32話 恐怖の館 泥棒入門②「トイレだけして帰る泥棒がどこにいるのさ!」
靴の上のうんこを洗い落とし、玄関の前へ行く。
「鍵壊したらバレるぞ」
「大丈夫。今回はうまくやるから」
「なあ俺この中に入ったらもう昨日までの普通の日常には帰れない気がするんだが。大丈夫そう?」
だってこれって普通に家宅侵入罪だよ?
「ここのお家トイレすごいらしいよ」
「おいわくわくしてきたな。なあおやつは一人いくらまでだ?バナナはおやつに入るか?」
「急にやる気だしすぎだよ。ピクニックじゃないんだから。あとバナナはおやつに入りません」
先生みたいに言う。
「じゃあ確認ね。今日の任務を答えよ。一ノ瀬一等兵」
「はっ。紙を盗み出すことであります座長」
「・・・一応聞いておこうかな。何に使う紙かな?」
白銀がジト目で見てくる。
「トイレの後におしりを拭く紙であります座長」
「違うから!そんな価値のない方の紙じゃなくてもっと価値のある方の紙だから!」
「分かりました座長!となると髪でありますね!」
「違う!もう君めんどくさいよ!なんでそんな髪にコンプレックス持ってたりトイレットペーパーに執着したりしてるの!一体君は何なの!お金!お金を取ってくるの!ていうか座長って何!」
めんどくさくなった白銀が投げやりに言う。
「座長は便座長の略であります」
「最悪だよ君はほんとに!二度と呼ばないで!そんな汚い座長聞いたことないから」
俺たちが、というか白銀が騒いでいるのを犬たちが後ろからおすわりして見ていた。
「じゃあ開けるから君は少し静かにしておくように」
俺にしーっと合図するとピッキングを始める。数分ほどで鍵が開けられた。
「覚悟はいい?このドアの向こうに入るともう引き返せないよ?」
「ちょっとお腹痛くなってきたからトイレ行って来ていい?」
「向こうに犬小屋があるからそこで済ませるといいよ」
ジト目で見てくる。なんか今日辛辣じゃない?
「そんなところでやれるかよ。中にすごいトイレがあるらしいからそこで済ませるとするか。お邪魔しまーす」
扉を開けると暗い室内に入る。
「何か普通に入って行ったんだけど。さっきまで犯罪じゃないのかとか言ってたのに。この新人肝座りすぎでしょ。トイレのことになると思考おかしくなるのなんなのこの人。ていうか!そんなことしたら臭いでバレるでしょ!ちょっと待って!絶対しないでよ!外でやってきて!」
白銀が急いで中に入って来て止めに来る。
「安心しろ。俺のうんこは基本無味無臭だ」
「…じゃあ今日はここで解散にしよっか。あのチョコレートっていう美味しい食べ物があってね、そっちの方がおすすめだよ。あとあんことか和菓子に入っている甘い食べ物があるんだけどそっちとかも試してみてね。じゃあうんこ食べるのやめれるようになったらまた連絡してね。バイバイ」
「言葉の綾だよ!つい語感が良くてつけただけだわ!食ってるわけねえだろうが!俺から距離とんな!帰ろうとすんな!」
俺の言葉に白銀がほっと胸をなでおろす。
「なーんだ。君のことだからあり得るかと思って信じちゃったよ。そうだよね。食べても精々トイレットペーパーくらいだよね」
「やぎか俺は!トイレットペーパーも食わねえよ!お前が俺のことなんだと思ってるのかよく分かったよ」
「あはは。これは冗談だよ。おふざけはここまでにしてそろそろ真剣に探そっか」
白銀が懐中電灯を右手に持って俺の前に立ち先頭を歩く。
「ライトはもつのか?」
「うん。大丈夫だよ。朝までもつ高いやつだから」
ライトを点けて辺りを照らす。屋敷の中は広いだけでなく、天井も高くて豪華なシャンデリアがついていた。ちなみにだが犬たちは白銀の指示通り外で待っている。
「実は屋敷図があって、金庫がある部屋の目星は点いてるんだ。これはサービスでくれたんだ。でもライトは一つしかないから二人で一緒に行動しようね」
「金庫は一階にあるみたいだから行ってみよう」
そう言ってホールを出て廊下に向かう。
「それにしても部屋が多いな」
廊下もかなり長く、こんなに広い家なのに使用人とかお手伝いさんとかいないのかと不思議に思った。
「ここだよ。鍵は開いてるみたいだね。案外楽勝かも」
部屋の中に入ると、石の柱が四つおいてあり、それぞれ悪魔の顔が描かれた紙が祭壇のように設置された上部に貼られていた。
「なんじゃこりゃ。金庫なんかどこにもねえぞ」
「気味の悪い部屋だね。何か仕掛けがあるんだろうね。何だろう。他の部屋も探索してみようか」
いったん部屋を出て他の部屋へ向かうことにした。さっきの部屋に懐中電灯があったため二人で効率よく探せる。一応二人で回るが。こいつは一人にするとミラクルなドジをかましそうだしな。
「あれ、この家トイレが八個もあるよ」
地図を見ていた白銀がこっちを向いた。
「よし全トイレコンプリートするか。まずどこから行く?」
テンション上がってきた。
「行くわけないでしょ!そんな時間ないから!一か所くらいしか行かないからね!」
「やだ!八か所にトイレするの!」
「そんな犬みたいなことしないで!マーキングじゃないんだから」
白銀に制止され仕方なく部屋を回っていたら、たくさんの絵画や彫刻、骨董品などがコレクションされている部屋を見つけた。
「なんか高そうなのがいっぱい置いてあるな。どれか持ち帰れそうな大きさのもの持って行って売ったらどうだ?」
「ダメだよ。そしたら足がついちゃう」
「そうか確かに」
部屋の中を回っていたら、牛のような悪魔のような顔をしたお面があった。見覚えがある。俺はお面を嵌めてライトを下から上に向けて顔に当てると白銀の肩をとんとんと叩く。
「何?どうしたいやああああああ!」
振り向いた途端俺の顔を見て悲鳴を上げる。
「オデ、オマエ、クウ」
低い声で唸るように言う。
「ひ、ひいいっ。た、食べないで下さいい!もう帰りますからあ!ごめんなさいいいいい」
あまりにびびって腰をぬかしているのでお面を取ってネタ晴らしする。
「びびった?俺でした。これ何か分かるか?」
「驚かさないでよ!ほんとにびっくりした!冗談やめてよ!」
お面を外した俺の顔を見てほっとしたのか涙目で頬を膨らませて睨んでくる。
「いやあ悪い悪い。でもいい知らせがあるぜ」
「なにさ」
まだ不機嫌そうにジト目で見てくる。
「これさっきの部屋にあった祭壇の絵と同じだぜ。もしかして、このお面をあの絵の上に嵌めれば金庫が現れるんじゃないのか?」
「あっ!一ノ瀬君頭いい!今日初めて連れて来て良かったと思ったよ!」
一瞬で期限が治りナチュラルにディスる。
「おい」
「あはは。そ、そんなことより僕ちょっとトイレ行ってくるね」
などと言い股間を手で押さえている。
「びびってうんこちょっと漏れたのか?」
「おしっこだから!普通おしっこでしょ⁉ちょっとちびったの!ああ言っちゃった!最悪だ。もうお嫁にいけないよ。穢されたんだ。はあ。君許さないからね」
などとぶつくさ言っている。
「トイレットペーパーあるけど使うか?」
「こんなところで使うわけないでしょ!ほんとに君は!次変な事したらまたワンちゃんたち呼ぶからね!」
「なあ俺もトイレの様子見たいからついて行っていいか?」
「いいわけないでしょ!君にはデリカシーってものがないの⁉」
ぷんぷん起こりながらトイレに向かって行った。
戻ってきた白銀と他の部屋を探索していく。洋風のデザインで暖炉や毛皮のマットがある部屋や和風の畳や障子、掛け軸などがある部屋などいろんな部屋がある。次の部屋のドアを開けると、壁や天井一面にきわどいかっこうをした二次元の女の子のイラストが描かれたポスターやグッズがたくさん置かれていた。
「う、うわあ。こ、これはなんていうか、すごいオタクだね」
「ああ。多分ゲームのキャラだな。エロゲか」
しかもよく見るとほぼすべてのキャラに角がついていたり、牙が合ったりしっぽが合ったりと人外の鬼や悪魔、サキュバスなどだった。
「こいつ悪魔のお面とかそういうおどろおどろしいのからこっちに目覚めちゃってんじゃねえか」
お面を探すと馬のような悪魔の仮面が壁に飾られていた。
「地獄の獄卒牛頭馬頭か。変なやつ」
「ほんとに気味が悪いよ。色んな意味で。次やったらほんとに許さないからね」
今度は馬のお面をつけようとしている俺を見つけて睨んでくる。
「へいへい」
「まったく」
廊下を進んでいくとプレイルームと書かれたゲートが見えてきた。中に入ると、ビリヤード、ダーツ、卓球などいろんなコートがあった。
「すごーい!家の中にこんな施設があるなんて!」
「でもここにはなさそうだな。二階行こうぜ」
しかし白銀は目を輝かせてキョロキョロしている。
そうか。こいつはきっと普通の学生とは違ってこういう場所に行ったことがないのだろう。
「……」
「俺ちょっと遊びたくなってきたわ」
「え⁉それはさすがにマズいんじゃ…」
「おいあれ見ろ!カラオケもあるぞ」
「ええ⁉嘘!僕カラオケ一度でいいから行ってみたかったんだよね!」
カラオケも行ったことないのか。こいつ泣かせるぜ。
「一曲だけなら大丈夫だろ。入ってみようぜ」
「うーん。一曲だけ!一回歌うだけだから!」
そう自分に言い聞かせると、俺たちはカラオケボックスへと入って行った。
「うわーすごーい!曲いっぱい入ってるんだね!採点もできるの⁉」
「なんか好きな曲入れてみろよ」
「じゃあはい!これで」
スクリーンに映像が流れ始めて、部屋中に音楽が響き渡る。
「おいおい『とても素敵な六月でした』じゃねえかよ。そろそろ六月も終わるからってその選曲はエモいなおい」
「つーぶーさーれたーわたしーのたいくはー♪」
緊張しながらも嬉しそうに歌っている。綺麗な声だ。
「透過ー♪まーた会いましょーおー♪」
歌い終わりこちらを見ると少し恥ずかしそうにはにかむ。
「いやー、カラオケって楽しいね。少し緊張したけど楽しかったよ」
「上手だな。採点も高得点だ。だがもっとビブラートを意識した方がいい。それにこの曲は楽しそうに歌うよりもっと悲しそうな感情とかを乗せて歌った方がいい」
「そ、そうなの。気をつけるよ」
俺のアドバイスに目をしばたかせる。
「あとサビと最後は盛り上がるからもっと声量出した方がいいし、最初の歌いだしもちょっとずれてたのがもったいなかったな」
「うるさいなあ。初めてなんだからしょうがないじゃないか。じゃあ君歌ってみてよ」
そう言ってマイクを渡してくる。
「耳の穴かっぽじってよく聞いておけ。これがお手本だ」
「はいはい」
音楽が流れ始めるとリズムに乗って左右に揺れながらタンバリンを叩いている。いくぞ!俺の練習の成果をとくと見よ!
「つーぶーさーれーたーわたしーのたいくはー♪」
白銀の方を見ると両手で耳を押さえて何かを叫んでいた。何を言っているのかは分からないがとりあえず最後まで俺の美声を聞かせてやるか。
「透過ー♪まーた会いましょー♪」
歌い終わって白銀の方を見るとぐったりした状態でピクピク痙攣していた。
「そんなに感動したのか」
「違うよ!嘘つき!何がお手本だよ!死ぬかと思ったよ!偉そうに指摘してたのに何なのさこの下手くそとかそういう次元を超えた騒音は!」
「あれ、おかしいな。あんなに練習したのに。ていうかお前とそんなに変わるか?」
「変わるよ!一緒にしないでくれるかな!せっかくいい気分だったのに台無しだよ!もう一曲歌うからね!」
そう言って次の曲を入れ始める。
「まったく。嘘つきは泥棒の始まりなんだからね」
などとぶつくさ言っている。よく言うぜほんものの泥棒が。
「君は誰かといるときはマイク持つの禁止だから。タンバリンでも持ってて」
などと言ってタンバリンを渡してくる。失礼なやつだ。
白銀が二曲目を歌っている間に外に出て探してみると案の定あった。
「おーい白銀。ドリンクバーあったぞ!やっぱカラオケにはこれがないとな。何飲む?」
「えーすごい!今歌い終わったところだから僕も行く!何があるの⁉」
ドリンクバーの前で目をキラキラさせている。
「まあまずはおすすめにしとけ。誰もが必ず一度は通る道だ」
「そんなのがあるの?なに?」
俺は紅茶、カルピス、レモンティー、ココア、コカ・コーラ、メロンソーダなど混ぜたものを作り上げた。
「ほらよ」
「ほらよじゃないから!なんで全部混ぜたのさ!これ美味しくないよね⁉なんか黒いんだけど!何がおすすめなのさ!」
目を怒らせて叫ぶ。
「ばっきゃろう。これは誰もが必ず一度は通るもんなんだよ。これが混ぜれば黒くなる色の三原色だ。またひとつ賢くなったな」
「なんかさも今の行為を意味ありげで賢しげに言ってるけどただコーラとココア混ぜたから黒くなってるだけだからね⁉これは君が飲んで!僕は自分で入れたの飲むから」
そう言って押し付けてくる。一口飲んでみてマズすぎたのでドリンク流す穴にこぼした。
戻ってからもしばらく白銀は一人で何曲か歌っていた。俺はずっとタンバリン係だった。まあこいつのために来たんだから全然いいんだけど。だが本人は気にしていたようで、気まずそうにマイクを渡してきた。
「流石に僕だけが歌うのは悪いから、君も何か簡単なの歌ってみる?森のくまさんとか」
「なめんな!そんなもん高校性にもなって歌えるか!」
俺は端末に例の曲を入れると構える。
「これは俺の十八番だ。期待してくれていい」
「お願いだから体を労わってね。僕の」
スクリーンに映像が流れ始める。表示される歌詞を読む。
「あーなーたーは髪の毛ありますかーありますかーありますかー♪はーげーぱーげーそんなのやーだー♪かーみのけー消え去っていくー♪ハゲパゲハゲパゲハゲハー♪」
歌い終わってマイクを置く。そしてマイクを再度持ち上げるとスクリーンに向かって投げつける。
「ってふざけんな!おいこの機械どうなってんだ!なんで『マジで感謝』入れたのに小フーガハゲ短調流れてんだ!つい歌っちまっただろうが!なんでそんな曲が登録されてんだ!」
「あはははははははっ。何その曲!でも音程合ってたしけっこういい感じだったよ。君の十八番よかったよ!」
などと言って親指を立ててくる。
「うるせえ!これは十八番じゃねえよ!こいつ機械のくせに人間様をおちょくるとはいい度胸じゃねえか!俺がはげてるとでも言いてえのか!」
俺が何とかマジで感謝を入れようと四苦八苦していると、ドリンクを取りに行っていた白銀が頬を紅潮させて戻ってきた。
「ねえ!ボーリングがあったよ!僕ボーリングもしたことないんだよね!どうしよう!」
「よし。じゃあ俺が直角に曲がる魔球をみせてやる」
「そんなことできるわけないじゃないか!さすがにもうだまされないから」
ちっ。さすがにもうだまされないか。学習能力が高いな。
「まあとにかく投げ方を教えてやる。ボーリングは腰をうまく使うんだ。うんこと一緒だ」
「君全国のボーラーに謝りなよ!そんなわけないでしょ⁉」
ボーリングのコーナーに行ってみると色んな大きさの球が置いてあって結構本格的だった。




