56話 「貧乏神に疫病神に大変だな」
キレながら隣の教室まで行ってしまった。なんで友達の話で怒ってんだよ。隠すなら最後まで隠せよ。
「その私の友人についてなのだが、その子をお前は知っている」
「え?そうなのか?誰だ?ちょっと待てよ」
少し考えるとすぐに誰か思い浮かんだ。
「そうか、この前不愛想な情報屋の友人がいるとか言ってたな。お前のことだったか。白銀だろ?」
「そうだ。あの子が少し前に泥棒の仲間ができたと言っていた。ろくでもない人で意地悪ばっかりしてくるが囮くらいになら使えるかもしれないと言っていた」
「次会う時は面会室でになりそうだと伝えておけ」
「私も実際に会ってみて情報以上のろくでなしで驚いたよ。まだ会ってそこまで経っていないがもう二度とは会いたくないと思っている」
「何を言っているんだ照れ隠しが下手くそなやつだ。その程度の顔でそんなこと言われてもな。俺のこと嫌いなやつは心底嫌そうに顔を歪めるんだぜ。つまりそれ以外の顔はみんな俺のこと大好きってことだ。それに俺はむしろお前とは仲良くしたいと思っているぞ」
「最後にお前が将来ハゲる確率だけ教えておいてやる」
「おいやめろ?人を傷つけることだけを目的とした情報開示はよせ?俺の希望を根こそぎ奪い去ろうとするな?」
真顔で恐ろしいことを述べる不藤。
「大丈夫だいきなり根こそぎはなくならない。少しずつ徐々に薄くなっていくんだ」
「お前は心までただの信号になったのか?人の心まで情報に侵食されたのか?」
「安心しろ。何度も言うが私は未来のことは分からない。あくまで過去のデータから確立として数字で表しているだけだ。ただ確率としては高いということは教えておいてやる」
「うるせえ!大体お前あれだろ!思い出したぞ!この前白銀と義無邸に入った時お前の情報間違いだらけだったぞ!お前本当はポンコツだろ!俺の髪のことも適当言ってるんだろ!」
そうだよ。たしか白銀は初めて侵入先のデータをもらったから大丈夫などと言っていたが、いきなり犬はいるわ、義無の家だわ、金庫の中はリコーダーだわ、めちゃくちゃだったぞ。
「実は今その未知の事態に陥っている。私がゆきに泥棒の術を教えてからしばらく経つが、私は一度も侵入先のデータを与えたことはなかった。なぜなら情報はただではないからだ。それに私の情報屋としての勘が警告を鳴らしていたからというのもある。しかしあまりに失敗が続き、気になったため一度侵入先を調べたことがある。するとなんとありとあらゆる機械、パソコンに周辺機器がバグを起こし調べることさえできなかった。それから少しして、すべての機器を買い替え、ゆきには秘密で調べた。私にもプライドがある。
しかしだ、ゆきの侵入先のデータを調べてもなぜか正体不明のイレギュラーが発生して、対象がデータを大幅に超えた行動を起こし突如帰宅しようとして電車に乗ったり、機械の不具合で試しに送ってみたはずのデータがすり替わっていたりする。まるで目に見えない力が働いているとしか思えないほど当日には情報とは違う状態になっている。この私をもってしても介入できないのだ。神様がいたずらをしているとしか思えない。私はこれをゴッドデフィニッションポン(神の定めしポンコツ)と呼んでいる。ちなみに私は今まで多種多様な依頼を受けすべて成し遂げてきたが、こんなことは一度も陥ったことがない」
「どれだけ不運なんだよ。もはやポンコツが原因なのか不幸体質が原因なのか分からねえよ。ここまでくると超能力の領域じゃねえか。ほんとに神様が邪魔してるとしか思えねえよ。呪われてるんじゃねのかあいつ?神様は神様でも疫病神がついてるんじゃねえのかあいつ」
「ゆきは出会った時からずっとそうだった。あの異常なまでのポンコツと運のなさは私も対処が分からず、霊媒師などその手の人間をすすめたこともあったが功を奏さなかった。ちなみにお前たちが前回侵入した屋敷は機械が不具合を起こし、私が絶対によせと言っていた対象のデータとすり替わっていて、しかもなぜか十年前のデータが送られていた。金庫の中身もバグが生じて分からなかった」
「貧乏神に疫病神に大変だなほんとに。それにしてもこの最強の情報屋をもってしても止められねえのか。まあ正常にデータを送ったとしてもなんらかのドジでやらかすであろうことは置いておくとして」
いつかとんでもない事件を起こしそうだな。そう思ったがもうすでに起こしてることに気づく。お店に火つけてたしな。
「でもお前が友達の話をするなんて意外だな」
「ゆきは中学の時に知り合った。貧乏で携帯も持たず、古着ばかり着ていた彼女は、テレビやトレンド、可愛い服など周囲の話には一切ついていけず、浮いていた。私もこんなだから浮いていた。ある時体育の授業で余り物どうしペアを組むことになったのだが、それ以来私を気にかけるようになって、よく話しかけてくるようになった。
それから一緒にいることが多くなり、一緒の高校を受験した。ある時ゆきに『これからも僕と友達でいてね』と言われたのだが、『私たちは友達なのか?』と聞き返したことがある。その時泣きそうな顔をされた。それ以来私たちは友達だ」
恐らく不藤は友達が何なのか知らなかったのだろう。悪気はなかったのだと思う。大切に思っているからこんなことを話すのだろう。いいペアじゃないか。どっちも心配な性格だから本当にそう思った。
「で、今日は白銀の教科書を取りに来てあげたってわけか。あいつは何してんだ?」
「バイトに明け暮れている。ゆきはバイトで忙しくて学校にもあまり行けないし、その割には仕事も苦手であまり良い顔をされない。だからかお前とのことをよく楽しそうに話す。面白い人に会ったと。あの子と仲良くしてくれていることに礼を言う」
「そんなの俺が好きでしてることだ。あいつほどいいリアクションをしてくれるやつも珍しいしな」
きっと、不藤も白銀に救われているんじゃないだろうか。などと考えていると。
「お待たせー。あー怖かったー。ていうか窓も鍵も全部閉まってたわ。二人とも何の話してたの?」
「泥棒につ―――」
言いかけたところで不藤の視線が鋭くなる。言うなということだろう。そうか。そのために二夕見を誘導したのか。泥棒の話は秘密らしい。
「あんたとうとうスーパーのトイレットペ―パー盗んだのね。いい?言っとくけどそれも犯罪だからね?公私混同しないで気をつけなさい」
勘違いしてくれたのはいいが腹立たしい誤解をしている。
「なんか微妙な顔してるわね。なに?じゃああんたの知り合いに泥棒でもいるの?」
「え?いや、それは」
変なところで鋭くなりやがってこいつ。
「どうなのよ」
「ああっ!UFOだ!」
俺は窓の外を指さす。
「ええっ⁉嘘⁉どこどこ⁉」
すごい勢いで食いついてくる二夕見。
「あーもう消えちゃったわ」
「ほんとにいたんでしょうね?いい?次からはもっと早く教えなさいよ?」
「はいはい」
ほんとにこいつは扱いやすくて助かるぜ。
「てか何でも知ってるんなら鍵の開け方も知ってるわよね?」
と不藤にすり寄る二夕見。
「今日はピッキングの道具は持ってきていないから無理だ。壊してもいいのなら教えるが」
「それはダメよ」
とうなだれる。
「マザーしおんぬに聞けば早いぜ。あのお方はなんでも知ってるからな。なあマザー」
「ぐふうっ」
二夕見が地面に膝をつきダメージを受けている。
「もう英一くんはダメな子ね~。おーよしよし。おしゃぶりちゅっちゅできて偉いねぇ。おいちいかなあ~?そろそろうんちする?おまる持ってこようかなあ?」
などとわざとらしくお姉さんみたいにねこなで声で話しかける。
「ぐはあっ」
俺は衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。
「これあれだ。やめよう。お互い持ってる武器の火力が高すぎて大火傷負うやつだ。いいこと一つもない。喧嘩はやめよう」
「そ、そうね。喧嘩だめぜったい。お互いそのワードは禁句ね?パワーワードがすぎるわ。仲良くしましょ」
互いにバナナの皮とトイレットペーパーをくっつけて協定を結ぶ。
「そうだ俺まだプリント取ってないや。取ってくる」
「あんた何してたのよ」
と呆れた二夕見。
「私は帰る。じゃあな」
そう言って踵を返す不藤。
「またなー」
俺の挨拶に後ろを向きながら手だけで軽く合図を返す。
「俺たちももう戻ろうぜ。あいつら待ってるはずだ」
「そうね」
というわけで忘れ物を取った俺たちは部室へ戻ってきた。
「ただいまー」
「おかえり。なんかやけに長くなかった?」
と訝しむ蓮浦。
「いやあ二夕見がでっけえくそしててな。時間かかったわ」
「あんたいい加減な事言ってるとぶっ飛ばすわよ!それあんたのことでしょうが!」
キレる二夕見。
「冗談だろ。本当はお化けより怖いやつに会ってたんだよ」
「間違いないわ」
と強く頷く二夕見。
「何や知らんけど怪談するんちゃうの?」
と退屈そうな蓮。
「そうだった!しましょうしましょう!」




