62話 「低燃費おかま軍団」
「さあみんな始めるわよお!集まってちょうだい!」
さっきのおかまが先生のようで、鏡台になっている壁の前に立ち、俺たちはそいつに向き合って並ぶ。
「今日は新入りが二人いるのよお!みんな優しくしてあげてねえ!」
「「はーい!」」」
「さあ先頭に来てちょうだい!私がしっかり教えてあげるから」
俺たちは一番先頭のおかま先生、酒井というらしいの目の前に立たされる。
「まずは両手を頭の上で叩きながら両膝を交互に曲げて後ろに上げて、お尻を叩く。そして次は自分のお尻を右手左手交互に叩く。そして頭をずっとぶんぶんめちゃくちゃに振り続けるの。はいワンツー♡ワンツー♡」
「なんだこのダッサいエクササイズは」
「さあ音楽流すわよ!ミュージックスタート!」
陽気な洋楽が流れ出してみんなノリノリでダッサイ動きをし始める。
「違うわよあなたたち!もっと腰とお尻を振って!足は内股で脇はしめて乙女のポーズを取るのよ!はいワンツー♡ワンツー♡」
「「「ワンツー♡ワンツー♡」」」
地獄みたいにダッサイ振付がオネエバージョンで再生される。
「ううなにこれ恥ずかしい!」
頑張って踊っている白銀が横でこぼす。
「お前は女の子だからまだいいだろうが!こっちなんか生粋の男だぞ!こんなんずっとやってたら何かが目覚めちまいそうで恐ろしいわ!」
俺も真面目にやらないと何されるか怖いからちゃんとやっている。
「さあ次は両手を広げて背中を丸めて、鳥のように舞うの!」
音楽が変わって振り付けも変わる。
「おーいこれダサいのしかねえのかよ!」
「もう帰りたいよおおおお」
隣で泣きごとをこぼす白銀。
「はい次は両手を頭の上で組んで掲げて、膝を曲げて腰を前後に動かすのよ!」
「そんなダサい動きできるか!」
俺が無視していると。
「一ノ瀬君。それ何?さっきから違う動きしてない?」
「このエクササイズはお尻の筋肉が鍛えられるうえに、腸活にもなって腸内が活性化するんだよ」
「なんで一番先頭のインストラクターの目の前でそんなことできるのさ」
と呆れ顔を浮かべている。
「おらあ!なにしてんだお前はあ!なんだその変なエクササイズは!このエクササイズは骨盤から女の子みたいになるためのものなんだよ!ちゃんとやれ!」
「なおさらできるか!恐ろしいエクササイズ生み出しやがって!しかも変なのはどう見てもこっちだろうが!」
「どうやら愛の鞭ならぬ愛のキスが欲しいようね」
背後からも恐ろしい気配を感じる。
「じょーうだんじゃなーいわよーう!ヒーハー!」
俺は死ぬ気でおかまに擬態することにした。
「何そのおかま」
と隣で引いているやつがいた。
「はいワンツー♡ワンツー♡」
「アン!ドゥー!クラァ!アン!ドゥー!オラァ!」
「可愛くねえ数え方すんじゃないわよ!誰がフランス語で数えろって言った!」
俺のおかま式掛け声が気に入らなかったらしい。
「おらあ!ラストスパート!もっと声出していくぞお!ワ“ンヅー!ワ“ンヅー!どっせい!」
「「「ワ“ンヅー!ワ“ンヅー!オンドラア!」」」
疲れてきてみんな余裕がなくなりかけ声が豹変して野太い低い声で叫ぶ。
「お前らの方が圧倒的に可愛くねえだろ。疲れてきて余裕なくなった途端変わりすぎだろ。どこの体育会系の部活だよ」
「次の曲が最後よ!」
「ヨーレローレ♪ラッフッホーィ♪ラッフッホッリ♪ヤッホホー♪ヨーレローレ♪ラッフッホーィ♪ラヒフリヨー♪」
みんなでスキップを踏んで踊り出す。
「もうそれはいいんだよ!おかまはみんなハイジ大好きなのかよ!」
「二人で腕を組んで円を描くように回るの!」
「ヨーレレイウイヨ♪ヨーレレイウイヨ♪ヨーレレイウイフーフーフ♪」
「あんたたちもやるのよお!」
と正面か圧をかけられ、しぶしぶ俺たちも腕を組んでスキップして回る。
ちくしょうなぜ俺がこんなダサいことを。白銀を見ると、羞恥のせいか少し赤面した顔があった。
「ヨーレレウイヨ♪ヨーレレーイウイフー♪」
「はい終わり!おつかれさまー!みんな一緒にー?」
「「「低燃費ってなあにー!」」」
みんなでアホみたいなことを叫ぶ。
「いやそっちのハイジだったんかい!低燃費少女ハイジの方かい!最悪だよほんとに!」
隣では白銀がへたり込んでいる。
「つ、疲れた!色んな意味で。何なのこのエクササイズは」
「ほんとだよ。このクソおかまが。俺のプライドは粉々だよ」
「誰がくそおかまだおらあ!」
すぐ目の前にいたことを忘れていた俺は抱きしめられ動けなくされると。
「じょりじょりじょりじょりじょり~」
「ぐおおお!やめろおおおおおおお!気持ちわりいいいいい!頬ずりすんなあああああああ!」
ひげじょりじょりの刑に処された。
「次はその生意気な口をキスで塞ぐから覚悟しておきなさい」
「なんて剛毛だ。亀の子タワシ並みに痛かったぞあの野郎」
「ママー!その子にハグしたいんだけどまだ?」
声の方を向くと長い行列ができていた。
「できるわけねえだろうが!何を列作って並んでんだ!胸毛引っこ抜くぞてめえら!」
「やーんあの生意気な感じしびれちゃうわー」
「分かるわ~。ああいう子に限ってチュウしたら顔赤くして黙っちゃうのよ」
「殺すぞてめえら!」
恐ろしく生々しくておぞましい会話をしている。
「はいはーい並んでくださーい。一人500円で、一回までですからねー」
白銀がお金を徴収して列を整理している。
「なに勝手に商売始めてんだてめえは!人の体で水商売始めんな!他人事だからってめちゃくちゃしやがって!お前最近遠慮なさすぎてやべえな!」
「だって男の子同士だしいいじゃないか」
「いいわけあるか!こいつらがただの男に見えんのか!」
「はーいみんなそれは最後よ!休憩は終わり!次は気になるあの子も悩殺!セクシーダンスよ!」
などとママもといおかまが恐ろしいことを言う。
「そんなもんやれっか!見ただけでも死ぬわ!」
「僕は逃げるよ!」
すぐさま白銀が逃げ出し俺も後に続く。
「待てごらああああ!」
後ろからおかまの集団が全力で追いかけてくる。
「「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」」
死ぬ気で全力疾走し、エレベーターに滑り込む。しかしドアの閉めるボタンを押してもなかなか閉まらない。
「おいおいおいおいおいおい急げ急げ急げ急げ!」
「いやあああああああああああああ!」
ボタンを連打する俺と、迫りくるおかまの集団に悲鳴を上げる白銀。
「逃がさないわよお!」
酒井がドアに触れかけたすんでのところで、ドアが閉じ切った。
「「はああああああああああっ」」
二人で地面にへたり込む。
「な、なんとか逃げ切ったね」
「まだ終わりじゃねえぞ。あいつらは今全力で階段を駆け下りているだろう」
「ううっ。怖すぎる!僕今日から幽霊より怖い存在ができたよ」
「お前はなにもされないだけいいだろ。俺なんか捕まったら終わりだ。文字通りな」
「ねえ相談なんだけど、下に着いたら二手に分かれて逃げない?その方が敵も錯乱できるはずだよ」
「この薄情者が!もれなく全員俺の方に来るだろうが!絶対お前から離れないからな!」
「じょ、冗談だよ。だってそもそもこうなってるのも僕のせいなんだしね。ほんとごめんね」
などと急に申し訳なさそうな顔をする。
「そう思うんなら今から俺の着替え取りに戻ってくれないか?」
「君その服装似合ってるからそのままここに通ったら?」
「冗談だよ。大体俺も畑に入ったんだし、ここまであいつらが執着してるのは俺のせいだ。だからまあ気にすんな」
「あはは。優しいね。僕も本当はさっき君が襲われそうなときに着替え持って来たんだ。だから大丈夫だよ」
「おいおい流石ポンコツ泥棒だな。逃げることに関してだけはすごいぜ」
「うるさいんだけど」
などと膨れ顔を浮かべている。とにかくこのダッサイ恰好をどうにかしたい俺は上から服を着る。上から着るだけなのに白銀は頬を赤くして反対側を向いている。
「お前は着替えないのか?」
「こ、こんな密室で二人きりで着替えられるわけないじゃないか!」
「ああそうじゃなくて上からでも着ないのか?こんな格好見られたら恥ずかしくないか?」
「じゃ、じゃあ上から着るから向こうむいててよ?」
と恥ずかしそうにしている。
「上から着るだけなら別にいいだろ」
「よくない!なんかダメ!」
俺の顔を押して向こう側を向かせる。
「見ちゃダメだからね?」
そう言い終わると布が擦れる音が聞こえる。なぜだ?なぜただ上から服を着ているだけなのにこんなにそわそわしてしまうのだ。
「よしいいよ」
白銀が着終わると同時に一階に着いた。扉が開くと上から低い声が聞こえてくる。
「待ってー!私まだハグしてないわ!」
「捕まえたら髭じょりじょりだけじゃすまないからねー!」
「急げ外に出るぞ!」
「今までのどの家よりも怖いよ!」
と白銀が怯えた顔を浮かべている。外に出ると日差しが全身に突き刺さり、眩しい光に構える
「こんな炎天下で走るのかよ!」
「言ってる場合じゃないよ!どこに逃げるの⁉」
「とにかく走れ!」
俺たちはひたすらに走る。しかし、すぐに後ろからおかま軍団が追いかけてきた。
「一緒にセクシーダンスやりましょうよ!」
「捕まえたらまたあのレオタード着せてやるのよ!」
「くららー!待ってー!」
「低燃費ってなーにー!」
などと訳の分からない言葉も混じっている。
「もうハイジはいいんだよてめえら!何をそんなにハイジに執着してんだ!」
しかしどんどんおかま軍団との距離は縮んでいく。
「どうしよう⁉もう追いつかれちゃうよ!」
「ちくしょうあんなバカみたいなこと二度とごめんだぞ!どうすれば―――」
この危機的状況をどう乗り越えるか悩んでいると、少し先にバイクが止まっているのが見えた。
「よし白銀!このバイク借りるぞ!後ろに乗れ!」
「これ人のバイクじゃないの⁉いいの⁉それに免許あるの⁉」
「泥棒が何言ってんだ!人聞きの悪いことを言うんじゃねえ!借りるだけだ!後で必ず返す!鍵をさしたままのバイクは乗っていいって教習所の教官が言ってた!」
「そんなこと教えるわけないでしょ!でもじゃあ乗れるってことなの⁉」
「自転車の第二種免許持ってるから大丈夫だ!」
「そもそも自転車に免許なんかないんだけど⁉第二種だから上手いからいけるとかもないし!」
目をひん剥いて凝視してくる。
「中型二輪の仮免許持ってるから大丈夫だ!」
「バイクの仮免許なんて聞いたことないんだけど!」
とこんな状況でもツッコミを忘れない白銀。
「冗談だ!ちゃんと免許はある!俺に任せろ!いいから後ろに乗れ!」
俺はバイクにまたがり、サイドスタンドを解除すると鍵を回してエンジンをかける。
「ああもう知らないからね!」
自棄になった白銀が後ろに乗っかり、俺の腰に手を回す。
「飛ばしていくからしっかり捕まってろよ!」
俺はクラッチを握るとペダルを踏み、ギアを一速に変えて発進させる。
「待てごらあ!それあたしのバイクだぞ!」
おかまの一人が鬼のような顔で向かってくるが、ギアをさらに変えるとアクセルを思いっきりひねり加速する。
「きゃああああああああああ!」
白銀が強く腰を掴み、体を密着させ捕まる。
「じゃあなバカども!バイクはお前らのママの畑の横に止めておく!低燃費っていうのはな、長い間うんこが出ないことを言うんだよ!よく覚えとけ!」
「それ燃費っていうか便秘だよね⁉」
「嘘だほんとは少ない量のご飯しか食べなくてもその倍くらいのうんこが出ることだ!」
「確かに間違ってはいないかもしれないけど世界一最低な説明だよ!こんな説明は嫌だ!」
白銀が後ろからツッコむ。
「きゃーーーーー!そんなワイルドなところも素敵よー!」
と嬉しそうなおかまたち。なんじゃこいつらもう怖えよ。おかまの群れからバイクが遠ざかっていく。
「おい白銀。ノーヘルだから警官見張ってくれ」
「わ、分かった。はあ。逃げ切ったんだね僕たち。あの地獄から」
「ほんとだよ。お前といると毎度毎度とんでもねえことにまきこまれるのなんなんだよ。ああそうだ。あとこれさっき加速するすんでのところで取った工事現場のヘルメットだ。何もないよりマシだろ」
「えー。これ汗だくのおじさんが被ってたやつじゃないの?臭くない?」
「はげたおじさんがつけてた。つけたらはげるかもな」
「えいっ!」
後ろから白銀が俺の頭にそのヘルメットを被せる。
「うおおおおおおおお!てめえ!やっていいこととダメなことの違い分かんねえのか!ほんとにはげたらどうすんだよ!」
「きゃあああ!ちょっと今落ちかけたよ!動揺しすぎだから!ほんとにはげるわけないじゃないか!」
「二度とやるなよ!」
信号待ちでヘルメットを脱ぐ。
「要らねえか?危ないからつけといた方がいいぜ」
「ありがと。君がつけたからもう被ってもいいかも」
「ど、どういう意味だよ」
「へえ⁉い、いやその、ほら!知らない人が着た服って抵抗あるけど、知ってる人がつけたものなら平気って言うかその!変な意味じゃないから!」
と頬を真っ赤にして弁解し出す。
「そう!君の頭皮にハゲパゲ菌は付着したからもう大丈夫ってこと!あれでも君にはあんまり効かないかな」
「おい?許せねえな?今すぐ俺と工事現場のおじさんに謝れ?」
「あはは。冗談だよ」
「ったくよ」
などと解放されて浮足立って会話をしているとしばらくしてさっきの畑についた。
「とうちゃーく」




