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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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44話 ここで一句 「焼き肉屋 化学実験 大惨事 パンツいっちょで ああ滑稽なり」 字余り

 白銀の話を聞こうと思ったがこいつの話は重すぎるし話すのも嫌だろう、聞くのも嫌だし。と思ったが


「白銀先輩はどうなんですか?」


 天ヶ崎が聞いてしまった。


「僕は中学生の時に両親が借金残して僕を置いて夜逃げしちゃって、それでアルバイトもできないし、泣く泣く泥棒を始めて、高校生になったらアルバイトも初めて、でもなかなか返せずに貧乏一人暮らしを続けて今に至るって感じかな。ごめんねなんか重くて」

「「……」」


 まじで重えよ。天ヶ崎が胃もたれしちゃってゲロ吐きそうになってるよ。それはマジでやめろ?


「で、でも支えてくれた友達がいてね、どん底ってわけでもなかったんだよ!今だってね、ほら、君が僕をめちゃくちゃに振り回してくれるおかげで楽しいしね」


 などと少し頬を赤くしながら恥ずかしそうに言う。


「お、おう。そうか。ならよかったけど。これからはもっと頑張っちゃおうかな」

「うんやめてね?それ以上はほんとに犯罪だからね?何なら今でもけっこうギリギリだから」

「犯罪者に言われたくないんだよなあ」


 俺のつぶやきに白銀はくすくす笑っている。


「でも見放されたかもしれねえけど、ネガティブに見すぎることもないと思うぜ。周りより一足先に大人に近づく良いチャンスだと思えばいいんだ。俺も精神的に成長した気がするしな」

「それ分かるかも。僕も一気に大人に近づいた気がする。頼れる人がいないし、自分のことは何でも自分でやらなきゃいけないからしっかりしないといけないしね」


 白銀がうんうん頷き。横の天ヶ崎はボケーとしながらジュースを飲んでいる。


「やっぱり一人暮らしって大事だよな。なんていうか大人になった気がする」

「うんうん。みんな気楽で楽しそうっていうけど家事とかけっこう大変だし、ご飯とかもめんどくさいよね。あと一人だとやっぱり寂しいよ」

「それは分かります。誰かと話したくなりますよね。あとこの季節は怖い話とか見ちゃうと夜寝る前とか、トイレ行きたくなった時とか怖いですよね」

「分かるわ。cmで流れるだけで怖いよな」


 だから俺はできるだけ夏はテレビつけないようにしている。


「僕テレビないからわかんないや」

「「……」」


「ま、まあでも最近は若者のテレビ離れはすすんでるらしいしな。要らないって言う人もたくさんいるくらいだ」

「そうですよ。あんなものなくても今はスマホ一つあればなんでも見放題な時代ですしね!」


 話についていけなくなった白銀が急に悲しそうな声を出し、俺のフォローに天ヶ崎が続く。


「僕スマホないからわかんないや」


 おいばっか余計しおらしい感じになっちゃっただろうが!


「ま、まああれだよな。一人暮らしと言えばお風呂だよな!後がつっかえたりしないから何時間でもあったかいお風呂つかりたい放題だ!」

「僕お湯代もったいないからバスタブにつかったことないや」


 更にしょんぼりしだす。おいこいつめんどくせえよ。何言っても地雷踏むんだけど何なのまじで。


「あ、あれだよな!ご飯作るのめんどくさいし買って済ませるよな!」

「ですです!スーパーとかでタイムセールしてたらテンション上がります!」

「僕いつも会場間違えてタイムセール間に合ったことないや」


 まじでなんなんだよおい。どんだけポンコツなんだよ。天ヶ崎も口あんぐり開けてるぞ。こいつもこんなやつには初めて会ったらしい。


「お米とか麺とか迷いますよねー。たまにサンドイッチとかナンとかパンも食べたくなりますしね」

「分かるなあ。お米炊いた方が美味しいんだけどけっこうめんどくさいんだよな」

「僕主食もやしだからよく分かんないや」

「「……」」


 どんよりとした空気が流れる。


「す、スープとか作っても一人で飲みきれないしなかなか飲む機会ないよなー。おかずも実家だと何種類もあるんだけど、一人暮らしだと二種類あるだけで豪華だよなー」

「それです。けっこう食細くなりますよねー」

「僕主食もスープも主菜も副菜も漬物も全部もやしだからよく分かんないや。物心ついたころからいつもお腹空いて夜眠れないから食が細くないときとかよく分かんないや」

「「……」」


 おいこいつほんと何なの⁉この国の貧困格差は一体どうなってんの⁉国家は一体何をしている!ていうか何か鬱のスイッチみたいなの入ってない?大丈夫?


「あ、ごめんねなんか空気悪くしちゃって!でも最近は色んな雑草公園で調達して食べてるから割とレパートリー豊富なんだよ」


 余計悪化してる気がするんだけど。結局草と根っこしか食べてないんだけど。ていうか空気余計悪くなってるから。全然フォローできてないから。





「ううんっ。まあ気を取り直して!なんか豊富とか聞かせてくれよ。今後どういうことを成したいとか。

憎まれっ子同盟の結成目的は世に憚ることだからな!」

「そうですね!私はですねえ」


 無理矢理テンションを上げた俺に天ヶ崎が乗っかってくる。


「天下一武道会で優勝することですね。どいつもこいつも張り合いないのでいい線いってたやつには私の奥義ゲロゲロ波を教えてあげます。もしくは道場を開いて見込みのあるやつらに教えてあげるのもいいですね。いずれ地球に攻めてくる悪いやつらを亀仙人のじっちゃんに教えてもらったこの技で倒してやっぞ!おらわくわくすっぞ!」

「バケモノを大量生産しようとすんじゃねえ!もうドラゴンボールはいいんだよ!いつまで引っ張ってんだ!お前は成敗される側だからこれ以上危険思想を持つな!あとそんなゴミみたいな技修得するのアホだけなんだよ!」

「そういう先輩は何なんですか?」

「俺か?俺はこの国の国王になってトイレ至上主義国家を建立する。国中のすべての予算をトイレに使い、国中の企業がより快適なトイレを目指してサービスや設備を開発する。仕事や授業よりトイレを優先し、トイレの前でたむろするヤンキーを駆逐するトイレ機密部隊を組織する。言うまでもなく貨幣の代わりにトイレットペーパーを流通させる。まあ初めはその程度の改革とも言えない当然のことをするだけだな。その後が本番なんだがな―――」

「もういいから!それ以上聞きたくないよ!君よくゆいなちゃんのこと悪く言えたね⁉君が一番ヤバいから!まず初めに言わせてもらうけどこの国は民主主義国家だから!王様とかいないから!そんな狂った独裁国家は一日で滅ぶから!トイレだけ綺麗ですべての施設・サービスがなくなって一気に衰退していくから!」


 白銀が息もつかずに一気にまくしたてるようにツッコむ。


「何だよ俺のユートピアにケチつける気かよ」

「最悪のディストピアだよ!」

「先輩バカじゃないですか?」


 あの天ヶ崎がバカにしたように言ってくる。


「じゃあお前はどうなんだよ白銀。どんなことを成すんだよ」

「そ、そうだね。僕は道端に生えている見向きもされない雑草から、未だ発見されていないすごい効用を持ったものを見つけて世の中に広めたいな」

「へえ。いいじゃん。あ、肉焼けたぞ」

「ほんといいですね。あ、ちょっと焦げてますね」

「二人して鼻ほじりながら言わないでくれるかな⁉網の上のお肉しか見てないよね⁉何も聞いてないよね⁉何でまともなこと言ってる僕が一番扱いひどいのさ!」


 白銀が心外そうに主張する。


「実につまらんな。退会させるか」

「ほんとにつまんないですね。こんな小物はクビにしましょう」

「言っておくけど君たち二人がおかしいんだからね⁉僕が普通だから!何なのこの人たちほんとに!」


 怒りながら肉を口に詰め込むが、一瞬で幸せそうな顔になり機嫌が戻る白銀。そしてその隣の天ヶ崎が網の上から肉を取ろうとするが


「パシッ」


 俺はその手を払う。


「何ですか先輩何で私はダメなんですか!」


 不服そうに抗議してくる。


「お前は食いすぎだし特A肉を勝手に頼んだ罰としてこれ以上肉は食わさん。泥団子でも食ってろ」

「むう。これだから先輩はモテないんですよねー」

「うるせえ」

「そうだ!モテると言えば!私最近好きな人ができたんですよ!」


 急にどうでもいいことを思い出す天ヶ崎。


「ええ⁉聞きたい!だれだれ⁉」


 白銀が興味津々といった感じで食いつく。女子はすぐ恋バナだよなー。で?誰?何て名前の動物なの?


「少し年の離れた紳士なおじ様なんですけど、私が欲しい物買ってくれるんですよ!」

「パパ活じゃねえか」

「ちょっと同級生じゃ子供すぎるっていうか、話にならないっていうか」


 こいつ引っ叩いていいか?


「話にならないっていうか話にされないんだよお前は」

「もう。そういうこと言ったらダメだよ君は。でも、そ、それやめておいた方がいいんじゃないかな?ど、どんな人なの?」


 白銀がドン引きしている。


「医者ですごい経歴の持ち主なんですよ。なんて名前かは忘れたんですけど、不治の病だった病気のワクチンを作ったんです!」

「すごい!いい人なんじゃない?でもパパ活はどうかと思うんだけど」

「でもちょっとケチで安いものしか買ってくれないんですよ。だからその人とは別に好きな人がいるんです!本命はこの人なんですよ!ほんとに大好きで!」

「キープすんじゃねえよ」


 何でも買ってくれたら好きになんのかよ。なんだこいつ。


「その人もちょっと年の離れたおじ様なんですけど、得の高そうな顔つきで、私が欲しいって言ったものなんでも買ってくれるんですよ」

「だからパパ活じゃねえか」

「そ、その人はどんな人なの?」


 白銀も呆れてるじゃねえか。恋バナかと思ったら新しいバイトの話だったもんな。


「なんか思想家とかで、有名な本を書いたらしいですよ。大ベストセラーで、私は忘れたんですけど知らない人はいないと思いますよ」

「知らねえんじゃねえか」

「でもやっぱり女子高生に手を出すおじさんたちはちょっと信用できないよね」

「おじさんしか相手にしてくれねえんだろ。てかなんかどいつもこいつも聞き覚えがあるんだよな。なんでだろうな」


 なんか引っかかるんだよな。どこかで聞いたことがあるんだよな。


「二人ともかみが薄いですからね。シンパシー湧くとか」

「なわけあるか!」


 誰がハゲだ!


「名前は何ていうんだ?」

「英世と諭吉です」

「お札じゃねえか!そりゃお前は大好きだろうよ!みんな大好きだしな!金使うことをパパ活みたいに言ってんじゃねえよまぎらわしいな!てか髪が薄いっていうか薄い紙だろうが!真面目に聞いて損したわ!」


 想像の斜め上をいきやがって!


「何を言うんですか!純愛ですよ!」

「そんな卑しい愛があるか!下心むき出しだろうが!」

「ほんとにゆいなちゃんは…」


 白銀も呆れかえっている。


「でも今は別にいい男見つけてて、そろそろ英世と諭吉は捨てて柴三郎と栄一に乗り換えようと思ってるんです」

「そろそろ使えなくなるからな!」

「あ、汚い方の英一じゃないですよ?私が好きなのは役に立つ方の栄一ですから。ごめんなさい」


 などと言って頭を下げてくる。


「誰が汚い方の英一だ!しばき回すぞ!なんで俺が振られてんだよ!」

「でも渋沢の方の栄一は綺麗で高価な紙だけど、ダメな方の英一は汚い紙しか持ってないもんね」


 白銀も乗っかってくる。


「共通点なんて薄いところだけですよね」

「「はあ」」


 などと二人して俺を見ながらため息をつく。


「うるせえ!ダメな方ってなんだ!人の顔見て溜息つくんじゃねえ!しかもまだハゲてねえし!」

「あはは。冗談だよ」

「え?」


 舌を出してみせる白銀と真顔で隣を見る天ヶ崎。よし。こいつはマジで後でしばこう。





「お待たせいたしました。特A肉のセット一人前でございます」

「「おおおおおお!」」


 二人が運ばれてきたキラキラの肉を見て歓声をあげる。俺は普通に今からでもキャンセルしたいくらいだがな!どうすっかな。しばらく白銀と一緒に雑草集めか?


「「ありがとうございます!」」

「はあ。あざす」


 二人して元気いっぱいだ。ていうかこいつらめっちゃ食うなおい。


「早く焼きましょう早く!」

「じゃあ僕飲み物入れてくるね。二人の分もついでに入れてくるよ?」

「悪いな。じゃあコーラを頼む」

「私はオレンジジュースお願いしていいですか?」

「了解!」


 白銀はルンルンでまたジュースを入れに行った。まあこいつがこんなに嬉しそうなんだしいいか。天ヶ崎?誰だそいつは。そんなやつは知らん。


「白銀先輩が帰ってくるまでこのお肉は守り通します!グルルルルル」


 餌を前にした野生動物のように近くを通る人を警戒して威嚇している。


「隣の席のおじさんがさっきお肉を盗もうとしたことを根にもって、このお肉をねらっていますね。奥の座敷からも豚の丸焼きで足りない金持ちのおじいさんがちらちら様子を伺っています!ん?カウンターからも店員のお姉さんがこちらの様子を伺っています!敵だらけだとお⁉この肉は死んでもやらんぞお!くらえこの泥団子爆弾を!」

「やめんかバカが!被害妄想激しいんだよお前は!誰一人こっち見てねえから!黙って座っとけ!」


 泥団子を投げつけようとする天ヶ崎を制する。


「ふっ。次はないぞ」

「お前がな」


 次騒いだら外に放り出そう。


「そうだ。美味しいお肉の食べ方知ってますか?」

「レアとかか?」

「それもそうですが、一番は強火で短く絶妙な火加減で焼くことなんですよ。だから火を強くして美味しさを濃縮させましょう。私に任せてください」


 嫌な予感がしたが、止める間もなく、天ヶ崎はポケットから何かを取り出した。


「理科実験室からかすめ取ってきたエタノール液です。これを加えればよく燃えるんですよ」


 そう言って七輪にドバドバ注いだ次の瞬間、網を吹き飛ばすほどの火柱が上がり、天井まで突き刺さる。


「何やってんだてめえはあ⁉そんなもん加えたら大火事になるに決まってんだろうがあ!どうすんだこれ!」

「「きゃああああああ」」

「火事だあああ!」


 周囲から悲鳴が上がる。


「大丈夫です。私に任せてください!うえっ。うっぷ。おおうっ」

「何で消そうとしてんだお前は!バカなのか⁉」

「ダメですか⁉どうしましょう!そ、そうだ!私はすぐに―――」

「そうだな!俺が頑張ってこれ以上燃え広がらないようになんとかやってみるから、お前はすぐに消火器を―――」

「このお肉を避難させますから」


 そう言ってお肉の入った皿に手を伸ばす。


「ぶっ飛ばすぞてめえは!今すぐ消火器を持ってこい!」

「とにかく!このエタノール液を死んでも放さないで下さいね!」

「押し付けんな!人のせいにしようとするんじゃねえ!お前がやったんだろうが!いいからさっさと行けよマジで!」


 俺たちがエタノール液を押し付け合いしていると、白銀がルンルンで戻ってきた。


「お待たせー。どうしたの?なんか騒がしいけど、ってええ⁉何その火柱ああああああああ!」


 しかしグラスを三つ抱え足元がおろそかになっていたからか、急に何もないところでつまずき、こちらにつっこんでくる。白銀がぶつかり、エタノール液が飛び散り俺の全身にかかり、机が大きく揺れた衝撃で七輪が地面に落ち、火が燃え広がる。


「何やってんだお前はああ!どんなタイミングで毎度毎度ドジってんだ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「ていうか先輩。服燃えてますよ」

「え?」


 天ヶ崎に言われ見てみると、見る見るうちに引火し、俺の服が燃え広がっていく。


「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃっ!」


 すぐさまシャツをズボンを脱ぎパンツ一枚で店中を走り回る。しかしまだお尻に火がついており死ぬほど熱い。


「あわわわわわわわっ!どうしようどうしようどうしたらいいのこれ⁉」


 火は地面に燃え広がり、どんどん大きくなっていく。天井もどんどん火が広がっていく。その様子や、俺が燃えて走り回っているのを見て白銀がパニックを起こしているがそれどころではない。ちなみに店員も客もみんな避難した。残っているのは俺たちだけだ。


「おい天ヶ崎!消火器はまだか!早く俺のケツの火を消してくれ!」

「そんなことより見てください先輩!全集中!日の呼吸!ヒノカミ神楽!円舞!」

「やってる場合か!なんでこの状況で遊べるんだお前は⁉頭いかれてんのか!俺が死んだらまじでお前呪い殺すからな!」


 ダメだこいつは役に立たん。


「おい白銀!お前消火器取って来れるか⁉というか行ってくれ!怖いかもしれんがそうしないとお前死ぬまで超貧乏人だぞ!一生雑草食うことになるぞ!」

「それは嫌!頑張るよ!ちょっと待ってね!」

「今すぐ行くんだよ!高級肉を優先して取りに行くな!俺の命より肉の方が大事かお前は!それが最後の晩餐になってもいいのか⁉どうなってんだお前ら二人そろって!」


 テーブルに戻ろうとする白銀の背中に叫ぶ。


「先輩!見てください!さっきの再現ですよ!大炎戒!火柱!」


 天ヶ崎は火柱が上がっているところで遊んでいる。


「はっ倒すぞてめえは!おいこいつのせいで死ぬのマジ⁉」




「持ってきたよ!」


 白銀が消火器を持って戻ってきた。


「俺のけつの方は走り回ってたら消えたからいい!とりあえずこれ以上燃え広がらないようにすぐ消すんだ!」

「分かった!」


 しかし。


「一ノ瀬君!これ中で固まってるよ⁉どうしよう⁉」

「まじかよ!どうすんだこれ!」


 俺たちが頭を抱えていると。


「先輩!こっちもうまくしょうかできません!」


 天ヶ崎の声がした。どうやらあいつも消火器を持ってきて消火しようとしてるらしい。


「どうした!そっちも中で固まってたか⁉」

「消化不良みたいです!どっちかと言うと中で暴れてますね。あっ出ます!うぼろろろろろろ!」

「よし!お前は後で殺す!」


 固まった消火器になすすべもなく、どうしようかと考えていたその時、燃え崩れた天井の一部が落ちてきた。その真下にいたのは白銀だった。


「白銀!危ねえ!逃げろ!」

「え?」


 俺の声に上を見るが、突然のことに体が動かない白銀。


「くそっ!」


 俺は白銀に飛びつき、そのすれすれで天井の一部が落ちてくる。


「あ、あぶねえ!大丈夫か⁉」


 まだ何が起こったのか理解が追い付かないようで、目をしばたかせている。


「大丈夫そうだな。お前ほんとに運が悪いな」


 俺は立ち上がり、白銀を起こそうと手を差し出す。

 恐る恐る俺の手を掴み立ち上がると、何やら目をせわしなく動かし、そわそわし出す。


「あ、あの、あ、ありがとね。その、助かりました」


 ほんのりと頬も赤い気がする。


「何。このおパンツスーツを着ている間俺はマーベルになれるのさ。だから当然のことをしたまでさ」


 そう言ってパンツ一丁で決めポーズをする。




「……」


 何やら目をごしごしこすっている。


「何だ錯覚か。一瞬かっこよく見えたや。よく見たらただの変質者だったや。この人が放火犯か」


 などと完全に落ち着きを取り戻して自分の罪を人に押し付けようとしている。


「言っとくけど俺がこんな格好してるのはお前のせいだからな?放火したのもお前みたいなもんだしな?」

「そ、そうでした。あ、あははー。あ!よく見たらかっこいいかも!頑張れ変態仮面!マーベルなんかに負けるな!」

「こっちがマーベルなんだよ!誰が怪人変態仮面だ!褒めるの下手くそか!」

「先輩の野望もここまでですね。この事件を本能寺の変と名付けましょう。追悼!」


 天ヶ崎は俺が落下物に巻き込まれたと思ったのかふざけているのか、瓦礫に向かって敬礼している。


「死んでねえしパクりだしお前のせいでほんとに死ぬとこだったわ!」

「2025年。うんこパンツの一ノ瀬英一で覚えましょう」

「イチゴパンツみたいに言ってんじゃねえぞ!末代までの恥じゃねえか!語呂もよくないしな!」

「今だから言いますが、実は私先輩の家に忍び込んだときに、先輩がお風呂に入っていて、台所には鍋にカレーがあったので、食べ始めたらついつい食べ過ぎちゃって、自家製のカレー口から出してかさマシして誤魔化してましたごめんなさい!」

「何か臭いと思って捨てたらお前の仕業かあ!何してんだてめえは!危うく食うところだったぞ!火あぶりだてめえは!この放火犯が!」


 しかし、そんなこと言っているうちにも火は広がっていき、どんどん被害は拡大していく。


「ダメだもう消防車を呼ぼう⁉天ヶ崎!電話してくれ!」

「了解です。えっと110と」

「何でこんな時は110番なんだよ!さっきまで頑なに119番通報だっただろうがよ!逆なんだよお前は!119番を打て!」


 スマホ片手に、なんなんだこいつはどっちかにしろよと言いたそうな顔でこちらを見てくる。お前がいい加減にしろ。


「えっと1192と。いい国つくろう鎌倉幕府ですね」

「2はどこからきた!何で急に分からなくなるんだよ!さっきまで何回も打とうとしてただろうが!119!いいくで覚えろ!」

「ここで一句。

焼き肉屋 化学実験 大惨事

パンツいっちょで ああ滑稽なり」


 などと短歌を詠み始める。


「てめえのせいでこうなってんだよ!反省しろてめえは!ていうか一句読んでる場合か!一句じゃなくて119だよ!」

「火の用心 文明の利器 牙をむく

         諸刃の剣 忘るるなかれ


すごい短歌思いつきました!火事防止俳句・短歌コンクールに応募しましょう!」


「お前がな!お前が肝に銘じておけ⁉自分が起こした火事の最中によくそんな歌考えられたなおい!頭どうなってんだお前はよ!」


 しかし今度は俺の頭を見ながら、はっと何か思いついたかのような表情をすると一句読みだす。


「焦げ付いた 床からおもて 上げ気づく

            これぞ真の 焼野原かな」

「誰の頭が焼野原だ!ぶち殺すぞ!」


 ダメだこいつに構っている暇なんかない。


「おいどうすんだこれ!俺たち退学だろもはや!」






 その時。


「大丈夫ですかー!」


外からホースを持った消防隊員が駆け込んで来て、水を噴射する。


「「た、助かった」」

「さあこっちにおいで。良かった怪我はないようだね」


 そのまま鎮火していき、俺たちは保護され、外に連れ出されると、ヤジ馬がいっぱいいた。そして救急車に乗せられ―――。


 と思ったら素通りし、パトカーに乗せられた。


「お疲れ様です」


 消防隊員が警官に敬礼する。


「中でパンツ一丁で騒いでいたためこの男が実行犯で、残り二人は人質だと思われます」

「了解。公然わいせつ罪及び放火罪として現行犯逮捕する」


 そう言って俺だけ手錠をかけられ、助手席に乗せられる。


「はあああああああああああ⁉」

「二人とも怖かったね。もう大丈夫だから。話聞きたいから君たちも暑まで同行してくれるかな?」

「怖かったですう。任せてくださいなんでも答えます!」

「おいこのクソ女!てめえが犯人だろうが!嘘つくんじゃねえぞふざけんな!お巡りさんこいつが犯人です!俺何もやってないですから!」


 白銀は目をパチパチさせて事態を飲み込めずにいる。


「うるさい静かにしろこの変態が!じゃあ二人とも後部座席に乗ってくれるかな?」

 


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