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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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54話 「しおちゃんはそろそろトイレの時間じゃない?」

 しばらく泳げるようになった黒森をみんなで褒めちぎった後、黒森は帰って行った。嬉しそうに振り返りながら何度も手を振って帰って行った。


「りんごちゃんに教えてあげてたらもうこんな時間よ。あっという間だったわね」


 時計を見ると18時30分を指していた。夏は日が落ちるのが遅いからこの時間帯になっても気づきにくいものだ。


「じゃあうちらももう上がろう」

「せやな。足とかふやけてもうてるわ」

「ほんとだ」


 俺の手足もふやけていた。

「ああ楽しかった!」


 最初は恥ずかしがっていたが二夕見も楽しかったようだ。


「でも誰かさんは私の水着姿がもう見れなくて残念ね」


 などとニヤニヤしながら見てくる。こいつ人が下手にでたら調子に乗りやがって。


「なんかふやけて二十歳くらい老けたからもう萎えたわ。おつかれ」

「あら照れ隠しはしなくてもいいのよ坊や」

「プールの時だけ可愛く見えるが、その後見ると普通にブスな現象を浦島効果と呼ぼう」

「浦島効果はすでにあんのよ!ていうかふざけんな誰がブスだ!」


 キレる二夕見を引っ張って蓮浦が更衣室へと連れて行く。



 みんな着替え終わりプールから出ようとすると、出口の壁にに張り紙が張られていた。


「すまん今日友達と飲みに行く約束あった!終わったら鍵返しといてくれ!河瀬」


 と達筆で書かれていた。


「わざわざそんなこと気にしないで帰ってもいいのにね」

「ほんまにね。いい先生やな」

「なんで結婚できないんだろうな」

「不思議や」


 みんなで首を傾げる。


「じゃあ帰るか。ああ疲れた」

「夕飯食いに行くか一」


 などと話していると。


「ああっ!そうだ!忘れてた!」


 などと二夕見が大きな声を出す。


「どしたんしお」

「夏休みに入ってから一度もプラモデルのメンテナンスしてない!今からでもやってあげないときっとあの子たち寂しくて泣いてるわ」


 泣くか。どっちかと言えば人食えなくて泣いてるんだよ。


「じゃあお疲れー。またなー」


 俺は無視して帰ろうとする。


「ああ今日疲れたなー。今から掃除したら時間かかるんだろうなー。なんで今日こんなに時間あったのにやらなかったんだろう。そうか!何もしてないのにプール掃除したからだ!何でしたんだっけなあ。あーそうだたしか電話で呼び出されて手伝ってあげたんだったわ!腕疲れすぎてメンテナンスできるかなあ。誰か手伝ってくれないかなあ」


 などとわざとらしくうっとおしい言い方をして疲れたアピールをしてくる。


「わかったよ。明日補習終わったらやっといてやるよ。それでいいだろ」

「はー?あんたバカ?あんたみたいな繊細さのかけらもないようなやつに私の宝物たちを触らせるわけないでしょうが。あんたは今日私がメンテナンスする横で、私が『汗』って言ったらタオルで額の汗を拭いて、『水』って言ったら飲み物を買いに走って、『風』って言ったら死ぬ気で団扇で扇ぐの。分かった?」

「分かるかバカが!ただの召使いじゃねえか!」

「ま、まあうちも手伝ったら早く終わるんちゃう?」


 蓮浦がフォローを入れようとするが。


「ありがとね。でもこのバカはつけあがらせたらダメなの。ここで甘やかすと次からまただましてこき使うから、ここでちゃんと痛い目見せておかないと」


 俺は犬か何かか?


「ああお前は役に立たんから帰ってええで。ほなおつかれ」


 蓮浦が辛辣に蓮に当たる。


「おい何をほんまに帰ろうとしてんねん。お前先生にもう帰れって言われたら本間に帰るタイプやんな。お前は人数分の食べ物と飲み物買ってこい。ダッシュでな」


 などと無茶苦茶言っている。


「俺ガチの召使いやん」




 というわけで俺たちはこんな時間から部室にて不気味な怪物どもの手入れをしていた。


「ごめんねえこんなに放置しちゃって。寂しかったでしょ?ホコリもかぶっちゃって。今綺麗にするからねぇ。よーしよしよしよし。私も一週間も会えなくて寂しかったよお。もー可愛いなあこのこのお!あーもう好きっ!」


 横で見ていた蓮浦が引いていた。そりゃそうだ。こういうのは可愛いペットとかにやるから許されるのであって、化け物相手にやったら犯罪に近い。


「汗!」


 二夕見が一言放つ。


「はいよっ」


 俺は額の汗を拭う。


「…水!」


「はいよっ」


 俺は水分を補給する。


「…風!」


「はいよっ」


 俺は団扇を扇ぎ風を送る。


「なんで自分にやるのよ!この無能!あんたの汗拭ってあんたのこと扇いで、自分で水飲んでも意味ないでしょうが!私にやるのよこの役立たず!」


 とうとうキレた二夕見が立ち上がって怒鳴りつけてくる。こんなやり取りを繰り返しながら、主にというか全部二夕見と蓮浦でメンテナンスして、ようやくすべて終わった。




「あー終わっちゃった。楽しい時間はあっという間にすぎるわね」


 そんなに俺とのやり取りが楽しかったらしい。ちなみに蓮浦はしんどそうな顔をしていた。


「ていうかもう外真っ暗じゃない。熱中しすぎたみたいね。時間が過ぎるのはあっという間ね」

「こっちは別にそうでもないけどな」

「あんたは別に何もしてへんけどな」


 などと言い合っていると。


「お待たせー!夕飯と飲み物買ってきたでー!」


 ナイスタイミングで蓮が帰ってきた。


「お前おっそいなあ。たかが夕飯買うのになんでこんな時間かかんの?何しとったん?」

「そんなんうんこに決まっとるやろが」

「決まってへんわ!汚い手でご飯に触んな!」


 というわけで蓮が買ってきたおにぎりやサンドイッチ、ハンバーガーやドラムチキン、お茶などをテーブルに広げる。


「いただきます」


 俺がおにぎりを取ろうとすると向かいからかっさらわれる。向かいを見ると、片手におにぎり、もう片

手にドラムチキンを持った二夕見がこちらを睨みつけていた。


「グルルルルルルルッ」

「野生動物かお前は。人数分あるからそんな警戒すんなよ」


 でもこんな夕飯も楽しくて悪くないな。夏休みにしかできないことだ。


「でもこんな時間に休みの学校で夕飯食べるなんて、悪いことしてるみたいでドキドキ少しワクワクするかも」


 などと楽しそうな二夕見。


「まあ俺は放課後うんこしてトイレから出たら夜中の十一時だったことあるから安心しろ。困ったらなんでも俺に聞け」

「かっこ悪」


 一刀する二夕見。


「いつもならこの時間何しとるかなあ。テレビ見てるかな」


 と蓮浦。


「私は何してるかなあ」

「しおちゃんはそろそろトイレの時間じゃない?」

「別にしたくないわよ!あんたそれ今までで一番キモいから!史上最悪のトレハラだから!」


 とぶちぎれる。どん引く蓮浦。


「そういえば蓮太郎は来るとき誰かおったんか?」

「木山先生が残ってて、『あーなんで私こんな時間まで仕事してんだろ。生徒たちは今頃彼氏と夏祭りとか、好きな人と肝試しとかしてるんだろうなあ。あーあ隕石落ちてこねえかなあ。そうだ。私もこないだ買った白装束と五寸釘持って、山まで行ってお兄ちゃんの嫁呪ってこよ』とか言いながら通り過ぎて行ったな」

「「「……」」」


 そんな義妹まじで嫌だなあ。可哀想に。


「せやお菓子も買ってきたで。色々あるから好きなの食べや」


 とお菓子を広げる蓮。


 みんなでお菓子を食べながら、夏休み何しているかや、予定、宿題のことで盛り上がる。


「ねえねえ、夜の学校と言えばさ、やっぱり怪談じゃない?」


 と楽しそうな二夕見。俺は怪談よりお菓子をほとんど一人で食ったお前の食欲が怖いよ。


「い、いやあうちはええかなあ。そ、そうだそろそろお母さんが帰ってこいって!しゃあないなあほなうちはもう帰るわ」


 といそいそと帰ろうとする蓮浦。


「帰さないわよ。りんこういう場で一人先に帰った子は必ず先にリタイアするのよ」

「ホラー映画の見すぎだろ」


 しかし蓮浦には効果てきめんだったようで諦めて座る。一人で帰る方が怖いしな。この時間の校舎は。


「あ、その前に俺保健のプリント取って来ていいか?忘れちまった」

「あ!怪談の後だと怖いから今行っておきたいんでしょ!あーあ!英一君かわいーい!」


 などと煽ってくる二夕見。


「はい?違いますけど?またあなたですか。ただ僕は一刻も早く宿題がしたいだけですけど?やれやれこれだから君たちは。僕は勉学に忙しいので失礼しますよ」

「いやガリ勉キャラのふりして逃げようとすんな!無理があるでしょ!宿題捨ててるやつが何を言ってんのよ!エア眼鏡くいくいすんな腹立つから!」

「そういえばしおも今日生物の教科書取るって言ってなかった?」

「しょ、しょうがないわね!そんなに怖いんなら優しい私が一緒について行ってあげるわよ!」

「僕は陰キャをからかうギャルしか女性に興味がありません。ただのビッチは引っ込んでくれますか」

「誰がただのビッチだこのこじらせオタク!」


 ていうかお前もほんとは怖いの苦手なのかよ。どういうことだよ。俺はあれだよ?夜のいろんなトイレに行ったことあるから。ただ学校は苦手なだけだよ。ほんとだよ?


「さっさと行って来たら?」


 と蓮浦に呆れながら促され、俺たちは真っ暗な廊下に出た。


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