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第14話 元勇者のおっさんは旧友と出会うそうです

 数日後、ノルバは屋敷裏の庭にてフューと共にいた。


「よし、フューいくぞ! そぉれ行ってこい!」


 投げられたフリスビー目掛けてフューが走り出す。

 素足で緑を踏みしめ、颯爽と駆けていく。本来あるべき少女の姿。

 ぐんぐんと距離を延ばしていくフリスビーは、加えて高さも重ねていく。だがフューは獣人の屈強な筋力で跳び跳ねると、いとも容易くキャッチした。


「のるばもういっかい!」


 戻ってきたフューの満面の笑顔に、ノルバはわしゃわしゃと頭を撫でる。


「凄いな!」


 撫でられると嬉しかったのか、フューはブンブンと勢いよく尻尾を振る。

 そんな様子を見ると心が暖まっていく。

 しかし、そうなるまでの数日間は目まぐるしいものだった。

 風呂を嫌がり暴れ、服を着るのを嫌がり暴れ、それを毎日繰り返した。

 今も初日ほどではないが、逃げたり威嚇してきたりと大変だ。だがそんな日常もノルバにとっては新鮮で心地好いものだった。

 それに何より、フューが年相応にはしゃいでいる。それだけで満たされるものがあった。

 いつから奴隷に堕ちたのかは分からない。だが、奴隷生活の中で自我を失う者が多い中、フューは失うことなくなく、今こうして生活出来ている。

 それがどれほど難しく、貴重であるかをノルバは嫌と言うほどに知っている。

 だから懸念していたのだが、杞憂に終わった。勿論、全くもって大丈夫という訳ではないが。

 その証拠にフューは今も姉の首輪を持ち続けている。何があっても手放さない。いずれ手放さないといけない日が来るだろう。そうなれば以前の様に取り乱すかもしれない。

 だがそれはまだ先の話だ。それよりも今は培われてこなかった経験を積ませる。それが今、ノルバがフューにやれることだと思っている。

 この遊びもそうだ。


「さぁ、行ってこい!」


 ノルバはフリスビーを先程よりも強く投げた。少女の過去から延びる手が、その背に届かない様に。


「ノルバ様」


 不意に背後から声が掛かった。

 声の主はレイだ。


「王立研究所の方がノルバ様に御用があるとお見えになっています」

「分かった、すぐに行く。おーいフュー! 帰ってこーい!」


 ノルバはフューを呼び戻すと、ポンッとフューの頭に手を置く。


「ちょっと今からやらないといけないことが出来てな。一緒に来てくれないか?」


 ノルバのお願いに、フューはクエスチョンマークを浮かべながらも「わかった!」と快く承諾をする。

 フューの手を引き、ノルバが玄関前に移動すると、そこにはエルノが待っていた。


「わざわざすまないな。今日はよろしく頼む」

「いえいえ。こちらこそお待たせしてしまい申し訳ありません」


 挨拶を交わすとエルノはフューの元へ行き、目線を合わせた。


「こんにちは。前に会ってるんだけど覚えてるかな? 今日はフューちゃんの首に着いているやつを取りに来たんだ。嫌かもしれないけど協力してくれるかな?」


 フューは小首を傾げて理解出来ていない様子だが、取り敢えずといった様子で頷く。

 ノルバはフューを買い取ったあの日、エルノに協力を仰いでいた。

 その内容とはフューに着けられた奴隷の首輪の呪いを解くこと。

 首輪の呪いがある限り、フューに真の自由は訪れない。しかしノルバには解呪する術がなかった。故に無理を承知で頼んでいたのだ。

 そしてそんな願いをエルノは迷うことなく了承してくれた。

 ただし解呪するのはエルノではない。そもそも奴隷の首輪の解呪は前例のない取り組みだ。王国一の解呪師に依頼をする形となり、今日まで待つことになっていたのだ。


「それでは解呪師を呼んできます。安心して下さい。解呪師はワタクシに魔法を教えて下さった師匠ですので。腕は保証しますよ」


 エルノは停められているキャビンに、その師匠とやらを呼びに行った。

 実際にその目で見た訳ではないが、エルノの実力は相当な筈だ。その師匠となれば尚のことだろう。

 一体どんな化物が出てくるのかと、ノルバは期待と興奮を胸に固唾を呑む。

 しかしそんなノルバの感情は、予想だにしない方向で裏切られることとなる。


「お師匠、お願いします」

「やっと私の出番ね。待ちくたびれちゃったわ」


 聞き覚えのある声だった。

 それは長く苦楽を共にし、片時も離れることのなかった、聞き飽きたを通り越してノルバの人生に組み込まれている声。


「嘘だろ……」


 思わず言葉が漏れた。

 もう二度と会うことはないと思っていた。会えないと思っていた。

 心の何処かで割り切り、諦めていた戦友が今、目の前に現れた。


「アル!」

「久し振りねノルバ。すっかりおじさんになって」


 アーリシア・フレグラット。愛称はアル。

 かつて共に魔王討伐を成し遂げた魔法使いが、どういう訳かノルバの目の前にいた。


「どういうことだよ。何でお前がここにいるんだ」

「何でって、そりゃあねぇ。私が王国一の解呪師だからに決まってるじゃない」

「おいおい冗談だろ」


 開いた口が塞がらないとはこんな状況を言うのだろう。

 まさかこんな形で再会するなんて。


「……てか本当にアルだよな」

「何よ。久し振りの再会だってのに失礼ね」


 黒の尖り帽子に、同じく黒のローブ。まさにステレオタイプの魔法使いの格好。

 それは昔から見慣れているから趣味嗜好が変わっていないのだろうと理解は出来た。

 しかし、それに加えて変わっていないものがもう一つあった。

 それがノルバに疑問を抱かせた。

 それは容姿だ。アーリシアは魔王を討伐した16年前から何一つとして変わっていない。

 ノルバと同じ35歳の筈だが、その容姿は十代そのまま。白いもち肌に十代のまだまだ柔軟性のある身体を兼ね備えていた。

 まるで自分だけが時の流れが異なっているのではと錯覚する光景に、ノルバは目の前の戦友が本物なのか疑わずにはいられなかった。


「女は美を追求するもの。その中で見つけたのよ。若さを維持する秘訣をね」

「はっ……。化けもんが」


 罵倒ではない。皮肉と尊敬を込めた精一杯の誉め言葉だ。

 アーリシアのそれは若さを維持するなんてレベルじゃない。まさに若返りの領域。

 おそらくは魔法の一種だろう。そんな神域に踏み込む様な発見を軽々とした調子で口にするアーリシアに、ノルバはやはり本物だと確信をした。

 どんな困難も苦とせず乗り越えては新たな茨道に素足で踏み込んでいく。アーリシア・フレグラットその人だと。


「思い出話は後にして、早く終わらせましょ。この子を解呪すればいいのね」

「あぁそうだ。頼む」


 アーリシアがフューの首輪に手を延ばすと、フューの体が強張る。

 野生の勘というやつだろう。

 アーリシアの持つ強大な力を察知したのだ。それがフューの手を通じてノルバにも伝わってくる。

 そんな様子にノルバは優しく声を掛ける。


「大丈夫だ。この人は危ない人じゃない。フューを助けに来てくれたんだ」

「そうよ。安心しなさい。私がその首輪から救ってあげる」

「お前もうちょい言い方ってもんをだな」

「始めるから黙って」

「はい」


 視線を向けることもなく発せられた冷たい言葉で、ノルバの脳裏にアーリシアのかつての振る舞いが想起され、口を紡ぐ。

 アーリシアの手が首輪に触れる。

 その目は鋭く、過集中している。余計な口を開けば八つ裂きにすると警告している。

 フューも理解しているのか、ノルバの手をぎゅっと握り、目を瞑って耐えていた。

 それは一瞬だった筈だが、アーリシアの放つ空気による緊張で、その場にいる全員にはあまりにも長い時間に感じられた。

 幾度となく見た困難に立ち向かう際のアーリシアの姿。それが目の前で再現されていた。

 それが意味するのは解呪の難易度の高さ。

 一秒か一分か、はたまたそれ以上か。アーリシアの「いいわよ」という言葉に詰まっていた全員の息がどっと吐き出される。


「終わったのか?」

「まだよ。首輪の魔導回路の解析が済んだだけ。今から解呪を始めるわ」

「時間掛かるか?」

「1分もあれば終わるわよ。失敗なんてしないから安心して見てなさい」

「心配なんてしてねぇよ。頼んだぞ」


 フューとアーリシアを残すと、ノルバ達は離れた位置から2人を見守る。

 解呪には解呪師と呼ばれる呪いに卓越した人物がいれば、あとは何もいらない。

 しかし解呪は必ずしも成功する訳ではない。契約の腕輪の様に呪いが暴走することだってある。

 そうなれば被呪者と解呪師両方が命を落とす場合もある。そんな命の保証がない仕事。それが解呪師だ。

 だがノルバもエルノも心配はしていなかった。2人共アーリシアの実力を知っている。疑う方がおかしいレベルだ。そんな信頼がアーリシアにはある。

 しかしだからと言って安心して見られる程、二人に余裕がある訳でもなかった。

 固唾を呑んで見守る中、遂に解呪が始まった。

 首輪にかざされた手が光を帯び始めると、呼応して首輪も光始める。

 白から赤、黒へと光は段階的に移り変わっていく。

 そして黒い光が放たれ始めると同時に、フューの全身に黒い渦の紋様が浮かび上がり始めた。

 素人目にもそれが呪いであると分かる。

 フューの顔が苦悶の表情に変わる。

 小さな体に無理やり押し込まれた呪いは、まるで寄生虫が宿主から剥がされない為に足掻くかの様に蠢いている。

 痛々しい光景だ。だがノルバはかける言葉も、差し出す手も持ち合わせていない。今は見守ることしか出来ない。


「頑張れ、フュー……」


 ノルバは苦痛に耐えるフューを祈る様に見続ける。


「ァァ……ッ」


 呪いが剥がれ始めた。

 シールを剥がすかの様に浮き出た呪いが取れ始めると、一気に体外に溢れ出す。

 何処に入っていたのか。全身からおびただしい量の呪いが空へと走った。

 あまりにもおぞましくおどろおどろしい光景は根源的な恐怖さえも刺激する。

 しかしその場にいる者は誰一人として目を背けない。

 目を背けることはフューの苦しみから逃げることと同義。子供が耐えているにも関わらず大人が逃げていい理由などない。

 一片残らず溢れた呪いは空に追いやられると、何とかしてフューの元へと戻ろうとする。

 しかしそんなことはアーリシアが許さない。

 結界の中に封じ込めると、その中にまた別の光が発生し、つぶてとなって呪いを穿ち始めた。

 逃げ場のない檻の中で、それでも生きようともがく姿は、まるで助けを求め逃げ惑う人々の様だ。だが無慈悲にもその肉体は抉られていき、そして遂には掌サイズまで小さくなる。

 すがる様な懇願する様な、そんな姿が見えた気がした。

 しかしその訴えを聞く者はいない。

 無情にも最後の一片も消えていく。


「終わったわよ」


 終了の合図を聞くとノルバは一目散に力なくへたり込むフューの元へ走り、肩を掴んだ。


「大丈夫か⁉」


 疲労困憊なのだろう。フューは項垂れる様に頷き返した。


「よく頑張ったな」


 抱き締めるノルバに、疲労の色を一切見せないアーリシアが口を挟む。


「まだ終わってないわ。首輪を外さないと解呪が成功してるかは分からないでしょ」

「……そう、だったな。フュー、首輪を外すぞ」


 ノルバは首輪に手を掛ける。

 疑っている訳ではない。絶大な信頼はある。

 しかしそれでもノルバは内心穏やかではなかった。


「いくぞ」


 鼓動が、呼吸が速まる。乾く口で唾を飲みながら慎重に首輪を外していく。

 果たしてその結果は――


「良かったわね」


 安堵の息が漏れ出た。

 もうこれでフューは奴隷の呪いに怯える必要はなくなった。


「良かったなフュー! 解呪成功だ!」


 喜ぶノルバ。しかしフューは疲れきっている為、無反応に近かった。

 それどころかノルバの腕の中で力尽きて、意識を失ってしまう。


「フュー!」

「落ち着きなさい。体力を使い切って眠っただけよ」

「……分かってる」


 そう。分かっている。

 自身が解呪された経験だってあるのだ。解呪の大変さは理解している。

 それでもノルバはアーリシアの様に、常に冷静でいられる人間ではない。

 落ち着きを取り戻すとノルバはフューを胸に抱き、立ち上がった。


「アル。ありがとな。お前のお陰でフューを助けられた」

「そういうのいいから早くその子ベッドで寝かせてあげなさい」

「あぁそうだな」


 ノルバはフューを屋敷内へと連れていくと、そっとベッドに寝かせた。

 苦悶の表情はなく、穏やかな寝息をたてて眠っている。

 そんなフューの頭を軽く撫でると、ノルバはその場を後にした。


※※※


 外に戻るとアーリシアと話していたエルノが、こちらに気付き話し掛けてくる。


「フューちゃんは大丈夫ですか?」

「あぁ、心配ない。ぐっすり眠ってるよ」

「そうですか。良かった」


 その情報にエルノは胸を撫で下ろした。続けて「あの……」と質問をする。


「ノルバさんとお師匠はお知り合いだったのですね」

「そうだ……――」

「そうなのよ~。私もびっくりしたわ~」


 言葉を遮られたノルバが不満気な表情を見せるが、触れずにエルノは質問を続ける。


「ちなみにどういったご関係なのですか?」

「パーティー……――」

「元カレよ♪」


 ボッとエルノの顔が赤く染まった。


「おい」

「何よ。本当のことじゃない。それとも何よ。私と付き合えてたことが黒歴史だとでも言いたいのかしら?」

「あぁそうだよ。いいかエルノ。アルの言葉を真に受けるなよ。コイツは恋愛なんてする奴じゃねぇ。モルモットが欲しいだけだ」


 忠告を受けるが、耳の先まで真っ赤になったエルノの頭にはノルバの言葉など一切入っていない。

 両頬を押さえ、父と母の馴れ初めを聞いた少女の如く、行き場のない感情に対して困惑している。

 そんな状態にノルバは「えぇ……」とアーリシアを見やった。

アーリシアもノルバを見ると、やれやれといった様子で両手を軽く上げる。


「魔法だけじゃなくてそっち方面の教育もしておくべきだったわね」

「なにする気だ?」

「大丈夫。元に戻すだけよ」


 アーリシアが手元に杖を召喚し「はい、ショックボルト」と呟くと、電撃がエルノの全身を駆け巡った。

 荒療治だ。ノルバはかつての自分への仕打ちが思い出され背筋がゾッとする。


「色恋の話も出来ない様じゃこれから先やってけないわよ」

「はい! 申し訳ありませんでした、お師匠!」


 痛がる様子すら見せずに背筋を伸ばして立つ姿から、相当なしごきを受けているのは想像に容易い。

 アーリシアのスパルタを受けているのは気の毒だが、かつての仲間が弟子を取り、自らの人生を歩んでいるという様子にノルバは嬉しさを感じていた。


「そうだノルバ」


 アーリシアは突然振り向くと思い出した様に要求を突き付ける。


「アナタ、奴隷の首輪もう一つ持ってるでしょ。それ渡しなさい」

「無理だって。あれはフューの家族の首輪なんだ。フューが片時も放さずに持ってる」

「解呪してないんだから何か起きたら大変でしょ。持ってきなさい」


 有無を言わさない正論だ。

 渡すべきだ。しかしノルバは素直に従えなかった。


「形見なんだよ。分かるだろ? 危険かもしれないが持たせてやっておきたい」


 そんなノルバの訴えに、しかしアーリシアは冷たく突き放す。


「駄目よ。いたずらに危険な状況を作ることは許さない。アナタのその我儘で、ここにいる人が不幸になっても良いって言うのなら止めはしないけど」


 言い返せない。

 ノルバも分かっていた。アーリシアが正論で、自分の発言がエゴで我儘なだけだと。

 だがそれでも、ノルバには唯一残った繋がりを引き離すという選択肢を選ぶ決断が出来なかった。

 このままでは平行線。いや、負けるだろう。

 それならば妥協案を出すしかない。


「だったら」


 とノルバは一か八かの提案をする。


「解呪したら返してくれなか。フューには残してやりたいんだ。お前なら分かるだろ。繋がりを断ち切られることの辛さが」


 情に訴えるなんてみっともない。

 だがそんな醜態を見て、アーリシアはクスリと笑った。


「変わらないわね、アナタは。いいわよ。後でちゃんと返してあげる。けど一旦持ち帰らせて。少しだけ検査させてもらうわ」

「分かった。助かる」


 そうしてノルバはフューの元へ行くと、大事に懐に入れられている首輪を取り出した。


「少しだけ預からせてくれ」


 聞こえている筈もない。

 しかししっかりと言葉を伝え、後にしようとすると、背中に「のるば?」とか細い声が触れた。

 振り向くとフューが体を起こし、眠気を堪えた目でこちらを見ていた。


「起こしちゃったか。ごめんな」

「ううん。のるば、それあげる。フュー、なくてもだいじょうぶだよ」

「聞いてたのか」


 意識を取り戻していたのか。それとも夢の中で聞いていたのか。

 何より獣人の聴覚の高さは相当なものだ。

 決して近くない距離に加えて、壁に隔たれていても内容を把握出来るのだから。

 驚きもあったが、今重要なのはそこではない。

 ノルバはフューの元へ戻り、頭を撫でた。


「ありがとうな。フューが預けてくれたって言っておく」

「うん」

「もう少し休んでろ。まだ疲れてるだろ?」


 ノルバが体を横にさせて布団を掛けると、フューは瞬く間に眠りについてしまう。

 相当な疲労なのだ。頑張って起きてくれたフューにノルバは感謝を抱きながらアーリシアの元へ戻った。


※※※


「ほらよ。フューが持っていっていいってよ」

「起きてたのね、あの子」

「また寝ちまったけどな」

「そう……」


 受け取った首輪をローブの内ポケットに入れながら、アーリシアは「ねぇノルバ」と語り掛ける。


「アナタ、ダンジョン攻略に参加しなさい」

「ダンジョンだ?」


 唐突な要求にノルバは思わず気の抜けた声が出た。


「この前キマイラを倒したんでしょ? 調べたら、ダンジョンが出現したせいで生き場を追いやられて、あんな場所に出たらしいのよ」

「そうだったのか」

「攻略班がアナタがキマイラを倒したって聞いて、その実力を見込んでダンジョン攻略に参加させたいって言ってるのよ」


 正直言うと行きたくはない。


「嫌だよ。何でオレが行かないといけねぇんだ」


 断るノルバにアーリシアはあくどい笑みを浮かべる。


「あら、解呪費用払ってないのによく強気に出れるわね」

「今から払うっつーの」

「あら? 私は王国一の解呪師よ? アナタが持ってる額程度で払えないわよ?」


 払えない訳ないだろうと言いたかった。

 だがアーリシアの言いたいことがそういう意味ではないとノルバは分かっていた。

 これはダンジョン攻略参加の強制だ。

 断れば何をされるか分かったもんじゃない。

 過去の恐怖で思わず体が震える。


「分かったよ。行けばいいんだろ、行けば」

「あら、優しいのね」


 白々しい奴めと思いながらも、ノルバは言葉には出さずに続ける。


「で、いつ行くんだ?」

「3日後に迎えに来るから準備しておきなさい。分かったわね」

「へいへい」


 そうしてアーリシア達は去っていった。

 一応の多額な報酬金を持たせて。


※※※


 帰りのキャビンの中、エルノは素朴な疑問を投げ掛ける。


「もう少しお話されていかなくて良かったのですか?」

「いいのよ。元気に過ごしてる姿が見れただけでも充分だから」

「そういうものなのですか」


 エルノは理解に苦しむといった表情を見せるが、アーリシアは「そういうものよ」とそれ以上は言わなかった。

 しかし目は口ほどにものを言う。外を眺めるその目は朗らかだったが、どこか隠しきれない寂しさを映していた。

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