31話 恐怖の館 泥棒助手①
「でだ。今日はなぜ呼び出されたか分かるか?」
河瀬先生が腕組みをして椅子に座った足を組み、こちらを見上げてくる。
「さあ。皆目見当もつかないですね」
俺、一ノ瀬英一は職員室の一角に呼び出されていた。これで何度目だったか。他の先生たちがチラ見してくるのももう慣れたものだ。
それにしても本当になぜ呼び出されたのか心当たりがない。この前お昼休みに学校にピザを呼んだのがバレたか。それとも用務室からトイレットペーパーと固形石鹸を拝借していることがバレたか。だがトイレに行った時にトイレットペーパーがなかった時や、その後手を洗おうとした時に石鹸がなかった時に困るしな。
「インターンシップの希望調査の件だ。君の担任がこんなに気持ち悪い生徒は初めて見ましたと怯えながら私に相談して来てね。この件は私が引き受けることになった」
「何です?真面目に書きましたけど。普通に企業名書きましたし。自宅とかトイレとか書いてないですよ。誠に遺憾ですね」
失礼な先生がいたものだ。まったく。
「はあ」
先生が溜息をついて厳しい顔から呆れ顔へ変える。
「一応君の口から聞かせてくれるかな?もしかしたら何かの間違いかもしれない。第一希望から第三希望はどこだ?」
「だから書いてある通りですよ。第一希望帝王製紙株式会社。第二希望カインドペーパー株式会社。第三希望奈切製紙です」
俺はつらつらと答える。一体何がおかしいと言うんだ。
「まあこれだけ見たら製紙業界に興味があるのかなと納得するだけなのだが、問題は君の理由の部分だ。
『日本語には同じ音の言葉が多々ある。それらの同じ音の言葉にはつながりがある。神は昔から人知を超えた存在として崇め奉られ大切にされてきた。今でもなくてはならない存在として世界中で色んな神が崇拝されている。そんな神と同じ音の言葉をご存じだろうか。
そう。紙と髪だ。この二つの言葉の共通点は、大切なもの。なくてはならないものであるということだ。髪は人間のみが持つ他の動物とは明らかに異なる性質。神のように大切なもの。
いや。人によっては神よりも大切なものだ。そして紙はどうか?紙も世界中で使用されている。必需品と言えるだろう。紙は人類の可能性を大きく広げ発展させた。紙があればお尻を否!物事を書き起こし後世に伝えることができる。紙があればけつをふけ否!ティッシュペーパーが作れる。紙があればうんこをふきとれ否!カツラができ否!絵が書ける。
漫画が生まれたのは紙のおかげだ。この世界に紙は必要不可欠。名は体を表す。紙とは神である。僕はそんな髪が欲しい。間違えた。紙が欲しい。間違えた。紙について知りたい』
なんだこれ?」
河瀬先生が呆れ顔で見てくる。
「なにって書いてある通りですよ。多様な使い道のある素晴らしい紙を作る製紙会社に行きたい理由ですよ。俺は紙が大好きなんで」
「違うよな?お前の紙の使い方一つだけだよな?お尻拭く以外使う気ないよな?ていうかもはや途中で髪が欲しいって別のかみ求めだしてるよな?」
俺の素晴らしい弁論が理解できない河瀬先生。
「先生だってうんこしたあと紙でけつ拭きますよね?紙がなかったらどうします?ご飯がないのと同じくらい困りますよね?」
「女性にそんなこと聞くのはやめなさい。君のそれはなんらかのハラスメントに該当するからな?トイレハラスメント。略してトレハラだ。私が高校生なら君をぶん殴ってる」
先生がちょっと椅子を後ろにずらす。
「まあでも熱意は伝わってくるよ。熱意というか執着といった方が適切かな。ただね、君は日頃の行いがよろしくないから希望が通りずらいということは言っておく」
「分かっていただけて何よりですよ。俺より製紙会社に行くのに相応しい人間は他にはいないから大丈夫です」
俺より紙愛してるやつおりゅ?
「君は絶対何かやらかすから一番心配だよ。学校では私が守ってあげられるからいいものを、向こうだとそうはいかない。ちゃんと言うことを聞くんだぞ?トイレットペーパーが硬いだの余計なことを言って困らせるなよ?」
先生が本当に心配そうに言い聞かせてくる。
「まあそれは向こうの態度によりますけど」
「はあ」
先生が今日二度目のため息を吐く。
「まだ希望用紙の話は終わっていないぞ。で?なんだねこの備考欄は。
『製紙会社でもトイレットペーパ部門にしか興味ありません。ティッシュペーパーやキッチンペーパーは硬くて痛いから嫌いです』
硬くて痛いって何だおい。何に使った。お前製紙業なめてるなおい」
「なにってそんなのいだだだだだっ」
頬をつねりあげられた。
「本当に言おうとするんじゃないまったく。まだ続くぞ。
『また本社にしか興味ありません。支部に行くくらいならトランクスアパレル店に行きたいです』
なぜここなんだ?」
「そんなのトランクスを作り上げる職人たちが魂を込める瞬間に立ち会うために決まってるじゃないですか!」
支部だと社長にお礼を言えないからな。トランクスと迷ったしだったらそこがいい。
「はあ。お前は本当に気持ち悪いな。そんなの機械がやるに決まってるじゃないか。二夕見の気持ちも分かるよ。本社は県外にあるんだから行けるわけがないだろ」
「やだ!本社がいい!修学旅行いらないからこれで県外行きたい!」
「それでいいのかお前は。お前の高校生活それでいいのか?本来なら修学旅行よりもインターンシップを選ぶ模範生として褒めたたえたいところだが、君の場合は普通に執着してるものが気持ち悪いから全然褒める気が起きない。修学旅行返済してまで製紙会社でトイレットペーパー見たいとか君はいったいなんなんだ」
河瀬先生が頭を押さえる。
「そうだ。一ノ瀬。先生に名案がある。すごく楽なインターン先知りたくないか?」
「まあ一応。どこなんすか?」
「動物園だ!」
俺が興味を持ったのが嬉しいらしく顔をぱっとさせ明るい声音を出す。
「動物園かー。俺動物に嫌われるから嫌だなー。あいつら多分俺が近づくだけで威嚇したり吠えたりしてきて掃除も餌やりもできませんよ」
「違う違う。君は檻の中で餌食ってうんこして寝てればいい。そこなら誰にも迷惑かからないし君でもできるぞ!」
嬉々とした表情でふざけたことをぬかす。
「中の方かい!見世物小屋じゃねえんだぞ!そんなんで何が学べるってんだよふざけんな!翌日の新聞ででかでかと取り上げられるわ!」
「冗談に決まっているだろう。それは君が本当に私を怒らせてしまった時のお仕置きだ。年齢の話や結婚の話は地雷だから気をつけろ。もちろん筋肉の話はいわずもがなだが」
などと恐ろしいことを言ってくる。
「怖すぎるだろ。今まで地雷原平気でかっ歩してた気分だわ。普通に虐待じゃねえか」
この人家庭持たなくて正解だわ。
「冗談はこれくらいにして、本気で製紙会社に行きたいんだな?」
「そうです」
「なら理由と備考欄を書き直してきなさい。これに関しては贔屓できないしそもそも私は関われないが、まあ応援はしている。案外君みたいなやつがこの業界を背負っていくのかもしれないしね」
そう言ってウインクしてくる。かわした。
「えー。もう書き直したくないんですけど」
「いいから書き直してこい。ただでさえ君は誰も行きたがらない所に飛ばされてもおかしくないんだから少しくらい可能性を上げたければ私の言うことに従っておけ」
「へいへい」
これで変な所だったらインターン先爆破してやるからな。無理でもせめてトイレのレバーくらいは壊して帰って来てやる。
「じゃあ失礼します」
職員室を出ると部室に向かう。少し遅くなったがどうせ誰も来やしないだろう。最後に誰か来てからもう二週間くらい経つ。六月ももう終わりに差し掛かり、そろそろ七月になる。そうなるとインターンシップがあるがそれも終わると一学期も終わる。時の流れは速いものだ。
帰り道、急激にお腹が痛くなり、急いで近くの公園のトイレに駆け込んだ。
「ぐおおおおおお」
久しぶりにめちゃくちゃ腹痛い。ていうかやむを得なかったとはいえ公園のトイレってまじで最悪だ。和式だし床も便器も汚いし臭いし暗いし壊れてるし怖いし腰痛いし。終わってる。
6Kだ。学校のトイレより終わってる。はいしかも紙ない。だが俺はこういう時のためにトイレットペーパーを持ち歩いている。はい俺天才。
こういう環境は腹痛で繊細になっているメンタルに大きく影響する。スタジアムの芝の状態や気温湿度、サポーターの数などサッカー選手のパフォーマンスやメンタルが環境で大きく変化するのと同じだ。
激戦を制しふらふらになりながらトイレから出るともう暗くなっていた。この孤独な戦いは誰にも理解されず賛美もされない。
それどころか長く入っていると文句をつけてくるやつや、存在が汚いと罵るやつもいる。だが俺は明日も戦い続ける。いつか終わりが来ることを信じて、この終わりなき戦いに挑み続ける。負けることは許されない。今日も一人荒野に立ちすくむ。その荒野には、無数のトイレットペーパーの芯が刺さっている。
体は剣でできている。血潮は鉄で、心は硝子。幾たびの戦場を超えて不敗。ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない。彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う。故に、生涯に意味はなく。その体は、きっと剣で出来ていた。
はあ俺まじ主人公してるわ。誰か映画化してくれ。てかおいふざけんな。もう十九時過ぎてんじゃねえか。バカたれが。
うんこが落ちている確率が高いいつもの道を避け、遠回りをして暗い夜道を歩いていると、大きい屋敷の前を通りかかった。門の前で何やら家の中をこっそりと覗いているやつがいた。
黒いキャップに黒いマスク、全身真っ黒のジャージのようなスポーティーな服装をしている。こんな格好して金持ってそうな家の前をうろつくやつ怪しいやつなんて一人しか心当たりがない。中の様子を覗くのに夢中で近づく俺に気づかない。隣まで行くと
「こらー!」
と耳元で大声で叫ぶ。
「ひやああああああ⁉」
不審者が甲高い声で叫んで飛び上がる。
「この変質者がー!ジロジロと人の家を覗き込みやがって!警察に突き出してやるからな!」
「ご、ごごごごめんなさいごめんなさい!違うんです!僕は決して怪しいものなんかじゃなくて、あのそう!立派なお家だなー、いつか住んでみたいなあと思って眺めていただけなんです!警察だけはやめてくださいい!」
俺だと気づかずに即座に地面に伏せて頭を下げる。
「嘘を吐くな貴様!俺の家の洗濯物のパンツを涎を垂らしながら見ていたな!この下着泥棒めがあ!そんなに俺のトランクスが欲しいのか!」
「め、めめめめっそうもないです!そんなものなんか決して見てもいませんし、トランクスなんて…ん?」
ここで違和感を抱き顔を上げる。
「よっ。また会ったな」
「こらー!君ってやつはほんっとに!趣味が悪いよ!心臓止まるかと思ったんだからね!毎度毎度僕をからかって楽しいの⁉」
白銀が帽子を脱いでマスクを外すと怒ってくる。
「めちゃめちゃ楽しい」
「君なんかうんこ踏んですっころんで頭ぶつけて髪の毛ごっそり持っていかれるといいよ!」
「おい。それは俺がハゲだと揶揄してんのか」
まだ機嫌が直らないらしく頬を膨らませてにらみつけてくる。珍しく怒っている。
「いやあ悪い悪い。冗談だよ。なんか手伝うことあったら協力するから許してくれ」
「え?ほんとに!じゃあ許すよ!言質取ったからね!はい君は今日から泥棒助手です!」
一瞬で表情が変わり、目を輝かせて恐ろしいことを言ってくる。
「じゃあなー。あんま無茶すんなよー」
「ちょっとー⁉言ってることとやってること違うんだけど!分かったよ!今日だけでいいからお願い!手伝ってほしいの!もうずっと失敗続きで後がないの!」
全力で足にしがみついてくる。
「とは言ったものの流石に犯罪だしなあ。俺はまだ捕まりたくないんだよ。犯罪にならない程度でなら手伝ってもいいが」
「大丈夫。君が捕まるのは時間の問題だから。どうせなら人の役に立ってから捕まらない?」
「じゃあなー。通報しとくから頑張ってなー」
「嘘嘘嘘嘘!冗談だから!別に嘘ではないけど冗談だから!」
なんで嘘じゃねえんだよ。どいつもこいつも同じようなことばかり言いやがって。俺がいったい何したってんだ。
「分かったよ。今回だけだからな。いざとなったら全部お前にやらされてたことにするからな」
「薄情者!君に受けたトレハラ被害届出してやるからね!」
「なんか最近よく聞くなそれ。流行ってんのか?恐ろしいハラスメントが生まれたもんだ。まったくこの国はどうなってんだ」
「君以外やってる人見たことないから!何を他人事みたいに言ってんのさ!」
白銀が目を見開いてツッコんでくる。
「で?何をすればいいんだ?」
「まずは黒い服に着替えてきてくれるかな?暗闇に乗じて盗みに入るから黒がいいんだ」
「了解。すぐ戻ってくる」
急いで家に帰ると黒い無地の長袖シャツを着て、下は黒い制服のまま白銀のところに戻る。
「早かったね。ごめんね手間かけさせちゃって」
「それはいいんだけど、俺良い人の家には盗みに入るの嫌なんだが。ここはどんなやつの家なんだ?」
今更だが。流石に良心が痛む。
「安心して。僕も悪い金持ちの家にしか盗みは働かないから」
「そうして僕はドジをして見つかるたびに、僕のふくよかとは言い難い身体を差し出して見逃してもらうのであった。今日こそは。いつも思うのは空しく今日も僕はまた穢され蹂躙される」
「勝手に変なナレーション入れないでくれるかな⁉そんなこと一度だってしたことないから!ていうか誰がふくよかとは言い難い身体さ!」
顔を赤らめて心外そうにツッコむ。
「そうか。金持ちのおっさんたちも自分の履きたてのほかほかパンツを女の子に盗まれるのは存外悪い気がしないのか」
「だから僕はパンツなんか盗んだことないから!もう君帰ってもらっていいかな⁉」
「じゃあなー」
「ああ嘘!嘘です!」
帰るふりをしたらすぐにすがりついてきた。
「次はないからな」
「悔しい!絶対僕悪くないはずなのに!君覚えておくといいよ。このお礼は必ずさせてもらうからね」
白銀が悔しそうに爪を噛みながら睨みつけてくる。ちょっとからかいすぎたか。
「僕は大体誰もいない時か、みんな寝静まった深夜を狙うから今のところ奇跡的に人
にバレてっていうことはないんだよ」
「そうか。お前ドジで不幸体質みたいだけど実は運良いのか」
「だけど君に見つかってしまったことは最大の不幸かもしれないって最近思うよ」
何かボソッと言ったようだが聞こえなかった。
「なんか言ったか?」
「う、ううん?何も?」
ぎこちない笑顔を返してくる。まあいい。
「じゃあこの家に住んでいるやつはどんなやつなんだ?」
「政治家の息子のボンボンで、親の金で遊んで暮らしてるニートだよ。でも最近はギャンブルにはまって夜は出かけてる。朝方帰って来るんだ。
親はもう他界してて残された莫大な遺産を使ってる。でもそのお金は汚職や税金の横領で得たものだから気にしないでいいよ。いわば僕たちの払った税金を返してもらうだけだから」
犯罪ではあるが確かにそんな金なら良心はまったく傷まないな。
「どうやってそんなこと調べたんだ?」
「僕の友達に情報屋をしている子がいるんだ。その子がいろいろ教えてくれるの。僕に泥棒のテクニックを教えてくれたのも彼女なんだよ。
前までは情報はただじゃないって教えてくれなかったんだけど、あまりに僕が成功しないからとうとう折れて教えてくれたんだ」
「ふーん。泥棒の師匠ね。まあお前を見る限り大したことなさそうだがな」
ピッキングも下手くそだったし。
「ぼ、僕は下手くそだけど彼女は本当にすごいんだよ!ちょっと不愛想だけどいい子だし」
「本当に何でも知ってるのか?」
「へ?さあ。でも情報屋だし色んな事知ってると思うけど」
「はあ」
やれやれ。
「なにさその腹立つポーズは。肩すくめてしょうがないやつだみたいな」
「いいか?こういう時はこう言うんだ。
『なんでもは知らないわ。知っていることだけ』とな。首の角度を意識するのがポイントだ」
「何それ。どういう意味?」
不思議そうな純粋な瞳で見てくる。
「だからお前はいつまで経っても泥棒が成功しないんだ」
「それ絶対関係ないから!まあいいや。君はいつも適当な事ばっかり言ってるから信用できないしね」
「まあ否定はできないな。今のも割と適当だしな」
「まったく」
白銀がむすっとした顔で見てくる。
「ところでその情報屋の友達に今度この町のトイレマップについて聞ききたいから紹介してくれよ」
「それはちょっとね。君みたいな人を紹介するのは彼女に失礼だし。彼女失礼な人嫌いだから」
「お前も今かなり失礼なこと言ってるけどな」
「あはは。そんなことよりいつまでもここで話してたら周囲の人に怪しまれるよ」
作り笑いでごまかして話を逸らそうとする。
「で?じゃあ俺はなにすればいい?」
「まずはこの手袋をはめてね。指紋対策。じゃあ君は裏口から中の様子をうかがってきてくれるかな?僕はちょっと玄関近くまで入ってみるから」
「了解」
俺は白銀と別れると家の柵に沿って裏まで回ってみる。それにしてもでかい家だ。裏口に着くと、中の様子を道に植えてある木に登って確認する。電気も消えており人がいる気配はない。
さっきいつも人がいないタイミングを狙うと言っていたから今回もそうなのだろうが、念入りに確認するあたりここがポンコツの原因ではないらしい。
「きゃああああああ」
急に白銀の悲鳴が向こう側から聞こえてきた。何だ⁉急いでさっきの場所に戻る。戻ってみると、門の中で白銀に犬が数匹群がっていた。
「ちょ、ちょっと。君たちどいてっ。重いから!あ、君靴盗もうとしないで!」
大型犬のドーベルマンが白銀を押し倒し胸の上に乗っかって顔を舐め回し、他の犬数匹もくっついたり、小型犬が靴を盗んで遊ぼうとしたりしていた。
「何してんだお前は」
「見てないで助けてよ!前にも言ったでしょ!僕は動物に好かれるの!特にワンちゃんたちは!」
「ていうか犬がいない家にしろよ。情報屋の事前調査はどうした?」
「ほんとだよ!犬いないって言ってたのに!」
おいおい友達もポンコツなのか?
「しょうがねえなあ。おら!しっしっ!あっち行け!」
俺は白銀の近くに行くと手でしっしっとして追い払う。しかしみんな俺のことを見つけた瞬間先ほどの緩み切った表情から一変して、牙をむき、目を怒らせ、毛を逆立てると臨戦態勢に入る。
「グルルルルルル。ワウワウワウッ」
「ちょ、どうしたの君たち。そんな顔したら怖いよ。一ノ瀬君何かしたの?」
「なんもしてねえ。けどいつも親の仇みたいに吠えられる」
「バウバウバウッ」
ドーベルマンが俺の体を組み伏せると、噛みつこうとしてきた。おい死ぬって!
「待て!」
「クウン」
ぎゅっと閉じた目を開いてみるとドーベルマンが子犬のような表情で白銀の方を見つめて、合図を待っていた。
「いい子だね~。お利口さんだね。このお兄さん悪い人じゃないから襲わないであげてね」
そう言って頭をなでる。他の犬も白銀の言葉にみんなおすわりしている。
「ありがとねー。お兄ちゃんの上からどいてくれるかな?いい子だからね?」
ドーベルマンがどく。最後に俺のこと後ろ足で蹴っていきやがった。こいつ。
「よーしよしいい子だー。みんなも良い子だね~。噛んだらダメだよ?」
他の犬も白銀の言葉に従う。俺に近づいてくると眉をひそめながら臭そうにすんすん臭いをかぎ始める。おい人の頭嗅いで顔しかめんなふざけんな。しかしみんな噛むなとは言われたが気に入らないようで爪でひっかいてくる。
「おい痛えな。特にダックスフンド。土みたいな勢いで掘んな。この短足犬が」
一匹だけ掘らずに俺のことを見ている犬がいた。チワワだ。
「なんだお前は俺の良さが分かるのか。やるじゃねえか。帰りになんか冷蔵庫からおやつ取ってきてやる」
「あっ。一ノ瀬君。靴見て」
「ん?」
言われた通り靴を見たら右足にうんこが乗っかっていた。
「おいお前何もしてねえと思ったらうんこしとったんかい!ふざけんな!流石の俺も靴の甲にうんこくっついたのは初めてだぞ!」
「あははは。こんなに動物に嫌われる人初めて見た。君本当は悪い人なんじゃないの?」
からかうように言ってくる。
「泥棒にだけは言われたくねえよ。ほれ。うんこほれ」
うんこのがついた方の足を伸ばして白銀に近づける。
「きゃああああ!よし!みんなよし!この人食べていいよ!」
一斉に犬たちがとびかかってくる。
「おおい待て待て待て待て!冗談だろ⁉ちょっとふざけただけだって!」
ドーベルマンがまた噛みつこうとしてくる。おい洒落にならんって!
「ふふーん。そうだよね?いつも僕をからかってごめんなさいは?一発ギャグしたら許してあげようかな」
「どろぼー!であえー!であえー!」
「きゃあああああ!待て!待て!みんなステイ!ダメ!君それは反則でしょ⁉君だって同罪なんだからね⁉分かってる⁉」
白銀が思わぬ反撃に慌てふためく。
「お前最強の技身につけやがって。おい血出たじゃねえか。このドーベルマン力強すぎるだろ」
腕を押さえられた時に爪がささったようだ。
「え?ほ、ほんとだ。ご、ごめんね!冗談のつもりだったんだけど。ほんとにごめんなさい」
慌ててポケットから絆創膏を取り出して俺の腕に貼ってくれる。
「あー。これ腕の骨も折れたかも。なんかめちゃめちゃ痛いし変な音したんだよなー」
「ええ⁉う、嘘!ぼ、僕なんてこと!あ、あの本当にごめんね。ど、どうしよう」
俺の嘘に焦り始める。
「これ体で支払ってもらわないと。分かってるよね?トイレットプレイ。自分の体の価値は自分で決めな」
「は、はい。うう。トイレットペーパーを使って僕にあんなことやこんなことをするんだ。とうとう穢されちゃうんだ。ああ神様ってうん?
君腕普通に動いてるよね⁉今お尻かいてたでしょ!ていうかトイレットプレイってふざけてるでしょ!」
「え?トイレットプレイってトイレにかかる時間を競う競技だけど?何だと思ったの?」
「君が体で支払えだの体の価値だの紛らわしいこと言うからでしょ!ていうか絶対意識してたでしょ!僕悪くないと思うんだけど!そんな競技も聞いたことないし!」
大声でまくし立ててくる。
「おいお前声でけえよ。さっきから絶対近所の人に聞こえてるから。もう今日やめて帰ろうぜ。悪いこと言わねえから。犬もいるしさ」
「嫌だよ!そしたら僕のしばらくのご飯は雑草だよ⁉可哀想だと思わないの⁉僕体に悪い雑草食べてお腹こわしたことあるんだからね!」
「俺の仲間じゃん。チーム名怪盗うんこ軍団とかにしとくか?」
「うるさいよ君は!君と一緒にしないでくれるかな⁉」
口が滑ったようで顔を赤くしてむきになって否定してきた。
「とにかく早く靴のそれ落としてきて。この子たちはここで待てさせてから中に入るから。この家の人は今日も朝まで帰ってこないから時間は問題ないし」
「それってなに?ねえそれってなに?」
「トレハラ禁止!」
これはトレハラなのか?んこハラじゃねえのか?
靴の上のうんこを洗い落とし、玄関の前へ行く。




