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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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48話 イカれたラーメン店主「メンは嫌いだがウーメンは好きだ」

「どないする?」


 


 俺と蓮は前々から気になっていた向かいに位置するぼろっちい寂れたラーメン屋さんを振り返る。看板は色あせており、ラの文字は上半分くらい消えかけている。




「ここしかないだろ。先生ともここで待ち合わせしてるし」

「本気で言ってるの?こんな所で作られたものを食べるわけ?」




 女子二人は軽く引いている。




「案外味はしっかりしてるっていうのがこういう店のオチだ。とりあえず入ってみよう」




 俺たちは気乗りしなさそうな二人を連れてラーメン屋さんに入ることにした。




「いらっしゃい!四名様!カウンターどうぞ!」




 店内はまあ外よりは少しましかというくらいの内装で、大将もまあ普通のかっこうをしている。




「うちはおすすめが美味しいんだけどどうです?おまかせしてみますか?」


「じゃあはい」

「うちもじゃあおすすめで」




 女子二人がおすすめを頼む。




「はいよお!麺はばりかたになってます!少々お待ちを」


「そんなんあるのか。じゃあ俺も」

「俺もおすすめでたのんます」




 俺と蓮も同じものを注文する。




「あいよ!」

「おすすめのラーメン上がりました!お待ちどう!」




 二夕見と蓮浦の席におすすめのラーメンが出される。




「あれ?思ったより美味しそうじゃねえか。やっぱり見た目だけで決めちゃいけねえな」




 隣の二夕見の席を覗き込むと透明なスープにチャーシュー、めんま、卵にねぎ、のりが乗った美味しそうなラーメンがあった。



「でも、私ラーメントラウマなのよね」




 などと少し嫌そうな顔をしている。




「おいおい一体ラーメンにどんなトラウマがあるってんだよ。そんなもん一瞬で吹っ飛ぶくらいラーメンってのは美味しいんだから食べてみろって」

「まああんたのせいなんだけどね。あんたがゲロみたいなラーメン食べさせたから苦手になったんだけど」

「おっちゃん卵トッピングで一つ追加ね!」

「無視すんじゃないわよ!」

「あれはお前が作ったんだろうが。昔のことをいつまでもねちねちと」

「あんたが作らせたんでしょ!何が昔よ!つい先月のことでしょうが!」




 うるさいやつめ。




「まあいいから食ってみろって。マズかったら残せばいい」




「……」




 せっかく頼んだし、お腹も空いているからか口に麺を運ぶ。




「ズズッ」


「どうだ?」


「おいしいかも」




 少し悔しそうにつぶやく。




「そうだろうそうだろう!ラーメンって上手いんだよ!」


「はいお待ち!おすすめラーメン一丁!」


「おっ!」




 こちらもできあがったようで、目の前に出されたラーメンを食べてみてすぐに違和感に気づく。




「いやこれところてんじゃねえか!何だこれ⁉」




 明らかに麺がおかしい。というか麵ですらない。




「いやいやお客さんがおまかせにしたんでしょ?うちのおまかせはところてんって決まってるから」

「ラーメン屋でところてん出すって何だよ!そんなもんおすすめにすんな!ていうか何で隣で普通のラーメン啜ってるやつがいるんだよ!ふざけんな!今すぐ作り直せ!」

「でもところてんになるけど大丈夫?」

「大丈夫なわけあるか!じゃあもういいよ!おすすめはいいからつけ麺出して!」

「俺はまぜ麺な」




 隣で見ていた蓮も注文を変更する。左隣の女子二人はおしゃべりに夢中で気づいていないようだ。



「はいよ!二人分あがったよ!右からつけ麺、まぜ麺、チャーシュー麺だ!チャーシュー麺はサービスね!」

「全部ところてんじゃねえかバカ野郎が!サービスは要らねえから普通のラーメンを出せラーメンを!」

「お客さん。うちはばりかたはところてんって決まってるんですよ」

「どないなラーメン屋やねん!そんなラーメン屋さん聞いたことないわ!」




 蓮もとうとうツッコミだす。




「じゃあはりがねだはりがね!はりがね出せ!」

「分かりましたよー。はいよっ。はりがねいっちょ!」




 ちょっとしてはりがねラーメンが出される。



「これはしらたきだろうが!すき焼きじゃねえんだぞ!結局硬さとか関係なくラーメン出てこねえだろうが!」

「お客さん!惜しい!糸こんにゃくでした!」

「やかましいわ!どっちでもいいんだよ!」

「ていうかお前なんで隣と内容が違うねん!隣に出してるもん出せばええねん!」

「だってお客さん。こっちの気持ちも考えてよ。女の子の口付けたあとの食器洗うのはむしろありがとうございますって感じだけど、野郎の唾がついた汚い食器なんか洗う気も失せるでしょ?便所掃除してて楽しいのお客さん?」

「ぶっちゃけたなおい⁉もはやすがすがしいなお前⁉よく客の前でそんなこと言えたなおい!」




 驚きを隠せねえよ。




「お前こんなんでトイレ掃除とかできんの⁉」

「いやいや。男児トイレは掃除したことないですよ」

「きったなこいつ!何を当然でしょみたいな顔してえげつないこと言うてんねん!洗わんかいボケ!」




 蓮の問いかけに恐ろしい返答が返ってきた。




「お前こんなんだからお客さん全部向かいに取られんねん。大体自分の性別分かってるかお前?」

「味噌ラーメンとしょうゆラーメン出せ!」

「分かりましたよ。じゃあクソラーメンと笑止ラーメンとおまけでポンコツラーメンで!」

「なんだそのバカみたいな名前のラーメンは!味噌と醤油と豚骨みたいに言ってんじゃねえぞ!ちゃんとした味のラーメンを出せ!」

「はいはいじゃあみそと塩があるけど。のりつけます?」


 男に普通のラーメンを出すのが本当に嫌なようで、歯ぎしりしながら悔しそうに言ってくる。なんなんだよこいつは。



「そうだよそういうのだよ。二種類だけ?もうないの?」

「あとは梅とおかかだね」

「おにぎりじゃねえか!誰がおにぎりの具を聞いてんだよ!ラーメンを持ってこいって言ってんだよ!のりってそっちかよ!」

「じゃあのりはいらないですねってそっちののりかい!なんでやねん!」

「こっちのセリフなんだよ!のりツッコミののりとかやらんでいいから!しょうもねえことすな!」






 とここで、遅れて河瀬先生がやってきた。




「みんなお待たせ。食べてるかな?しかし行きつけの店が急遽閉店とは残念だったあれ?君たちはまだ食べてないのか?」




 先生が俺たちだけがまだラーメンを食べいていないことに首を傾げる。




「あれ?あんたたちまだ来ないの?遅いわね。あ、おじさん。私替え玉ください。あとチャーシュー三つと卵とめんまも追加していいですか先生?」

「いいよ。たくさん食べなさい。あ、私はあっさりラーメン一つください」

「はいよ!」




 そして数分後にすぐに二夕見と河瀬先生の分が出され、先生も女子トークに加わり楽しそうにしだす。




「「おいおいおいおい!」」

「なんで当然のようにラーメン出してんだてめえは!俺たちの分はどうした!」

「お客さんたちまだいたの?」

「何で嫌そうな顔してんだよ!こっちの顔なんだよ!」

「お前ほんまになんやねん!」




 俺たちが注文に手間取ってる間に二夕見なんか食い終わってお代わりしてるからな?




「じゃあ誠意を込めた麺を出させていただきます」

「そういうのでええねん」

「まーじごめんっ☆」

「しばきまわすぞてめえは!しょうもないことすんじゃねえ!」

「ほんで誠意のかけらもないしな!」


 そろそろところてん鼻につっこんでやろうか。




「すいまめんっ」

「「やかましいわ!」」


「じゃあ分かりましたよ。こってりラーメンならちゃんと麺入れて出しますよ」

「言ったな?ちゃんと麺出せよ?」

「約束します」




 待つこと五分程。




「はいよ!こってりラーメンだよ!特別に高い油だ!エクストラバージンオイル一丁!」

「何の油入れてんだてめえは!食えるか!油の漢字が違うんだよ!」」

「じゃあハイオクとレギュラーどっちがいいの?」

「そっちの油でもないねん!車か俺らは!ガソリンじゃ動かへんねん!ガソリンスタンドかここは!」




 やばい。二人がかりでツッコんでもさばききれねえくらいこいつボケてくる。




「じゃあお客さんたち良いリアクションしてくれるから。サービスだ。脂ぎっとぎとラーメン出してあげますよ。とっておきですよ?これ他のお客さんには出さないですからね?」




 嫌な予感しかしねえよ。




「はい脂ぎっとぎとラーメンね」

「おいなんかこれめっちゃくせえな!見た目も汚いし!何の脂使ってんだ⁉」

「ほんまや!くっさ!これ何⁉」

「これは五年間お風呂に入っていないおじさんの頭皮の脂だよ。熟成ラーメンだ!」

「ほんとにとんでもねえもん出してきたなおい!これは確かに他のお客さんには出せないな⁉そんな熟成は求めてないんだよ!ぎっとぎとが汚くしか聞こえないから!」




 ライン越えたなおい!




「あかん!それだけはやったらあかんなおっさん⁉お前こんなんいつもやってんのか!」




 蓮がキレ気味に怒鳴る。




「いやいや。言ったじゃないですか。お客さんたち良いリアクションしてくれるからサービスだって。しつこいゴキブリには相応の物出さないとね。あ、お客さんたちこれサービスね。杏仁豆腐。可愛いからただで大丈夫ですよ」

「ええっほんとですか!ありがとうございます!」




 先生が一番嬉しそうにしていた。お嬢ちゃん可愛いからサービスねとでも聞こえたのかもしれない。




「お前男と女でサービス違いすぎるやろ!イカレとるわこいつほんまに!」

「お気に召さなかったですか?じゃあ背脂ベッタベタラーメンだ!」

「名前からして汚えんだよ!もう何の脂か何となく分かるしな!」

「こっちは体重一〇〇キロのおっさんの背中から噴き出た脂だね」




 などとしたり顔で説明する。




「もうおっさんはええねん!そんな汚い背脂聞いたことないねん!頭いかれてんのかおっさんこら!」

「大丈夫だよさっきとは違うおっさんだから。お風呂には一か月に一回は入るからね」

「どっちにしろ汚いんだよ!なんでまたお風呂入らねえやつなんだよ!ていうかお前とおっさんが無理なんだよ!」

「どんどん酷くなってんのほんまになんやねん!ちゃんとした脂を出さんかい!」




「そんなに食べたいの?分かったよお兄ちゃん。俺の負けだ。ほら。うちの特性ラーメン、エコラーメンだ。これは地球にやさしいSDGSとか貧困格差とにも配慮した当店自慢の一品だよ!」




 とうとう諦めたようで男にもラーメンを出すことを決めたようだ。目の前にエコラーメンが出される。




「へえ?じゃあフェアトレードの食材とか使ったり、土地に負荷かけない育て方のもの扱ったりしてんのか?」

「ええやん」

「いや?お客さんが残してった食べ残しのみで作ってるよ」

「エコがすぎるだろうがよ!どんなリユースだよ!残飯じゃねえか!飲食店なめてんのかてめえは!」

「よく見たらかじった跡あるし麺も伸び切っとるしよ!ゴミみてえなもん出しとるんちゃうぞ!」




 やっぱりそうかよ!




「うちは3Rでやらせてもらってるから。硫酸塩、リン酸ナトリウム、硫化水素」

「全部化学薬品じゃねえか!殺す気か⁉どんな3Rだよ!」

「うちは調味料によく硫酸塩使うけどねえ。隠し味にリン酸ナトリウムがいいんだよ」

「バケモンの飯作っとんのかてめえは!喉溶けて胃に穴開いてまうわ!普通に化学薬品取り扱ってるのも犯罪やしな!」




 そうこうしている間に二夕見が替え玉を食べ終わったようだ。




「すいません!ご飯もらえますか?」




 案の定残ったスープに白米を入れて食べるらしい。さっきまでお腹空いてないとかラーメンは美味しくないだの言ってた女はどこに行った。




「はいよ!どうぞ!」




 おっさんが炊飯器からお米をよそい茶碗を出す。




「ありがとうございます!あれ?あんたたちもう食べたの?早いわね」

「まだ出てねえんだよ!」

「まだ悩んでるの?銭湯行く時間無くなるわよ?」




 などと一方的に告げるとまた話に入って行った。どの水着が可愛いだの話しているのが聞こえてくる。







「お前なんでこんなあからさまに男と女で扱いちゃうねん!」

「俺はめんが嫌いなんだ」




 真面目な顔で何やら言い出す。




「じゃあなんでラーメン屋さんなんかやってんだよ!」

「ウーメンが好きだからだ」

「メンってそっちのmanかよ!うまいこと言ってんじゃねえぞ!いい加減にしないとそろそろ鍋に沈めるぞお前!」

「だが万は好きだ。くれ」

「やかましいわ!素直すぎるやろおっさん!何が万札は好きやねん!」




 もうやめちまえお前は。




「ていうかお客さんたち看板見なかったの?」

「何がだよ。見たけど。文字が消えかけてさび付いたぼろい看板がどうした」

「見て入ってきたんならお客さんが悪いよ。だってちゃんとノーメン屋さんって書いてあたでしょ?」

「ノーメン屋さんって何やねん!」

「聞いたこともねえよ!ラの横線消してしょうもねえことしてんじゃねえぞ!この多様性の時代にクソみてえな店開きやがって!」




 なぜかだんだん俺たちのツッコミに煩わしそうに顔しかめだしてるしなんなんだこいつほんとに。




「うちは男子禁制の土地だからね。こればかりは歴史上続いてることだから守ってもらわないと困るんですよ」

「聖地みたいなこと言い出すんじゃねえよ!代々こんなクソみてえなことしてきたのかてめえは!」

「うちは女はもてなし男はもてあそぶっていうスタンスでやらせていただいてます」

「「さっさとつぶれろ!」」




 流石にきりがないので俺は二夕見にメールすることにした(ちなみにラインはこの前のインターンシップで先生に交換させられた)






『この店おかしい。ラーメンこない。代わりに注文してくれたのむ』




 と打ち込み送信する。チャランと受信の音が鳴り二夕見がスマホを確認する。そして俺の方に視線を向ける。




「あんたなんでこの距離でメールなんかしてるわけ?女の子に話しかけるの緊張するのはしょうがないけど煩わしいわよ」

「口がにんにく臭いから話したくなかったんだよ」

「あっそ。じゃあ自分でしてね」

「分かった分かった分かった。冗談だって。悪かったよ。メンマとチャーシューやるから頼むって」

「それならしょうがないわね。すいません。ラーメン二つお願いします。おすすめで」




 ちょろい女が注文してくれる。




「お嬢ちゃんよく食べるね!あいよ!ラーメン二つあがり」




 ちょっとしてすぐにラーメンが出てきた。二夕見が許可も取らずにチャーシューとメンマを自分の皿に移し、なんなら嫌いなもやしは俺の皿に移している。




「やっぱ食べられないかも。あんた食べてよ」

「しょがないなー。こんなタコが作ったラーメンなんか食べたくもないがまあしょうがねえから食べてやるか。感謝しろよおっさん」

「ほんま嫌やわー。こいつ手とか洗ってなさそうやし臭そうやから怖いわー。おいおっさん。メンマ二個と卵追加」




 二人で今までの恨みを晴らして煽ってから食べる。蓮は追加でトッピングを追加する。




「はいよっ。明太子とたらこだよ」

「だからおにぎりはもうええねん!どつきまわすぞおっさんこらあ!やっと食えると思ったらそれか!」

「まああんたらが食べるだろうと思ってところてんにしといたけどね」

「「なにやってんだてめえは!」」







 結局ラーメンは諦めおにぎりを食べて店を出ることにした。




「二度と来ねえからなこんなクソラーメン屋さん」

「さっさとつぶれてまえ。けっ」




 二人で愚痴をこぼしながら先生の車に乗り込む。




「あんたたちずっと何話してたの?なんか不快にさせること言ったからラーメン食べられなかったんじゃないの?」




 助手席の二夕見、蓮の隣の蓮浦が不思議そうに尋ねてくる。




「まじで何もしてねえな。天ヶ崎連れてあの店で今度科学実験しよう」

「絶対にやめなさい」




 運転席で話を聞いていた先生がすかさず釘を刺してくる。




「じゃあ何食べたん?」

「おにぎりやな。あの店終わっとる」

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