70話 「天使と悪魔の葛藤」
「俺様もジュース飲みたい」
「ガキは牛乳でも飲んでろ。ジュースなんか十年早いわ」
横から口を挟んできた桑名に返す。
「ていうかコーンスープも頼んでない?まだ来ないの?」
「さっきお前がトイレ行ってる間に持って来たけど…」
「ぷす、ぴゅるる~」
二夕見が下手くそな口笛を吹く。
「お前よくコーヒーシェイクしか飲んでないやつから次々と盗んでおいて、割り勘なんて提案できたな。図太さ選手権日本代表クラスだろ」
「じょ、冗談で言ったんだし!あんただってよくセンスない冗談ばっか言ってるでしょ!だから味噌汁飲むんなら頼むか聞いたじゃない!あれだって私が出すつもりだったわよ!」
「人のスープ飲んでおいて、飲むんなら頼むけどとかせこい聞き方してたけどな」
「う、うっさい!女の子との食事中にトイレ行く方が悪いでしょ!」
などと訳の分からない理屈を持ち出してきた。
「じゃあお前がトイレ行ったらお前の頼んだもの勝手に食べていいんだな?」
「うっ。そ、それは、そのっ。い、いいわよ!私はトイレとか行かないもん」
「よーし二夕見。今から韓国旨辛キムチまぜ麺おごってやるよ」
「ええ!いいの⁉なんで?」
「お前が俺に食べ物をシェアしてくれたのが嬉しくてな。ただのほんの気持ちだよ」
「なんか怪しいけどまあ奢りならなんでもいいや!ラッキー!」
と能天気な二夕見。くっくっく。お前ならそうだと思ったよ。今に見てろ。後悔させてやるぜ。
韓国旨辛キムチまぜ麺が運ばれてきて、がつがつ食べる二夕見。
「美味しい!辛いけど旨いわ!」
すぐにコップの水を飲みほして、水を探す二夕見。
「店員さん。キャッチャー持ってきてもらえます?あ、ピッチャーでした」
近くにいた桑名に声を掛ける。
「かしこまりました。すぐにお持ちします」
「おい俺のギャグが面白くねえってのか!笑えよ!」
「面白くないのよ!いつまで迷惑客やってんのよ!しつこいのよあんたは!」
二夕見に分けてもらった料理と、追加で頼んでもらった味噌汁を食べながら、二夕見のコップの水がなくなるとすぐに水を注ぎ続けること二十分。
「っ」
向かいの二夕見が顔を赤くさせながら足をもじもじさせ始めた。
「どうした二夕見?何をそんなにもじもじしている」
「べ、別に。なんでもないし」
と強がって強気な態度を見せている。
「おっと箸が落ちたようだ」
俺は落ちた箸を拾おうと机の下に潜り、立ち上がるついでに二夕見の脛に息をふきかける。
「ふうっ」
「ひいいいいっ⁉」
思わず力が抜けた二夕見が目を見開いて、身震いする。そして先ほどよりさらに足をもじもじさせ、内ももをくねくねさせる。
「どうした二夕見。なにか我慢しているのか?なにかは知らないが我慢は体に良くないぞ。早く行ってこい」
「何でもないわよ!ていうかあんた今の普通にセクハラだから!鳥肌立ったわ!」
どうやら作戦成功。効果は抜群のようだ。しかし、意地でもトイレには行かないらしい。限界が来る前に食べ終えてしまおうとペースをあげてどんどん口に放り込む。だがしかしトイレは誰にも我慢できない。五分程粘ったところで、手を止めて、静止した。
「…なさい」
「ん?どうした?」
「ごめんなさい!さっき言ったこと訂正させてください!食事中にトイレに行ったからって人の物食べるのはいけないことだと思います!もうしません!だから私のもの食べないで!お願いだからトイレに行かせて!」
と涙目で懇願してきた。
「そうだよね?じゃあお会計はどうするの?奢ってもらうの?それとも割り勘するの?」
「自分の分は自分で払います!すいませんでした!」
「そんなの当たり前じゃないか。君は人とのご飯中にトイレに行って不快にさせるんだからもっと誠意見せないと。君が言ったことじゃないか」
「ううっ。奢ります!わたしが全部出すから!トイレに行かせてください!」
「よしいいだろう!行ってこい!お前のご飯には手を出さないでやる」
「うわあああああああああああんっ」
泣きながら速足でトイレへと向かって行った。
どんだけ食い意地張ってんだよ。ご飯食べられるよりトイレ漏れることの方が普通に嫌だろ。なんでこんなに葛藤してんだよ。ていうかそもそも女の子が口付けたもの食べたりするほどノンデリでもないんだけどね。
トイレから戻ってきた二夕見は先ほどからふくれっ面でこちらを睨んでくる。
「いやあ人の金で食べる飯より美味しいものはないよ」
俺はデザートのバナナマフィンとイチゴシェイクを食しながら独り言ちる。
「女の子にたかるとか最低」
自分の抹茶シェイクをストローでかき混ぜながらこぼす。
「人聞きの悪いことを。自分で奢らせてほしいって言ってきたんじゃないか。ていうかお前が出させようとしてた料金より多分大分安いぞ。なんなら俺コーヒーシェイクとイチゴシェイクとバナナマフィンしか頼んでないだろ。あとはお前が食ってたし」
「だから私が食べちゃった分はちょっとずつシェアして一品分くらいあげたでしょ。しかも割り勘って言うのは冗談だったのに、ほんとに奢らせるとか最低。クズ人間」
ととげとげしい言葉を投げかけてくる。
「しょうがないじゃあ割り勘にしとくか」
「え?じゃあ我慢しないでもうちょっと頼もうかな」
「いやいや。お前の分割り勘にするわけないだろ。俺の分を奢りじゃなくて半分自分で出すって言ってんの。当たり前お前は自分の分は自分で出せよ。ていうかどの辺が我慢してた?」
「ふうん。ほんとにそれでいいの?今ならまだ考え直してもいいわよ。今なら許してあげるから」
「はん。何を偉そうに。なんなら半額じゃなくて全額お前の奢りにしてやってもいいんだぞ」
「ほんとにいいのねそれで?これが最後よ?」
となぜか不敵な笑みを浮かべている。ブラフだ。俺は騙されない。
「ああいいぜ」
「あらそう残念」
というわけでその後なぜかデザートも五品くらい頼んだ二夕見と、レジに会計に向かう。
「お会計は別々でいいか?」
桑名がカウンターを挟んだ向こうから尋ねる。
「ううん。一緒でお願い」
「は?何言ってんのお前。お前が全額払うの?」
「そんなわけないでしょ。あんたが全額払うのよ」
「おいおいお嬢さんバカ言っちゃいけないよ。なにジョーク?ちょっと難しいんですけど。さっき自分の口で払うって言ったよね?」
「ええそうね。たしかに言ったわ。でもね。やっぱり気が変わったわ。私はほんとはね、自分の分は自分で出して、割り勘なんてする気はなかったのよ。でもそれを聞いてあんたは半額は出すって言ったわね。それがいけなかったわ。あんたは全額自分の分は払うって言うべきだったわ。だから命令よ。あんたは私の分も払いなさい」
とまるで幼子のように滅茶苦茶なことを言ってくる。
「なんで俺がそんな我儘聞かなきゃ―――」
「覚えてる?二か月くらい前に食堂でお互いのご飯に調味料とかかけあって、食べられなかった方はもう片方の言うことをなんでも聞くって約束したわよね?」
俺の海馬が刺激され、数か月前のことが脳内で再現される。
「な、何だと⁉き、きさままだそんな昔のことを!あ、あれはそのあとみんなでゲロ吐き合って無効みたいな感じになったじゃ―――」
「あんたは最後に俺の負けでいい。何でも言うこと聞くってちゃんと言ったわ」
腕を組んでこちらを見上げてくる二夕見。
「ぐっ、そ、そんなことほんとに言ったか?苦しすぎてよく思い出せない、ぐっ」
「なに?あんた男のくせに約束の一つも守れないわけ?」
「ぐはあっ」
その言葉が胸に突き刺さる。
「わかったよ!分かりましたよ!いいんだなたったひとつの命令権をそんなことに使って!あとで後悔しても知らねえからな!」
「何言ってるの?それだけなわけないじゃない。あんたは今日一日私についてくるの。この後私の買い物に付き添って荷物を持って、財布になって、日除けになって、一日私の召使になるのよ。お分かり?」
「ぐぬぬぬぬぬっ。この野郎!許せねえ!さっきのあの余裕はこれか!最悪だ!最悪の女に約束しちまった!ちくしょう!さっきまでおしっこ我慢して顔真っ赤にしてたくせになんだこの豹変ぶりは!一体こいつは何なんだ!」
「う、ううう、うっさい!よ、余計なこと大声で言うな!あんた次そのこと話題にしたらぶん殴るからね!」
一旦ペースを乱しまたあたふたするがすぐに取り直す。
「意見反論は一切認めないわ。返事は?」
「はいはい」
「ダサくて草」
レジ向こうから桑名が煽って来る。もう帰るから敬語はやめたのだろう。
「でもよかったなお前。荷物持ちするだけでお姉ちゃんとデートできるぜ」
「ひかりちゃん⁉べ、別にデートじゃないから!ただの荷物持ち兼財布だし!」
とうろたえている。
「なーんだしおちゃんはぼくちんとデートがしたかったのか。照れ隠しにこんな条件つけてほんとに照れ屋なんだから。そういうことなら仕方ない。付き合ってあげよう。まったくモテる男は辛いぜ。あ、でも付き合ってあげるっていうのは一回だけデートに付き合ってあげるって意味でお付き合いしてあげるってことじゃないからなごめんなさい」
「は、はあ⁉キモすぎこいつ!なんで私が振られてんのよ!私いつも振る側なのに!悔しい!勘違いすんな!」
「仕方ねえ。じゃあ今日は特別に俺がいろんなところに連れて行ってやる。まずはデパートか?それともスポッチャ?それとも俺ん家?どこがいい?」
「な、なんでデートする気満々なのよ!私はただ荷物を持たせようと思っただけで…。てかあんたの家⁉い、一体そんなところに連れ込んで何する気⁉」
と動揺して顔を赤くしている。
「おすすめはデパートだな。最高の設備でピカピカの床と鏡。他とは違う高価な臭いのハンドソープにハイテクなウォシュレット機能。しかしやはりというか結局は一番は俺ん家だな。やはり自分家のトイレが一番落ち着くし安心してできる。どうする?どこを見に行く?おいワクワクしてきな!」
「全部トイレのことか!史上最低のデートスポットよ!いろんなところっていうか一つじゃない!それで一体何が盛り上がるのよ!」
「どうだ?俺と一緒に行きたくなくなってきただろ?今ならまだ間に合うぞ。おとなしく一人で買い物に行くんだ」
「あんたに選択権なんかないから。あんたはおとなしく黙って私についてきて言うことを聞いてればいいの。そもそも身分が貴族と平民くらい違うんだからデートなんて呼ばないわ。はああほらし。さ、行くわよポチ。おいで」
急に切り替えてこちらを振り返らずにすたすた歩いていく。
「こ、この野郎、鼻で笑いやがったぞ。ナチュラルに人のこと見下して、ていうか人としてすら扱う気ないし」
俺が諦めてついて行こうとすると
「おいアホ。金払え。金。五千六百八十円な」
桑名がカウンターに肘をつき、その手のひらに顎を乗っけて呼び止めてきた。
「はあ⁉たか!ランチでどんだけ食ってんだあの女⁉ありえん!おい桑名!二夕見とは顔なじみだろ?少しまけてくれよ!」
「じゃあきりがいいように五千八百円にしてやる」
「高くなってんじゃねえか!何で上がった!」
「スマイル料金だよ。無料じゃないよあれ」
「金取るのかよ!最低のスマイルだよ!人工悪魔の実くらい終わってるよ!」
結局最初の額を支払い、お店を背にする。
「どうもくそありがとうございましたー。おとといきやがれこの野郎」
最低の料金と最低のあいさつを受けてお店から出た。
「遅い!何活払いしてんのよこの大貧民!暑いんだけど!」
腕を組んで睨みつけてくる。
「このクソデブがあ!ランチにいくらかけてんだてめえは!セレブか!学生なめんな!」
「まあ一応礼節は重んじないとね。どうもごちそうさまでした」
と手を合わせてくる。
「うるせえ金を払え金を!」
「うるさいわね。今からが本番よ。早くお金下ろしてきなさい。えっと、一ノ瀬エーティエムくんだっけ?」
「誰がATMだ!なんだその金づるみたいな名前は!えしか当たってねえよ!」
「ぐふっ」
自分で言っておきながら耐え切れずに笑いをこぼす二夕見。
「じゃあまずはアイス食べに行くわよ。ついてきなさい」
「はあ⁉お前まだ食うのかよ⁉嘘だろ⁉」
「なによなんか文句あるの?あんた敗北者の分際で勝者に意見しようってんじゃないわよね」
「お前あの勝負実質ドローだからね?別に俺に非があったから負けでいいって言ったけど別に負けたわけじゃねえから」
「自分で負けを認めておいてまだごちゃごちゃ言ってる。はーあかっこ悪。だっさ」
大げさに両手を広げて肩をすくめる。
「ぐぬぬこいつどんどん人をイラつかせるのが上手くなってきてるのはなんなんだ。わかったよじゃあどうぞお嬢様」
「よろしい。では特別に私の隣を歩くことを許可するわ」
「……」
なんだこいつのことだから三歩後ろをかしずいて歩けとか言うかと思ったがどういうつもりだ?
さっきからななめちょい後ろを歩いていた俺は、よく分からんがとりあえず隣に近づいてみることにした。
「どういう心変わりだ?ただの荷物持ちに隣を許すなんて―――」
「ああ違う違うそっちじゃないわ。右を歩きなさい。それじゃ意味ないでしょ。日差しが暑いんだからちゃんと遮って影を作りなさい。そして横を向いて影の面積を大きくするの。こっち向いちゃダメよ。ああでもお尻向けられるのもなんか汚いしどうしようかな」
「この高飛車クソ女が!可愛げのかけらもねえなお前はよ!一分おきにおならしてやるから覚悟しとけよ!」
「それは嫌。しょうがないわね。それなら特別にこっち向いてもいいわよ。でも半人分くらいの距離はあけてよね」
半人分くらいの距離を空け、二人並んで歩く。正午を何時間か過ぎたとはいえ、まだ太陽はそこまで傾いておらず、十分暑い。
「あ、暑い。なんか日差しより地面からむんむん熱気が立ち込めてる。一ノ瀬。ちゃんと日差しを遮りなさい!地面から反射してるじゃない」
「そんなに暑いんなら早く家帰れよ。大体人間ごときがあんな壮大なお天道様に勝てるわけないだろうが」
「だったら扇いで!風を送りなさい!」
などと我儘を言う。
「ふうーっ!。ふうーっ!」
「誰が口から送れって言った!汚い風送んな!」
そんなことを言い合いながら歩いているとアイスクリーム屋さんについた。
「やっと着いたわ」
時計を見るとちょうどおやつの時間より少し早いくらいの時間で、店内はちらほらお客さんが見られた。列に並び、俺たちの番が来た。
「チョコチップアイスクリームとイチゴミルクアイスをダブルでお願いします。あ、でもソフトクリームはシングルだけかー。どうしようかな。あんたシングル?」
「バカ言え。シングルなわけあるか。ダブルに決まってるだろ。あんな薄いのでけつが拭けるか。長さでごまかしても俺は騙されんぞ」
「あんた一体何の話をしてる⁉誰がトイレットペーパーの種類を聞いた!」
二夕見が恥ずかしそうにキョロキョロしながら諫めようとする。
「ママ僕トリプルがいい!」
後ろに並ぶ男の子が叫んだ。
「トリプルだと⁉それは一体どのくらいの厚さなんだ⁉」
「いい加減にしとけ!」
鞄で思いっきり殴られる。
「俺はお腹痛くなるからアイスはいいや。あとそんなお金ないしな」
心もとない財布の中身を確認する。
「分かったわよ。別に半分は本気じゃなかったし。自分の買い物なんだから自分で払うわよ。さっきも言ったけど私は誰かに奢らせるとか好きじゃないのよ」
「さっき五千円近く奢らせてたけどな」
「なに?なんか言った?五万円がよかった?まだ間に合うけど」
「さすがだ二夕見!その根性しびれた!お前は漢の中の漢だ!やっぱりそこいらの女とは何かが違う!前々からそうじゃないかと思ってたんだ!」
「どうやらそんなに奢りたいらしいわね。大体この前インターンシップの時にあんたがご飯奢るって言ったんでしょ。その分なんだから文句言うんじゃないわよ」
こいつそんなことまで覚えてやがったか。たしかにそんなこと言ったような気がする。
「アイス少しは食べるでしょ?私のアイスのコーンの中の底の部分くらいあげるわよ」
「それ言われて嬉しいやついるの?微妙にケチるのやめろ」
話していると店員さんがアイスを作り終わり、手を伸ばして渡そうとする。
「どうぞお待たせいたしましあっ⁉」
しかしレジ越しに渡そうとしたアイスの上の段のチョコチップアイスがべちゃりと床に落ちる。
「申し訳ありません!すぐに作り直します!」
「あ、大丈夫ですよ。ゆっくりでいいですので」
二夕見が笑顔で対応する。落としたのが俺だったら「なにやってんのよこののろま!どんくさいのよ!さっさと片付けて新しいの作り直しなさい!一分以内に!」とぶちぎれているだろう。
そんなことを考えていたら二夕見が何か言いたそうな顔で見てくる。
「なんだよ」
「あんたなにやってるの?早くアイス片付けなさいよ。気が利かないわね」
俺が召使いとして今日一日付き添うということは継続らしかった。おとなしく掃除することにした。
「鼻つまみながらトイレットペーパーで包むな!意味が変わってくるでしょうが!んこじゃないのよんこじゃ!」
慌てて店員さんがモップを持って拭き取りに来る。
「申し訳ありませんでした。こちら改めてどうぞ」
上にチョコを乗っけ直したアイスが二夕見の手に渡される。
「ありがとうございます!」
二夕見が満面の笑みで嬉しそうに受け取る。そのまま店を出ると、広場を見つけて、木陰のベンチに座り、アイスを食べる。
「んー!おいしい!ねえほんとに食べないの?あんた人生損してるわよ!」
「お前はもう少し控えた方がいいな。糖尿病になるぞ」
「あんた女の子に尿の病気の話とかするんじゃないわよ」
「まださっきのおしっこのこと気にしてんのか?」
「気にしてないわよ!さっきはお花摘みに行っただけよ!」
二夕見がまるで淑女のような言い訳をする。
「そういえば貧乳と頻尿って響きが似てるよな」
「死ねこのノンデリ男!女の敵!」
足を思いっきり踏まれる。
「いだっ⁉」
「ふんっ」
機嫌を悪くしたのか、そのまま立ち上がってどこかへ行ってしまった。
「ありゃりゃ。言い過ぎたか。悪いことしたな」
『大体あなたがしっことか言うからです。女の子が我慢してたことをいつまでもいじるから怒ったんですよ。可哀想にせっかく気持ちよくアイス食べてたのに。あああの幸せそうな顔が見ていて幸せだったのに』
脳内で、俺の中の天使が顔を出して主張してきた。
『うるせえお前だってほんとは笑った顔より怒る顔が見たいくせによ。もっと怒らせろ。お前みたいなやつほど女の子のおしっこはご褒美だとか言い出すんだよ』
今度は悪魔が顔を出す。めちゃくちゃ言い出したぞこいつ。
『あなたみたいな野蛮人と一緒にしないでください!私は常日頃からトイレを守り、見持っている!おしっこなんかで今更興奮なんかしません!私はトイレの妖精ですよ⁉あなたと違って忙しいんです!』
いやお前天使じゃなくてトイレの妖精だったんかい。なんで俺の中の善意はトイレの妖精なの?どういうこと?てかしっこ好きそうだけどとか言ったら怒りそうだな。
『はあ⁉俺なんか毎日毎日この槍としっぽでこいつの口の中の工事してんだぞ⁉どれだけの歯を虫歯にしてやってるか分かるか?お前より忙しいわ!なめんなたこ!ていうかお前もっと歯磨けよ!俺の仕事増やすな!一番奥の歯までちゃんと磨け!』
いやお前は悪魔と思ったら虫歯菌かい。たしかに触覚とかしっぽとか槍とか外観ほとんど同じだけども。何を悪魔みたいな面して意見してんだよ。しかも悪魔が一番俺っぽいのなに?俺の頭の中にいたのは天使と悪魔じゃなくてトイレの妖精と虫歯菌って俺大丈夫か?
『分かったよったくお前らうるせえな。喧嘩ばかりしやがって。しっこの話は禁止だ。女の子にそんな話する方が悪いわな。だから今まで通りうんこの話でいく。これで文句はないな?』
俺はめんどくさくなってので頭の中をまとめようと結論を言った。
『いいわけねえだろうが!』
『よりひどくなってますよ!』
天使と悪魔もどきが抗議する。
『天使とか悪魔とかよりお前が一番ヤバいんだよ!第一なんか俺たちのせいにしてるけど全部お前のせいだからな⁉』
とツッコミをくらったところで、後ろから声を掛けられた。
「はい。これ」
帰ったはずの声に驚きながら振り返ると二夕見が何かを差し出していた。
「え、なにこれ。てかお前なんで―――」
「いいから開けて」
せかされて、渡されたものを受け取ると、それはお菓子だった。開けてみると、イチゴチョコのお菓子がコーンの中に入っていて、アイスみたいな形になっていた。
「え?これは」
「私だけアイス食べるのもあれだし。あんた冷たいのダメならこれだったら食べるかなって思って」
と照れ隠しか横を見ながら話す。
「怒ってたんじゃ―――」
「今更あれくらいで怒るわけないでしょ。まあ普通に殴ろうかなっては思ったけど」
「はは。ありがとな。嬉しいよ。悪かったな」
「何が?」
不思議そうに首を傾げる。
「いや分からないならいい。金払うよ。いくらだった?」
「いいわよ。お昼にたくさん奢ってもらったし。ただ荷物持ちはまだやってもらうからね。ちゃんと最後までついてきなさい」
「はいよ」
二人並んで座って、アイスを食べる。そのアイスですらないアイスは、今まで食べたどのアイスよりも美味しく感じた。




