表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
41/69

39話 「インターン先は馬小屋でした③」お馬さんプレイは場所を選ぼうね

 その後昼食をとり、放牧させる。俺は変わらず馬房の掃除だ。二夕見は外で馬と戯れていた。なんかちょっと見てみたら知らない間に馬に乗るのが上手になっていた。へん。俺もボロ取るの上手になったし。

 

 俺が管轄となった馬房の掃除をしていると二夕見が呼びに来た。


「一ノ瀬。ボロ取るの手伝ってくれない?たくさんあるの。あんた上手でしょ?」


「しょうがねえな。まあうんこのことは俺に任せとけば問題ない」


「かっこわる」


 二人で放牧地に行ってみると、その道中にもたくさんボロが落ちていた。


「おいおいおい。お前らいったいどれだけうんこするんだよ。馬房の比じゃねえぞ。外だからってはしゃいでうんこしまくるんじゃねえよ。嬉しうんちするんじゃねえよ」


 二夕見が引いていた馬がまたうんこする。


「一回の量が尋常じゃない上に何回するんだよ。俺の過去最高回数にして過去最低な日だった10回の量より総量多いんじゃねえの。いやああの時はマジで死ぬかと思った」


「じゃあ今死になさい。今すぐ馬に蹴り殺されなさい」


 ボロを拾いながら歩いているとウィーリーが柵の向こうからこっちを見ていた。近づいていくとブリュッという感触がして下を見るとうんこだった。だが残念長靴フィールド展開中でした。これATフィールドより強えかんな。顔を上げるとウィーリーがニヤニヤしていた。てめえのかこれ。このゴルジ二世が。


 中ではまた他の馬が歩きながらボロを落としていった。


「おいおいおい。歩きうんこはするなって何回言われたら分かるんだ?ながらうんこは深刻な社会問題なんだぞ?これだから最近の若いやつらはダメなんだあいったあ⁉このバカ馬足踏みやがった!」


 二夕見が連れていた馬に足を踏まれたようだ。


「ながらスマホみたいに言ってんじゃないわよ。そういう生き物なんだからしょうがないでしょ。ていうか呼んどいてあれなんだけど、あんたいたらみんなぴりつくからそろそろ、ね?」


 遠回しに帰れと言われた。都合のいい時だけ呼びやがって。綺麗になったら用なしか。 

追い出されるように俺はまた作業に戻った。


 そういえば。昨日部屋で面白い物を見つけたんだった。俺は部屋に戻りそれを取りに行った。戻ってくるとそれを被る。そう。馬のマスクだ。これをつければきっとあいつらも俺を仲間だと思い気を許すだろう。名付けて『俺も馬だよ大作戦』。

俺はさっきまで田中さんがブラッシングしていた馬に近寄ってみる。


「こんにちヒヒーン」


「ガブッ!」


 マスクごと噛みつかれた。


「いだだだだ!」


 ダメか。どうせなら何かいたずらしてやろうと考えていたら、二夕見がまた戻ってきた。





「一ノ瀬ー。田中さんどこか知らな―――」


 俺のことを見て固まる。


「だ、誰?一ノ瀬よね?どうせそうなんでしょ?」


「……」


「違うの?じゃあ誰なの?」


 二夕見が少し不安そうな顔で尋ねてくる。よしいいこと思いついた。俺は昨日からずっと耳から離れないなまりを思い出しながら、できるだけ声をよせて声真似する。


「おめえおらがなしてこんなかっこうさしてるかわがるか?」


「え?た、田中さん?いや、あの。わかりません」


「こうやって馬さかっこうさすることで馬の気持ちになれるんだあ。おめえもほら、突っ立ってねえで馬

の気持ちさを理解しようとするだ。その気持ちが大事なんだ。マスクがねえならせめて馬の鳴き真似さして馬になりきってみろ」


 俺の無茶ぶりに一瞬言葉をなくす。


「え?で、でも、あの。あ、そ、そうだ。あのあと一人のやつが来てからでいいですか?まずそいつにさせるので」


 などと言って俺を売ろうとする。


「ダメだあ!おめえは人にやらせて自分は楽さする気があ!ほら!鳴いてみ!ほら!ヒヒーンって言うてみい!」


「あ、あの、で、でもその、は、恥ずかしいっていうかなんて言うか…」


「何が恥ずかしいだあ!おめえは社会勉強さしに来たでねえのか!こっんなこともできねえで社会で通用

すると思うでねえだ!ほれ!ひひーん言え!」


「うっ、わ、わかりました。ヒ、ヒヒーン」


 二夕見が恥ずかしそうに小さな声で言う。


「声が小せえ!もっと大きな声で鳴け!ヒヒーン!」


「ヒ、ヒヒーン!」


 今度はさっきよりは大きな声で頑張って鳴く。クククッ。しかしまだだいぶ恥ずかしがっているよう

だ。


「まだ恥ずかしがってるだなー。そんなんじゃ馬の気持ちはいつまでたっても分からんべ。よし。次は肘と膝地面について四つん這いになって、馬になりきってみるだ。そして馬みたいに進んでみるべ」


「は、はいいい⁉そ、そんなことできません!」


「なんだあ?おらの言うことが聞けねえのかあ!んだばもう帰ってもらっていいべ。学校にはやる気がねえがら帰らせた言うとくからな。ほれ帰れ」


「そ、それは困ります!ど、どうしようこんなの普通じゃないわ。一ノ瀬はまだなの?」


「ほら、早くお馬さん歩きするだ。これは馬の視点で考える大事なことだべ!」


 などと適当なことを言ってみる。さっきから適当な事しか言っていないが。


「うう。わかりました」


 とうとう観念した二夕見が、恥ずかしそうに地面に肘と膝をつき、馬のような姿勢をとる。


「よしよしほら歩いてみるだ」


 俺の言葉に応じて本当に四つん這いで歩き出す。いひひ。アホみたいにはいはいしてやがる。やべえ笑い堪えないと。


「なら最後だ。鳴きながら歩いてみるべ」


「へ、へえ⁉そ、それはできません!」


「いいからやるだ!ちゃんと馬になりきることに意味があるんだべ!これが最後だ!おら!頑張るだ!」


「ヒ、ヒヒーンッ」


 観念した二夕見がやけになってお馬さん歩きしながら馬のように鳴く。


「声が小さい!もっと大きな声で!」


「ヒ、ヒヒーン‼」


「そうだ!よくできたべ。ほら!ご褒美だべ!」


「パチーン!」


 俺は馬用の鞭で俺の腰くらいの高さにある二夕見のお尻を軽く叩く。


「痛あ⁉ええ⁉」


 突然鞭で叩かれたことに困惑を覚えている。


「馬が叩かれたらどんな気持ちさなるかを理解することで鞭の力加減が身につくんだべ!これはみんな通る道だべ!ほら!ちゃんと馬になりきるべ!鳴け!ほら!」


「パチーン!」


 再度二夕見のお尻を軽く叩く。


「いたあっ⁉ヒヒーンッ!」


 身についてきたようで反抗せずに素直に鳴き始めた。¥


「おらあっ!いつも生意気なんだよ二夕見この野郎!」


「パチーン!」


「いだあっ⁉ヒヒーン(泣)!」


 はいはいして鞭から逃れようと歩く二夕見を追いかけながら鞭で軽く叩く。


「おらあ!逃げんな二夕見!このじゃじゃ馬があ!」


「パチーン!」


「きゃああああ!ヒヒーンッってあんた!」


 流石に二夕見が気付きかけたところで誰かがドアを開けて入ってきた。





「おーいおめえらあ。外さ出てちょっと手伝ってほしいことが―――」


 おっさんがドアを半分開けて立ち尽くす。馬のマスクをかぶり鞭を持った俺と、「ヒヒーン」と鳴きながら馬のように四つん這いする二夕見。


「……」


「「……」」


 永遠とも思えた数秒が経過し、田中さんが口を開いた。


「お楽しみのところ悪いんだげど、外で仕事さあるからちょっとしたらでいいから来てくれるか?にしても最近の子はすんごいんだなあ。こんなプレイがあんだなあ。まっだく。時と場所を選んで欲しいもんだべ」


「「はい」」


 そう言うとドアを閉めて行ってしまった。二夕見は無言で立ち上がり、俺は無言で馬のマスクを外す。俺の顔を見た瞬間理解が追いついたようで詰め寄ってくると


「◎△$♪×¥●&%#?!」


 と怒りのあまり顔を真っ赤にして声にならない叫び声を上げる。


「いぢのぜえええええええええええええええええ!」


 俺の襟を掴んでガクガクしてくる。


「あ、あんたああああああ!なんてことしてくれたのよお!私をここまでコケにした上に!人に見られ

た!一生の恥よ!どうすんのよ!インターン先で特殊プレイする女って思われたのよ⁉あんた絶対許さない!」


「許してヒヒーン言うて」


「しねえええええええええええ!」





 俺は正座させられてなんであんなかっこうしていたのか説明させられていた。


「つまりこういうこと?馬に嫌われるのを何とかしたくて、たまたま見つけた馬のマスクをつけてみたけど嫌がられた。そこで何か面白いことできないか考えていたらちょうど私が来たからつい出来心でからかってしまったと」


「ああ。そういうこ―――」


「ガアンッ!」


 鉄の柱がおもいっきり殴られる。


「はい。その通りです。大変申し訳ございませんでした」


「こんな屈辱を受けたのは生まれて初めてよ。あんた言葉選び一つ間違えるだけで死ぬと思いなさい。馬糞の山につっこんでも気が済みそうにないわ。怒りで変身しそうよ」


「スーパーサイヤ人かよ」


「ガアンッ!」


 再度鉄柱が殴られる。


「心から反省しております」


「次はないから」


 氷のように冷たく言い放たれる。


「それにあんた私が男の人苦手なの知ってるわよね?私がどれだけ怖かったか分かる?あんた昨日なんて

言ったかしら?フォローするって言ったわよね?フォローどころか新しいトラウマできかけたんですけど」


「それに関しては本当に軽率で浅はかだったと心から反省しております。どうかもう一度チャンスを頂けませんでしょうか」


「いいわ。チャンスをあげる。じゃあまずこの首輪をしなさい。そして地面に這いつくばってブーブー鳴くの。そしたら許してあげるわ。チャラにしてあげる」


「い、いや、そ、それはさすがに、ねえ?だってそれ明らかにそういうプレ…」


 俺の言葉を遮って鋭く言い放つ。


「は?何?嫌なの?私にあんなことしておいて嫌なんだ?反省してないんだ?申し訳ないと思わないんだ?ふーん。じゃあもういいや。このこと絶対許してあげないから」


「わかったわかった。わかりました。やります。やらせてください」


「いい子ね。さあこの首輪をつけて四つん這いになりなさい。そしてブーブー鳴くの。さあ!」


 俺は大型犬用の首輪をはめると地面に両肘両膝をついた。


「ブーブー」


「恥ずかしがってんじゃないわよ!もっと死ぬ気で鳴きなさい!この豚!」


「ブーブーッブーブーッ」


 ちくしょうこれ滅茶苦茶恥ずかしいな。


「この残飯食べるしか能のない無能な豚め!ほら!これがいいんでしょ!」


「パチンパチン!」


 そう言って鞭で俺のけつを叩いてくる。


「いでえっ!」


「これが家畜側の気持ちよ!思い知りなさいよ!この豚野郎!」


「パチンパチンパチン!」


 三回も罵りながら叩いてきた。


「いでええええええええ⁉おいお前本気で叩きすぎだろうが!俺はもっと優しく叩いてたぞ!痔になった

らどうすんだ!」


「口答えするんじゃないわよ!家畜のくせに!ほら!返事はブーでしょ!」


「パチンッ!」


「ブーッ」


 こ、こいつなんかスイッチ入ってない?大丈夫?


「調子に乗ってすみませんでしたブーはどうしたの⁉しお様にぶたれて光栄ですブーは⁉」


「パチンッ!」


「いだあ!しお様にぶたれて光栄ですブー!調子に乗ってすみませんでしたブー!」






 突然誰かがドアを開けて入ってきた。


「おーいお前らそろそろ来てくんねえと困るべ。いったいいつまでそったなことして―――」


 そう言いかけたおっさんが中に入って来て、首輪をつけて四つん這いでブーブー鳴く俺と、鞭を持って

俺を罵り叩く二夕見を見て固まる。


「……」


「「……」」


 しばらく時間が止まる。数秒の後おっさんが口を開いた。


「あんれま。逆もいけただか。あのよ、またまたお楽しみのところ悪いんだがちょっくら手伝ってくれるか?」


「「はい」」


 ドアを閉めながらおっさんがぼやく。


「まったく最近の若いもんはところ構わず発情してすぐ馬っ気出すべ。あれ?豚っ気かこれ?まあええわ。でもこういう臭い馬小屋が興奮するだかね。それにしても両方いけたが。まったく最近の若いもんは性癖さ歪んどるべ」


「キイバタン」


「「……」」


 俺たちはしばらく無言のまま固まり、数秒後に俺は無言で立ち上がり首輪を外し、二夕見は無言で鞭を

置いた。そして俺に詰め寄ってきた。


「どうすんのよ!また勘違いされたじゃない!SもMも両方いけるやつらだって思われたじゃない!馬小屋でこういうことする痴女だって思われたじゃない!先生に知られたらどうすんのよ!ていうかすでに恥ずかしすぎて死にたいんですけど!」


「俺のせいにすんなよ。これに関してはお前のせいだろ。お前がしないと絶対許さないって言うからこっちは嫌々やったんだろうが。お前なんかノリノリだったじゃねえか。嬉々として鞭ふってたじゃねえか」


「別にノリノリじゃなかったから!変なこと言わないでよ!はあもう最悪。ここに来てからろくなことないわ。仕事はキツいしんこばっかり片付けるし、アホにトレハラばっかりされるし、マッサージしてるところ見られるし、アホにお馬さんプレイさせられるし、特殊性癖あるって勘違いされるし。散々よ!」


 そう言って頭をかきむしる。


「限界を超えた眠気と身体に負荷をかけすぎる重労働の結果二夕見はヒステリックを起こした。これがブラック会社の惨状か」


「他人事みたいに腹立つナレーション入れてんじゃないわよ!半分以上イカれた同僚のせいよこのごみ虫!」


「そんなことよりそろそろおっさんのところに行かねえと怒られるぞ」


「分かってるわよ!」


 プンプンした二夕見と一緒に外に出ると、田中さんがトラックで待っていた。


「おお来たか。あんな今から近くの畑さ行って農作業するから手伝ってくれねえが。ここは寮から応援一人呼んどいたからでえじょうぶだ。悪いんだけど手伝ってくれるか?」


「いいすよ。田中さんの畑なんすか?」


「そうだ。おらは農家もしてるからな。他のとこよりは全然規模も小せえんだがな。じゃあとりあえず乗ってくれ」


 俺たちは車に乗り近くの畑に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ