第15話 元勇者のおっさんはダンジョンに挑むそうです
【ダンジョン】それは神話の時代に造られたと考えられている遺物。
誰が何の為に生み出したのかは誰にも分からない。しかしそこには夢がある。
ダンジョンには財宝が眠り、攻略した者には富と名誉、そして圧倒的な武がもたらされる。
いつ何処に現れるかは不明。ダンジョンはある日突然、それまでもそこに存在していたかの様に姿を現す。
そしてそれは今、目の前にあった。
「大がかりだな」
遺跡を思わせる建造のダンジョン近くに立てられた仮設テントの前で、ノルバは独り言を溢した。
「魔王が討伐されてからはこれが一攫千金のチャンスになったもの。命知らずのバカが増えたのよ」
ノルバの独り言に反応するアーリシアは呆れた様子でその人だかりを見ていた。
王国兵から冒険者まで、役職関係なく準備の為に行き交っている。
かつてのダンジョンは魔王や魔族に対抗する為の手段を手に入れる場所だった。
しかし今では一攫千金を夢見る輩のユートピアだ。
勿論、ダンジョン攻略は生易しいものではない。命の危険が伴う。
だがそれでも、自身の命を天秤に掛けてでも挑む価値があった。
それにダンジョンは誰でも挑戦出来る訳ではない。
細かな取り決めの中で限られた者だけが挑むことを許される。ノルバもその内の一人だった。
基本的に冒険者がダンジョンに挑む手段は二つ。
一つはクエスト受注。適正ランクに至っていれば誰でもチャレンジすることが出来る。
二つ目はダンジョン所有者からの推薦。これは基本的に国からの推薦が多い。
というのも、ダンジョンは出現した土地の持ち主に所有権があるのだが、中から魔物が出てくることも多い。その為、被害の広がる前に各国は持ち主に、国で管理する代わりに所有権を渡してほしいと交渉する。そうして国の管理下に置かれたダンジョンを攻略する為、国側から実力のある者に声を掛けてダンジョン攻略に参加してもらうのだ。
そしてノルバが推薦されたのは、キマイラを討ち取った実力から。というのが建前となっている。
「アンタも頑張りなさいよ。王様からの推薦なんだから」
「は?」
「知らなかったの? アンタのこと推薦したのはリーヴェル国王陛下よ」
「調査班からだっつってただろ。嘘つきやがって」
おおかたノルバ・スタークスという人物を皆に認知させようという魂胆なのだろうが、皆が憧れているのは勇者ノルバであって、今のノルバではない。
穏やかに過ごさせてほしいものだとノルバは息を洩らした。
そのまま人の往来を眺めていると2人の女性が寄ってくる。
「本日はよろしくお願いします」
「よろしく頼む」
その2人とはエルノとシャナだった。
ノルバも挨拶を返すと、一つの疑問をぶつける。
「シャナはともかくエルノも参加するなんて王国勤めは大変だな」
「はい。ダンジョン内部の調査もワタクシ達王立研究所の勤めですから」
国の為、民の為、危険と承知でダンジョンに行く。
自分の為に集まっている冒険者と王国兵で顔付きが違うのも納得だ。
そうこうしていると突入準備が整ったのか召集が掛かる。
「よし行くか」
ノルバ達が移動しようとすると、何故かアーリシアは踵を返し、反対方向へと歩き始めた。
「アルどこ行くんだよ」
思わずノルバは呼び止めるが、予想だにしない返事が返ってくる。
「私行かないわよ?」
さも当然だと言わんばかりの発言にノルバは思わず「ハァ?」と大きな声が出た。
「攻略品を受け取る手続きをしに来ただけだもの。ま、とりあえずお願いね」
しかしアーリシアにはどこ吹く風。軽く手を挙げて去っていった。
「んだよアイツ」
愚痴を溢しつつも、そんな奴だったと気を取り直してノルバは移動した。
※※※
参加者全員が集まると、今回の指揮を任されている王国兵がダンジョンについての説明を始める。
「我々は今回の目標はダンジョン攻略である。これまで行った4度の調査によりダンジョン内部の構造は把握出来た。まず第1階層だが……――」
話に合わせて他の王国兵が、事前に書き記した巨大な用紙を広げる。
ノルバが参加するまでに行われていた内部調査。その結果、今回のダンジョンは4つの階層で区切られていることが判明した。
ダンジョンでは一瞬の気のゆるみが死に繋がる。ノルバ達は真剣に説明を聞いていく。
「――……以上がダンジョンの構造である。次に攻略メンバーについてだが、これはこちらで決めさせてもらった。勿論、固定のパーティーもあることは把握している。そちらは考慮した上での決定がしてある」
パーティーが読み上げられていく。
冒険者のみや王国兵だけのパーティーが多い中、後半になると混ざったパーティーが発表されていく。
「―――……以上で一度解散とする。ダンジョン突入は10分後。各自準備を怠らぬように。解散!」
話が終わると各々が発表されたパーティーに集まっていく。
ノルバもまた例に漏れず、指示されたメンバーの元へ来ていた。
「まさかお前らと手を組むとはな」
「よろしくお願いしますね」
「共に頑張ろう」
エルノにシャナ。実力は未知数だが、短い付き合いでも猛者だと把握している。頼もしい限りだ。
そして後1人。ノルバを睨み付け、明らかな敵意を放っているメンバーにも声を掛ける。
「よろしくな。リッカ・トンチンカン」
「リッカ・アルトカントだ! わざとだろ、キサマ!」
王宮で戦った以来。既に傷は癒えた様子で、元気はつらつといったところだ。
しかし、最後の印象が最悪だったこともあり、ノルバへの敵意を隠そうともしていない。
「悪かったって。謝るけどよ、あれはお前も悪いんだぜ?」
「黙れ。私はキサマを認めはしない。キサマが勇――」
勇者。リッカがそう口にしかけると、ノルバは神速の勢いでリッカの口を塞ぎ、離れた位置へと連れていった。
そして焦った様子で、小声で警告と言う名のお願いをする。
「いいか。ここでオレが勇者だったってことは言うんじゃねえ。オレは面倒は嫌いだ。いいか、余計なこと言うんじゃねぇぞ」
「私はキサマのように腐った性格はしていない」
「はいはいどうも」
いちいち毒を吐かないと返事が出来ないのかと思いつつも、了承してくれたこともあって、ノルバはそれ以上は何も言わなかった。
そして懐かしいとも言えない再開を楽しみつつも、遂にノルバ達がダンジョンに挑む時間がやってくる。
「さてと、どんな感じだろうな」
「説明を聞いていなかったのか」
「そういうことを言ってんじゃねぇよ」
リッカの反応に嫌気混じりにノルバは返す。
ノルバ達は第2陣。第1陣の突入から間を置いての突入となる。
これは全滅を防ぐ為の手段であり、ダンジョン攻略では度々行われる突入方法だ。
「では第2陣突入せよ!」
初めは気乗りしなかったものの、いざ挑むとなると高鳴るものがある。
ノルバの冒険者としてのダンジョン攻略が今始まった。




