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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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71話 「トイレ清掃員コス」

 食べ終えた俺たちは、今度はデパートに行くため駅に向かって歩いていた。と思ったが。


「おいそこは駅への道じゃねえぞ」

「だってデパートまで歩いていくんだから当たり前じゃない」

「はあ?何時間かかるんだよ!電車で行くに決まってるだろ!」

「嫌よ。歩いていくわよ」

「こんな暑い中そこまで歩いて行ったら熱中症になるぞ!俺はまだしもお前このくらいでさっきから文句言ってるやつが何を言ってんだ」


 すると口を尖らせて何か言い返そうとするが、はあ。と諦めたように溜息をつく。


「分かったわよ。仕方ないわね」


 ということで駅の方へ向かう。なんだこいつは。


「あんたが気を使うなんて明日は槍でも降るのかしら」

「バカ言え。こういうのは大体一緒にいる男が悪いってなるんだよ。ただの自衛だ。それに実際お前が倒れる時は食いすぎぐらいだと思ってるしな」

「ふーん。照れちゃって」


 とニヤニヤ見てくる。


「おいお前口にうんこついてるぞ。そんなにお腹空いてたのか?まったく」

「チョコよチョコ!あんた終わってるわやっぱり!今のなし!死刑!」


 顔を真っ赤にして口元を拭くと、睨みつけてくる。


「あんた少しは女の子をリードしたり、お洒落なお店とかデートスポットとか詳しいところ見せるとかできないわけ?変な事ばっか言ってさ」


 と思いや今度はバカにしたように、呆れ顔でこちらを見てくる。


「おっと危ない!」


 俺はそのタイミングで俺たちの足元に落ちていたうんこという名のトラップから二夕見を守るために手で制して立ち止まらせた。


「危なかったな。危うく君の綺麗な靴に汚れがつくところだったぜ。君が無事でよかったよ」

「代わりにあんたの靴にべったりついてるけどね」


 どうやらかばった代わりに俺が踏んでしまったようだ。


「雨も降っていないのにこんなに柔らかくなっているところを見るにおそらくシニア犬のものと見た。素人は中型犬のものと思いがちだが俺は騙されない。白、黒、茶色の色の毛が混じっていることからビーグルだと推定される。よって大きめの小型犬だな」

「どんな詳しさ発揮してんのよ!そんなしょうもないのは期待してないから!ドン引きで帰られるから!踏みすぎてんこで犬の種類まで判定できるのなんなのよ!」

「あんたにそういうの期待した私がばかだったわ。せめて不快にさせないように黙ってなさい」


 しかし俺が言う通り黙っていると五分程で「なんかしゃべんなさいよ!あんた帰れって言われたらほんとに帰るわけ!」と理不尽にキレられた。






 しばらく歩いて駅に着いた俺たちは、電車に乗るとデパートのある駅に向かう。しかし、座席が埋まっていた俺たちは吊革につかまって立っていたのだが、車内はなかなか混んでいて、かなり窮屈だ。二夕見は知らない男が近くにいすぎるせいか顔が強張っていて緊張しているのが分かる。


 そんな中、電車が止まり、反対側の扉から次々と人が入って来た。さっきまである程度距離が空いていた若い高校生くらいの男三人ほどがぐっと二夕見に向かって押し寄せてきた。


 その瞬間俺は、先ほどまで少し開けていた二夕見との距離をぐっとつめ、三人の高校生くらいの男たちと二夕見との隙間に入り込むと、二夕見を扉に押し付けるように踏ん張って扉に手をつく。触れてはいないが、すぐ近くに二夕見の呼吸が感じられるほどの距離で、身長差があるとはいえ、縮こまっているため、驚いて目を見開いた二夕見の顔が近い。


「嫌だと思うが、着くまで我慢しろ。絶対触らないから」

「あ、あり、がと」


 なんで照れてるんだよ。まあ分かるけどしょうがないだろ。俺だって手汗すごくて踏ん張るのまじできついし。


「まあ、なんだ。俺のせいだしな。お前が電車に乗るの渋ってたのはこういうことだったんだな。悪かった」

「べ、別に謝んなくていいわよ。あんたは心配して電車に乗ろうって言ったんだし」


 と顔を逸らして答える二夕見。近すぎる距離のせいで、二夕見のくらくらするような甘くて優しい香りにいつもと違う変な感じがする。しかしそれも一瞬のことで、すぐに別の強烈な刺激に上書きされる。



「な、なあ二夕見」

「な、なに?」


 頬を赤く染め、上目遣いに見てくる。


「怒らないか?」

「う、うん?」

「俺、す、す、す」

「へっ⁉ま、待って!ええっ⁉」

「すげえ鼻ほじりたい。どうしよう」


 鼻をひくひくさせる。


「はああああああああああっ」


 すんごい長い溜息を吐かれる。


「あんたほんとにぶれないわね。いやそうじゃなかった方が困ったんだけど。ちなみにほじったら殺すから」

「俺動けないしお前代わりに―――」

「は?」

「いえ冗談です」


 というわけで電車が目的の駅に着くまで、別の刺激に襲われ、降りたらすぐにトイレに駆け込み鼻をほじったのだった。







 改札を抜けデパートに向かって歩く途中、何やら裸足で座って歓談している人たちを見かけた。よく見ると浅い水辺に足を浸らせているようだ。


「あれ何してんだ?」

「あれテレビで見たことあるわ。足水よ」

「なんだそれは。足湯なら知ってるが」

「なんか足を冷やすと体の深いところの体温が下がるらしいわ。昔の人たちはクーラーとか扇風機とかなかったころそうしてたらしいわ」


 と説明してくれる。


「へえ。そんなのあるんだ」

「私やりたい!行ってみましょうよ」

「まあいいけど」


 近づいてみると、石造りの横長のタイルの上に水が張っており、木製のベンチのような腰かける所があり、後ろは木々が茂っており木陰になっていた。虫の鳴き声が大きく聞こえ、この空間だけまるで自然の中のようで、静かに時が流れている気がした。


「なんかいい感じじゃない?」


 と楽しそうな二夕見。


「そうだな」


 靴と靴下を脱いで、腰かけて足を浸らせると、想像より冷たく、心地いい。


「冷たい!気持ちいいわ!」


 と笑顔を浮かべている。


「確かになんか涼しくなってきた気がするかも」

「いや早すぎるだろ。お前ほんとそういうとこ危なっかしいな。すぐ騙されるぞ」

「これは本当に涼しくなるわよ」


 とむっとした顔で返してくる。でも、たしかに、五、六分ほどすると徐々に体が冷えてきた気がする。


「なんかいい気持ね。汗も拭こうかしら」


 うっとりとした表情で、隣でウエットティッシュで腕や首、太ももなど拭き始める。なんかそういうの男が隣にいる時にやるのやめてもらっていいですかね。


「なんか変な視線感じるんですけど」


 としらーっとした目つきで見てくる。


「ばっか俺はさっきうんこ踏んだ靴を洗おうかどうか迷っててそれどころじゃねえから」

「ほんとに洗ったら許さないからね。ていうか忘れてたわ。それで電車乗ったの?」

「こういう時のために、応急処置として足の裏に貼る靴紙を持ち歩いている」

「まるですごく周りに気を配る模範的人間のような顔をして言うのはやめなさい」


 なんとか誤魔化せたようだ。俺は首をぶるぶる振って邪念を打ち払う。


「なんかまたプール入りたくなってきたわー。あんたあの後夏休み何して過ごしてたの?」

「さっきも言ったが大体補習とバイトとうんこだ」

「その二つとんこを並べるのはおかしいと思うのは私だけなの?どんだけ長いのよ」

「いや形は基本な―――」

「誰も聞いてないわよ!そっちの長いじゃないし!あんた少しは風情とか感じないわけ!」


 顔を怒らせて制される。


「なんか他に楽しいことしてないかって聞いてんのよ。なんか夏らしいことしてないの?」

「んー、まあ警察に追いかけられたり、野菜畑に侵入したりとか」

「何してんのよあんたは。全部犯罪じゃない」


 呆れた顔で首をかくんとさせる。


「諸事情あってな。やむをえなかったんだ」

「犯罪者はみんなそう言うのよ」

「お前はどうなんだ?何かしたのか?」

「うーん、私はまあ、基本お家でダラダラしてたんだけど、でも夏を満喫はしてるわ。家族とバーベキューしたでしょ、ランチも行ったし、夏野菜収穫体験もしたし、りんと焼肉食べ放題行ったでしょ、スイーツにも行ったし、乳しぼりにも行ったわね。けっこう色んなところ行ってない?」


 とどうよと聞いてきた。


「全部食いもんじゃねえか。あんまりケチつけたくねえけどずっと食ってるじゃねえか。お前まじで食い意地張りすぎだろ」

「み、みんなこんなもんでしょ⁉バーベキューとか農業体験はちゃんとしたイベントだし!食べるのはついでみたいなものよ!あんた人にケチつけられるほどまともな体験してないくせに!」


 頬を赤く染め心外そうに口を尖らせて反論してくる。


「ばっかお前、俺のこの夏のトイレ冒険譚聞くか?本一冊書けるレベルだぞ」

「キモすぎ死ね」


 一刀されて反対側を向かれる。


「そうだ水といえばね、この前コンビニにアイス買いに行こうと思ってアスファルトを歩いてたら遠くの方に大きな水たまりが見えたの。雨なんか降ってもいないのに不思議に思って歩いていくと、さっき見えたくらい遠くにあるの。つまり歩いても歩いても近づかないのよ。おかしいなと思って走って追いかけてみても一向に距離は縮まらない。


私はすぐにピンと来たわ。ああようやく。ようやく向こうの世界の扉が私の目の前に現れたのねって。私はそれからそれを探して追いかけ続けてるの。残りの夏、あの不思議な水たまりを追い続けて必ず追いついて見せるわ」


「あの意気込んでるところ悪いんだけどそれ逃げ水だね。晴れた暑い日とかにアスファルトの地平線に見える水たまりのような蜃気楼現象。ただの光の屈折。お前とんでもなく無駄な夏休み過ごしてんな。人のこと言えねえよお前。とんでもねえアホだよ」


「……」


 そうとうショックだったのか、数秒くらい口を開けて放心していたが、はっとすると口を閉じて、徐々に顔が真っ赤になっていき、そしてとり直す。


「ま、まあ知ってたけどね⁉っていうブログを読んだって話なんだけどねっ!もちろんそんなのただの気象現象だって知ってたけど!で、でも一応聞くんだけど嘘じゃないわよね?本当にそういう科学現象で説明できるのよね?」


 とやはりまだ諦めきれないようで期待を込めてまっすぐな目で小声で問いかけてくる。


「うんなんかごめんな。これはほんとにそう」

「はは、そ、そっか。わ、私ほんとに何してんだろ。バカみたい。ようやくあっち側の扉見つけたと思ったのに、はは。もう帰って寝ようかな」


 どうやら恥ずかしさより絶望が勝ったらしい。うなだれて虚無の表情を浮かべている。


「あー、なんだ。その。そうだ。毎日トイレで祈りを捧げていたらいずれあっち側からトイレの妖精さんたちやトイレの神様からコンタクトがあるかもしれないぞ」

「あんた慰めるの下手くそか!私が求めてるのはそんなのじゃない!一緒にすんな!誰がそんなのとコンタクトしたいのよ!」


 もう隠す気もなくなった二夕見が叫ぶ。


「はあ。もう行くわよ。早く済ませてお家帰って、作成してた手書きのあっち側のルートが書かれた地図とか考察したノート捨てないと」

「なんかほんとにごめんな」


 世の中には知らない方が良かったこともあるのだと知りました。





 足水を終え、少し歩くとようやくデパートに着いた。太陽も大分傾いたがそれでもうだるような暑さは変わらない。入り口に入るとクーラーの冷気が全身を包む。


「はあ~。生き返るわ~」

「こういう汗をかいた後にすぐ冷えると体温が下がってお腹にだな―――」

「はいうるさい。いいから付いてきなさい。何か所かあるみたいだけどどこから行こうかしら」


 地図を見て顎に手をやって悩んでいる。


「そうだな。まずは西口横の方に行こう。そのあと南口で、一階を見終わったら二階だ。手分けしてこのデパートのトイレを攻略するぞ」

「トイレじゃなくて洋服よ!ボケナス!あんたほんとに今日トイレの話以外した⁉」

「ああはいはいパンツ買いたいのね。じゃあ俺がお似合いのトランクスを選んでやる」

「違うわよ!洋服って言ってるでしょうが!女の子がそんなの履くか!」


 というわけでお手頃なお値段の衣料品店に入る。


「これとこれとこれとこれもいいわね」


 次から次へとお眼鏡にかなった服をかごへと入れていく。


「これ全部着るのか?」

「そう。更衣室まで運んどいて。まだあるから」


 更衣室までかごを運び終えると二夕見が中に入ってドアを閉める。


 数分後着替え終えて出てきた。七分丈の黒いトップスに腰のラインが際立ったジーンズ、カーキ色の帽子というカジュアルな格好だ。


「どう?けっこう可愛くない?」

「ダメだな。お腹の辺りがけっこうきつい。これじゃあ締め付けがきつすぎてお腹に優しくない」

「……」


 真顔になり、黙ってドアを閉めると、数分後。またドアを開ける。今度は白いひざ下のワンピースに麦わら帽子を被っている。


「どう!」

「ダメダメ。お腹痛くなった時どうする。トイレが和式の可能性も考えたのか?この格好でトイレでかがむとスカートが汚い床につくおそれがある。トイレ舐めてんのか?」

「……」


 口元をひくひくさせてバンッと大きな音を立ててドアを閉める。数分後。


「どおっ⁉」


 今度はノースリーブの黒いシャツに、ふんわりとした淡い水色のロングスカート。


「ダメダメダメ。こんなん履いてたらうんこ踏みそうになった時瞬時によけれないだろ。一瞬の勝負なんだぞ?お前うんこ舐めてんのか?」

「……」


「ガンッ!」


 さっきより強くドアを閉めるとまた出てきた。今度はひもで首に結んだ鎖骨と首回りが露出したピタッとしたシャツに、ショートパンツだ。


「ダメダメダメダメ。これはぴったりしすぎて胸元の乏しさが―――」

「これは今日着てきた服よこのクソ男!あんた女の子の試着の感想がそれって頭湧いてるの⁉似合ってるとか可愛いとかじゃなくて、全部あんたのゴミみたいな価値基準と特殊すぎるTPOでしか見れないわけ⁉しかも最後なんつった⁉はあっ⁉」

「じょ、冗談だよそんなに怒るなよ」

「また冗談⁉それ言えば許されると思ってるわけ⁉もういい帰る!」


 鞄を掴むと荒い足取りで更衣室から出て外に出ようとする。


「待った待った!悪かったよ!恥ずかしかったんだよ!全部似合ってた。今日着てきた服だって言わなかったけど、女の子らしくて良いと思ってたさ!」

「嘘つくんじゃないわよ!またいつもみたいに適当な事言ってるんでしょ!」

「いやまじだって!女の子らしい適度な露出と、なおかつ清楚さを失わない着こなしでめっちゃ周囲の男が見てたから!お前のほかの服装も見たいなあ~」

「ふ、ふーん。ま、まあそこまで言うんなら許してあげなくもないかな。そんなにせがむんならしょうがないから、もう少し私のコーデ見せてあげるわ」


 とまんざらでもない顔で戻ってきた。よし!ちょろい! 


「じゃあ俺が選ぶからそれ着てみてくれよ」

「き、着て欲しいの?」

「ああ」

「そ、そう。ま、まあいいけどね。着てあげても。で、でも一回だけよ?」

「よしきた」


 俺は選んだものを二夕見に渡していく。


「着たわよ」


 出てきた二夕見は作業服に長靴に三角巾、ゴム手袋と完璧だ。


「よしじゃあこのブラシを持って外に出てくれ」


 とまどっている二夕見を試着室から出すと俺が試着室に入りドアにカギをかける。


「いくぞ?」

「う、うん?」

「よしまずはノックして、『すいませーん。長いこと入られてますけど大丈夫ですか?体調悪いんですか?』と尋ねるんだ」

「は、はあ」


 困惑している二夕見の声が聞こえてくる。


「す、すいませーん。長いこと入られてますけど大丈夫ですか?体調悪いんですか?」

「あ、ああ大丈夫でsぐおおおおおっ。またすさまじい腹痛が!腹がっ!あ、トイレットペーパーが切れた。ど、どうする。やばいぞ。だ、誰か!よしここだ!ノックしてトイレットペーパーを渡すんだ!優しい言葉をかけるんだ!」

「一体なにをさせようとしてんのよあんたは!アホか!しょうもないコスプレさせてしょうもないシチュエーション作り出すな!なんでこんなに可愛い洋服がたくさんある中でこれなのよ!ていうか試着室をトイレに見立てるな!」

「おいお腹痛いときに冷たい言葉をかけるんじゃない!いいか?間違っても

『すいませんそろそろ一時間経ちますので、できれば一度出られていただけますか?清掃の時間ですので』などと淡々と言ってはいけないぞ!

『隣の個室にありますのでご自分でお取りください』もダメだ!なんであのおばちゃんたちはみんなそろって嫌味をこぼすんだよまじで」

「いいから早く出てこい!いつまでやってんのよ!」


 ドアを開けると呆れた二夕見が立っていた。


「はあ。もういいわ。なんかしらけたし。私が着替えたら行くわよ。あんたよくもこの私にどんな格好でもさせるチャンスをこんなゴミみたいなことに使ったわね」


 不満そうに試着室に入ると、ちゃっちゃと着替えて出てきた。そのままさっき試着した服を全部持ってレジに向かう。


「全部買う気か?」

「ま、まあね。別にあんたがどう言ったからとか関係ないからね」

「いや待て、あの清掃用のやつはエプロンタイプもあるんだ。そっちも着てみてからでも遅くは―――」

「それは買わないわよ!いつ着る機会があるのよ!」






 二夕見の買った洋服の荷物を両手いっぱいに持たされ、デパートの中を回る。


「なんかどこかの誰かさんのせいで洋服は着る気なくしたし、どうしようかしら」

「ここで残念なお知らせがある。トイレのお時間がやってきました」

「もうほんと無理あんた。お願いだから一回殴らせて」


 辟易した表情で言ってくる。


「仕方ないだろ体質なんだから。悪いけど荷物一回返すぞ。できるだけすぐ戻るから」


 そう告げると俺はすぐさま近くのトイレに駆け込んだ。


 十五分ほどしてトイレから出ると、近くのベンチに二夕見が座っていないか探すもいない。怒って帰ったか?電話をかけるも出ない。



 デパートの一階を当てもなくぶらぶら歩きながらキョロキョロ探していると、端っこの方で何やらセミナーをやっている所を見つけた。何列か並んだパイプ椅子に、二十人ほどの人が座っていて、壇の上で女の人が大袈裟な身振りで話している。



「さあみなさん!今日も祈りを捧げて宇宙の存在を感じるのです!さすればあちら側からの交信がやってくるでしょう!一緒に神になるのです!」


 ああそっち系かあ。声かけられる前に去ろと思った時、その中に見覚えのある後ろ姿を見つけた。


「そしてみなさん!今日は新人がいます!後ろの方で興味深そうにこちらを伺っていたので連れてきました!さあ自己紹介をどうぞ!」

「い、いやあの私、ほんとにただ何やってるのかなあって見てただけで、そんなつもりはなかったっていうか、そういうのはもう卒業したっていうか、そのだから……」

「なにを言うのですか!あなたはこんなに特別な存在だというのに!私は一目見た瞬間にあなたがあのイザナミの子孫だとすぐに気づきましたよ!あなたの守護霊はあの神々のうちの二人もいるんです!」

「え、ええ⁉そ、そうなんですか⁉い、いやでもやっぱりい、いいです、私人待ってますし、ごめんな―――」

「最近空虚じゃありませんか?このまま普通の生活を送っていき、普通の人生を歩むことにどこか違和感を感じてませんか?自分はどこか他人と違うと思いませんか?それはあなたが特別だからです。神々があなたにサインを出しているのです!食欲もすごいんじゃないですか?なぜだかわかりますか?それはあなたのチャクラが開きかけているからです!」

「な、なんでわかったんですか⁉た、たしかにそうなんですよ!もう封印したはずなのに、普通になろうと思ったのに何か違うような気がしてて、食欲もすごいし、そういうことだったの⁉」

「さあ私たちと一緒に思い出しましょう!かつての自分を!あなたの前世の記憶を思い出すために、この特別な神の使いである生き物の羽毛からできた枕を使えばすぐに自分を取り戻せます!本来は百万円するところを今なら特別に五十万円でお売りしますよ!」

「買います買います!私、やっぱり特別だったんだ!」


「はいはい帰りますよお嬢様~。はーい通りますよー失礼しますねー」


 俺は間に割って入ると二夕見の鞄を掴んで引っ張る。


「ちょっとあんた邪魔しないでよ!今からあの枕で―――」

「ちょっと目を離したすきに何やってんだお前は!ちょろいにもほどがあるだろ!そんな片手にハンバーガー、もう片手にサンドイッチ持ってたら誰でも食欲が強いことくらい気づくわ!両手に荷物もってんだから少しくらい我慢しろよ!大体お前は警戒心が強いのか弱いのかどっちかにしろ!」


 無理矢理連れだして人ごみに紛れる。


「はっ!危ない!私また変なの買わされるところだったわ!こんなに純粋な私をまただまそうだなんて、この世界は何て歪んでるのかしら!」

「うるせえよ。ただ中二病卒業できてねえだけだろ。自分のちょろさをポジティブに解釈するんじゃねえ」

「うるさいわね。だいたいあんたが長いことトイレに籠って待たせるのが悪いんでしょ!何回トイレ行けば気が済むのよ!」


 などと逆ギレしてくる。


「今日はまだいつもの半分も行ってねえよ!人のせいにしてないで自分の―――」


 言い返そうとした時、すぐそばを、小学生くらいの男の子二人が通り過ぎていった。

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