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第22話 元勇者のおっさんは衝撃の事実を伝えられるそうです

 ダンジョン攻略から数週間後。

 青い空の下、ノルバがいつものように庭でフリスビーを投げてフューと遊んでいると、ある人物が訪ねてくる。


「随分と楽しそうじゃない」

「アルか。何しに来たんだよ」


 フューからフリスビーを受け取りながらノルバがアーリシアに聞くと、突然目の前にドスンッと財宝と金の入った二つの袋が現れる。


「これ、ダンジョンの報酬と前にアンタがクリアしたクエストの報酬金。ずっとギルド行ってないでしょ。シャナって子に頼まれたわよ」

「あー、すっかり忘れてたな」


 フューが王国内に入れないこともあり、冒険者ギルドとも疎遠になって報酬金を取りに行く機会を失っていた。


「てか多くねぇか。クエストってこんなに貰えるもんなのか?」


 ギルドの印の入った袋を指差すノルバに、アーリシアは呆れた様子でため息をつく。


「キマイラ倒したんでしょ。知らないだろうから教えとくけど、キマイラはゴールドクラスの魔獣なの。それなりの報酬があるのよ」

「へぇ……」


 ノルバは興味のなさげに返事をした。フューをくしゃくしゃと撫で回すノルバの態度に、こういう奴だったとアーリシアは首を振る。


「アンタね、自分の立場分かってんの? 新人にしてキマイラを討伐しダンジョンも攻略した異次元の冒険者。巷じゃ噂の存在なのよ」

「別にどうでもいいって。ギルドにもあれっきり行ってねぇんだ。ほっときゃ勝手に消えていく。それよりも――」


 とノルバの撫でる手が止まる。すると一気に気温が下がったと錯覚するほどに冷たい空気が張り詰める。


「んなこと言いに来た訳じゃねぇだろ。わざわざお前が来るんだ。何があった?」

「ご明察。話が早くて助かるわ」

「またダンジョン行けってんなら断るぜ。自分で行ってろ」


 実はダンジョンに赴くとなった時、フューがわんわん泣きでなだめるのが大変だった。

 そこに加えて一週間も放置して更に傷を深めてしまった。これ以上、傷は重ねたくない。

 だがアーリシア次の言葉で、ノルバはその考えを変えざるを得なくなる。


「魔族が関わってたとしても?」

「何だと?」


 耳を疑った。

 魔族は魔王によって生み出された魔法生命体。魔王なしでは生存出来ない命だ。だから魔王の死亡と共に消滅した。

 魔族の関わりなんてある筈がない。


「どういうことだ! 魔王は死んだ! オレ達がこの手で殺しただろ! なのに何で今更魔族どうこうの話が出てくるんだ!」


 ノルバは鬼の形相でアーリシアに掴み掛かった。

 その鬼気迫る勢いにフューがビクリと毛を立たせたが、ノルバは気付かない。

 アーリシアは至って冷静に。だが同じく隠しきれない怒りを抱きながら、ある物を懐から出す。


「それは分からないわ。けどこれに魔族特有の魔導回路が隠されてた」

「これは……ッ」


 見せられた物を見てノルバは驚愕した。

 それは検査をすると持っていかれたフューの姉の奴隷の首輪だった。

 まさか。あり得ない。あってはならない。 

 首輪を手に取ったノルバの脳裏に最悪の事態が過る。


「こいつは魔王が死んだ後に作られたもんだろ」


 ノルバは知らないが、魔族の生み出した魔法道具自体は魔王討伐後も度々見つかっている。

 何故なら創作者が死んでも創作物は残るから。

 だがノルバの発言通り、奴隷の首輪に関しては魔王討伐後に作られている。

 創作者がいないのに創作物は存在し得ない。

 つまりは奴隷の首輪の存在は、魔族が生き残っていることの証明。

 そして魔族の存在が証明する所。それは――


「何でだ。魔王が生きてるっていうのか」

「今の所は何も。だからその真相を解き明かす為にアナタに協力してほしいの」

「模造品ってことは」


 一縷の望みをかけた質問だった。

 だがアーリシアは断言する。


「あり得ないわ。魔族の魔導回路は人類には再現不可能。それに私が見間違えることなんて絶対にない」


 その言葉を聞いて、ノルバの首輪を乗せた手が無意識に震えるほど握り締められる。


「すぐに行くぞ。部隊の編成はどうなっている」


 ノルバは足早に武器を取りに屋敷に戻る。

 近付けば息をすることすら躊躇われる怒気が漂う中、一つの声が彼を引き止めた。


「のるば……?」


 それはまるで怯える子羊の如く身を縮こませたフューの震える声だった。

 その声でノルバに冷静さが戻る。

 ノルバは踵を返すとフューの前にしゃがみ込んだ。


「ごめんな。今からちょっと出掛けて来ないといけなくなった。いつ戻って来られるか分からないけど、レイと過ごしててくれないか」


 安心させようと撫でる為に頭に手を置こうとするノルバだったが、フューの爪を立てた手が、それを強く弾く。

 ノルバの手から血が垂れる。

 その目に涙を浮かべ、少女が叫んだ。


「やだ! フューもいっしょにいく! いっしょにいく!」


 もう離れないで。いなくなるのは嫌だ。子供の言葉に出来ない想いが込められた、心からの叫びだった。

 聞いてやりたい。聞いてやらねばならない願い。

 しかしノルバは硬く重い鉄の扉で心を塞ぐ。


「ダメだ。お前はここにいろ。分かったか」


 触れようとする者を冷たく突き飛ばし傷付ける茨の言葉。

 その時のフューの絶望に満ちた顔を、ノルバは生涯忘れることはないだろう。

 目を逸らして立ち上がると、ノルバはフューを見ることなく屋敷へと行ってしまう。

 そこには悲しみと恐怖と絶望に打ちひしがれ、虚空を見つめるフューと、静かに見守るアーリシアだけが残されていた。


※※※


「良かったの? あれで」


 王都へ移動中のキャビンの中、対面に座るアーリシアが聞く。


「仕方ねぇだろ。今回ばっかりはダンジョンの時と同じ様にはさせられねぇ」


 あの後ノルバはフューと言葉を交えずに出発した。レイに世話を押し付け、半ば逃げる様な形で出て来てしまった。

 だがこれでいい。

 万が一にでも追ってくることがあれば守りきれる保証はない。そもそも下手をすれば人類滅亡の可能性だってある案件だ。邪魔をしてもらう訳にはいかない。

 後悔はない。

 そう思い込んでノルバは剣の柄を握り締める。


「聞きそびれちまったが部隊はどうなってる。オレ達だけなんてバカな話はねぇだろ」

「少数精鋭。信頼出来る人だけを集めたわ。時間があればメイシアとガルードも探せたんだけど」


 その名はかつて魔王を共に討伐したパーティーメンバーの僧侶とタンクのものだ。

 彼女の口ぶりからして王国にはいないのだろう。あの時から随分と時が経っている。各々自分の人生を歩んでいるのだ。喜ばしいことだ。だが今だけはその事実が歯がゆい。


「噂が大きくなって尻尾を隠されちまっても困る。今のメンバーを信じるしかねぇな」

「そうね。頼むわよ」

「あぁ、任せろ」


 例えこの命に代えても。喉元まで上がっていた言葉を飲み込み、ノルバは更に強く柄を握り締めた。

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