57話 「なんだこの血の量は⁉ここでいったいなにがあった⁉」
「何や知らんけど怪談するんちゃうの?」
と退屈そうな蓮。
「そうだった!しましょうしましょう!」
さっきまでビビりまくってたくせに急にノリノリになる二夕見。
部屋の電気を消して、蝋燭に火をともすと、それを四人で囲んで地面に座る。
「じゃあ始めるわよ?まずは私からね。これは私のいとこの友達の話なんだけど、その友達の子は両親が共働きで友達の子とその子の5歳くらいの妹で留守番してたんだって。そしたらね、夜中の十二時くらいにチャイムが押されて、お母さんだと思ってドアを開けて出てみたら、知らない男の人だったんだって。外は雨でレインコートを着てるの。
急いで閉めようとしたら、ドアをがって掴まれて、道に迷ったから一晩泊めてくれって言うんだって。女の子だけだしそんなわけにもいかなくて無理だって伝えたんだけど、外では殺人事件が起きてて物騒だから危ないって言って帰らないの。ドアを閉めようにも力が強くて閉められない。でも泊めるわけにもいかなくて困ってたら、起きてきた妹がその男の人を見て泣き出したんだって。それで大泣きして騒ぐから、男の人もイライラして舌打ちしながら帰って行ったんだって。そして、その後なんで泣いてたの?って聞いたら、あの男の人の背中に血だらけの女の人がかぶさってたんだって」
「ひいいいいいいいいいいっ」
蓮浦が悲鳴を上げて頭を抱える。
「ま、まあまあじゃないの。ま、まあでも俺は夜の学校でうんこしてたことあるくらいだからこれくらいじゃビビらないけどね」
「ふうん?じゃあ次トイレの怖い話してあげるわ」
「ああやっべ急に腹痛が。うんこしたくなってきたわ。これお家のトイレじゃないと治まらないやつだ。
今すぐ帰らないと」
「分かりやすく逃げ出そうとするんじゃないわよ。自分家のトイレじゃないと治まらない腹痛ってなによ」
「おいりん大丈夫かあ?怖い話中に怖がってるやつが一番危ないんやで?」
とさらに鬼畜な追い打ちをかける蓮。
「お、お前覚えとけよお」
と蓮を睨む。
「じゃあ次の話ね。これは私の中学の時の友達が小学生の時の話なんだけど、彼女の小学校ではよく人がこけるトイレがあったの。それも決まった個室の前の通路で。そしてね。彼女にはずっと見えてたんだって。女の子がずーっとそこにうずくまってるのが」
「いやあああああああああああああああっ」
また叫ぶ蓮浦。
「おいおいそれお腹痛くてうずくまってるんだよ。早くトイレ開けてやれよ。順番待ち中に限界きてるんだよ。俺も小学生の時やられたよ。みんなでトイレ占領して嫌がらせするやつな。あれやられたらうずくまるしかねえよ。いじめだよそれ?」
「違うわよ!あんたと一緒にすんな!どう考えても幽霊でしょうが!怖さをごまかすためにわざと怖くないように適当なこと言ってるんでしょ!」
「結局人間が一番怖いってオチな。はいはい」
「勝手に趣旨変えんな!そんな話じゃないわよ!いじめじゃないって言ってんでしょうが!」
「ふ、ふう」
蓮浦が少し余裕を取り戻してきたようだ。
「誰か他に怖い話ないの?あんたなんか話しなさいよ一ノ瀬」
「まあいいけど、お前、怖すぎてしょんべんちびんなよ?」
「ちびるかっ」
「これは俺が実際に体験した話で、数か月前のことだ。蓮が俺の家に遊びにきた夜の話だ。真夜中、ふと目が覚めて時計を見ると深夜2時だった。急な便意を感じてトイレへ行くと誰かが入っている。コンコンとノックをするとコンコンと返ってくる。
『い、一か。すまんちょっと長くなりそうや。ほんまに悪いっ』
とても苦しそうに蓮は言った。何かがおかしい。軽い違和感を覚えた。その正体に気づけなかった俺は、便意を我慢できそうになかったため近くのコンビニに向かった。するとどうだ。滅多に人なんかいるはずのない深夜のコンビニのトイレに誰かが入っている。違和感を感じる。
なんだ?この変な感じは。まただ。何かがおかしい。そして待つのがためらわれた俺は更に近くのコンビニに走った。だがなんと、ここのトイレにも誰か入っている。夜中にコンビニのトイレに行くことは今までにも何回かあった。だが夜中のトイレに誰かが入っていたことなんて今までなかった。なんだ。この気味の悪い感じは。まるで得体の知れない何かに誘われているような。それ以上になにかある。これとは別の強い違和感。だがわからない。
便意も限界の俺は近くの公園のトイレに向かった。深夜の公園はいつもたむろしているヤンキーたちもおらず、不気味なほど閑散としており、裸電球がチカチカと点滅している。その中でも奥の方にひっそりとたたずむトイレは、薄暗く、じっとりとしており、気味が悪く昼間でも入りたくないほどだ。勇気を出して俺はそのトイレに入った。時刻はちょうど二時を指していた。落書きだらけで荒れ果てたトイレのタイルを歩く。カツ、カツ、カツ、カツ。
そして三つある個室のうち、一番奥のドアを開ける。古く汚らしい和式のトイレが一つぽつんとある。そこでパンツを下ろし、用を済ませ、おしりを拭こうとして手を伸ばした時その時!俺は恐怖で悲鳴をあげた。トイレットペーパーが……なかった!」
「ひええええええええええええ!」
蓮の悲鳴が響き渡る。
「いやそれ怪談じゃないから!ただお腹痛くてトイレ探して走り回って入った公園のトイレのトイレットペーパーがなかっただけの話だし!」
「バカ野郎!こんなに恐ろしい話があるか!幽霊より怖いわ!」
「ていうか違和感の正体とか全然関係ないし!無駄に伏線張るな!」
「いやまだ話は終わっていない。持っていた財布から泣く泣く紙幣を取り出しおしりをふいた俺は、パンツを上げて気づいた。パンツ前後ろ逆にはいていたのだということに!」
「違和感の正体それ⁉しょうもな!あれだけ伏線張っといてよくそれでいけたわね!何を怪談風にパンツ前後ろ逆にはいていたことを話してんのよ!どうでもいいわ!しかもなんか話すの上手いのが余計にイライラするし」
「いやええわ。はじめてこいつらのしょうもない話が面白いと思ったわ」
と楽しそうな蓮浦。
「まだつづく。そして家に帰った俺は手を洗うとトイレの前を通った。するとまだ蓮はトイレに入ってい
た。疲れた俺は布団に入り、寝ようとしたその時、先ほど家にいる時に感じた違和感の正体に気づく。そういえば、蓮は十二時くらいに帰らなかったか?なら今トイレに入っているのは誰だ?急に全身に鳥肌が立ち、背筋が凍る。
俺が蓮太郎だと思っていたあいつはいったい誰なんだ?そのまま朝まで寝たふりをして過ごそうかと思ったが、どうしても気になり、本能が警鐘を鳴らしてくる中、恐る恐るトイレに向かった。ドアが少し開いていた。恐る恐る中をのぞくと。トイレの中は血でまみれており、その中に下半身を血だらけにした蓮が立っていた。そしてこう言った。
『一、ボラギノール持ってへん?きれてもうた』」
「ひえええええええええええええええ」
再び蓮が悲鳴を上げる。
「思った怖いと違うのよそれは!私が求めてた怖いと違う!」
「さすがの俺もあの血の量にはビビった。血だらけになるほどとは?一体どれほどの苦しみを?そしてこ
う言った」
「いやまだ続くの」
二夕見が呆れたようにつぶやく。
「『お前なんだこの血の量は!ここで一体何があった!』
蓮は腕組みしながらやっとのことで答えた。
『なにも、ながっだ』」
「それワンピースでしょうが!私あのシーン大好きなのに汚いパクリで汚すんじゃないわよ!」
「大丈夫や。痔は血の量が多いのはほとんどの場合痛みは伴わへん」
「誰も聞いてへんわ。しぶといなお前も。なんでその時生きのびてもうたん。それで死んだら死んだで恥
ずかしいけどな」
蓮浦が本来のキレを取り戻してきた。
「違うわよ!そういうのじゃないの!私がしたいのはそういうギャグじゃないの!いらないのそういうのは今!求めてない!怖いのが聞きたいの!」
「怖いのかあ。分かった。これならどうだ!
壊れたレバー!足りないトイレットペーパー!満員の個室!」
「やるやないかい。そんならこれでどうや!
黄ばんだ固形石鹸!詰まった便器!隣で臭いうんこをするおっちゃん!」
「ちっがう!汚いもの連呼すんな!それはあんたらだけでしょうが!あんたらの怖いはおかしい!」
「お前も張り合うなアホ!汚いねん!」
蓮浦に頭をはたかれる蓮。
「だめだこいつらに任せてたら。りん何かない?」
「う、うち?うちはちょっと無理や。そういうのは怖くて言われへん」
「短くてもいいのよ?」
「じゃ、じゃあ悪の十字架とかでもええ?」
「何それ聞いたことない!怖そう!それ聞きたい!」
ワクワクし出す二夕見。これ聞いたことないやついるんだ。
「これはな、うちの実際に体験した話なんやけど、夏休み。夜中にふと目が覚めた。なんとか寝ようとするんやけどなかなか寝られへん。ふとアイスが食べたなって冷蔵庫を探すんやけどない。呆れめて寝ようとするんやけどどうしてもアイスが食べたい。そこで夜中の十二時なんやけど近くのスーパーに行くことにした。軽く着替えて外に出ると夜やのに風がむわむわして蒸し暑い。歩くこと五分。スーパーに到着すると寂れたシャッターが下りていた。そこには張り紙が張られていて、赤い文字でこう書かれていた。
『朝十時時から夜十時時営業中』
そしてうちは呟いた。開くの十時か。あくの十時か。悪の十字架!」
「それただのダジャレじゃん!もう!りんまでふざけないでよ!」
「せやってうちも怖いの無理やもん!もう終わろう!」
なんか俺たちの時と扱いが違うなあ。納得がいかん。
「じゃあ次俺の番やな」
と蓮。
「まあ言いたいなら」
「しゃあないなあ。一分以内やぞ?用意スタート」
「なんで今日俺だけこんな扱い雑いねん!おかしいやろが!」
たしかに今日買い出しといい今といい扱い雑いな。
「まったく。ええか。これはある大学生のカップルの話や。タイトルはカエルの怨霊。ある夜、二人は田舎道をドライブしていた。カーラジオからは音楽が流れている。道脇には田んぼがありカエルの鳴き声が聞こえてくる。
ところが、だんだんカエルの鳴き声が大きくなってくる。ゲロゲロッ。ゲロゲロッ。ゲロゲロッ。二人とも不気味に思い無視していたがそれでもどんどん大きくなってくる。男はついにボリュームボタンに手を伸ばした。
女は震える声で言った。
変えるの音量。かえるのおんりょう。カエルの怨霊!」
「え?なんで急にカエルが怨霊になったん?どういうこと?途中のカエルの鳴き声が大きく鳴ってきたのと何の関係があるん?なんでこのタイミングでこの男と女はラジオのボリュームが気になるん?着眼点ずれてへん?誰か教えてくれへん?よう分からへんかった」
「分かるやろどう考えても!何で俺だけそんな厳しいねん!お前と似たようなことなんやからわからへんはずがないやろが!ダジャレやダジャレ!滑ったギャグの解説みたいなことさせんなや!」
「意味わからんかったわあ。何を言うてたんやろあの人は」
とわざとらしく首を傾げている。
「ううんっ。じゃ、じゃあ気を取り直して、次、私しようかな」
ととりなそうとする二夕見。
「いや。その前に俺にさせてくれ。どうしても言いたい」
「あんたはもういいかな。あんまり聞きたくないかも。遠慮しといて」
「これは俺のおばあちゃんから聞いた話なんだがな。タイトルは真夜中の訪問者だ」
「勝手に話し始めたし。でも怖そうだからいいか」
と先を促す二夕見。
「これは去年の夏。お盆の夜のことだ。家に仏壇があるおばあちゃんの家に親戚一同集まり、線香をあげ、みんなで雑談した後に、十二時ごろになってみんな帰って行った。みんないなくなって静まり返った家で、おばあちゃんは後片付けをして寝ることにした。しかし、どうにも寝付けない。寝苦しくて体が重い。全身汗だくになって唸っていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。無視していると、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。と何度もなる。ついにはドンドンッ、ドンドンッとドアを叩く音がする。怖くなったおばあちゃんは頭から布団を被り、震えていた。
すると、音が止んだ。数分しても何の音もせず静まり返っている。恐る恐る玄関に向かい、ドアを開けてみると、そこには、男が立っていた。おばあちゃんは喉元まで悲鳴が出かけるが、その男がその言葉を遮ってこう言った。
『コンニチハ。ワタッシノナマーエハ、ホウ・モンシャアです。おトイレお借りしてもよろしデスか?』
そして呆気に取られておばあちゃんがやっとのことで首を縦に振ると、ダッシュでトイレに向かい三十分すると出てきた。そしてホウ・モンシャアが帰った後にトイレを見ると、便器にべったりでっかいうんこがついていた。
真夜中の訪問者。まよなかのほうもんしゃ。真夜中のホウ・モンシャア!」
「誰よそいつ!まったく意味が分からないし!あんたが一番意味が分からないわよ!しょうもない話すんな!しょうもない話をさぞ意味ありげに怪談風に話すのやめろむかつくから!」
二夕見が憤慨する。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ」
蓮浦はツボっていた。
「なんでこいつより俺の方が扱い雑いねん。納得いかんわ」
と不満そうな蓮。
「私の怪談を返しなさいよ!もういい!私が話すからみんな黙って聞いてて!」
そう言って話し始める。
「これは私のお母さんの友達が高校生の時の話なんだけどね。そのお母さんの友達は高校生の頃コンビニでバイトしていたの。海の近くにあるコンビニで、よく海で泳ぎにきたお客さんや、釣りをしにきた人が色んなものを買いに来ていた。いつもは学校終わった後一七時から二十二時までなんだけど、ある日、店長にこう言われた。
『夜勤の人がいきなりやめちゃってさ、〇〇さん明日だけ夜勤お願いできない?』
もう十八歳だったのと、次の日は休みだったため承諾したその友達は、夜の二十二時からレジに立っていた。数時間経って夜中の二時ごろ。お客さんもほとんど来ない時間帯。手持無沙汰にしていると、なにやら変な音が聞こえてきた。
ズルッ。ズルッ。ズルッ。
不思議に思いながらレジをいじっている時、ふと思い出した。このコンビニで働くとき、お母さんから変な噂を聞いたことがあった。このコンビニは海に近く、海からお客さんがよく来る。でも稀に人間ではないお客さんが海から来ることがあると。まさかねと思いながら作業していると、また聞こえてきた。
ズルッ。ズルッ。ズルッ。
不気味に思い一人怯えていると、どんどん音が近づいてくる。とうとう店の入り口まで音が近づいてきて、何か黒いもので覆われた人間位の大きさのものが店の中に入ってきた。どんどんレジに近づいてくると、こう言った」
『ピッピッピー!オキャクサンコレダメネー。店ヨゴレチャウヨ。サッキそうじしたバカリダヨ。シャッチョウサン!ヘンナヒトキテルヨコレ。マタイツモノヒトダヨコレ。モウヘンナコスプレシナイデッテマエモイッタデショ!ナニカウ二キタノ?マタトイレノキュポンッテスルヤツカイ二キタノ?ソレハナイッテマエニモイッタデショ!ウンコハナガシテコワケ二シナガラスルノ!ワカッタ⁉』
「そして胸のネームプレートにはホウ・モンシャアと書かれていた!」
「いい所で変なやつ登場させんじゃないわよ!またホウ・モンシャア⁉そいつはもういいのよ!あんたどうしてくれんのよ!この後オチ話してももう怖くないでしょ!そいつのせいで完全にトイレのキュッポンってやるやつ買いに来るコスプレしたやつって頭よぎっちゃうでしょ!」
二夕見が激昂する。
「いや今のはファインプレーやったでほんまに!危なかったわー。しお!それはさすがに怖すぎるやろどう考えても!あかんよあかん!一ノ瀬君おらんかったら失禁してたレベルやぞ!」
「ていうか幽霊も一のおばあちゃん家にでっかいうんここすりつけてたやつに言われとうないやろな」
「でも今のはほんとによくないな二夕見。お前は違うからいいかもしれないが一人暮らししてるやつの身
にもなれよ?夜中にトイレ行く時とかに思い出したらどうする?公園のトイレに入った時に思い出したらどうする?もしも海藻が髪の毛によくなかったら俺はお前を許さなかったぞ」
「「じゃあええんかい」」
関西人が二人してツッコむ。
「分かったわよ。じゃあもう少し怖くないやつするからちゃんと聞いてよね。私だって別に怖いけど、仕方ないじゃないこんな時にしか話す機会ないんだから」
などと口を尖らせている。
「じゃあいくわよ?これはある森で猟師をしているおじさんの話なんだけど、ある時何か獲物を狙って茂みに隠れて待っていたの。すると目の前で一匹のバッタがカマキリに食べられたの。すると今度はそのカマキリを茂みから出てきたカエルが食べちゃった。すると更に今度はそのカエルを蛇が食べちゃった。そんな感じでどんどん食べられていく。
蛇を空から飛んできたキジが食べて、そのキジをイタチが食べて、そのイタチを鷲が食べた。そして、しめたとばかりに猟師は鷲を撃った。仕留めた鷲を持って帰ろうとしたところで、ふと思った。バッタはカマキリに食べられた。そのカマキリはカエルに食べられた。そのカエルは蛇に食べられて、蛇はきじに食べられた。そしてきじはイタチに食べられて、イタチは鷲に食べられた。そしてその鷲を食べようとしている俺は……。そう思い当たった時、すぐ後ろから気配がした。そして声が聞こえた。
『次はお前の番だ』
『パチーンッ。ワタシココ二シマース。3六歩』
『パチーンッ。それならボクはここにしまーす。2八銀。次はオマエの番だ』
『ソレニシテモこのボードゲームは面白いデスね。なんと言いましたコレ?』
『しょうぎだ』
『そう。ソレデスネ。おっとコレでどうですかオニイサン』
『それルール違反ネ』
『オニイサンもそっちゅトイレバッカイクダメネ。コマにシミツイテルヨ。ナニコレ?』
『お前もうんこばっかりイッテルよ。そっちの方が長いね。インチキ』
そう。茂みの後ろの草むらで、ホウ・モンシャアとシミニナ∸ル=ザ=ンニョウが将棋を打っていたのだ!神の一手を極めるために!」
「だからもういいってのよ!しかも一人増えてるし!誰よシミニナ∸ル=ザ=ンニョウって!誰なのよこいつらは!」
「うんこ対しっこ!勝つのはどっちだ!」
「しょうもない勝負させんな!どっちも死ね!ていうかあんたが死ね!」
とうとうキレて上履きで頭をひっぱたいてくる。
「ガラガラッ」
突然ドアが勢いよく開く。
「おいっ!」
誰かが大きい声で怒鳴る。
「「きゃああああああああああああああっ」」
二夕見と蓮浦が悲鳴を上げる。電気がついてドアの方を見ると警備員だった。
「おい今何時だと思ってる!とっくに下校時刻過ぎてるだろ!」
やっべ。バレたか。てかもうそんな時間か。
「おい逃げるぞ!」
俺はボケーッとしてる女子二人に声を掛ける。蓮はもう逃げる準備は整っていた。
「走れ!」
警備員にクッションを投げつけ横からぬけてドアの外に出ると廊下をみんなで走って逃げる。
「逃げちゃっていいの?ちゃんと怒られないとダメじゃないの⁉」
と心配そうに叫ぶ二夕見。
「その場合俺は全力でお前を売るけどな!実際部室に来たのも怖い話も全部お前が言い出しっぺだしな!」
「この恩知らず!」
「暗いのこわあ!」
二夕見の横で別の悲鳴をあげる蓮浦。
「はっはっは!楽しいなあ!」
と二人とは真逆で嬉しそうな蓮。
「まてえ!」
後ろから追いかけてくる警備員から全力で逃げる。
「待てと言われて待つかよ!」
真っ暗な廊下を走る。暗闇から抜け出そうと必死にもがくように。まだ傷はいえないけれど、それでも
今この瞬間だけは忘れていられたから。隣の二夕見の怒った顔が酷く懐かしく見たのは気のせいだと思った。




