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第23話 元勇者のおっさんは会議に参加するようです

 王立研究所第一会議室。何百人規模での集会が出来る広さを誇るそこに、ノルバとアーリシアは最後に入室した。


「ごめんなさい。お待たせしたわ」

「いえ、ちょうど他のメンバーも集合を終えたところです」


 集められているのは王国兵と冒険者。顔ぶれの殆どがダンジョン攻略の時と同じだった。

 魔族、ひいては魔王との戦闘になるのだ。強者でなければ声がかからないのは当然のこと。とは言っても、ここにいるのは多くて四十前後。あの時の十分の一にも満たない。

 そんな見覚えのある顔ぶれの中、ノルバは最も見覚えのある人物を三人ほど見つける。


「ノルバ。適当に座っときなさい」


 アーリシアに言われるまでもなく、ノルバは横一列階段状に設けられた席を練り歩いて行く。

 そして一つの席に腰を下ろした。


「やはりアナタも呼ばれていたか」

「よろしくお願いします」

「あぁ、頼む」


 ノルバが手短にシャナとエルノに挨拶を済ませると、早速壇上に立ったアーリシアが話を始める。


「皆様、お忙しい中お集まりいただきまして誠にありがとうございます。聡明な皆様なら既にご存知かと思われますが、昨今出回っている奴隷の首輪から、魔族しか持ち得ない魔導回路が発見されました」


 場内がざわつく。

 隣同士顔を見合わせる者、頭を抱える者、腕を組み静かに話を聞く者。反応を見るに彼女の発言とは裏腹に、集められた理由を知らない者が多くいる。

 そしてそれはシャナにも当てはまっていた。


「魔族が生きている……だと」


 シャナは声荒げるでもなく淡々とその事実に驚愕していた。

 アーリシアの言葉に一人の男の兵士がもの申す。


「あり得ない! 魔王は勇者ノルバによって討ち滅ぼされた。それに伴い魔族の全ては消滅した筈だ! 王国が嘘をついていたと言うのか⁉」

 言葉からタチの悪い冗談だと言ってくれという想いが滲み出ていた。

 しかしアーリシアは取り繕うこともなく淡々と返事をする。


「今言ったことが事実よ。そしてそれが全て」

「そ……そんな……」


 男の兵士は受け入れがたい真実に力無く項垂れる。

 収まりきらぬ動揺の中、アーリシアは努めて平静を装い、話を続ける。


「魔族が生きているならば、魔王がまだこの世に存在していることになる。この世界は平和になった。平和になろうと努力をしている。それにもかかわらず、それを邪魔するバカがいた。そんなことは許されない。だから今日、ここにいるメンバーで、このくそったれな道具を作ったライオネットアイ商会の全面調査を行うわ」


 彼女の言動に賛同と賛美の声が上がった。

 しかしそれは一部からのみ。殆どの者が未だに衝撃の事実を受け入れられないでいた。


「だったらもっと数を集めるべきです」


 若い冒険者が挙手し、発言した。

 頷く者多数。

 だがアーリシアはバッサリとその発言を斬り捨てる。


「ダメよ。数を集めている間に逃げられたらどうするの? それに今や奴隷の首輪は国外全域とも言える範囲で広がっている。下手に協力を仰げば、魔族と繋がりのある者にも情報が渡ってしまうわ。ここに集められた潔白を保証された精鋭だけで成し遂げるしかないのよ」


 ぐうの音も出ない説明に、だが若い兵士は食らい付く。


「ですがそれでは人死にが増えてしまいます! 魔族だって相当な脅威だ! ボクは無駄死にする為に生きている訳じゃない!」


 アーリシアが一時黙った。

 するとそれまで動揺したり、沈黙していた人々が追従するかの様に声明し始める。


「そうだ! 我々は使い捨ての駒ではない!」「私達にも守りたいものがある!」「俺は降りるぜ。リスクがデカすぎる」「もっと綿密に調査を行ってから実行すべきだ!」「息子を一人には出来ない」「家族が帰りを待っているんだ」「死ぬ為に生きてるんじゃない」


 どんどんと広がっていく混沌の渦は苛烈さを増していく。

 このままでは調査どころではなくなってしまう。


「お前らいい加減に――」


 ノルバが物申そうと立ち上がりかけると、まるで一切の乱れもない水面の様な落ち着き具合でアーリシアが口を開いた。


「いいわよ。降りたければ降りなさい」


 異様なまでの落ち着き。傍目に見ればそう捉える者ばかりだろう。

だがノルバだけが知っていた。彼女のこの状態はぶちギレているのだということを。


「けどこの調査は機密案件。ことが収まるまでは幽閉させてもらうわ。それと万が一、魔王が復活していて、調査に赴いていた者達が死ねば、アナタ達の存在を知る者はいなくなる。外に出れた頃には守りたかったものは全部なくなっているでしょうね。それでも良いなら止めはしない。背を向けて世界の滅亡を指を咥えて見ているか、それとも命を賭して未来を繋ぐか。今ここで決めなさい」


 淡々と紡がれた事実の可能性に、異を唱えていた者達は言葉を失う。

 間違っていないと思った全てを否定された。大きく抉れた傷に手を入れ込む外道行為には涙さえ出ない。


「ダメだ。それはダメだ」


 ポツリと誰かが呟いた。そしてその言葉を発端として連鎖が生まれる。

 守るべきを守る為、ここで命を懸けなければいつ懸けるのか。全てが終わった後、見る景色が美しいものである為に。より良い未来に繋ぐ為に。


「私は……戦う」「クソッ! やってやるよ!」「そうだ。家族を守れるのはボクだけなんだ」「やりゃあいいんだろ⁉ やりゃあ!」「分かりました! やりますよ!」「死ななければいいだけの話だ」「あの子の為にも……」


 総意が纏まった。

 ノルバは安堵し、頬を緩ませながら腰を下ろした。

 これで後は調査に赴くだけだ。

 誰も知らない世界の存亡を懸けた戦いが今、始まろうとしていた。

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