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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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8話 「先輩に私の可愛い寝顔を見せてあげようとうろろろろろろ」

「で、お前はいつ帰んの?」


 なんか当然のようにまた俺のベッドに寝っ転がってるけど。


「鍵できたら大家さんが電話くれるそうなのでそれまでですー」


「それはもちろん今日中なんだろうな?」


「いやーもしかしたら明日までかかるかもですね。その場合は先輩、泊めて下さいよ」


 などと図々しく言う。


「バカ言え。二夕見に殺されるわ。お前ならホームレスともすぐ打ち解けられるさ」


「公園で寝ろと⁉こんなにかわいい私がそんなところで寝たらどんな目にあうかなんて目に見えてるじゃないですか!」


 飛び起きると抗議してくる。


「いやでも流石にまずいよなあ泊めるのは」


「あ、先輩はトイレで寝るのどうですか?先輩は大好きなトイレで寝れて、ベッドは私が使うので私の匂いも嗅げて一石二鳥じゃないですか!」


 「私って天才!」などとぬかしている。


「じゃあな天ヶ崎。公園のベンチは冷えるだろうからブルーシートくらいは貸してやる」


 俺は天ヶ崎をそのまま玄関まで連れて行こうとする。


「ああ嘘です嘘!私床で寝ますから追い出さないで!」


「はあ。分かったよ。変な事したら大声出すからな」


「あれおかしいですねそれ私のセリフなんですけど」


「ベッドは譲ってやるよ。俺は布団敷いて寝るから」


 ちょっと前まで使っていた布団が一式押し入れにある。


「ていうかーこのベッドちょっと硬くないですかー?あと枕もなんか臭いし。ちゃんと洗いました?女の子が寝るのにこれってどうなんですかー?」


 早速ベッドに横になりながらクレームを垂れてくる。


「〝あ〝あ?」


「もう冗談じゃないですか~。そんな怖い顔しないで下さいよ。先輩そんなんじゃモテませんよ?」


「お前みたいなやつは優しくするとつけあがるからこれくらいでいいんだよ」


「でもなんだかんだ言っても泊めてくれてしかもベッドまで譲ってくれるなんて先輩は優しいですね。私の数いるお婿さん候補の中のなしよりのありの方に加えときますね」


「それはつまりなしなんじゃねえか。どうでもいいけど」


 てかそいつら絶対ろくな男いねえだろ。


「なしよりのパシリから昇格ですね!」


「おい。俺はお前を泊めてやるまではないうえにパシリだったのか?ていうかそれは喧嘩売ってるっていうことでいいんだよな?」


 こいつのお嫁さん候補なんか靴の裏についたガムの味くらい興味ないが、感謝の気持ちどころかパシリが泊めたくらいにしか思ってなさそうなのが気に食わん。


「おらやんのかパシリこらあ!かかってこいおらあ!焼きそばパン買ってこいよお!」


「こんのクソガキが。よし分かったお前今日の夕飯の総菜買ってこい。焼きそばパンでもいいぞ」


 このガキは分からせてやる必要があるな。


「何で俺が買いに行かなきゃいけないんだよお!てめが買ってこいよ!焼きそばパンをよお!」


「そうか、じゃあ俺は今日の夕飯買ってくるからお前は俺が帰ってくるまでに帰り支度しておけよ。夜の公園は冷えると思うから気をつけてな。じゃあな」


「焼きそばパン買ってきます!ダッシュで!飲み物何飲みますか自分奢ります先輩!」


 瞬時に変わり身すると身を低くしごまをすってくる。


「ったくお前はよお。ほんとに焼きそばパン買ってくんなよ。飲み物はお茶が冷蔵庫に冷やしてあるからいらん」


「ていうか私先輩のためにご飯作ってあげてもいいですよ?」


 などと目をパチパチさせて女の子アピールしてくる。


「お前はどうせ泥団子しか作れないだろうが」


「何言ってるんですか!きびだんごも作れます」


「桃太郎かお前は」


「あとホウ酸団子も作れますよ」


「ゴキブリか俺は!さっさと行け!」


「あいあいさー!」


 そう言って天ヶ崎は出かけて行った。



 テレビを見ながら待っていると三十分ほどして帰って来た。


「ただいまですー」


「おう。ありがと」


 天ヶ崎は袋をテーブルの上に置き、俺も冷蔵庫から麦茶を取り出すとテーブルの前に座った。


「幕の内弁当にしましたけどよかったですか?」


「いいよ。けっこう好きだよ」


「ごめんなさい友達でいましょう」


 頭を下げられた。


「なんで俺今振られた⁉」


「お前に言ったんじゃなくて弁当の話だよ」


「幕の内くんの気持ちを代弁しました」


「幕の内くんって何⁉なんで弁当に振られなくちゃいけないんだよ」


「あんまりしつこいとデンプシーロールするぞだそうです」


 などと言って体を左右に揺すり始める。


「某ボクシング漫画の主人公を出してくるな」


「先輩。からあげ残してますね。食べないんですか?」


 こいつ人の話聞いてるのか?聞いてたらこんなことしねえか。


「好きだから最後に残してんだよ。やらねえぞ」


「俺がもらってやんよ」


「ダメだやらん」


 なぜか決め顔で声を低くして渋い風に言ってくる。


「ひーとりーでもーいーくーよー♪」


「やかましいわ!エンジェルビーツの例のシーンみたいな雰囲気出して盗もうとすんな!」


 腹立たしい奴め。二人で夕飯を食べ終わったら外はすっかり暗くなっていた。


「私お風呂入りたいんですけど、いいですか?」


 風呂のことを考えていなかったな。


「いいけど服はどうするんだ?」


「先輩の服かしてくださいよ。下着は同じやつ着けますから」


「まあいいけど」


 なんか本来なら照れくさくて嫌だがこいつ相手だと一切なんとも思わん。


「それではお借りします。あ、覗いたらダメですよ?気持ちは分かりますがそれは――」


「いいからさっさと行け。風呂場にゲロ吐いたら殺す」


「はあい」


 天ヶ崎は脱衣所へ向かって行った。少ししてシャワーの音が聞こえる。不思議だ。年の近い女の子がすぐ近くでお風呂に入っているというのになぜこんなに心躍らないのだろう。


 二十分ほどで天ヶ崎は出てきた。


「いい湯でした~」


 俺の服の袖でズビビと鼻をかんでいる。この女。


「俺も入ってくる」


 風呂から上がると天ヶ崎はどこぞのおやじみたいにベッドで寝転がりながらテレビを見ていた。


 その後、学校にはもう慣れたかや、担任の先生がどうだ、池田はハゲだということなど学校の話や天ヶ崎の前のアパートの話をしていたら二十三時近くになっていた。


「明日も学校だしもう寝るか。電気消すぞ」


「はーい。おやすみなさい。そうだ。恋愛漫画で定番の布団間違えて入り込んでくるみたいなことしないでくださいよ。いいですかこれはフリじゃないですよ?絶対押すなよ!」


「黙って寝ろ。外に締め出すぞ」


 押すなって何だよ。


「ぐう」


「いや寝るの早すぎるだろ!ノーモーションで寝やがった。やっぱりこいつはただものじゃないな」


 すぐ隣に女の子が寝ているというのになぜか俺は少しも気にならずぐっすり眠れた。本当に不思議だ。久しぶりの布団のせいか、懐かしい夢を見た。



 次の日の朝、アラームの音で目が覚めた。


「んお?珍しいな。おーい起きろゆ―――」


 言いかけて、頭が覚めだす。


「そうだったな」


 すぐに昨日のことを思い出した。そういえば天ヶ崎を泊めたんだった。体を起こし隣のベッドを見るとカエルみたいな寝相で仰向けにひっくり返って寝ている女がいた。


「どんな寝相だよ」


「おーい天ヶ崎起きろ。遅刻するぞ」


「ぐうぐう」


「おい!起きろ!」


 肩を強く揺すってみる。


「ふがふがあ」


 まだ起きない。今度は足元に回り腰をかがめると足の裏をくすぐってみる。


「んがんがんがんが!」


 足をじたばたさせ顔面を何度も蹴られた。


「いてえ!こいつまじで」


 俺は天ヶ崎の鼻をつまみあげる。


「いだだだだだだだ。痛い!」


「おら!さっさと起きろ!」


 しかし天ヶ崎は時計を見ると、寝返りをうち布団の中にこもり始めた。


「んー、お母さん早いよー。まだ朝の五時じゃん」


「もう七時半だわ!てか誰がお母さんだ!」


「朝ご飯何ー?」


 眠そうに眼を擦りながら聞いてくる。


「一応納豆ご飯だが」


「やだやだやだやだ朝はベーコンエッグトーストにココアじゃないと学校行きたくない!」


 などと布団の中でジタバタしながら駄々をこね始める。


「わがまま言うな!お前にはそんなお洒落な朝ご飯は似合わねえんだよ。納豆ご飯が一番合ってる」


「うっせえクソババア早く作り直してこいよおら!三十分後にまた起こしに来い!」


「こんのクソガキが!朝ご飯出るだけでもありがたく思え!実家だと母親にそんな口利いてんのかてめえは!」


 俺は無理矢理天ヶ崎の布団をはぎ取ると無理矢理目をかっぴらく。


「先輩なに人の部屋に夜這いに来てるんですか!お巡りさん呼びますよ!」


 俺に焦点が合った天ヶ崎が逆ギレしてくる。


「てめえぶっ飛ばすぞ!お前が頼み込むから仕方なく俺の部屋に泊めてやったんだろうが!それに今はもう朝だよ!」


 しかし手で耳を塞いで聞かんふりしてくる。


「おいもうめんどくせえからそのまま外に放り投げてもいいか」


「私の安眠を妨害したら胃液出しますよ。私の胃液は強酸性ですよ。pHで言ったら7くらいありますよ!」


「胃液強酸性ってどんなバケモンだよ。グリンパーチかてめえは。ていうかお前のそれはたぶん中性だバカが!おら!」


 俺は天ヶ崎の足をひっつかむとそのまま引きずってベッドから降ろそうとする。


「いやああああ変態!痴漢!童貞に犯されるうううううう!」


 天ヶ崎は足をばたつかせながら叫ぶ。


「近所に誤解されるだろうが!あと誰が童貞だこら!も、もし違ったらどうするんだよ!」


「童貞は今世を猛省でもしてろヨ♪オーイエイ♪」


 「チェケラッ♪」と決めポーズしている。


「てめえそれは寝ぼけてんのか煽ってんのかどっちだおら!」


「ぐう」


 怒鳴りつけるが次の瞬間には寝ていた。


 やばい。こんなにむかつくやつは生まれて初めてかもしれない。


「犯す?おいカス、お前所詮童貞、到底無理♪うぃ♪」


 しかし今度は半目で上半身だけ起き上がるとそう言いまた気絶するように寝る。


 俺は無言で天ヶ崎の体を持ち上げるとそのまま玄関に向かい、このアホを放り投げるために体をひねる。


「いやああああああ!ダメ!それダメです!すいませんでしたあ!起きますう今起きます!許して先輩い!」


 そう言って天ヶ崎は俺に必死にしがみついてくる。


「ええい放せゲロ女!お前は二度と俺の部屋に入って来るな!」


「いやああああああ!ほんとに投げたら先輩におっぱい触られたって言いふらしますよ!昨日来てた女の先輩にも言います!」


 とんでもないことを言い出す天ヶ崎。


「冤罪だ!俺はお前のおっぱいなんざ触ってない」


「いいえさっき手が触れましたあ!それに先輩の言い分なんて誰も信じませんよ社会的に死にますよ?ほらいいんですか!手放して!」


「ちっ。もしベッドに戻ったら中国までぶっ飛ばすからな」


 ひねった体を元に戻す。


「チベッドに戻ったら中国までぶっ飛ばすとか意味分からないんですけど。先輩バカなんですか、チベットも中国の一部なんですあいたあ!ほんとに手放す人がいますか!私は訓練されてるから瞬時に受け身をとれましたが普通の女の子だったら大けがしてますよ!」


「あ、すまん。あまりにむかつくから無意識に放してたわ。バカのくせに小癪なボケかましやがって。てかお前何者なんだよ」


 なんで瞬時に受け身とれるんだよ。訓練って何だよ。


「私はチベット拳法師範代の娘の友達のいとこのお兄ちゃんの彼女のおばさんの友達の娘の隣の席の女の子と友達になりたかったです。ぐすん」


「いや何の話⁉そのボケえぐいからやめろ!全然他人なうえに最後悲しすぎるだろ」


 こいつに黒森紹介しといてよかったわまじで。


「でも学校から帰ってくると先輩が構ってくれるから今は楽しいんですよ。今日からりんごちゃんとも仲良くなりますし」


「俺はお前の相手に疲弊しまくってるよ」


「またまた~。先輩は素直じゃないなー」


「ははは」


 乾いた笑いしかでなかった。


「ていうか早く準備しないと遅刻するぞ」


「そうですね。まったく先輩は。ほら急いでください」


 俺が本気でこの女をどうしてやろうか考えていると天ヶ崎は台所に向かったため俺も朝食の準備をするため台所へ向かう。急いで朝食をとり支度をする。家を出ると今から歩いてギリギリくらいの時間になっていた。


「じゃあ先輩、もしかしたら今日もお世話になるかもですけどまた、放課後?ですかね?」


 学校に着き靴箱まで来ると天ヶ崎がそう言ってきた。


「次はもうねえよ。今朝のことでお前を我が家に進入禁止とすることが確定したからな。怨むんなら合鍵をなくした大家と自分を恨め」


「家に入れてくれなかったら、あんなことまでしといて私を捨てるの⁉って玄関の前で夜に泣き叫びますよ」


「このバカ女が!てめえあれだけ迷惑かけておきながらまだ俺を苦しめる気か!」


 河瀬先生め!段ボールに詰めて着払いで送りつけてやろうか!


「まあまあ、次は私のいつも起きてる方法で起きますから迷惑かけませんよ」


「お前そんな方法あるんならなんで今朝使わなかった⁉」


「先輩に私の可愛い寝顔を見せてあげたくいだだだだだだだ!アイアンクロウはノーですう!」


 まだ生意気なことを言おうとする天ヶ崎にアイアンクロウを食らわせる。


「お前まじふざけんなよ?俺の苦労を返せ!」


「あ、やばい気持ち悪くなってきたかもうろろろろろろろろろ」


「ぎゃあああああああああ」


 天ヶ崎にゲロをぶっかけられた俺は体操着に着替え、二度とあの女とは関わらないことを誓った。ちなみにそのあと聞いた話によると、あいつの大好きな魔法少女アニメのオープニングを流すとすぐに目を覚ますらしい。忌々しい女だ。


 

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