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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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20話 「おパンツ大論争」

 五分程して三人組がやってきた。校内にいたようでよかった。イカレ具合は小さいなんて言わせない。我らが小っちゃいものクラブの到着だあ!外からリーダー天ヶ崎がノックをする。なぜノックだけで誰か分かったかと言うと簡単だ。


「コンコンッココンコン♪雪だるまつくーろー♪ドアを開けてー♪」

「お前はノックするときそれやらんと気が済まんのか」


 俺はドアを開けに行く。ドアをスライドさせるとちびっこが三人立っていた。


「先輩こんにちは!もう先輩は私のことそっちゅう呼び出して都合のいい女って思ってませんか?いい加減下痢とゲロどっちが上かはっきりさせておきたいんですか?」

「そんなつまらん理由で呼び出すかよ。たしかに呼び出してばっかりなのは悪いと思ってるよ。今度何か奢るからさ。黒森と桑名も悪いな」

「余たちは本来戦いに備え言霊のコントロールの修行に忙しいのだがまあいいだろう。おぬしたちには世話になった。あまり気にするな」


 黒森がいつものように仰々しくしゃべる。


「まあ空き教室でくっちゃべってただけですけどね」


 何が言霊の修行だよ。超暇じゃねえか。


「ほんとだよお前。ちゃんと頭下げろよな。わざわざ時間削って来てやったんだからなんかお礼とかあるんだろな」


 新入りのくせに一番偉そうなガキが口を尖らせ偉そうに下からものを言う。


「ああ?てめえこらクソガキ、あるんでしょうか?だろうが。高い高いすんぞおら」

「はあ?ちょっと身長でかいからって調子乗んな!一つしか変わらないだろがボケ!」

「はいはいはい。ぼーぼちゃんはそろそろお家帰らないとママが心配するんじゃない

かなあ?大丈夫?ぼくちゃん一人でお家帰れまちゅか?お兄ちゃんがお手て繋いで一緒にお家帰ってあげまちょうか?」

「お前死ねよカスがぁ!お前こそそろそろトイレ行かないとうんち漏らしちゃうんじゃないのお?おむつの調子だいじょぶそ?」

「あらあうんちちたいの?んもう漏らしちゃったのお?うんちしたい時はママのこと呼んでって言ってるでしょひいちゃん!はいよちよち今パンパース新しいのに替えますからね~。すぐ気持ち悪いのあっちいけしまちゅからね~」

「俺様じゃねえよアホが!誰がひいちゃんだカスぅ!お前がいつも漏らしてんだろうがハゲ!」


「ふっ。残念だが俺は一回もうんこ漏らしたことがない。例えどれだけきつい腹痛が襲おうが、どれだけの下痢が押し寄せてこようが、俺は今まで耐えて、耐えて、耐えてきた。


俺のケツの栓は何があってもパンツを降ろすまではぬかせない。日々鍛えぬいたけつ筋が何人たりとも通さない。絶対不可侵領域ぱんつだけは汚させねえ!それが俺の誇りだ!」


 俺の誇りをガキどもに語って聞かせてやる。


「よく言った一!その通りや!例えおしっこを漏らそうがうんこだけは漏らさへん!純白のブリーフだけは染めさせへん。シミ一つつけさせへん!それが男や!」


 二人で腕をガっとぶつける。




「三人ともわざわざ来てくれてごめんね。入って入って。今ちょうど椅子が二人分空いたから。じゃあね二人とも。二度と帰ってこないでねー」


 二夕見が笑顔で手を振ると、俺たちを閉め出しドアを閉めると鍵をかけた。


「ガハハハハハハハ!閉め出されてやんの!ばーかばーか!」

「パンツのこと絶対不可侵領域とか言ってるやつ初めて見たわ。こわ」


  蓮浦が驚きの声をあげる。


「ゴキブリみたいなやつらだからどこからでも入って来るわよ。みんな気をつけて」

「まだ一匹中にも残っとるけどな」


 部室の中からうっすらと声が聞こえてくる。






「俺たちのすごさが分からんとはしょうがないやつらやな」


 廊下に閉め出された俺たちは先ほどの話の続きをする。


「まったくだ。トランクスを綺麗に保ち続けることのすごさがなぜ分からない」

「ん?違うやろ。純白の白ブリーフを履きながらそれでもシミひとつつけんのがすごいんや」

「は?」

「あ?」


 空気がぴりつく。


「あれ?お前まだブリーフなんて履いてんの?え?あれまだ存在してたの?昭和と一緒に消えたんじゃないの?あれって絶滅危惧種に認定されたって教科書に載ってなかった?レッドデータブックに載ってなかった?」

「あ?バカかお前は?お前だけ違う教科書買わされてへんそれ大丈夫?男は生まれてから死ぬまでずっと白ブリーフ一筋に決まってるやろが。え⁉てかお前こそもしかしてまだトランクスなんて履いてるん?」


 こいつは一体何を言ってるんだ?


「当たり前だろ。男はみんなトランクスを履いて初めて男になるんだよ。その後かめはめ波を習得してサイヤ人になるんだよ」

「あ?意味わからんこと言ってるんちゃうで?トランクス?何それ美味しいの?おじさん以外であれ履いてるやついるの?」


「ああ⁉」

「ああ⁉」



 互いに額を押し付け合う。



「おいおいおいおい、え?この令和にまだ白いブリーフなんか履いてるやついたんか?噓でしょ?オールドファッションすぎん?まだパンパース履いてた方がマシなんですけど」

「ああ⁉トランクスが時代に先取りしてセンター分け始めてたからってパンツまでトランクス履いてるやついるの驚きなんやけど。全然流行に追いついてないんやけど。完全に時代に取り残されてるんやけど。


あんなん履くくらいならまだ何も履かない方がマシなんやけど。え?てかトランクスってどこがいいん?ダボダボだし股ズレするし、動きにくいし、履いてるかどうかも分からんし、足臭いしあと俺悟天派やし」

「ああ⁉トランクスはゆったりしててお腹に優しく風通しもいい上におしゃれなんだよ!バカの一つ覚えみたいに白ブリーフ履いてる無個性のお前らとは違うんだよ!お前ら白ブリーフ履いて並んだらみんな区別つかねえんだよ!


てゆーかなんでお前がトランクスの足の匂い知ってんだよ。トランクスかっこいいだろうが!人造人間編とGTは最早トランクスが主人公みたいなもんなんだよ。ブリーフ派のくせに生意気なんだよ!お前らはボクサーの劣化版なんだよ!まして白ブリーフなんて変態仮面が被ってる以外で見かけねえんだよ!」


「変態仮面が被ってるのは女物やバカが!はっ!多数派がなんや!多けりゃ偉いんか?正しいんか?いつだって優秀なやつらは少数で、ハブられ理解されないんや!


それに知らんのか?お前らアンチブリーフのせいで息を潜めちゃあいるがブリーフ派は実は実際よりずっと多いんや!隠れブリシタンがおるんや!ザビエルも白ブリーフだったんや!銀魂で言うとったから間違いないわ!


五人に一人はブリーフってテレビで言うとったぞおらあ!それにお前はあれやろ?白ブリーフ履いてあれがついちゃうんが怖いんやろ?本当はついてるのがバレてまうもんな?」


 はいカッチーン。



「ああ⁉俺が漏らすわけないだろうがお前と一緒にすんな!あんなもんマザコンと小学生以外履かねえんだよ!まず形がダセえんだよ!中学生からはあんなん履くのは犯罪なんだよ!


それに知らねえのか?女子からは「白ブリーフはマジでない」こと請け合いの彼氏に履かないで欲しいダサダサパンツランキング№1のマザコンパンツが白ブリーフなんだよ!キングオブダサパンなんだよ!」




「確かにマザコンは白ブリーフを履きがちかもしれんが、俺はマザコンやない!それにな、女ウケが悪いからなんや?おしゃれだからなんや?ダサいからなんや?お前らはファッションでパンツ履いとんのか!違うやろが!パンツは己の信念の象徴やろうが!


白ブリーフ一本を貫き通し、己の潔白を証明する!例えパンツが真っ赤に染まろうが、茶色だけはつけさせへん!それが男やろうが!それに白ブリーフは綿100%なんや。無駄な染色してへんねん!素材がええねん。歴史があんねん!数々の男たちの魂を受け継いでんねん!」


「な、なんだと⁉た、確かにその通りだ。ちょっと白ブリーフ履いてみようかなって思っちまったぜ。俺たちは女ウケのためなんかにパンツを履いてるんじゃねえ。パンツは己の信念の象徴だ。


俺だってそうだ。俺たちトランクス派にだって誇りがある。信念持って履いている。おじさん臭いと言われようが、ダボダボパンツだと罵られようが、見えそうだからやめてくれと言われようが、俺たちは、トランクスが大好きだから!このおしゃれパンツに誇りを持っているから!ドラゴンボールが大好きだから!だから俺たちはトランクスを履くんだ!」


 俺の言葉に蓮が微笑む。


「くっ。言うやないか。伝わって来たわ。お前らの誇りが。よく分かったわ」

「ああ。トランクス派もブリーフ派も仲間だったんだな。仲直りだ」




「いや待てあんたらパンツ交換しようとしてんじゃないわよ!」


 俺たちがサッカー日本代表が試合後に互いの誇りであるユニフォームを交換するようにパンツを交換しようとしたところで、いつの間にか開いていたドアの中から両手で顔を覆い、隙間から覗きながら二夕見が横やりを入れてきた。


「なんだお前は。空気を読め空気を。今良い所だっただろうが」

「どこがよ大バカども!ようやく部屋から追い出したと思ったらバカみたいなことで部屋の前で言い争って!あんたたちの汚いパンツなんて死ぬほどどうでもいいのよ!てか汚いから早くズボンはけ!」

「こいつらほんま殺しといたほうがええな」


 蓮浦が物騒なことを言う。


「ガハハハハハハッ。廊下でちんこ出そうとしてる!こいつらバカだ!ぐふふ」


 ひとりだけ俺たちのやり取りを見て爆笑しているガキがいた。


「あ、あやつらは余の魔眼によるとサキュバスに操られおる。公共の場で自らパンツを脱ごうとするなどそれ以外考えられぬ。ぐっ。やつらめ、また余に精神攻撃をしかけおったな」


 黒森が右目の眼帯を抑える。


「先輩早くパンツ交換してくださいよ。ゾウさんがパオーンするところ見たいです!え?私のパンツですか?それは、ひ・み・つです♡」


 一人だけパンツの交換を促して一人で聞いてもいないことをもったいぶっている女がいた。


「いやあ!やっぱり俺の目に狂いはなかったっすよ!最高に熱いディベートでした!ブラボー!だれか女の子俺とパンツ交換しません?最悪買いますけど。一万からどうすか⁉」


 女子全員が無視する。


「可哀想だけど俺もお前とだけは嫌だよ」

「俺だって男とは金貰っても嫌っすよ。トランクスもはき慣れてないですしね」


 ないないと手を横に振る。


「何履いてるんだ?」

「ボクサーっす!」

「実につまらん。だからお前はモテないんだ」


 こいつがモテない一番の理由が発覚した。


「まったくや。白ブリーフ履いてみ。女はいちころやぞ」

「お前どの口が言うとんねん。お前マジで恥ずかしいから絶対女子の前でそのダサいパンツ見せんなよ」


 蓮浦が部室の中で自分のことみたいに恥ずかしそうにしている。


「お前も履いてみ。はまるで」

「はまるかあ!」

「いちころってほんとっすか!早速明日買いに行ってきます!」

「トランクスも一着買えよ。ボクサーは雑巾にでもしてトイレ掃除するときに使え」



 そしてそろそろ蓮浦がマジギレしそうだったので俺たちはズボンを履くことにした。部室に入れてもらい(ちなみに二夕見には部室に入るときに「手出して」と言われ、除菌スプレーをかけられた)、改めて土井の件に話を戻す。




 椅子には一年生四人に座ってもらい、俺たち部員は側で立って見守ることにした。

いつも俺たち二人が座っているサイドに土井が、向かいの正面の女子二人の場所に三人が詰めて座る。

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