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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
24/69

23話 「お家でおばあちゃんと発酵食品でも食べてなさい」

 更衣室で着替えた後、ジャージで授業を受け、昼休み、食堂に向かった。どこの学校もそうだと思うが、昼休みになると食堂はたくさんの生徒で混みあう。しかしうちの食堂が混みあうのはどう考えてもおかしい。


これは悪口などではなく、一般論だ。というのも、うちの食堂は他校にない独自のルールが存在しているからである。それは――



「カンカンカンッ。お残しはけつ叩きだよお!」



 今日も今日とて食堂のおばちゃんがフライパンをお玉で叩きながら大声を張り上げている。食器を戻しに来た生徒一人一人を睨みつけ、お盆の上を凝視する。




 そう。ここの食堂は食べ残し厳禁なのだ。おばちゃんが作った料理を粗末にする輩は絶対に許さない。それが例え韓国から来た短期留学生であってもだ。韓国は出された料理を少し残すことで美味しかったという気持ちを表明するという文化があるのだが、そんなことはもちろんおばちゃんには関係ない。




一人残さず食堂に閉じ込め、完食するまで逃がさない。それがみんなの母ちゃん食堂のおばちゃんだ。ちなみに残した場合はみんなの前で真っ赤になるまでけつを叩かれる。もちろんそれは女子生徒だってしかり。スカートをまくしあげられ、みんなの前で露になったパンツの上から泣くまでお尻を叩かれる。だからみんな絶対に学食は残さない。




 食堂に着いた俺たちは、席を探すがすでに満席で座れそうにない。と思ったが。




「おっ。席取っといてくれたんか。サンキュー。気が利くなあ」


 二夕見と蓮浦が四人掛けの席に並んで座っていた。


「げっ。最悪」


 二夕見が俺を見た途端顔を歪ませる。


「お生憎様。席は見ての通り満席よ。他をあたってちょうだい」

「いやどう見ても向かいの席二つ空いてるだろうが」

「他に友達が来るのよ。嘘だけどね」


 小声でさらっと付け足す。


「おい聞こえてんだよ。席が満席の時は相席するのが日本人の優しさだろ?第一部員より友達優先するのかよ。部長のくせに部員が可愛くねえのかよ」

「あんたに可愛げの一つでもあるんならそれはチンパンジーのくせにトイレで用を足すところだけよ。あとはただの類人猿だから早く動物園に帰りなさい」

「あ?お前俺を怒らせるなよ?お前らが飯食ってる間周りでウホウホ言いながら変な踊りすんぞ?パンジーダンスすんぞ?」


 俺たちが言い争っている横でも蓮と蓮浦がメンチきりあっていた。





「おいお前なにうちのシマで飯食っとんねん。あんましうちのシマ荒らしとるんちゃうぞ?はよどけや」

「あん?お前こそ何こっち見とんねん。動物園の猿やからって何しても許される思うなよ?人間の生活スペースに入ってくんなや。あんまりキャッキャキャッキャ言うとったら飼育員さん呼ぶぞ。この害獣が」

「お前あんま調子乗っ取ったらえらい目見るぞこら?猿蟹合戦の猿が最後どうなるか知らんのか?死ぬんやぞ?」


 蓮が見当違いなことをさも賢そうに言う。


「だから何やねん。お前頭悪いやろ。そこは桃太郎とかでええねん。もうお前頭悪いからはよ死ね」

「い、今のは間違えただけやし。あれや。お前あんま猿なめんなよ?サイヤ人は猿やねんぞ?なんなら人類皆もともと猿やねんぞ?猿はすごいねん。人間はみんな猿やねん。つまりお前も猿や」

「なんやねんこいつ。なんか正論ぽくて腹立つし。お前らだけまだ進化の途中やろ。まだ槍持って『オッオッオッ』とか言うてるやろ」


 口では勝てないと思ったのか、メンチをきるのをやめると


「まあ何が言いたいかというと結局同じ猿なんやから仲良く飯食おういうことや。な?」


 と情に訴えかける。


「なんか納得いかんけど、はあ。しゃあないな。騒いだら追い出すからな」


 蓮浦が折れてくれて、席を譲ろうとしてくれる。




「ええー。私嫌なんだけど」

「まあまあ。どうせ放課後も会うんやし」

「りんなんか和泉くんにだけ甘くない?」

「はあ⁉そ、そそそんなことないし!」


 顔を赤らめる蓮浦の向かいで、俺は飼育員の先輩として新入りに声を掛ける。




「はーい。新人さん、今日からメスゴリラ二匹の餌づけ担当だから頑張ってねー。だいぶ狂暴だから気をつけてねー」

「うっす!よろしくお願いします先輩!何か対処法とかアドバイスあれば教えてください!」


 蓮が俺に向かって敬礼する。


「あーだいじょぶだいじょぶ。困ったらバナナあげとけば解決するから。皮むいてからあげないと怒るからねー。ほらしおごりたんの大好物の沖縄産島バナナだよー」

「だーれがしおごりたんよこのくされチンパンジー!ぶっ殺すわよ⁉」

「こいつらほんま殺したろか!優しくしたらつけあがって!」


 二人が椅子から立ち上がり今にも殴りかかりそうな勢いで言ってくる。


「おいおい。ランチを盛り上げようという軽いジョークだろ?」

「あんたセンスゼロだから二度と女の子と食事しない方がいいわよ。お家でおばあちゃんと発酵食品でも食べてなさい」


 発酵食品って素晴らしいよな。腐敗してるのになぜか体にいい上に美味しい。腸内環境も一気に改善お腹すっきりだ。




「お前らは何待ちだ?俺たちのこと待ってんのか?」

「そんなわけないでしょ。注文終わって料理待ちよ。てかあんたなんでジャージなの?」

「トイレ入ってたらバケツの水ぶっかけられた」

「…い、いじめ?」


 二夕見が動きを止めて恐る恐る聞いてくる。


「清掃のジジイがボケてるんだよ」

「まあそうよね。いじめって認めるのは勇気がいることだもの。何かあったら相談に乗るわ。まずはトイレの後手を洗うことから始めてみたらどうかしら」


 二夕見が憐みの目で見てくる。


「本当に清掃のジジイにかけられたんだよ!ていうかトイレの後はちゃんと手洗ってるって何回も言ってんだろうが!別に汚いからいじめられてるとかじゃねえんだよバカが!」


 何なら最近はお前のためにより念入りに洗ってるまである。





「じゃあ俺たちも頼んでこよか」

「そうだな」


 蓮とカウンターまで行き注文すると席に戻る。五分程して料理ができ、取りに行く。蓮はうどんと水を、俺は牛丼と牛乳を頼んだ。ちなみに二夕見と蓮浦は先に頼んだのにまだ料理はできていなかった。長そうなので先に頂くことにした。蓮がうどんをすする。俺は牛乳を先に一口飲む。二人して目をかっぴらく。




「な、何だと?」


「な、何やと?」




「おばちゃん!なんで麺が冷たいんや!うどんを温で出すのは常識やろ⁉」

「おいおばちゃん!牛乳冷たいってどうなってんだ!ホットミルクはねえのかよ!こんなの飲んだら腹下しちまうだろ!」

「おいおばちゃん!水が冷たいって何やねん!水はホットで出さんとお腹に優しくないやろ!」

「おいおばちゃん食堂の室温上げてくれよ!こんなに寒かったら腹壊しちまうだろ!」

「おいおばちゃん!なんでこんなにトイレ遠いねん!ご飯食べたら腸に刺激行ってトイレ行きたくなるんは当然やろ!」



「やかましい!」


 おばちゃんがカウンターからとんできて俺たち二人に特上の拳骨を落とす。


「「あいたー⁉」」

「あんたらは来るたびに文句ばっか言いおってから!あんたらみたいなアホはうどんも牛乳も食べるんじゃないよ!ヤクルトでも飲んどき!」


 向かいの女子二人が同時に溜息をつく。




「なんでこいつらこんなぶれないのかしら」

「こんなんとご飯食うのはずいわ」


 ぶたれた頭をさすりながら俺たちはブーブー文句を言う。


「ちっ。クソババア。いつもいつも思いっきり殴りやがって」

「げんこつおばばめ」



 しかし。




「誰がババアか!このクソガキども!」

「「いってえ!」」


 思ったよりも近くにいたおばちゃんには聞こえていたようで再度拳骨が落とされる。


「お残しは許さないからね!残した人はおしりが四つに割れるまで叩くよ!授業に遅れてでも食べていってもらうからね」


 食堂のおばちゃんは大きな声で警告するとカウンターに戻っていった。


「あんたたちいつもこうなわけ?少しは学習しなさいよ」

「うるせえ」


 二夕見が「何やってんだか」とつぶやく。




「おいそんなことより二夕見。勝負しないか」

「何の勝負よ」


 二夕見がこちらに目を向ける。


「チキンレースだ。俺はまだ牛丼に口をつけていないしお前の料理もまだ来ていない。そこでお互いの料理に、向こうのカウンター脇にある調味料、薬味などがおいてあるトッピングコーナーで好きに味付けして、できあがったものをお互いに食べさせる。また手元にある材料は食べ物である限り使用してよい。審査員の蓮と蓮浦に食べてもらいよりまずかった方の勝ちだ。そしてこの食堂ではお残しは許されない」

「そんな地獄みたいな勝負するわけないでしょ。どっちにしろまずいもの食べるんだし何の得もないわ」


 話は終わりとばかりに料理が来るのを待とうとする。


「じゃあ勝った方は負けた方になんでも言うこと聞かせられるなんてどうだ。学園の退学でも料理研究会の廃部でもなんでもいい」

「おいアホみたいな食戟始まったって。ていうか俺らも食うのマジ?」


 蓮が隣でぼやく。


「そんなことしたらあんたエッチなこと要求してくるでしょ」


 警戒して自分の体を抱きしめる。


「お前にはそんなの期待してないから安心しろ。せいぜいお前のおやつを大好きな島バナナからバナナ味ヨーグルトに替えるくらいさ。それともしおごりたんは怖くてできないのかな~」

「はいぷっちーん。ここまで煽られたらもう返事は決まってるわよね。ぶっ潰してやるわ。私が買ったらあんたの自慢のパンツにんこつけさせてやるから覚悟しなさいよ。あとから泣いて謝っても許してあげないから」


 容易に挑発に乗ってくる。


「お前流石に人のパンツに自分のうんこつけるのはどうかと思うぞ。動物園のゴリラだってそんなことしないぞ」

「あんたのんこよ!なんで私の…。言えるかあ!ぶっ殺す!」


 憤慨した二夕見が声を荒げる。




「なんか完全に乗せられてるけど大丈夫なんしお」


 蓮浦が心配そうに隣を見る。


「まあ一はちゃんとそこらへんわきまえてるから大丈夫やろ。そんなことより自分のこと心配した方がええで。俺らだけ両方食わなあかんねやから」




 二夕見の注文したラーメンが届き、食堂のおばちゃんが見回りに行っている隙に、お互いの品に味付けをしにいく。


「げへへへへ。まずはわさびにからし、タバスコ、マスタード、ラー油に七味とうがらし。ありとあらゆる辛い調味料を投入しかき混ぜる」

「あんた鬼ね⁉しかもご飯に混ぜるの⁉」

「バカ言え。こんなの塩コショウふったようなもんだ。軽い味付けさ。本番はここからさ。ここでケチャップとマヨネーズ、オイスターソース投入しまーす」

「おええええ」


 二夕見が大量に投下されていく調味料を見て気持ち悪そうな声を出す。


「仕上げはドレッシング!ごまドレ、和風ドレッシング、シークワサードレッシング!はいドゥルルンドゥルルンドゥルルン。さあ一ノ瀬スペシャル一丁!おあがりよ!」

「嘘でしょ私これ食べるの⁉あんた容赦なさすぎでしょ!ご飯が最早おかゆみたいになってんじゃない!」

「この俺に勝負を挑んだことを後悔するんだなあ。一体どんな命令しようかなー。語尾に『ウホ』とかつけさせようかなあ」

「勝負を挑んできたのはあんただから」





 隣を見るとさっきまでとは様子が一変した二夕見が余裕の笑みを浮かべて立っていた。


「まああんたはよくやったわ。雑魚の割に頑張ったんじゃない?褒めてあげるわ」

「あん?何でそんな勝ち誇ってるんだ?俺の一ノ瀬スペシャル食べて泣いたってしらねえぞ」

「私が本当の料理ってものが何なのか教えてあげるわ」


 二夕見はそう言うとドリンク用のトッピングコーナーへ移動する。


「き、貴様。まさか⁉」


「そう。あんたの敗因は二つよぼうや。一つは食べ物のトッピングコーナーと指定しなかったこと。そして二つ目はこの私に喧嘩を売ってしまったことよ!」


 そう言うと二夕見はスティックシュガー、ミルク、シロップをラーメンにぶっかける。


「ぬおおおおおおおお⁉お前鬼畜すぎるだろ!それだけは普通思いついてもやらねえだろ!インチキだ!反則だ!」

「あらこれも飲み物じゃない。問題ないわ。さーて仕上げにっと」


 今度は食べ物用のトッピングコーナーに戻るとりんご酢、ポン酢、レモン汁をぶっかける。


「ぬおおおおおおおお⁉さらに酸っぱい調味料を加えるだとお⁉悪魔の発想だ!あれだけ甘くしたスープに今度は酸っぱいものだと!この鬼!悪魔!」

「さあできあがったわ。二夕見スペシャルラーメンよ。おあがりよ♡」


 できあがった料理を持って席に戻る。


「お、おい。二夕見さんのはラーメンやからあんまり変わらんけど一のえぐいことなってもうてるやん。ご飯が雑炊みたいなってるし。色もおかしいやろ。これ俺らも食うん?」


 蓮があまりのビジュアルの破壊力に言葉をつまらせる。


「お前らは味見用に少しだけだ。あとは俺たちが食うんだよ。おええ。言っとくけど俺よりこいつの方がやばいからな。こいつシロップとかミルクとかシュガー大量に入れやがったからな。鬼畜すぎる」

「し、しお容赦なさすぎやろ。て、てかそれ私らも味見せなあかんのまじ?」


 蓮浦が驚愕の表情を浮かべる。なんなら他にもいろいろ入れてました。




「ええい!最後の抵抗じゃ!おりゃああ」


 俺は牛丼についてきたなめこの味噌汁を牛丼にぶっかける。


「きゃああああ⁉あ、あんたなんてことすんのよ⁉残飯みたいになったじゃない!これ私食べるの⁉」

「仕上げにほじほじっと」

「なに鼻くそ入れようとしてんのよこのクズ!自分が負けそうだからってさっきから嫌がらせしてんじゃないわよ!余計な事すんな!」

「おい頼むからこれ以上やめてくれや。お前らの争いに俺ら巻き込まんでくれ。完全に被害者やん」


 蓮と蓮浦が絶望的な顔をしている。


「もう後には引けねえよ。お残しは許されねえ。このスープを完食しなくちゃならねえ。お前お腹壊したら呪ってやるからな」

「こっちも同じなのよ。この残飯みたいなの完食しなくちゃいけないのよ。はあ。なんでこんなバカみたいな勝負受けちゃったのかしら」

「こっちなんか何もしてへんのに両方食わなあかんからな。どういうことやねんまじで」


 蓮が小皿に取り分けられる両方の料理を見てぼやく。


「神様。どうか私をお助けください。アーメン」


 蓮浦が神に祈っている。いやアーメンじゃなくてラーメンだし(笑)とか言ったらきっと殺されるだろう。




「よし食べるか。はあ。早くしないと昼休み終わるしな。はあ」

「この誰も幸せになれない企画はあんたが言い出しっぺなんでしょうが!さっさと食べなさいよ」




「いただきます」


 まず最初にスープを一口飲んでみる。


「ぶふっ!」


 あまりのまずさに口から吹き出す。


「きったな⁉ちょっと!あと少しで顔にかかりそうだったんですけど!何してくれんのよ!」

「こっちのセリフだ!てめえが作ったんだろうが!こんなもん飲めるか!ふざけんな!」

「あんたから言い出したんでしょ!この私が作ったもの食べられるんだからありがたく食べなさいよ」


 こんな殺戮兵器みたいものを作っておきながらよくもまあそんなことが言えたものだ。口に入れた瞬間気持ち悪い酸っぱさが脳を破壊し、後味の不自然な甘さが吐き気を催す。


「大体あんたの作った牛丼もどきだって見てよこれ!残飯よ残飯!」

「うるせえ!俺のが残飯ならお前のはゲロだゲロ!一回飲んでみろ!まじでゲロみたいだから」

「嫌よ。あんたが口付けたものなんか豚も食べないわよ」


 二夕見が「そんなことも分からないの?」といった顔で言ってくる。


どんだけ汚いんだ俺の唾液は!よおし。俺が勝ったら豚のコスプレさせてはいはいさせてやる。そして俺のよだれ入りの残飯を泣くまで食わせてやるから覚悟しとけよ。『生意気な口きいてごめんなさいブー』って言わせてやるからな」


「はいはい。もう私の勝ちは決まってるようなものだから好きなだけ吠えなさい。ほんと弱い犬ほどよく吠えるわよねー」




 俺たちが言い争っている横で、蓮と蓮浦は


「お前先食えや」

「いやお前が先食え。男やろ」

「じゃあいっせーのでで食おう」

「分かった。お前絶対逃げんなよ?絶対やぞ?」

「お前こそ逃げんなよ?逃げたら許さへんからな?」


 などと言い合っている。




「ていうかお前早く俺の一ノ瀬スペシャル食えや。食えんかったらけつ叩きだぞ」


 さっきから慢心している女に指摘する。


「分かってるわよ。うっ。この残飯みたいなの食べるの?ビジュアルはダントツで悪いんだけど。なんかご飯赤いし」

「いいから黙って食え」

「い、いただきます」


 二夕見が箸でご飯と牛肉を挟むと口に運ぶ。


「もぐもぐ」


 どうだ?勝てるか?


「かっら!おええ!まっず!」


 何とか飲み込むと水で流し込む。



「あ、でもこれ辛いしマズいし見た目は残飯みたいだけど、頑張れば食べられるていどのマズさね。味噌汁のおかげで辛さも何とかなるし」





「おいズルいって!やっぱ今から自分が作ったものを自分で食べるということで―――」

「いいわけないでしょ。一体どんな命令しようかしら。大好きなトランクスをトイレ掃除用の雑巾にさせて自分はピンクのボクサーでも履かせようかしら。でもパンパースもありね。そしてトイレ行くの禁止にしてお漏らしさせたらきっと屈辱すぎて憤死するわね。ああでも靴禁止にして裸足でうんこ踏ませるのも捨てがたいわ。あんたには日頃からお世話になってるからたっぷりお返しさせてもらわなくちゃ」


 心底楽しそうに俺がもっとも嫌がることを次から次へと思いついている悪魔がいた。やべえ。こいつ鬼だ。


「よしならまず一のはまだマシらしいからいってみよか」

「せ、せやな。うっ。い、いくで?せーのっ」


 隣ではようやく蓮と蓮浦も食べる覚悟ができたらしい。目をぎゅーっとつぶると一気に口に入れる。


「「ぱくっ」」


「おえっ」

「からっ」


 しかし二人とも吐き出しはせずに飲み込む。


「なるほどな。まあまずいが奇跡的に何とかなる程度のマズさや」

「せやな。見た目はほんまに残飯みたいやけど」

「俺の隠し切れない優しさが滲み出てしまったか。俺は人が苦しむ姿なんか本当は見たくないからな」



 それに比べて向かいの女は鬼畜生だ。俺だって牛乳は入れないでやったのに躊躇なくミルク(それもコーヒー用の)やシロップを入れやがった。


「優しいやつが鼻くそ入れようとするわけないでしょうが。ていうかそもそもこの企画思いついたのあんただし」


 人の心も持たない鬼畜生が何やら言っているが俺には聞こえない。





「だからこんな醜い争いなんてやめよう!僕たちは助け合うために生まれてきたんだ!今からでも手と手を取り合って仲良くしよう!おばちゃんもきっと分かってくれるさ!」

「何急に良いやつぶってんのよ!都合が悪くなった途端被害者面すんな!自分が食べたくないもしくは負けたくないだけでしょ。てかそんなこと言うんだったらあんたおばちゃん説得してきなさいよ」

「うるせえ!まだ二人はお前の食ってねえから分かんねえだろうが!ふざけんなよ!誰が好き好んでお前と仲直りなんかするか!おばちゃんを説得できるんだったら誰も苦労しねえんだよ!f〇〇k!」


 人が下手に出てやったら調子に乗りやがって。




「助からないって分かった途端手のひら返すの早すぎるでしょ。偽善者の皮が剥がれ落ちるの怖すぎるんですけど」

「やかましい!お前は黙って俺の牛丼でも食ってろ!」

「……」


 二夕見が何も言い返さずに俺のことを「あっ」という顔をして見つめている。なんだ?今更俺がハンサムだということに気づいたか。だがもう遅い。お前の名前は俺のデスノートにしっかり書いておいた。




「あんたたち、なんだいこれは?」


 後ろからただならぬ気配を感じ、振り返ってみると、食堂のおばちゃんが仁王立ちしていた。騒ぎすぎたようだ。どうやら俺のかっこよさに気づいたわけではなかったらしい。俺の後ろを見ていたのか。三人とも同時に俺を指さす。




「「「こいつが犯人です」」」






「食べ物で遊ぶんじゃないよ!」




 拳骨どころかラリアットされて椅子ごと後方に吹っ飛ばされる。

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