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第12話 元勇者のおっさんは奴隷に居場所を与えるそうです

 そこに着いたのは日も完全に沈んだ頃だった。


「これはすごいな……」


 キャビンを降りたシャナは辺りを見渡し、驚愕する。

 それに続き、エルノも驚きの声を漏らす。


「ここら一帯が所有地なのですか……?」


 エルノ達がいたのは、ノルバの土地に入る為の門の前だった。

 ポツポツと門に取り付けられている灯りは、どこまでも続いており、果てが霞んでいる。

 門番とやり取りをしていたノルバは、エルノの独り言なのか質問なのか分からない呟きを聞くと、顔を少し振り向かせて答えた。


「そうだ。ここからまだ少し行かないといけなくてな。頼めるか?」

「は、はい。勿論です」


 一行は門を越え、敷地内を進んでいく。

 目の前に広がるのは闇一色。家なんて見当たらない。果てしない広さにエルノとシャナが言葉を失う他ない一方で、フューは闇夜をじっと見ていた。


「凄いだろ」


 とは言ったもののノルバには何も見えやしない。

 しかし獣人は狩りに生きる種族。当然夜目も利く。月明かりだけでも広大な敷地がハッキリと見えているのだろう。


「ここなら怖いのは何もいない。自由に遊べるんだ」

「じゆう?」

「そうだ。やりたいことを好きなだけ出来るんだ」


 フューにとっては理解が難しいのか、それとも景色に夢中なのか返事はない。

 小さな窓から見える果てのない景色は、かつて自分の心を蝕み続けていた。

 しかしこれからは違う。

 ここはもう監獄ではない。自由を得る為の楽園となる。そうさせる。

 そんな誰も知らない男の想いを乗せてキャビンは進んでいく。

 そして一行がノルバ宅に到着すると、またもやエルノとシャナは言葉を失う。


「助かった。ここまで送ってくれたことに礼を言う」


 ノルバは握手を求め、手を差し出した。


「いえ。当たり前のことをしたまでですので」


 握手を交わしたエルノは「それよりも……」と困惑した様子で、探り探りに言葉を出す。


「ここはノルバさんの御自宅……なのですよね……? 立派な場所……ですね。支払った額といい……、どういった御経歴なのでしょうか」

「別に変なことはしてねぇよ。ただ昔魔王軍と戦って武勲を立てただけだ。そんなやつは知らねぇだけでゴロゴロいるさ」

「そうですか」


 納得したのかしてないのか微妙な様子だが、ノルバの調子から話す気もないと判断したのかエルノは潔く退いた。

 すると今度はシャナが思い出した様に口を開く。


「そういえばクエスト報酬を取りに行かないといけないぞ。キマイラも倒したんだ。特別報酬も出るだろう。ここを見る限り必要はなさそうだが、皆がアナタを待っているだろうからまた顔を見せに来てやってくれ」

「あぁ、分かった」


 返事をするとノルバは再度エルノを見やった。

 その意図を汲んだエルノは、ノルバが言葉を発するよりも先に返事をする。


「後日伺いに来ますので、それまでは御自由にお過ごし下さい」

「頼んだぞ」

「はい。それじゃあシャナ、行きましょうか」

「ノルバ殿、また会えることを楽しみにしている」

「あぁ」


 エルノとシャナはフューにも挨拶を済ますと去っていった。

 遠くに消えていく姿を見送ると、ノルバは自身の服を掴むフューの手をとる。


「今日からここがフューの家だ。いろんな人がいてな、今から皆にフューの紹介をするからな」

「うん」


 返事はするがここに心あらずといった様子だ。

 未だに状況が呑み込めていないのかもしれない。


「今日は遅いから遊ぶのは明日からだな」


 ノルバが手を引くとフューは素直についてきた。

 そして帰宅すると――


「お帰りなさいませ、ノルバ様!」


 元気有り余るレイの声が耳に響いた。

 しかしそんな元気な声もすぐに疑問を抱いた落ち着いた声に変わる。


「あの……その子は……?」


 視線はノルバの隣に立つ、フードを被り素性の分からない幼な子に向けられている。


「今から説明をしたい。屋敷にいる人達全員を集めてくれないか?」

「は、はい!」


 駆けていくレイの後ろ姿を見たまま、フューはノルバの手を軽く引っ張る。


「ここがのるばのおうち?」

「そうだ。オレだけじゃない。フューも今日からここに住むんだ」

「ずっと?」


 一瞬言葉に詰まった。

 その一言にどれほどの意味が込められているのか、ノルバには分からなかったから。

 言葉を間違えれば、それはフューにとって鞭となる。

 時間にして一瞬、ノルバは言の葉を紡いだ。


「いたいだけいればいいさ。それはフューの自由だ」


 その言葉にフューの顔が綻んだ気がした。

 見間違えかもしれない。はたまた願望を現実と捉えただけかもしれない。


「へへ」


 しかし無邪気に見上げられたその笑顔にノルバの迷いは吹き飛ばされる。

 これ以上フューに辛い思いはさせない。

 その笑顔がノルバの決意を更に強固にした。

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