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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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4話 「お家でヨーグルトでも食べてなさい」

「二夕見。入るぞ」


 ドアを開けて入って来たのは河瀬先生だった。


「おお!四人もいるじゃないか。良かったなこれで存続だ。一ノ瀬も和泉もちゃんと来て偉いぞ」


 河瀬先生が嬉しそうな顔をする。


「そりゃ帰ったら殺されますからね」

「よく分かっているじゃないか。そういえば蓮浦は昨日はどうしたんだ?」

「昨日は気分悪かったんで早めに帰りました」

「そうか。今日はもう大丈夫なのか?」


 先生が心配そうに蓮浦を見る。


「はい。平気です」

「なら良かった。二夕見は一ノ瀬と仲良くやっているか?」


 思い出したように二夕見に視線を向ける。


「やってるわけないです!こいつ今日も授業中トイレに行ってたんですよ⁉」

「トイレは誰だって行くじゃないか。一ノ瀬はお腹が弱いんだ。尊重してやれ。というか嫌いな割によく見ているじゃないか」

「なっ。授業中に廊下歩いていたら目立つからです!見たくて見たわけじゃありません!」

「まあすぐに仲良くなれという方が無理か。実は今日はなちょっと仕事を手伝ってほしくてきたんだが」


 河瀬先生はそう言うと申し訳なさそうに頭をかく。


「またですか?」


 二夕見がしょうがないなあと言った顔をする。よくあることなのか。


「四人とも頼む。今日が締め切りなんだ。ここは困っている人を助ける部活だろ?今日の夕飯いい所連れて行ってあげるから」

「先生それを先に言って下さい!なんだってやりますよ!」


 二夕見が急に乗り気になった。


「よっしゃ!食べ放題行こうぜ!」


 蓮も遠慮なくたかる気だ。


「ありがとう!じゃあ四人とも答案用紙見ながら採点してくれるか。点数は私が計算するから」

「いいんですそんなことして。個人情報流出じゃないですか」

「このテストは学年が違うからいいんだ。誰か知り合いのテストに当たったら隣の人と代わってくれ」


 俺の問いを適当に流した。俺はさっそく作業に取り掛かり赤ペンで丸、ペケをつけていく。


「やはり四人だと効率がいいなー」


 先生が嬉しそうにつぶやく。


「そういえば先生は何で先生になろうと思ったんですか?」


 ふと頭によぎったように二夕見が尋ねる。


「んー?まだ私が若かったころの話なんだけどな。あ、今もまだ若いか。ははは」



「「「「……」」」」



「若いよな?一ノ瀬」


 なぜか俺の頭をぐりぐりして八つ当たりしてくる。


「なんで俺だけなんです⁉若い!超若い!なんで独身なのか分かんない!」

「まったくだ。はあ。どこかにいい男いないかなあ」


 二夕見と蓮浦が可哀想な人を見る目で先生を見ている。おいやめてやれ。そんな目で見んな。


「まあ私が教師になりたいと思った理由なんて大層なものじゃないよ。ただ高校生の頃の私みたいにピリピリしてる子や居場所のない子の味方になってあげたいと思っただけさ。君たちは昔の私に似ている節がある。だからこう見えて私はけっこう君たちを好いているんだ」


 そう言って俺と蓮に向けてウインクしてきた。なんだちょっと可愛く見えたぞ錯覚か。


「先生もそっちゅうトイレ行ってたんですか?」


 二夕見が少し引いた様子で問いかける。


「違う!私が言っているのは素行不良だったところだ。私は実は繊細で乙女だったんだ。こんなに下品じゃない」

「下品とはなんだ。俺のお腹だって繊細だ。ていうかなあ、日本人はお腹弱いやつ実はたくさんいるんだぞ?全国のトイレっ子に謝れ二夕見しお!」


 俺は立ち上がると二夕見を指さす。


「トイレっ子て何よ。一人っ子みたいに言ってんじゃないわよ」

「おい二人とも手も動かしてくれ」


 河瀬先生が呆れたように言う。


「そうだったわ。今日は先生が夕飯ごちそうしてくれるんだった。先生どこ食べに行きます?焼肉?お寿司?」

「俺はラーメンがいいな。駅前のラーメン美味いですよ先生」

「はい?あんたも行く気なの?あんたはトイレで弁当でも食べてなさいよ」


 二夕見が初耳とばかりにギロリと睨んでくる。


「お前こそお腹に脂肪つけるんじゃなくて牛乳飲んで他の場所に脂肪つけろ」

「はー⁉めっちゃむかつくんですけど!何こいついつか殺す!あんたの飲み物に下剤混ぜてやるから」

「ばーか。そんなもの混ぜなくてもすでに腹下してんだよ。無意味だ」


 平気だよ。訓練してるから。毒じゃ死なない。


「まあ落ち着け二人とも。私はお金使う機会がないからたくさん貯金してある。どこでも連れてってやるぞ」

「なんでお金使う機会ないんです?」


 二夕見が不思議そうに尋ねる。


「しー!しお。それは一緒に出掛けてくれる男の人がいないからや」


 蓮浦が小声でフォローする。


「違う!仕事が忙しいからだ!私がその気になればいる!たぶん。きっと……。いるよね?」


 しかし聞こえていたようで、最後は縋るように俺に問いかけてきた。大丈夫。まだアラサーだから何とかなる。たぶん。


 その後も採点の作業を続け、終わるころには窓の外は日が沈もうとしていた。



「よーし終わった。みんな助かった。ありがとう。じゃあ一旦家に帰って十九時に駅前に集合でいいか?」

「やったー!食べまくるわよ!」


 二夕見が立ち上がると両手を上に挙げる。


「まったくしおは相変わらず食べるのが好きやな」


 蓮浦が仕方ないなあといった顔で見る。


「結局何食べに行くか決まったのか?」


 河瀬先生が問いかける。


「とりあえずお腹に優しい食べ物がいいですね。辛いの以外で」


 辛いのダメ絶対。


「うるさいのよあんたは。てかだったらラーメンなんか脂っこくてお腹に優しくないじゃない。お家でヨーグルトでも食べてなさい」

「バカ野郎!ラーメンは例えお腹を下そうが食べる!それが漢の心構えだろうが!」

「よく言った一!そしてお前はいつもトイレで後悔するまでがセットや」


 蓮とはよくラーメンを食べに行くので把握済みだ。


「何で私今怒られたのかしら。とにかくラーメンは嫌よ。寿司にしましょう!お寿司食べたい」


 二夕見が納得がいかないといった様子で首を傾げる。


「私も寿司食べたくなってきたな。よし。寿司にしよう。ラーメンはいつでも食べに行けるだろ?好きなだけ寿司食べていいから回転寿司にしよう」

「まあ寿司でもいいですけど」


 ウニとか食べなければ問題ないだろう。


「よし決定だな。遅刻するなよ」


 先生の言葉を合図に俺たちは部室を出て解散した。


 

 家に帰り風呂に入ると、私服に着替え家を出た。俺は二階建てのアパートに一人暮らししている。トイレを占領しすぎた結果家を追い出され今に至る。


 

 十分ほど歩くと駅に着いた。十九時十五分前に着いたがまだ誰もいないようだ。駅前は会社帰りのサラリーマンが行き交っていた。


「げ。あんたしかいないの?」


 五分程すると二夕見が来た。白い長袖の刺繍がされたブラウスにベージュのスカート、レギンスを履いていた。こいつは黙っていれば可愛いのにな。


「みんなそろそろ来るだろ」


 二夕見は俺から少し離れた所に立つと、スマホをいじり始めた。


「お、二人とも早いな」 


 五分程したところで女の人の声がした。振り向くと河瀬先生だった。いつもは体育教師らしいジャージで適当な格好をしているのに、今日の先生は白いTシャツの上に紺のジャケットを羽織り、淡い水色のストレッチパンツとカジュアルな格好だった。


 特に白T一枚では隠し切れない胸元が強調されており、色気が漂っていた。


「先生なんかカッコイイし、可愛いです!色気すごいし!」


 二夕見が河瀬先生を見て目を輝かせていた。


「ふふそうか。ありがとう。二夕見もあと数年したらこうなると思うぞ」

「ほんとですか⁉」


 ふん、そうか?とてもそうは思えんが。俺は河瀬先生のボリューム満点の胸元を見た後、二夕見のすかすかの胸を見て鼻で笑った。


「ふん」


 まるでぺったんという効果音が付いてきそうな胸だ。


 突然右足のつま先に鋭い痛みが走る。


「いたっ!」


 足元を見ると二夕見が俺の足を踏みつけていた。


「何すんだ!」

「あら失礼?踏んだかしら?後で洗わなくちゃ」


 まるで道に落ちている、誰かの口から吐き捨てられたガムを踏んだかのように靴の裏を確認している。


「このアマぁ!」

「何よやるの?」

「やめないか二人とも駅前で」


 言い争っていると遅れて蓮がやってきた。


「悪い遅くなったぜ」

「まじで遅えよ」


 遅刻じゃねえか。


「和泉お前あんなに遅刻しないように言ったのに遅刻するとは、お前は今日自腹で払わせてやる」

「そんな酷いっす先生!」


 蓮が抗議しようとする。


「てか先生も今来たばかりだから人のこと言えないけどな」

「そうよ。それにりんはどうするんですか」

「女子は準備に時間がかかるものだから仕方あるまい」

「ごめん待たせた?」


 蓮浦が小走りでやって来た。


「お前超遅えよ。どんだけ待たせんねん。あかん足疲れてもうた。もう寿司屋まで行けんかもしれん」


 蓮が地面にへたり込むふりをする。


「い、いやだから謝ったやん」

「いや本当はこいつは今来たばっかだしこいつも遅刻だから」


 俺が種明かしをすると、


「何やねんお前きっしょいな。お前だけ別の店行け」

「嫌ですー。同じ店行きますー。なんなら向かいの席座りますー」

「お前だけトイレ籠っとけカス」


 ていうか二夕見は来るの早かったから女じゃないってことか。


「よしこれで全員揃ったな。それじゃあ回転寿司に行くか!」


 河瀬先生が嬉しそうに言う。


「先生、なんかカジュアルでかっこいいですね」


 蓮浦が河瀬先生の格好を褒める。


「ふふ。ありがとう。蓮浦こそ…。ちょっと大きくなったんじゃないか?」

「そうですか?」


 二人の横で二夕見が歯ぎしりしている。


「えっと、二夕見もちょっと背とか伸びたか?」


 河瀬先生が無理矢理二夕見を褒めようとする。


「別に一ミリも伸びてませんけどね。背とかってなんですか?その明らかに話題をそらして無理矢理褒めるところ探してる感じなんですか?」

「い、いや、そんなことないぞ?なあ一ノ瀬?」


 いや俺に振るなよな。


「見苦しいぞ二夕見。八つ当たりはやめろ」


 俺ははっきり言ってやることにした。すると二夕見に無言で石を投げつけられた。


「あ、先生あいつ石投げてきました。八つ当たりしてきます」

「いやこれは自業自得だな。だが通行人に当たると危ないからやめなさい。一ノ瀬に当たるぶんには構わんが」


 俺はいいんかい。


「ふんっ。さっさと行きましょうよ。今日はやけ食いよ」


 二夕見はそう言うと一人歩き始めた。蓮浦と先生が後に続き、俺たちもそれに続き、最後尾を歩く。


寿司屋に着くと、二十時近くのためかカップルや家族連れで混みあっていた。しばらく待たされ席に案内された時にはみんなもう空腹だった。


「あーもう腹ペコ!先生私遠慮しないで食べまくるからね⁉」


 二夕見が流れていく寿司をまるで獲物を見つけた肉食動物のように鋭い目つきで追っている。


「はは。任せなさい。ないとは思うが万が一足りない場合は一ノ瀬からひったくるから」

「なんで俺何ですか。ていうか先生ボーナス使う機会なんてどうせないんだから足りないなんてことないで…」

「デリカシーのない口はこの口か?」

「いだだだだっ」


 河瀬先生に頬をつねられる。


「お前には卵しかとってやらんからな」


 機嫌を悪くした先生はお皿が流れてくる側に座っているため鬼畜な嫌がらせをする気だ。ちなみに二夕見は俺たちの話など聞かずに流れてくる皿を片っ端から取って食べ始めている。


 二夕見の隣に座る蓮浦は仕方ないなーといった顔で笑いながら、みんなの分のお茶を入れている。俺の左隣の蓮は座り心地が納得いかないらしく何度も座り直している。


「ほら一ノ瀬。遠慮せずたくさん食えよ」

「ありがとうござ…ってほんとに卵かよ!おい二夕見。お前いっぱい取ってあるだろ。なんかくれよ」

「いいわよ。はい」


 二夕見が素直に皿を渡してきた。と思ったら。


「食い終わった皿寄越すんじゃねえよ!この食いしん坊野郎が」

「あ、ごめんごめん。それ空だったわ。どうぞ」


 そう言って今度はちゃんと中身のある皿を渡してきたと思ったら。


「なんだよくわかってんじゃねえか。っておい!エビのしっぽしか入ってないんだが⁉ごみ入ってない分さっきの方がましじゃねえか!」

「あ、りんちゃんと食べてる?ほら、とろとイクラとサーモン」

「ありがとうしお」


 これ見よがしに蓮浦に寿司皿を渡す。横では蓮がまだそわそわしていた。


「お前はいつまでそわそわしてんだよ!クッションはどうした」

「いやそれが忘れてもうた。この椅子マットのくせに硬いわ」


 落ち着きのないやつめ。ていうか寿司屋に来て卵しか食えないとかどういうことだよ、と思いながら通り道をはさんだ隣のテーブルを見やると、見知った顔の女性と彼氏らしき男性が腕を組んでいるのが目に入った。




「もう全然しょうこと会ってくれないから寂しかったよー。聞いてよ今日職場でね生徒にきついって言われたんだよまじひどくない?ねえ慰めて~」


 木山しょうこ(二九歳)が甘ったるい声を出して隣の男に甘えまくっていた。うっわきっついもん見てしまった。ていうか絶対に会わせてはいけない二人がなんで同じ寿司屋の隣のテーブルに並んでいるんだよ。


「おいしょうこ。お前ももう二九なんだからいい加減彼氏作って兄離れしろよ。いつまでも俺に甘えるな」

「やだやだ!しょうこお兄ちゃんと結婚する!お兄ちゃん彼女作ってないよね⁉」


 いやお兄ちゃんだったんかい!うわきっつ。えっぐ。えぐいて。


「今日はそのことを話そうと思ってきたんだよ。実はお兄ちゃん彼女できたからこれからはしょうこと会う時間も減るかもしれないんだ。今度紹介するから。あ、もうこんな時間か。これから彼女と待ち合わせだから帰るな。お前も早く彼氏作れよじゃあな!」


 きつすぎるだろあの人。とんでもねえもん見ちゃったよ。その人も連れて帰ってくれ。


「あっ。待ってよお兄ちゃん嘘でしょ⁉お兄ちゃんはしょうこと結婚するんじゃないの⁉」


 一人残された木山先生はショックから放心状態だったが、しばらくす


「やってられっかくそが!」


 と言って焼け食いを始めた。女三人は何やらおしゃべりに夢中で先生に気づいていないし、蓮はまだおしりの感触が気に入らないらしい。




 その時、焼け食いしていた木山先生が唐突にこちらを見た。目が合った。


「あら奇遇じゃない一ノ瀬君と和泉君」


 木山先生がこちらのテーブルに近づいてきた。


「何だしょうこ。一人で回転ずしか?」


 木山先生に気づいた河瀬先生が皮肉を言う。


「あら河瀬先生いたんですかー?全然気づきませんでしたー。なんか男臭い服装ですね」


 河瀬先生のこめかみがぴくぴく痙攣する。ちなみに二夕見と蓮浦はげっという顔をする。


「私も混ぜてもらっていいー?和泉君席向こうに移ってもらえるかな?」


 などと言って座ろうとしてくる。


「いやっすよ。先生が向こう行けばいいやないですか」

「〝あ?今日は私機嫌悪いぞ?どけ?」


 低い声で蓮にしか聞こえないように耳元でささやく。隣にいた俺にはしっかりと聞こえた。


「はい。どきます」


 蓮は今日の木山先生を怒らせてはいけないことに勘づき、すぐさまどいて避難した。そして俺の隣に来ると、再び低い地声で耳元でささやいてきた。


「ていうことはさっきのは君しか見ていなかったということか。分かってるよね一ノ瀬君?しゃべったら殺すから」


 コクコク。やっべこの人怖すぎるだろ。ぶらこんこわい。


「ちょっと二夕見さん、お酒頼んで。飲まなきゃやってられないわよ。てかこの集まりは何の集まりなの?」

「これはまあ新入部員歓迎会みたいなものだ」


 河瀬先生がすかさず噓を吐く。


「河瀬先生には聞いてないんですけど」

「お前こそ一人で回転ずし来るなんて寂しいやつだな」


 空気がひりつき始める。


「はい?一人じゃありませんけど。男の人と来ましたー。ねえ一ノ瀬君、私さっきまで彼氏と一緒にいたわよね?用事で帰っちゃったけど」


 とてもいい笑顔で、でもその裏には分かってんだろうなという意味をはらんでいそうな表情で俺を見つめてくる。


「はい。確かにさっき男と一緒にいました」

「あれ?河瀬先生は男子生徒以外の男の人とご飯食べたりしないんですかー?」

「ぐはっ」


 木山しょうこ(29)の攻撃が河原めぐみ(29)にクリティカルヒットした。


「な、なんだと。こいつにだけは負けないと思っていたのにっ…」


 木山先生が満足げにほくそ笑んでいる。


「わ、私はよく男性の先生に食事誘われるし!この前だって池田先生に誘われたから!断ったけど」

「はん。あんなはげに誘われたから何なんです?私だってこの前誘われましたから。勿論断りましたけど」


 二人ともよくやった。池田ざまあ。


「ぐぬぬ。ていうか本当にそれは彼氏だったのか一ノ瀬⁉なんかこいつと顔似てなかったか⁉どうせまたお兄ちゃんを呼び出して甘えてたんだろ29にもなって!そして帰られたんだろ」

「ぐはっ」


 今度は河瀬先生がさきほどの攻撃のお返しをする。しかも当たってる。


「いやまあ確かに似てたような気が…」

「似てなかったよね一ノ瀬君⁉」


 左から強い力で腕を握られる。


「似てただろう一ノ瀬⁉」


 右からは更に強い力でもう片方の腕を握られる。


「いだだだだだだ」


 二人ともなんつうバカ力だよ。何で俺はこの二人に挟まれてしまったんだ。向かいの三人は巻き込まれないように知らんぷりして黙々と寿司を食べている。


「知らねえ!俺を巻き込まないでくれ!ていうか誰か席代わってくれ!」


 結局その後も二人は俺を挟んで言い合いを続け、俺は卵一皿しか食べられなかった。ちなみに二夕見の前には山のような皿が詰まれており、しかもデザートのアイスまで食べていた。


 回転ずしを出る頃には二十二時近くになっていて、先生二人に寄り道せずまっすぐ帰るよう言われ解散した。女子二人にはタクシー代まで渡していた(最初は俺たち二人に送らせようとしたが女子二人が全力で拒否しだしたためタクシーになった)。




 帰り道、駅でタクシーを拾う蓮浦と二夕見を送るため俺と蓮との四人で駅に向かって歩いていた。


 そしてその時、誰かがあの呪いの言葉を言った。


「ねえ、なんか臭くない?」


 

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