第11話 元勇者のおっさんは奴隷を引き取るようです
大きな袋を背負い、ノルバは走った。猶予は捨てるほどに余っている。しかしそれは足を止める理由にはならない。
走って走って走り続け、ノルバは突如足を止めた。
「何だテメェら」
後少しで辿り着くというのに。怒りを抱きつつノルバは剣を抜く。
「痛い目にあいたくなきゃ、その金置いていってもらおうか」
待ち伏せていたように現れた10人の盗賊は鉈を構え、ノルバを囲む。
あまりにも絶妙なタイミングだ。身なりが良いとも思えないノルバをわざわざ三人がかりで、それも待ち伏せて襲撃。加えて、雑に詰め込んだだけで、何が入っているか分からない袋に金が入っていると理解している。
それだけではない。超スピードのノルバに怯えるでも避けるでもなく立ち塞がる。リスク度外視のその度胸。
つまりそれが意味する所は。
「そこまでしてシャナが欲しいか」
「かかれぇ! 野郎ども!」
盗賊が一斉に襲い掛かる。しかし相手を甘く見すぎだった。目の前にいるのは元勇者。盗賊ごときが相手になる筈もない。
剣が揺らいだ次の瞬間には盗賊達は地に倒れていた。そして一生何が起きたか知ることもない。
「邪魔すんじゃねぇよ」
一瞥もせず、ノルバは再度足を進めた。
※※※
ノルバがライオネットアイ商会に戻るとそこにフュー達はいなかった。
中にいるのだろうと呼び鈴を鳴らすとシーが出てくる。
「お早い到着で」
「お陰様でな」
白を切るシーにノルバは金の入った袋を突きつける。
「確認しろ。足りてる筈だ」
「分かりました。確認して来ますので中でお待ちください。御友人がお待ちです」
促され中に入ると、きつい獣臭が鼻を刺す。思わず顔を歪めるが、それは臭いだけが原因ではなかった。
立つことすら許されぬ檻の中に閉じ込められた異種族の奴隷達が、値札と共に飾られていた。
人も異種族も変わりはない。それなのに家畜――いや、それ以下の扱いだ。
助けてやりたい。ノルバならそれが出来る。だがノルバは奴隷達を見ることなく進んだ。
ここで奴隷達を買い占めれば次の奴隷が生まれる。
そしてそれはフューを買うことでも同じだが――
「いい子にしてたか?」
偽善だろうと救うと決めた。ここで手を放したりはしない。
シャナの隣の椅子に座るフューは無表情でコクりと頷く。
奥歯を噛み締めつつも、ノルバは笑顔を見せてフューの頭を撫でると抱きかかえた。
「嫌な場所から早く出ような」
連れ出るノルバの背中にシャナは後につきながら呟く。
「アナタは本当に何者なんだ」
それは問いであったがノルバには聞こえない。
シャナも直接聞くことはなく、店を出るのだった。
※※※
それからほどなくしてシーが代金の確認を終えて外に出てきた。
「確かに一千万コイン頂きました。それでは最後に契約書の方を」
「契約書?」
渡された用紙を確認すると、そこには譲渡における所有者の変更についての文言が記載されていた。
どんな理由であれ、奴隷を購入すれば所有権を譲渡する形になる。ここにおける所有権とは奴隷及び奴隷の首輪についてだ。
これにより所有者は奴隷をいかおうにも扱えるようになり、首輪を通じて位置を把握し、好きに呪いを発動させることが出来るようになる。
必要な手続きである以上、ノルバも素直に従う。
「ありがとうございます。これにてその奴隷はアナタ様の物となりました」
用紙を受け取ったシーは営業スマイルを見せるが、対照的にノルバは鋭い目をシーに向ける。
「金輪際フューには関わるな」
「勿論でございます。あれほどの金額を頂いたのです。後のことはお任せください。またのご利用お待ちしております」
「もう来ねぇよ」
吐き捨ててノルバは鉄柵の向こうへと歩いて行く。
そんな態度を受けつつも、シーは一行が敷地の外へ出るまで頭を下げていた。
敷地の外へ出るとノルバはシャナに向いた。
「そういやお前の連れはどうした」
「エルノなら調べものがあると街に出ていった」
と、噂をすればなんとやら。ちょうどエルノが姿を現す。
「あらノルバさん、もう帰って来てたのですね」
「あぁ、待たせたな。そっちの用は終わったのか?」
「はい。少し調べものをしていました。他に御用があるのでしたらお付き合いしますよ?」
「ないな。それよりも早く街から出たい。フューはここにいい思い出はないだろう」
フューはノルバにしがみついて顔を埋めている。
こんな所からは一刻も早く出てあげなければならない。
「ではキャビンに向かいましょう。お送りする場所はノルバさんの御自宅でよろしいですか?」
「そうだな。頼めるか」
「勿論です」
エルノは快く承諾した。
ノルバの屋敷はエルバニア王国の外の僻地にある。故に異種族を招き入れようと何ら問題はない。
まさかこんな形で、あの監獄が役に立つとも思わなかった。陥れる為の場所が誰かの居場所になる。考えもしなかった事態に、それでも今だけはフューを救えたことを含め、喜んでおこうとノルバは思うのだった。




