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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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64話「おぎゃおぎゃ赤たん選手権」

 数日後。暇を持て余した俺は久しぶりにバイトをすることにした。といっても単発のバイトで工場での出荷作業という単純な重労働だ。八時間も体を酷使し、夜の九時頃に家に帰ってきた。鍵を開けドアを開ける。



「……」



 誰もいない静かな部屋に、汚れてしばらく使われていないキッチン。いつかの残影が通り過ぎていく。


「久しぶりのバイトはやっぱダメだな」



 家に上がるとカップラーメンをすすりながらボーっとテレビを見ていた。食べ終わると風呂に入る気力が湧かず、衝動のままベッドの上で体を横に倒す。しばらくぼーっとしていると、気づけば夜中の一時になっていた。流石に寝ないとな。でも夏休みらしくて悪くないか。などと思いながら悶々としていると。




「みんな起きてよ!もう一時だよ!海行ってきて疲れたのは分かるけど寝すぎだよ!」

「ああっ!もうこんな時間なのだ!ひかりん起きるのだ!余たち帰って来て八時間も寝ているのだ!せっかくのお泊り会なのだから楽しむべきだと思うぞ!」

「うああ!ほんとだあ!」


 などと隣の部屋からでかい声が聞こえてきた。非常に良くないことが起きようとしている。それからご飯でも食べているのだろうか。しばらく静かな時間が流れる。しかし二十分ほど経った時。



「よーし!じゃあ誰が一番おぎゃれるか選手権はーじまーるよー!」

「「いえーい!」」


 と恐ろしいワードが聞こえてきた。



「……」



 俺は寝返りをうち無視して寝ることにした。



「では余からいくぞ!ばぶばぶばぶばぶぅ!くっくっく!なんてな。余が誰か分かるか?余はただの赤子ではない。古の戦いから蘇りし魔の者だ。この赤子の体は余がいただいた。だが案ずるな。この赤子の魂はまだ生きている。分かるな?この赤子は人質なのだ。貴様らは余を育てるしかないのだ。忘れるな。余はいつもこの赤子の中から見ているぞ。さて。んっんっんっ。おぎゃあ!」


 どんな赤ちゃんだよ。バケモンじゃねえか。。


「じゃあ次俺様の番ね。俺様ちょっとうまいよ?」


「いくよっ。ママぁ!おっぱい飲みたいぃ!んぎゃあ!んぎゃあ!おっぱいぃ!おっぱい飲みたいぃ!ママぁ!やだやだやだやだやだっ!んあーん!ひーーーーーん!ううううううううぅ!ああっ!やった!ごくごくごくごくごくっ!おいちっ!おいちっ!んーっママしゅき!」


 うるせえなこのガキはよお!なんかちょっとこなれてる感あるのなんなんだよ!こいついつも家でやってんじゃねえだろうな。


「じゃあ最後。私の番ね。二人ともちょっと私のお手本を見るといいよ。


おぎゃあおぎゃあおぎゃあ!ママぁ!んんっ。ごくごくごくごくごくっ。

げーーーっプ。あ、ママ?これダメだわ。美味しくない。ちょっとこくが強いわ。やっぱ哺乳瓶じゃだめだわ。直接飲まないと。ていうか粉ミルクは飽きたわ。これなんか違う。隣の奥さん連れてきて。あの若くて可愛い人。


あ?断られた?もう四十五にもなっておっぱい飲むのはおかしい?なにママは俺の味方じゃないの?だよね?そろそろ出て行って欲しい?は?なんでそんなこと言うんだよ。俺はママの子でしょ?産んだんだから最後まで責任もって育ててよ。牛乳じゃだめかって?ダメに決まってるじゃん。おかしい?は?何が?あのさあ今日何なのマジで。


ああーだっ!んだあっ!あっ!あっ!おぎゃああああああああああああああ!

その発狂の仕方ほんとにやめて?俺のこと怒らすからじゃん。近所でなんて呼ばれてるか知ってるかって?知らないよ。カスベイビィ?赤ちゃんおじさん?ていうかそろそろ牛乳で我慢してほしい?加工乳じゃなくて生乳だから大丈夫?何が大丈夫なんだよふざけんなよ。ああやべ。また発作起きそう。んんーーっ!おぎゃあああああああああああああ!」


「どんな赤ちゃんだよ!うるせえんだよバカどもが!」


 とうとう我慢の限界に達した俺は隣の部屋に怒鳴りつける。


「夜中から何始めてんだ!バカみたいにおぎゃりやがって!頭どうなってんだてめえらは!最後のそれに至っては赤ちゃんじゃなくてクソニートじゃねえか!何しょうもねえ設定付け足してんだてめえは!」

「何か隣で赤ちゃんおじさん怒ってません?」

「誰がカスベイビィだ殺すぞ!」


 なおも煽って来る天ヶ崎。


「いいから静かにしろ!次騒いだら分かってんだろうな!」

「なんか隣の人うるさくね?夜中から大声で怒鳴って近所迷惑考えたことないのか。どんなやつが住んでんの?」


 と桑名。


「さあどんな人だったかなあ。あっ!思い出した。たしかデブでハゲでニートで不潔でオタクのクソ陰キャだったかも。なんかいつも迷惑行為ばっかりしてて早く引っ越してほしいんだよね。なんか便所臭いし」

「殺すぞガキ!てめえこんだけ迷惑かけてるのに忘れてるどころか誰だその人間の底辺は!」

「なんか殺すとか言ってね?俺様がレスバで泣かしてやろうか?」

「いや。ここは余に任せておけ。はああああああっ!リフレクターカウンター‼よし。これでやつの攻撃は効かないどころかすべてやつ自身に跳ね返る」

「効くかそんなん!お前ら揃いも揃って俺のことをあくまで知らない体でやりたいようだな!いいか!静かに遊べ!俺の眠りを妨げるな!」


 俺は壁越しに怒鳴りつける。


「なんか言ってるぞ?どうする?」

「あああれ独り言だよ。いつも一人でなんかぶつぶつ言ってるんだよね。多分人と喋る練習してるんだよ。壁叩くと黙るから気にしないでいいよ」

「誰が独り言だ!てめえに言ってんだよ!壁叩いたら泣かすぞまじで!」

「まあ余に任せておけ。はあああああああっ!ノイズキャンセリングブロック‼よし。今この部屋にバリアを張った。これでいかなる音もこのバリアによって外には出て行かない。思う存分騒ぐがよいぞ」

「もうそれはいいんだよ!効果がねえんだよ!お前は早く寝ろ!とにかく静かにしろ!」



 そして俺は再度横になり目をつむる。五分後。




「ブブブブブーブッ♪ブブブブブーッ♪ブブブブブーブッ♪ガガガガガー♪」

「「「ふうっ‼」」」


 隣から重低音が爆音で鳴り響いてきた。


「「「オリィヤウィヤーヲ♪オリヤワヤーウィ♪オリヤワヤーヲ♪パーリイティルウィダイ♪ふーうっ‼オリィヤウィヤーヲ♪オリヤワヤーウィ♪オリヤワヤーヲ♪パーリイティルウィダイ♪あーいっ!」」」


 爆音でparty till we dieが響き渡り、ノリノリで歌ってドンドンはねて踊る音が聞こえてくる。


「うるせえ!誰がクラブで使われるEDM爆音で流して踊れって言った!俺たちみんな死ぬまでパーティーじゃねえんだよ!黙ってろって言ったんだよバカどもが!」



「レッツパーリーナーイ!」

「「ふーう‼」」


 天ヶ崎の掛け声に黒森と桑名がレスポンスする。


「続けようとすんな!犯人は分かってんだよ!どうせてめえだろ天ヶ崎!黒森と桑名は陰キャだからそんなパリピみたいなの自分からやらねえんだよ!いらねえこと教えやがって!」

「案外楽しいのだ!」

「ハマった!」


 と楽しそうな二人。


「うるせえ!感想なんか聞いてねえんだよ!そろそろ俺どころか下の階とかからもクレーム来るからな!そうなる前に黙って寝てろガキども!どうしてもやりたいなら昼やれ!」

「まじ隣のやつうるせえなあ。ひがみかよ。一人で寂しいからってよ」


 と腹立たしいことが聞こえてきた。


「まあ色々言ってたけどようは仲間にいーれてってことだからね。ツンデレさんですね先輩は」

「おぬしも一緒に遊ぶか?」


 と黒森まで気を遣ってくる。


「話聞いてたかお前ら!何で俺が悪いみたいになって、同情されてんだよ!何をどう解釈したらそうなんだよ!」

「しょうがないから一時間千円でいいですよ」

「誰が寂しいって言ったよ!泣かすぞてめえ!しかも金取るのかよ!」

「余が心が満たされる魔法をかけてやる。ハッピーマキシマムリラクゼーション!」


 黒森がまた呪文を唱える。


「お前はただ呪文っぽく習った英単語を言ってるだけだろうが!」

「りんごちゃん先輩はこんなんじゃダメだよ。もうちょっと強めの呪文じゃないと先輩の心は満たされないんだよ。いくよ?ヘロインコーカインフェンテナル!」

「強すぎるだろうがよ!全部薬物じゃねえか!心が満たされる代わりに廃人になるわ!恐ろしいボケかますな!」

「ヤクブーツはやめろっ♪」

「お前がな!」


 天ヶ崎が例の歌を口ずさむ。


「ぎゃくせーつはだけどっ♪」

「だからどうした!そんな歌詞はねえんだよ!うるせえんだてめえは!」


 何が逆接はだけどだよ。


「イチノーセもやめろっ♪」

「ひっぱたくぞ!お前こそ絶対何か吸ってるだろ!」


 どうやらハマったらしい。


「とにかく静かにしてろ!まじで次はないと思え!」


 壁を一発殴って合図すると再度横になる。



「じゃあしょうがないから別の遊びしよっか」

「なにするのだ?」


 などと相談している。


「俺様あれやりたい!」

「いいね!」


 どうやら決まったようでしばらく静かになる。俺もようやくうとうとしてきて寝れそうな頃。


「りんごちゃん見っけじん!」

「ダンッ!」


 壁がおもいっきり叩かれる。びくっとしてたたき起こされる。


「ああ!惜しかったあ!」

「クローゼットの中なんて甘いんだよ」

「今だあ!」

「ひかりん見っけじん!」

「ドンッ!」

「ダンッ!」


 今度は二連続で更に強く叩かれる。ぐぬぬぬぬっ。


「ああおっしい!くっそお!」

「やったあ!私の勝ちい!はいゲームセット!エンディングう!ミュージックスタートお!」


「おどるのすきすき♪とってもすきすき♪みんなもっ⁉」

「「すきっ!♪」」


 黒森と桑名もつづく。


「「「おどるのすきすき♪とってもすきすき♪」」」


「うるせえって言ってんだよ!じんかくのエンディングってなんだ⁉なんの映画だよ!小癪なまねしてんじゃねえぞ!なんで静かにしろって言ったやつの方の部屋の壁でじんかくができるんだよ!何が躍るの好きだバカが!てめえらまとめてマダガスカルまで島流しにしてやろうか!」


「あっ!まずい!みんな急いで私についてきて!」


 俺の小言は無視してなにやらドタバタし始めた。




「ピンポーン」


 インターホンが鳴った。こんな夜中に誰だと思い開けてみると隣のクソガキトリオだった。


「おいガキども。何しに来やがった。散々騒いでくれたなおい」

「すいません先輩。私たちほんとに悪いことしたなって気づいて、今更何ですけど謝りに来ました。説教してもらいに来ました。ここだったら他の住人の迷惑になると思うので中でお願いできますか?」


 などと三人とも塩らしい顔で反省している様子だ。


「なんか反省してるみたいだしならいいよ。めんどくせえし。まあ夏休みだし気持ちは分からなくもないしな。それ以上に眠いんだ俺は。静かにしとけよ」


 そう言ってドアを閉めようとすると。


「いいえ!私たちの気持ちがおさまらないんです!どうかせめて中の掃除くらいさせてください!お願いします!」


 と必死にドアを掴みくらいついてくる。


「なんだお前なんか気味が悪いな。ま、まあそこまで何かしたいんだったらじゃあペットボトルのラベルはがすのお願いしようかな」


 と言い終わる前には三人とも靴を脱いで中に入りこんできた。天ヶ崎は念入りに鍵とチェーンまで閉めて。なんだこいつら。桑名が静かなのも気になるしな。


「よっしゃあ!うぃー!ちょろすぎワロタ~!」

「よーし!私の最強の受け身見ててね!」

「余は水平跳びができるぞ!」


 などと口々に言いながらそのまま一直線にベッドに向かって行くとベットに登って、跳んで遊び始める。



「おおおおい!まじで人をおちょくるのも大概にしとけよガキども!話が違いすぎるだろうが!」


 と叫んでいると、再度チャイムが鳴った。こんな時間に今度こそ誰だと思い出てみると、眉をひそめて目を怒らせたおばさんが仁王立ちしていた。




「今何時だと思ってるの⁉常識ないの⁉ずーっとバカみたいに叫んで床踏み鳴らして!いい加減にしなさいよ!」


 とまくし立ててきた。


「いやあの、それ俺じゃなくて隣ですけど?」

「はい?今あなたの後ろで騒いでるわよね?この子たちで間違いないのよ!夏休みか何か知らないけど、こっちは仕事で疲れてるのにふざけんじゃないわよ!」


 俺はようやくこいつらの狙いに気づいた。こいつら誰かが苦情言いに来ることにいち早く気付いて俺になすりつけるために避難してきやがった。


「あのですね、こいつら隣の部屋で一人暮らししてる女子高校生とその友達なんですよ。俺もバイトで疲れて寝たいところを邪魔されてですね」

「はい?嘘おっしゃい!こんな小さい子が一人暮らしできるわけないでしょ!この子たちはあなたの妹でしょ!あなた大きいんだからしっかり面倒見なさいよ!適当な事ばっかり言ってあなたいい加減にしなさいよ!」

「そうだよー!ゆいなにいに大好きー!ねえねえにいに次は何して遊ぶのー?」

「りんごもお兄ちゃん好きなのだ!前世から強い糸で結ばれた兄弟なのだ!一緒に悪いやつらをやっつけるのだ!」

「俺様はお兄ちゃん嫌いだけどね!でもしょうがないから遊んでやってもいいよ!がははっ!」


 などとここぞとばかりにガキっぽく妹のふりをして全責任を俺に被せにきた。このガキどもおおおおおお!


「適当なことばっかり言ってんじゃねえぞガキども!ここぞとばかりに子供ぶりやがって!ぶっ殺すぞマジで!」

「あんた妹になんてこと言ってんの!」


 と驚くおばさん。もうややこしいよ。


「にいに、ごめんなさい。ほんとは公園で遊んでたら仲良くなって、家まで連れてきてくれただけなのに、お兄ちゃんとか言ってごめんね。でもそう呼んで欲しいって言ってくれて嬉しかった」

「りんごも妹になってほしいって言ってくれて嬉しかった」

「俺様もママとはぐれて寂しかったけど、ここで一緒に暮らそうって言われて、楽しみだった」


 などと三人で泣き真似を始める。


「つ、通報しなきゃ!」


 と慌てて携帯を取り出すおばさん。


「まったくう!三人とも冗談が好きなんだからあ!ふざけるのもいい加減にしないとおばさん驚いちゃうだろ!ほら!おばさんに騒いでごめんなさいして!すいませんでしたほんとにうるさくしちゃって!今日はお母さんが遅いからみんなで起きて待ってたんだよな!」

「そ、そうなのね。わかったわ。事情は分かったけど、これからは静かにしてちょうだいよほんとに。頼みましたよ」


 と言い残して帰って行った。






「……」


 俺はこいつらをどうしてやろうかと逡巡してながらゆっくりと後ろを振り返った。



「やったー!すごいのだゆいなちゃんの作戦大成功なのだ!」

「おいまじでゆいな天才じゃん!俺様たち怒られないで普通に帰って行ったぜ!」

「ふふーん!名付けてプリティーシスター大作戦!よーしエンディングう!ミュージックスタートお!」


「「「踊ってない夜を知らない♪踊って夜が気に入らない♪踊ってない夜を知らない♪踊ってない夜を知りたくないからあ♪」」」


 と今度はベッドの上で踊り出す。


「てめえらまじでいい加減にしねえとすりつぶすぞガキども!ことあるごとにエンディング流さなくていいんだよ!いいんだな!それが人生のエンディングでいいんだな!」

「大丈夫ですよ~。怒られるのは先輩だけですし」

「何一つ大丈夫じゃねえんだよ!お前の頭が大丈夫じゃねえんだよ!」


 俺は天ヶ崎の頭を鷲掴みするとアイアンクロウをかます。


「いだだだだだだだだだだだだっ!」



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