第20話 元勇者のおっさんはダンジョンを攻略するそうです
風穴を開けて落ちるドラゴンは光の泡となって消えていった。
その光はまるでダンジョン攻略を祝う様に輝いており、ノルバとシャナは光の泡に包まれながらゆっくりと降り立つ。
「よくやった二人共」
「やりましたね!」
出迎えるエルノは笑顔に満ちていた。エルノだけではない。仏頂面のリッカでさえ今は顔が綻んでいる。
「何言ってんだ。まだ終わってねぇだろ」
「え?」
ノルバの言葉にエルノの笑顔が固まる。
しかしそれは杞憂だった。
「宝をゲットしなくちゃダンジョンを攻略したとは言えねぇだろ!」
まるで子供みたいにテンションの上がったノルバを見て、エルノはほっと胸を撫で下ろした。
そうだ。帰るまでが遠足であるようにダンジョンもボスを倒して終わりではない。しっかりと宝を持って帰らねばならない。
しかし――エルノはある問題点に気付いた。
「あの……そのお宝はどこに……?」
広間には何もない。ドラゴンが消えてエルノ達だけが取り残されているだけだ。
もしかするとまだ終わっていないのか。そんな不安がエルノの脳裏を過る中、突如として広間中央の紋様が輝き始める。
「来たぞ来たぞ!」
興奮を隠しきれず前のめりになるノルバ。
その目に紋様からせり上がって来た黄金の扉が映る。
その扉こそがダンジョン攻略者だけがくぐることを許される至極の褒美。
「開けるぞ!」
人がアリに見えるほどに巨大な扉だった。
ノルバが扉に手を掛けると、扉は重々しい音を立ててゆっくりと開いていく。
「おぉ……」
「凄いな」
「……」
シャナ、リッカ、エルノはその中に広がる光景に目を奪われた。
そこに映っていたのは文字通りの宝の山。
一歩踏み入れば金銀財宝のプールが出迎えるほどの宝がそこにはあった。
とは言ってもノルバにとっては、これほどの宝でもちっぽけなもので、とうの昔に見飽きてしまっている。
だがそんなことは過去の話だ。ダンジョン攻略の果てに辿り着いたこの光景を見飽きることなどないのだから。
「すげぇな、おい!」
子供が新しい玩具を手に入れた様な輝きを目に映し、ノルバは宝のプールを満喫する。
本当に子供みたいだと見守る女性陣。放っておけばずっと続きそうな状態にリッカは一つ咳払いをする。
「楽しむのもいいが、我々は遊びに来た訳じゃない。早く出るぞ」
法令順守。堅物な言葉にノルバは眉をひそめるが、何か悟ったのかニヤッと笑う。
「あれか。お前羨ましいんだろ。来いよ。今は国のことなんて忘れて楽しめよ」
「……ッ!」
リッカの顔が真っ赤に染まる。図星だったらしい。
「う、うるさい!」
しかしリッカは邪念には従わず、ずかずかと宝の中を掻き分けて、真の宝の元へと進んでいく。
「つまんねぇ奴」
口を尖らせしょうがないなとノルバも体を起こすとリッカの後を追っていく。
宝の間の中央。そこだけは宝の波は押し寄せておらず、広々としていた。そしてそこには、この場に似つかわしくない、何の装飾もない質素な角柱があった。その上にポツンと、だが存在感を示して置かれている物をリッカは手に取る。
「何だよそれ」
「さぁな」
それは装飾もない透明な小瓶。手に取ったことで中の赤い液体が揺れる。
用途は分からないが、ここで開けていい筈の物ではないことだけは確かだ。
リッカは瓶をポーチに入れた。
するとその時、ダンジョンが震え始めた。
「何ですか⁉」
「転移が始まるんだよ」
慌てるエルノに、シャナは冷静に今から起こる事象を教えた。
ノルバとリッカも理解しているのか至って冷静だ。
空間が歪みだし視界が揺らぐ。
そして一瞬にして、宝と共にノルバ達の姿は消えてしまった。




