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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
67/69

67話 「デブ アルクケド ピザ」

 俺は天ヶ崎の頭を鷲掴みするとアイアンクロウをかます。


「いだだだだだだだだだだだだっ!」


「おいいいか残りのガキども。こうなりたくなかったらこれ以上俺に迷惑をかけるな。分かったか?」


 俺は見せしめの天ヶ崎を見せつける。


「はあお前男のくせにそんなことして恥ずかしくねえのかよ。だっせえなあ。お姉ちゃんに言っとくからな」


 しかし一人のクソ生意気なガキには通じないようだった。


「うるせえぞクソガキ。ガキのくせに見栄張ってスカートなんか履きやがって。パンツ見えてるぞ。高校生にもなってアヒルのパンツかよ。せめてくまさんにしとけガキ」


「はあ⁉あれだしこれは弟のやつだし!間違えて履いてきちゃっただけだし!いつもは無地の黒いパンツとか履いてるし!」


 赤面してスカートを抑えている。


「グアッグアッグアッ。ガキでワロタ」


「はあお前マジ死ね!何見てんだよクソがよ!キモ!クソセクハラうんこ野郎!全部お姉ちゃんにチクるからな!」


 怒りと羞恥心から顔を真っ赤にしている。


「あいあいあいあい。今度一緒にパンツ買いに行きまちょうねえ」


 怒りのあまりギャーギャー騒いでいる桑名。そういえば天ヶ崎はどこに行った。嫌な予感がする。


「せんぱーい!流し詰まっちゃって水が流れないんですけど」


 と声がする。


「お前が吐いたんだろうが!お前よく目を離したこの一瞬で吐いたな!しばくぞてめえは!このゲロ女が!」


「だから風呂場で吐こうと思ったんですけど、なんか育毛剤が散乱してます」


「おいいいいいいいいいい!それあれだから!ワックスだから!」


 なんかあったら安心するから集めてるだけだけど確実に誤解されている!


「えいえいえいえいえいえい~っ!ハゲでワロタ!」


 ここぞとばかりに桑名が嬉々として煽って来る。


「はあちげえから!洗面所の床に落ちてるのもひじきだからね?俺は髪乾かしながらひじき食べるのが好きなだけだから?」


「あいいっ!ひじきゲットお!」 


 桑名が俺の髪の毛を一本抜いて食べるふりをする。


「はいキレたあ。俺の大事な髪を抜いたあ。はい許さん」


 俺は桑名の両脇に手を滑り込ませる。


「あっ、てめっ!」


 そのまま持ち上げる。


「はいたかいたかーい!あいよちよち~」


「おい触んなカス!ゴミ!変態!うんこ!」


「かーらーの~、はいくるくる~」


 そのまま回ってくるくるさせる。


「おい回んなてめっ!ハゲ!ボケ!うんこ!」


「さーらーにー、はいよいしょー!」


 俺は抱き上げると肩に乗せ肩車する。


「おいお前やめろクソ!雑魚!ゴミ!」


「はい肩車でちゅよ~!ぶーん!ぶんぶんぶんぶん!」


 肩車した状態で部屋の中を走り回る。


「おい走んなてめえ!高い下ろせ!お、ろ、せ!クソがよお!てめえまじで後でぶっ殺すからな!」


 必死にクビに捕まりながらも強気な桑名。


「はいキャッキャしててかわちいねえ~」


「死ねクソボケカス!」


「はい空気ぶんぶん!かーらーのー!はい壁にだーん!」


 俺は猛スピードで壁につっこんでいく。


「きゃあああああああ!」


 普段からは想像もつかないような甲高い女の子のような声で悲鳴を上げる。


「と見せかけてギリギリ回避~!はい心臓バックバク~!悲鳴可愛くてワロタ~」


 ほぼ直角に曲がって壁を回避すると、ゆっくり桑名を地面に降ろす。


「てっ、てめえまじでぶっ殺すからな!がっ、顔面踏んでトイレに沈めてやるからなクソ猿!ハゲ!ボケ!」

 

 と降りた途端暴言を吐きまくる。するとどこにいたのか黒森が近づいてきた。


「ところでトイレッノカミよ。この家、悪いものがたまっておるぞ。余が先日、妖しい妖気を放つ禁書庫で買っ、見つけたこの世界に一冊しかない占いの本にはなんと驚くべくことに気の流れを意識した家の配置によって運気を高める術が書かれているのだ!それによると、この位置に家具を置くのは良くないぞ。それと玄関には運気を高めるために観葉植物や鏡、縁起のいい動物を置くといい。特にトイレと玄関に悪い気がたまっている。トイレにはパキラやガジュマルなどを置くとよい」


 何をしているのかと思えば家の中を調べていたらしい。


「まただまされて高く買わされたのかお前は。しかもそれ風水って言って割とメジャーなのよ」


「ふっ。そんなまやかし余が信じるとでも思ったのか。余はこれまで幾千もの幻術を見破ってきたのだ

ぞ」


「いやいや。ほら見てみ。風水について載ってるだろ」


 俺はスマホを見せてやろうとすると。


「ふんっ。それは似たようでまったく異なる異質なもの。ほとんどの人間はそれに気づけない。本質を見抜く我が魔眼には見えている。それはフェイク・ド・ドッペルだ。やつらによる工作なのだ!危ないところだったな。危うく人体実験されるところだったぞ」


「この程度のワードググったくらいで人体実験されるか。煩わしい現実逃避しやがって」


「風水とは、衣食住や行動など、自分の周りの環境を使って運を開いていこうと言うものと書かれているな。まったく同じだ」


 俺が風水の説明を読むと、


「なるほど、どうやら余の能力が発動したようだな。そう。さっきまで存在しなかったものが、余の妄想によって実際に生み出されてしまう。これを余はイマジネーションリクリエイトと呼んでいる。本来は強すぎる能力がゆえにこの眼帯で抑え込んでいるのだが、制約が強すぎて余でもまだうまく使いこなせないのだ」


「だめだこいつ。早くなんとかしないと」


 俺が頭を抱えていると今度はトイレの方に駆けて行った。


「さあ!この地に眠り、この地を守るトイレの精エチチチよ。我の呼びかけに答えたまえ。さあっ!この空間に適した観葉植物を余に教えたまえ!」


 トイレの前で何やらしている。


「そんなトイレの妖精は存在しねえんだよ!」


「我の名を呼ぶのは誰だ」


 しかしトイレの中から声が聞こえてきた。


「「えっ⁉」」


 俺たちは驚いた声をあげる。


「我はトイレの精エチチチ。我を呼んだか?」


「あ、あのっ!い、いつもお疲れ様です!」


 とコミュ障を発動している。


「おいおいまじか?」


「まったくであるぞ。本当に疲れる。この家の者のおしりは本当に臭いし、なんかそっちゅうトイレに話

しかけてきて気持ち悪いし、うんこはもっと臭いし。我もこんなところに来たくなかった。しかし天界でみなが押し付け合いをしており、くじでハズレを引いた我がしぶしぶ守ってやっているのだ。


一つだけどうしてもやめて欲しいのが、バレンタインの日に切なそうに自分のしたうんこを見るのはほんとにやめてほしい。そ、それではな。おええええええええっ。よ、よし。今セイクリッドシャワーで便器の中を綺麗にしておいてやったぞ」


「てめえか天ヶ崎!しょうもねえ真似しやがって!しかも適当な事ばっかりぬかしやがって!バレンタインの日にうんこ切なそうに見るかアホが!トイレにそっちゅう話しかけるのは本当だけどな!ていうか何か所でゲロ吐いてんだてめえは!」


 何がセイクリッドシャワーだただのゲロだろうが。


「こんなところでゲロ吐くなんて、エチチは悪い子!エチチは悪い子!」


「うんそれ屋敷しもべ妖精な。トイレの妖精なめんな?」


 その時。とうとうな腹痛が俺を襲ってきた。


「ぐ、ぐおおおっ」


 ぎゅるるるる~とお腹から音が鳴る。


「ま、まずい天ヶ崎!今すぐ出ろ!お腹が!」


「お、お腹がっ!う、う、うっ、生まれるっ!あ、赤ちゃんがっ!ひっひっふーっ!ひっひっふー!あっ生まれましたよっ!おぎゃああああっ!おぎゃあああああっ!おぎゃああああああっ!よーし!第二回おぎゃりて選手権はーじまーるよーっ!」


「お前まじでぶっ殺すぞ!お前に付き合ってる余裕ねえんだよ!うるせえから黙って出てこい!」


 天ヶ崎がトイレから出てきた。


「水」


「開口一番がそれか?お前覚えとけよほんとに」


 俺は急いで中に入り鍵を閉めると用を足す。ふううっ。危なかった。それにしてもこいつガチでいかれてんな。二度と家に入れないでおこう。と俺は固く誓ったのだった。なんか前にも誓ったな。何回誓うんだ。トイレから出ると二人はまだトイレ近くにいた。


「ぷはあっ。ふう。今日も激しい戦いだったね」


「くっくっくっ。人造ゲロ人間たちとの戦いの終結も近いな。そろそろ向こうも完全体を投入してくるはずだ」


「ただゲロ吐いてるだけだろうがよ。ていうかそれドラゴンボールだよね?人造人間とかゲロとか完全体とか明らかにパクってるよね?」


「それにしても今日の戦いはギリギリだったよ。あと少しで私のオートビーム(嘔吐光線)で敵のボス、ビエンジョ(便所)を再起不能(詰まらせる)にできたんだけど、少し量が足りなかったね。でも安心して、ビエンジョの器(便器)は弱らせたから」


「ただゲロで詰まりかけただけだろうが!何がビエンジョだ!バカにしてんのか!便所を悪役っぽく言い換えやがって!てかビエンジョの器ってなんだ!便器のことか!便器につけたんか!ガキこら!何を誇らしげに語ってんだてめえは!まじで殺すぞ!」


 バカとバカがつるみ、互いに最悪な影響の仕方をしてしまうという弊害が生じてしまったようだ。




「てかゆいな大丈夫だったか?便座にうんこついてただろ?」


 と桑名。


「ついてるかガキ!」


「ていうか入ってきた時からなんかくっせえんだよな~。あー便所くさ。くっさくっさ。うんこばっかしてるから部屋までうんこの臭いするんだよなー。今うんこしたから更に臭くなったしよお」


 と先ほどの仕返しとばかりに盛大に煽って来る。


「ほう。このガキはまだお仕置きが足りないようだな」


「お前次触ったら全力で叫ぶからな。今度は全住民起こすからな」


「グエッグエッグエッ。あひるダンス」


 俺はアホ面して片手でくちばしをつくり、もう片手を股間の前にあて、バカっぽくあひるの真似をする。


「お前死ねぇ!クソがあ!クソセクハラうんこまん!」


 悔しかったようで顔を真っ赤にして怒る。しかし視界の端で天ヶ崎が冷蔵庫を勝手に漁っているのが見える。


「おい何勝手に漁ってんだ!」


「みんな何飲むー?」


「自分家か!」





 俺は三人を無理矢理一か所に集めて座らせる。


「おいいいか。俺は疲れてんだ。てめえらガキのこもりをする気力なんかない。もう十分荒らしただろ。早く出て行け」


「ピッ」


『ここで狩野七段4三歩です。上野王座の番です』


「おい誰だテレビつけたのは。お前だな天ヶ崎?」


「ピッ」


 またチャンネルを変える。


「叱られてる最中に胡坐をかいて頬杖ついて鼻くそほじりながらテレビのチャンネルを換えるんじゃねえ!まじで泣かすぞ!」


『タンタンタタンタンタンタン♪タンタンタタンタンタンタン♪まずは背伸びの運動~』


「おいリモコン渡せ」


 俺が天ヶ崎から奪い取ろうとすると


「こっちだゆいな!」


 桑名が立ち上がって手を伸ばす。


「はいひかりん!」


 天ヶ崎から桑名にリモコンが渡る。


「おい」


「あいいいいいいいいっ!リモコンゲット~!」


 桑名が全力で煽って来る。


「はいりんごちゃんパース!」


 今度は桑名から黒森へと渡る。


「このクソガキどもがあああああああ!」


 俺は今度は黒森を追いかける。


「はあああああああああっ!1!4!7!3!9!2!」


 黒森が大袈裟に数字を押し、次々とチャンネルが変わる。


「これが魔界へとチャンネルをつなぐ番号だ!いでよ!ケルベロスッ!」


『にゃあ~!』


『野良猫の生態を追いかけること二日目の朝。気持ちよさそうに日向ぼっこしていますね』


「……」


 可愛い魔界の門番だ。


「…はいひかりん!」


 焼きくそ気味に黒森からまた桑名に渡る。


「音量マーックス!ジジジジジジジジジジジジジッ!」


「おいやめろ!またクレームが来るだろ!クソガキまじで泣かすぞてめえ!」


「はいゆいな!」


 俺から逃げながら天ヶ崎に投げ、一周する。


「おいお前ら今ならまだ許してやってもいいぞ?いいか?まだ謝れば許してやってもいい」


「なんかこの人ブサイクだしうるさいからチャンネル変えましょうか。ピッ!消えろ!」


「消えるか!テレビの中の人じゃねえんだよ!誰がブサイクだ!」


『今夜は天気が良く、この夏一番の星空です。夏の星座がよく見えるでしょう』


 何度目かになるチャンネルが変わり、夜の空が映る。星がたくさん映っていた。


「みんな外出てみようよ!星が見えるってよ!」


 天ヶ崎が完全に無視してはしゃいだ声を出す。


「正座より星座なのだ!」


「よっしゃ行こうぜ!」


「待てガキども!」 


 三人とも走って外に出て行ってしまう。



 もう無視して寝ようかと思ったが外で騒がれても困る。しぶしぶ俺も外に出ると、屋根に登って、空に浮かぶ星を指さしてはしゃいでいた。


「見てみて!綺麗だね!星がたくさん見えるよ!」


「ったく。楽しそうだな」


 俺も上に上がると遠くの星を見上げる。


「あれはその昔余が救った星だ。あの緑色の触覚が生えた異星人たちは元気だろうか」


 などと黒森が独特の黄昏れ方をしている。


「うんもうその星無くなってるね。光ってるのは何光年も昔にあったもうない星の光だから。ていうかそれナメック星人だね」


「そ、それくらい知ってたし!余は何光年も前からいるし!」


「はいはい」


 頬を赤くしてむきになって言ってくる。


「桑名見えねえだろ。肩車してやろうか?」


「お前パンツ覗くからいいよ。死ね」


 冗談で言ったら中指を立てられた。


「でもほんとに綺麗だな。なんの星かはよくわからんけど」


 とうっとりしている桑名。


「あの大きな三つの星があるだろ?三角形になってるやつ。あれが夏の大三角形だ」


 俺は三人に教えてやる。


「知ってますよ!デブ、アルクケド、ピザですよね」


「全然違うね?デネブアルタイルベガね?それ歩いてダイエットするけど帰って来てピザ食べるデブだよね?」


「ああそっか、星座で言うと捻挫頓挫ピ座のやつでしたね」


「それ足捻挫してダイエット諦めてピザ食ってるだけじゃねえか!誰がさっきの続きを上手いこと言えっ

て言ったよ!はくちょう座,わし座、こと座だよ!」


「ああそうでしたね!ピ座オン座便座か!」


「それは便座に座ってピザ食ってるだけだろうが!いつまでピザ食ってんだデブは!早く走れよ!」


「ピッ座ピッ座プチョヘン座!」


 叫んで拳を振り上げる。


「もうピザはいいんだよ!うるせえから黙ってろ!」


「ああっ!今流れ星が見えたのだ!」


 綺麗な流星が光ったのが見えた。


「俺様も見たぜ!綺麗だったー!」


「一瞬だったねー。みんな願い事した?」


 天ヶ崎が問いかける。


「早すぎてできなかったのだ」


 としゅんとしている黒森。


「大丈夫!私に任せて!プリリットパロウ!」


「もうナメック星人はいいんだよ!いつからてめえはナメック星人になったんだよ!」


 ったくよと思いながら寝っ転がって空を見上げる。夏の夜の湿った蒸し暑い風が妙に心地よかった。いつの間にかさっきまでの感情が少し薄れていた。俺は横の三人を見やる。


高い所は嫌いだ。悲しいことを思い出すから。




「そろそろ戻ろう。危ないぞ」


 立ち上がり、そう呼びかけて振り返ると。


「どーん!最初はぐーじゃんけんぽんっ!」


 屋根の端から走って来て真ん中あたりで手でぶつかりジャンケンして遊んでいた。


「おい危ないって言ってんだろうが」


「はいりんごちゃん負けー!どいたどいた!」


「くっ、やはりこの平行世界を同時に移す魔眼ではダメか」


 俺を完全に無視して遊んでいる。


「知らねえからな。俺帰るからよ」


 と帰るふりをしたら聞くかと思いそう言うが誰もこちらを見もしない。


「ほんとに帰るからな!」


 めんどくさくなり屋根の縁から下の柵に向けて足を伸ばした瞬間。


「どーんっ!おおおっとお!」


 後ろから天ヶ崎にぶつかられ、落ちかける。


「うおおおおおおっ⁉」


 すんでのところで屋根をつかみなんとかぶら下がる。


「殺す気かてめえは⁉」


「すいません先輩!助かりましたよお」


「ていうかまだ俺が今にも死にそうなんだが⁉腕引っ張ってくれ!」


 三人で集まり俺の腕を引っ張る。


「ふんっ!ふーんっ!」


 しかし。小さくて力の弱いこいつらでは三人がかりで引っ張ったところで俺の体重は持ち上げられな

い。


「お、おい大丈夫かよ。全然持ち上がらねえぞ」


 と心配そうな桑名。


「ふっ。仕方ない。余の潜在能力を引き出すときが来たようだ。待っておれ。解放の儀式に取り掛かる」


「私に任せて!ふんふふーんっ!ふふふんふーんっ!」


 と天ヶ崎の周りをへんてこな踊りで回り始める。


「やってる場合か!老界王の真似はいいんだよ別に!何時間待たせる気だよ!」


「ダメです先輩!私たちには引っ張り上げられません!今私たちにできることは!」


「そうだな!人を呼んできてくれ。男の人を――――」


「そうです応援です!せんぱーいっ!ふぁい・お!ふぁい・お!ふぁい・お!ふぁい・お!」


「クソほど要らねえから早く行け!お前反省してんのかほんとに⁉」


 やべえ腕が疲れてきた。


「これは嫌ですか?じゃあこれだ!ふれーふれー!せ・ん・ぱ・い!フレフレッ!先輩!イケイケっ!先

輩!」


「そのかけ声が気に入らねえんじゃねえんだよ!おい手汗かいてきたぞ!急げマジで!」


 しかもうるせえよこいつ。またクレームきたらどうすんだよ。


「が、頑張れ一ノ瀬!」


「余の力を送るのだ!はああああああああああああああっ!よし。今余の力を送ったからな!」


 桑名と黒森も応援し出す。


「はっ!先輩!そのポーズは!まさかっ!元気を⁉みんな!空に手をかざすんだよ!先輩が体を持ち上げられるくらいの元気を分けるんだよ!」


「ドラゴンボールはもういいんだよ!普通に死にかけて柵掴んでるだけだわ!いい加減にしないとお前ら泣かすぞまじで!」


 ここで俺は気づいた。別に上がろうとしなくていいじゃねえか。下に降りればいいんだよ。足を二階の柵につければいいんだ。


「燃えろーっ!燃えろ燃えろー一ノ瀬!燃えろーっ!燃えろよっ!おいっ!」


「「燃えろーッ!燃えろ燃えろー一ノ瀬!燃えろーっ!燃えろよっ!」」


 しかし三人がかりで俺の気を散らして全力で邪魔してくる。


「おおいまじで黙れ!気が散る!いらねえんだよそれはよ!どこで体育会系の応援仕込んできた!」


「ダメだこれじゃ!まだ足りない!いい二人とも⁉私について来てね⁉」


「「分かった!」」


「ボンバーボンバー!ボボンバボンバー!ボンバーボンバー!ボボンバボンバー!ボンバ!ボンバ!あと

十回!ふうっ!」


「てめえら明らかにふざけてるな!さっきのノリだなおい!」


「「「ボンバーボンバー!ボボンバボンバー!ボンバーボンバー!ボボンバボンバー!ボンバ!ボンバ!

あと九回!へいっ!」」」


 ボンバーと言うたびに拳を空にかざしジャンプし、その振動が伝わる。


「おい揺れてる!落ちるってほんとに!頼むからやめろおおおおおおおお!」




「うるさいよあんたたちは!今何時だと思ってるの!」


 あまりの騒がしさにとうとう大家さんが一階から上がってきて怒鳴りこみにきた。


「なんでそんなところ登ってるの!」


 俺の足を掴んで引っ張ってくれる。なんとか二階に戻るとあちこち部屋の灯りが点いていて、そうとう

うるさかったことが伺える。すぐに様子を察知したクソガキ三人は隣の部屋に飛び移り、逃げて行ったようだ。


そして代わりに俺が説教され、部屋に戻る頃には日が昇り始めていた。


それからしばらくしても天ヶ崎は帰って来る気配はなく、バイト代はあいつらの懸賞金に使おうと決めたのだった。


Wanted  dead  or  alive


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