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第18話 元勇者のおっさんはダンジョンボスに挑むそうです

 第3階層は平坦な道だった。それまでの苦労を労うかの様に静まり帰った一本道。ここに辿り着いたパーティーは第4階層に備えて準備を整えている。

 ノルバ達もまた例に漏れず小休憩と準備を行っていた。


「次で最後の階層だよな」


 ノルバは革で出来た水筒の水を浴びる様に飲みながら聞いた。


「そうだ。ここからが一番の難所だ」

「だよな。どんなボスがいるのか」


 実地調査の結果、第3階層までは調べがついていた。

 しかし第4階層だけは詳細が分かっていない。

 その理由は誰も第4階層から戻って来た者がいないから。

 故に第4階層だけは一切の情報がない。

 そういった事情があるからかもしれないが、ここ第3階層には人が多い。皆躊躇しているのだ。誰も戻って来れぬ過酷な地に挑むことを。

 それは例えどれだけの実力と覚悟があっても、等しく人間であるという証明なのかもしれない。

 だがしかし、いつまでも立ち止まってはいられない。

 休憩を終えたノルバ達は誰も挑まぬ死地へと足を延ばした。


「手筈通りに頼むぞ」

「任せろって」

「プラチナランクとして恥じぬ戦いをしよう」


 息巻くノルバとシャナ。その半歩後ろ、エルノは速まる鼓動に手をやり、力強く頷くのだった。


※※※


 扉を越えると焦げ付いた臭いが鼻腔に刺さった。

 白む視界の中、その臭いで何が起きたのかは想像出来る。

 景色が色を得ていくと、広大な広間の中央に鎮座し俯くドラゴンの姿があった。


「アイツがダンジョンのボスか」


 二足歩行の翼のないドラゴン。

 圧倒的な存在感もさることながら、離れていても押し潰されそうなプレッシャーを放っている。

 まるで力を封印されているかの様に、黒の装甲に覆われた全身。唯一頭部の装甲の隙間から生える赤い毛だけが、それが生物であることを証明している。

 その周囲の床には黒ずみの数々。それは挑戦者達の成れの果て。

 その数の多さと傷がほとんどなく艶やかに光る装甲があることから、手も足も出ずに殺られたのだと分かる。


「一度戻って他の方々にも報告しましょう」


 エルノは提案するが、最後尾につくシャナは首を横に振った。


「扉が機能してない。帰れないよ」

「そんな……」


 扉は光を失いただの門と化していた。

 エルノは狼狽える。だがそんな状況にも関わらず、前の2人は何処か気分が高揚している様子だった。


「一度入れば引き返すことは叶わぬ場所。帰らずの間と言ったところか」

「来ちまった以上はやるしかねぇよな」

「待って下さい!」


 思わずエルノは呼び止めた。

 そうでもしないとこのまま挑んでしまいそうだったから。


「他のパーティーを待ちましょう。ワタクシ達だけでは危険すぎます」


 エルノの提案は正しい。今回のダンジョンは国からの依頼だ。早い者勝ちではない。全員で協力して攻略した方が生存率も成功率も高まる。

 だがしかしノルバは拒否する。


「無理だな。見てみろよ」


 ノルバが指す方向をエルノも見ると、俯いていた筈のドラゴンが首を持ち上げ、こちらを向いていた。

 エルノは思わず息が詰まった。装甲越しに向けられている目が、獲物としてこちらを捉えている。

 心臓が帰れと強く警告している。しかし帰る道はない。行き場のない不安に押し潰されそうだ。

 そんな中、エルノの肩にポンッと手が置かれた。


「大丈夫だよエルノ。私達がいる」


 大きな手。かつては共に手をとり歩んでいたのに、いつの間にか放れてしまった、あのか細い手。

 もう一度共に歩みたいとここまで来たのに、漸く隣に立てたと思っていたのに、結局は後ろを追っているだけだ。

 エルノは悔しさと悲しさが込み上げてくる。

 そんなエルノの心中を察したのか、ノルバも声を掛ける。


「大丈夫だ。お前はアルの弟子なんだろ? 自信を持て。じゃねぇと後でこっぴどく怒られんぞ」

「ノルバさん……」


 2人の言葉がエルノの背中を押した。

 何を今更弱気になっているのか。追い付けたなんていう思い上がりで状況も見れず、勝手に苦しんで馬鹿馬鹿しい。

 自分が努力している様にシャナもまた努力し続けている。簡単に追い付けなくて当たり前だ。だから無理を承知で王国一と名高い魔法使いに弟子入りをしたのに。

 エルノは目を瞑り大きく深呼吸をした。

 いつか隣に立つ為に、どんな困難にも立ち向かい、何度挫けようと立ち上がると決めた。

 そんな初心を今更ながらに思い出す。


「ノルバさん、シャナ、ありがとうございます」


 目元を拭いエルノは前を向いた。

 その顔に不安はない。


「ワタクシ達でダンジョンを攻略しましょう」

「では行くとしよう。あちらさんも待ちかねている」


 リッカに続き、ノルバ達も広間へと降りる。

 圧倒的なプレッシャーに思わずノルバの剣を持つ手が震える。


「怯えているのか?」

「バカ言え。武者震いだ」

「そうか、ならいい。先陣は任せるぞ」

「あぁ、任せろ」


 ノルバが地面を蹴ると、その姿は一瞬にして消えた。

 ドラゴンの反応よりも早く、その首に剣が振るわれる。

 しかし――


「かってぇな」


 傷は付かない。手は抜いていない。

 だが装甲には汚れ一つ付きはしなかった。


「魔法で何かやってんな」


 触れた感覚で分かった。

 装甲の素材は分からないが、その上に魔法が重ねられており層が出来ている。

 ただの斬撃やなまっちょろい魔法では装甲に攻撃は届かないだろう。

 ノルバが経験に基づく予測を立てていると、ドラゴンは煩わしいハエをはらう為、発達した前腕で、宙にいるノルバをはたき落としに掛かった。

 ドラゴンにとっては軽い一撃。だが人間にとっては致命傷になる攻撃だ。

 ノルバは迫る爪に対して、羽毛を乗せるかの様に剣で衝撃を吸収すると、全力でかち上げた。

 その威力は凄まじく、ドラゴンの腕は大きく跳ね、ノルバも反発力で地面に叩き付けられる勢いで落ちる。

 しかしノルバは上手く着地するとドラゴンを見た。

 ダメージはない。だが思わぬハエの反撃に装甲越しの目がノルバを威圧していた。

 それに対してノルバは臆するどころかあざけて見せる。


「おいおい、相手はオレだけじゃねぇだろ」


 ノルバの視界の奥、シャナが動いていた。

 ノルバが最初の一撃で注意を引きシャナが続く。作戦通りの動きだ。


「くらえッ!」


 シャナは炎を全身に纏い、大地を蹴った。


 荒ぶる炎に包まれた髪が風になびくは、たてがみの如く。二本の短剣で斬りかかるは獅子の如し。


 炎を宿した百獣の王の鉤爪がドラゴンを襲った。

 爆炎と共にドラゴンの体が揺れる。

 だが倒れない。体を押されてふらつくのみだ。

 長く、鞭の様にしなる尻尾で振り払うと、シャナは吹き飛ばされて壁に消える。


「シャナ!」

「無事だ!」


 土埃を払うシャナの体に傷はない。

 ノルバがシャナの元へ行くとエルノ達も合流して来る。


「二人共無事そうだな」

「あぁ」

「軽い攻撃でも相当な威力だ」


 ドラゴンの動きに注意をはらいつつ、ノルバは自身の予測を伝える。


「アイツの装甲には魔法が掛かっている。オレの攻撃はもちろん、さっきのシャナの攻撃を見ても、魔法が剥げた痕跡はなかった。あれを剥がすには相当な一撃がいるぞ」

「感触的に魔法による攻撃の方が有効だと思う。だからエルノに頼みたい」

「ワタクシが⁉」


 思わぬ提案にエルノは困惑した様子を見せた。

 だが拒否する間もなく囲いは作られていく。


「オレもそれでいいと思う。エルノが魔法を放つまでの間、オレとシャナで時間を稼ぐ」

「では私はこのままエルノ殿を守ろう」

「えぇ⁉ ちょ、ちょっと待って下さい。それならお三方の誰かが――」

「んじゃエルノ頼むぞ。あちらさんは待ちくたびれてるからな」


 ハエが集まり作戦を立てている。それを分かっているのか、今にも動き出しそうな様子でドラゴンはこちらを見ていた。

 動かれる前にノルバが駆けていくとシャナも「頼んだよ」とその場を去っていく。


「諦めるんだな」


 そこに当てられる淡々としたリッカの言葉。

 本当に誰も味方はいないと悟ったのか、エルノはぶっきらぼうに杖を構えた。


「分かりました。やってやります。やってやりますよ!」


 半ば自暴自棄にも思える気合いの入れ方にリッカの口元は緩んでいた。

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