るぞ!」


 リッカの声でエルノは迎撃体制を取った。

 だが姿を見せたのは武器を向けるべき相手はなかった。壁を突き破り現れたのはまさかのノルバだった。


「リッカ、エルノ!」


 驚きの声を上げるノルバだったが、顔をすぐに正面に向ける。

 道中に倒れていた輩では負わせられないであろう土埃をその身に纏うノルバに、エルノは困惑して聞く。


「一体何があったんですか⁉」

「厄介な奴が出て来やがった」


 視線を前に向けて答えるノルバの目は鋭い。

 剣を構える姿にも一切の隙はなく、奥にいる敵を凝視している。


「随分と飛んだなぁ。おっさん」


 頭に手を置き、首を鳴らしながら現れたのは一人の男だった。

 全身を覆う青いゼブラ模様の体毛。頭上部についた二つの三角の耳。腰から伸びる長い尾。そして獲物を引き裂き仕留める為に備わった手足の巨大な爪。

 男がニヤリと歯を見せて笑うと、巨大な犬歯が光を反射する。


「獣人……だと」


 リッカが信じられないといった様子で驚きの声を漏らした。

 その声に男の耳がピクリと反応する。


「何だよ。亜人かここにいちゃまずいのか? なぁおい!」


 予備動作はなかった。突如として獣人の姿が消えた。

 本人の気付かぬ間にリッカに向けて爪が延びる。

 だがノルバが、獣人が自身の横を抜ける前に剣を振って進行を妨害した。

 剣と爪の激突に火花が散った。

 獣人は受け止めた勢いのまま空中で回転をし、距離を取って着地する。


「おいおい、邪魔すんなよ」

「お前の相手はオレだろ」

「関係ねぇ。全員俺様の獲物だ。だがまぁ先にやり始めたのはテメェだ。片付けてやんよ」


 獣人が両の爪で研ぎ合うと金切り声に似た音が響く。

 より鋭利になった凶爪がノルバに襲いかかる。

 雷を纏った青い剣閃と白い斬光が火花を散らす。

 互いに引かず、打ち込み合う。

 加勢する隙すらない攻防一体。エルノとリッカは息を呑んだ。

 そんな二人にノルバは叫ぶ。


「お前ら先に行け! ここにいちゃ巻き込んじまう!」


 ノルバの言葉にリッカはハッとする。

 二人の攻防に気圧され止まっていた。

 今優先すべきは製造工場への到着。先を急がねばならない。

 それに狭い通路に味方がいてはノルバも全力を出せない。

 足を引っ張った。その事実にリッカは唇を噛むが、すぐに切り替える。


「エルノ殿行くぞ。ここにいては邪魔になる」

「は、はい」


 二人はノルバの突き抜けてきた道へと入っていく。

 鍔迫り合う最中、最後にノルバは聞いた。


「エルノ! アルはどうした!?」

「お師匠とははぐれました! でも大丈夫です! なんたってあのお師匠ですから!」


 自信満々に答えるエルノに、ノルバは「そうだったな」とでも言う様にフッと笑った。


「ノルバ・スタークス! 先程の件、礼を言う! 決して死ぬなよ!」


 そして去り際に残されたリッカの言葉には苦笑する。


「誰にもの言ってやがる」


 二人が去った後のノルバの顔には薄く笑みが浮かんでいた。

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