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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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1話 「なにいい今日は避難訓練だとおおおおおお!?」 

 ぐぎゅるるるるる~。


「ぐおおおおおおお」


 凄まじい腹痛とともにけたましい音がトイレの個室に鳴り響く。


 学校中が授業の最中で静まり返った中、一人奮闘するのは変な感じがしていつになっても、何やってんだ俺はという気持ちになる。


 ジャー。


 トイレの水を流し、鍵を開けるとドアを押し、光の当たる外の世界へと出る。


「ああ、今日も激しい戦いだった」


 手洗い場までふらふらと移動しながら、ベルトを緩くしめる。圧迫しすぎると第二ラウンドまでもつれ込んでしまう可能性が高くなるのだ。


 蛇口を捻り水を出すと冷たい水が手に当たる。手を洗おうと左の方へ手を伸ばすと、少し黄ばんだ固形石鹸が置かれていた。


「ちっ」


 春先に冷たい水で、しかも汚い固形石鹸で手を洗えだと?舐めているのか。

手先が冷えて、結果的にお腹まで冷えてしまったらどう責任を取ってくれるのだ。それにこんなに汚いもんで手なんか洗えるか。

早くハンドソープにしろといつもクレーム入れているのに。けちけちしやがって。


 隣の台に移動し、比較的綺麗な石鹸で念入りに指の隙間から手首まで綺麗に汚れを落とす。ポケットからハンカチを取り出し手を拭くと、トイレから出た。


 廊下はしーんと静まり返っていて、またつまらない授業を受けに戻るのが億劫だと感じた俺は、廊下を右に曲がると、階段を上ることにした。




「ギイ」


 屋上のドアを開けると、春になったとはいえ、まだ冷たい風が首元を撫でつけ、ぶるっと身震いする。


 中に入ると塔屋を目指し歩いていく。固定梯子を上り、その上に向かう。


 屋上の屋上とも言えるそこにたどり着くと、どうやら先着がいたようだった。


「おい、(れん)。さぼりか」


 お尻の部分にクッションを敷いて、寝っ転がって猫のように日向ぼっこしていたそいつは、俺の声に目を開けた。


「お、いちやん。どうせお前も来るだろうと思ってな。えらい長かったやん。今日も下痢なん?」


「愚問だな。俺が下痢じゃない日など台風より珍しい。お前は?今日は調子どうだ?」


 俺は蓮の隣に寝転がりながら問いかける。


「俺か?さっきひと踏ん張りしてきたところや。出えへんかったけどな」

「あんまり踏ん張りすぎるとまた血が出るぞ」

「分かってるわ。お前こそ、出しすぎると体の水分なくなってまうぞ」


 お互いに軽口を言い合う。寝っ転がって空を見る。ああ今日も空は青いな。


 



 俺の名前は一ノ瀬英一(いちのせ えいいち)。一で始まり一で終わる男。そのせいかどうかは知らないが蓮からは一と呼ばれている。小学校の頃のあだ名はトイレの神様。俺ほどトイレに詳しい人間はいないと言っても過言じゃないほどのトイレ通だ。


 そしてこいつは和泉蓮太郎(いずみ れんたろう)。小学校の頃からの幼馴染で、俺は蓮と呼んでいる。

 立てば座薬、座ればボタン(ウォシュレットの)、歩くたびにボラギノール。

 俺が下痢のエキスパートだとしたらこいつは便秘のエキスパートだ。俺の弱点がお腹だとしたらこいつの弱点は尻だ。

 踏ん張りすぎてこの年で痔持ちだからだ。


 女の子のハートよりも繊細なお尻の持ち主である。小学校の頃のあだ名はトイレの太郎君だ。


「俺がトイレに行った後すぐ抜けたのか?」


 俺は視線を横に向け尋ねる。


「おうよ。今日こそは出そうな気がしてな」

「マジで無茶すんなよ。あの痛みは下痢の腹痛とはまた違うが、それに匹敵するかそれ以上の破壊力を持っている。長年戦い続けているお前には畏敬の念すら覚えるよ」


 俺も一度切れ痔になったことがあるが、腹痛と切れ痔とのダブルコンボに死にそうになった。まじで。


「大丈夫。俺にはこいつがあるからな」


 そう言って蓮がポケットから取り出したのはボラギノールだった。


「なんつうもんポケットに常備してんだよお前は」

「ボラギストのポリシーや」

「俺も以前お世話になったな。ボラギノール先輩には。拝んでおこう」


 俺たちはボラギノール先輩をコンクリートの上に置くと、二人して正座して手を合わせ拝んだ。ありがたやー。


 そうしていると、誰かが屋上のドアを開ける音がした。上から見ていると、女子生徒が一人入って来た。


「何やー。授業中やっちゅうんに、不真面目なやつやな」


 蓮が自分のことは棚に上げ呑気なことを言う。


 と、その後に続いて、大量の生徒が列を作って屋上に入って来た。


「何だ?ボイコットでもしてるのか?」


 俺は体を起こすと下を覗き込む。


「俺たちも参加するか?楽しくなってきたやん」


 蓮が少しはしゃいだ声で言う。


 しかし、次から次へと生徒が行進してくる。一学年あたりの人数を超えたあたりで俺たちは青ざめてきた。



『みなさん、落ち着いて避難してください』


 先生が拡声器を使って指示しているのを聞いて、ようやく今日の予定を思い出した。そう言えば、今日は避難訓練だった。俺たちは瞬時に伏せの体勢に入った。



「おい!ヤバいやろこれ!どないすんねん!なんで放送聞こえなかったん⁉」

「お前のせいだろうが!お前がスピーカーがうるさくて昼寝できねえなんて言って蹴っ飛ばしたから壊れてるんだ!」

「お前だってよくやったとか言ってたやんけ!てかなんでグラウンドに避難せんねん!」


 互いに責任を押し付け合う。


「うちの学校は人数少ねえから屋上でも全校生徒収集できるんだよ!てか言い争ってる場合じゃねえぞ!先生に見つかったら停学ものだぞこれは!ああやべ、腹痛くなってきたかも」


 過度のストレスでお腹が痛み出し、先ほどの続きを促される。


「おいい!このタイミングで腹下すんじゃねえ!どうすんねん!あ、俺もなんかお腹に刺激加わって、今ならうんこ出るかもしれへん」


 ツッコんできた蓮も急にお腹に手を当て、呑気な事を言う。


「おい、お前ら。やはりここだったか」

「「うわあ!」」


 いきなり後ろから声をかけられて、俺たちは二人そろって跳びあがりそうなほど驚いた。


 振り返ると、体育教師の河瀬先生が、梯子につかまりながら、顔だけ覗かせていた。


「先生驚かさないで下さいよ!うんこ漏れそうになったじゃないですか!」

「ほんとっすよ先生。あと少しでパンツが赤色に染まるところやったやないですか」


 俺たちは驚きの余り漏れそうになったことを非難する。


「お前ら、なぜ教師に見つかっておきながらこんなに余裕なんだ。まったく。そして和泉、なぜお前はうんこしたら血が出る前提なんだ」


 河瀬先生は溜息をつきながら、俺たちを呆れ顔で見ていた。


 河瀬めぐみ。アラサー独身女性教師で、体育を専門としている。さばさばした性格から男女問わず人気の、美人教師だ。行き遅れなことを気にしている。


「先生がたばこ吸いに抜け出してきてること秘密にしてるやないですか。ここはwinwinにいきましょうよ」


 蓮が遠回しに黙認するよう提案する。


「授業をさぼるくらいなら見逃してやれるが、流石にこれは見つかるとまずいんだよ。私が軽い処分になるように取り計らってやるから、おとなしく降りてきなさい」


 河瀬先生が俺たちに諦めるように促す。「先にトイレに行かせてやるから」としっかり俺たちの事情も汲んでくれる。


「先生が黙ったくれたら、もしかしたら、このままやりすごせたりしないですかね?」


 流石に叱られるのは嫌だ。めんどくさい。


「バカ言え。見つかるのも時間の問題だ。私も、お前らの頭が見えたからここに来たんだ。私に見つかっておいた方が楽だぞ」


 正直もうお腹も限界だし、蓮だってそうだろう。ここはおとなしく諦めよう。蓮も同じ考えらしく、俺の方を見て頷いてきた。


 


 というわけで、俺たちは今、職員室の一角で、体育教師である河瀬先生から説教を受けていた。ちなみにトイレには先に行かせてもらえた。


「一応、他の先生たちからは停学にすべきだとう言う声も上がっていたが、私がしかるべき処置を施し、叱っておくということで納得させといた。それで?一応聞いておくが、何で授業中に塔屋なんかに上っていたんだ?」


 腕を組んだ先生が眉を吊り上げて厳かな雰囲気を醸し出そうとする。恐らく職員室で指導を引き受けた手前周囲に厳しく指導していることを示そうとしているのだろう。


なんて優しい先生なんだ。しかしそんな俺の考えを読み取ったのか鋭く睨みつけてきた。そんなわけなかったか。


「避難訓練の下見に来ておりました」


 蓮が敬礼しながら真面目な顔で答える。


「ほほう。それはいい心がけだ。褒美にけつに蹴りを一発くれてやろう」


 先生が足を組み替える。


「一ノ瀬は?何していた?」


 今度は俺の方に首を向ける。


「河瀬先生を変態から守るべく、高台から不審者を探しておりました」


 俺も敬礼し真面目な顔と声音で返答する。


「今日の避難訓練は津波が来た時の想定だバカ者。お前もボディーブローされたいらしいな」


 俺たちの弱点を的確に打ちにこようとする鬼畜アラサー教師。河瀬先生は深くため息をついた。


「あのなあ。言っておくが今回私がなだめなかったらかなりまずいことになっていたんだぞ?まず私に何か言うことがあるんじゃないのか?」


 そう言って俺たちに不満気な呆れたような顔を向けてくる。


「「ありがとうございます」」


 二人でお礼を言う。


「そうだ。そしてだ、お前たちは反省もしていないようだし、おとがめなしだと私が周囲から色々言われるわけだから、お前たちには罰を受けてもらうことにした」


 そう言って一人で首を縦に振ってうんうん納得している。


「「ブーブー」」


 俺たちは不満の意を示す。


「何だ?何か文句がありそうだな?」


 元ヤンの河原めぐみ二十九歳が袖を捲り上げ、拳を握りしめた。この人に何度も拳骨をくらっている俺たちは、瞬時に心を折られ、無抵抗を示すため両手を上にあげる。


「いえ、豚の真似です」


 と俺。


「屁こいただけです」


 と蓮。


「その罰というのはだ、今から私について来ればわかる」


 そう言って立ち上がるとついて来いと首をくいくいさせる。


「なあ。先生また筋肉ついたんじゃないか?」


 俺たちはその後ろでひそひそ会話する。


「それな。今二の腕に力こぶがもっこり乗り上がっとったぞ。ほんま筋肉質よな」


 蓮が制服の袖をまくると筋肉を盛り上げる真似をする。


「まじ筋肉だるまだよな。絶対趣味筋トレだぜ」


「寝る前に腕立てとかしてんねん。腹筋バキバキや」 


「誰が筋肉だるまだ!私の体は華奢な乙女の体だ!」


 俺たちの声が聞こえていたらしく、顔を真っ赤にした河瀬先生が拳骨を落とす。


「いったああ!」

「いってええ!」


 先生は自分の体が筋肉質なことを気にしている。体つきは大人の女性の体といった感じで、出るところは出て、腰もモデルくらいくびれているのだが、隠れ筋肉ゴリラなのだ。


「さっさとついてこい!」


 機嫌を損ねた先生が荒い足取りで進んでいく。先生について行き、職員室から出てしばらく行くと、男子生徒に囲まれている先生を見かけた。木原先生だ。


「先生、今日も最高に可愛いです!二人きりで数学教えてください!」

「んもうだめよ。先生はみんなのものなんだから」


「先生、今度一緒にデートしてください!」

「もー、先生をからかっちゃダメでしょー。二十歳すぎたら考えてあげるわ」

「そうだ。先生ね、今からこの重たい荷物を数学室に運ばなくちゃいけないの。誰かか弱い先生の代わりに運んでくれるかっこいいナイトさんいないかなー?」


 などと言って目をパチパチさせている。


「はいはいはい!俺運びます!」


「俺も俺も!」


 甘ったるい声を出して、ぶりっこしているこの先生は木山しょうこ。二十九歳独身の数学教師だ。たれ目に、分厚い唇、白い肌のたぬき顔で、男子にぶりっこするため女子には嫌われるが、男子には好かれている。


「あ!一ノ瀬くんに、和泉くん!」


 俺たちを見つけて駆け寄ってくる。


「聞いたぞー。避難訓練の時に、塔屋に上ってさぼってたんだってー?もうやんちゃなんだから~。あんまり不真面目だと先生怒っちゃうぞ?ぷんぷん」


「いや先生、この年でそれはちょっときついです。あと近いんで離れてもらっていいですかね」


 俺はないないと手を横にふる。


「てか先生香水きついから変えた方がいいっすよまじで。頭痛なるんで」


 蓮が更に追い打ちをかける。


「も、もうー。二人ともいつも意地悪なんだからー。先生泣いちゃうぞ?ぴえん」


 木山先生が一瞬固まる。


「いやほんときついんでぴえんとかやめてもらっていいですか」


「先生鼻炎なんすか。せやったら病院行った方がいいっすよ」


 木山先生は最早笑顔を維持するのが難しいらしく、頬が引きつってピクピク痙攣している。あと少しだ。


「そ、そうだ!先生荷物いっぱいあって困ってたの!二人とも運ぶの手伝ってくれない?ね?お願い!」


 そう言って両手を合わせて頬にくっつけると首をわざとらしく傾げる。


「いや俺ら今から指導あるんで。先生ほんとは馬鹿力なんだし自分で運べば――」


「〝あ?運ぶよな?」


 鬼の形相をした木山先生が顔を近づけて、さっきとは取って代わった低い声で俺たちにしか聞こえないようにすごんでくる。


「「はい。運ばせていただきます」」


 二人で声をそろえると、頷く。


「あらー。ありがとう二人とも~。もう素直じゃないんだからー。じゃ、よろしくね☆」


 さっきの甘ったるい声に戻り俺たちにウインクしてくる。


「おいしょうこ。私の生徒たちを脅すな。二人には今から指導があるんだ。自分で運べ」


 しかし側で見ていた河瀬先生が横槍を入れる。


「あら河瀬先生。いたんですかー?まったく気づきませんでしたー。ごめんなさいねー。私先生みたいに筋肉モリモリじゃないか弱い女子なのでー、重くて持てないんですよー。あ、河瀬先生また少し筋肉ついたんじゃないですか?二の腕太くなりましたー?」


 などと言って煽り散らす。河瀬先生のこめかみがピクピク痙攣する。そして満面の笑顔を浮かべると明るい声で返す。


「いやだなー。木山先生こそ、またけばくなったんじゃないですか?心なしかしわの数も増えたような。それにやっぱりちょっと香水きついですね。生徒に言われるくらいだからなかなかだと思いますよ?(笑)もう年なんじゃないですか?そろそろ女子(笑)ってつけた方がいいんじゃないですか?(笑)」


 今度は木山先生の頬が引きつる。


「そういう河瀬先生こそ、ちょっとシミ増えたんじゃないですかー?髪もふけが目立つし、くまもひどいですよ?あ、ごめんなさいそれシャドウでした?あまりに顔が老けてるのでくまかと思いました(笑)」

「私薄化粧なので、けばい木山先生には負けますよ。でもけばい割には喋り方とか言葉だけ若いですよね。少しでも若く見せたくて頑張ってるんですか?(笑)ちょっと痛いっていうかきついんでやめた方がいいですよ?さっき生徒にも言われてましたけど(笑)」


 二人とも満面の笑みで、明るい声音を出しながらお互いにどぎつい毒をはき合っている。傍から見たら世間話でもしているかのようだ。怖すぎるだろ。

 河瀬先生と木山先生は、高校生の頃からの付き合いで、二人とも元ヤンだったころによくケンカしていたらしい。


木山先生がタヌキ顔の厚メイクだとしたら、河瀬先生はクールビューティーといった感じの切れ長な目に通った鼻筋、しゅっとした顔で薄メイクと対照的な二人なのだ。二人は犬猿の仲で、会うたびに大人の喧嘩を繰り広げている。


「怖すぎるやろ。今のうちに帰ろうぜ」


 蓮が小声で話しかけてきた。二人はまだギャーギャー言い合っている。


「よし、そうだな」


 まず最初に蓮がこそこそと回れ右して二人から遠ざかっていく。俺もそれに続こうとしたところで、二人に話を振られた。


「一ノ瀬!」

「一ノ瀬くん!」


「「どっちが行き遅れに見える⁉」」


 二人とも必死な形相でこちらを振り返ってくる。知らねえよ。どっちも行き遅れだろうが。


「いやー、どちらも素敵で僕にはちょっと決めかねるっていうか、きついっていうか」


「「アラサーはきついの⁉」」


 そんなこと言ってないだろ。何なのこの人たち。超めんどくせえよだから独身なんだよ。


 とここで河瀬先生が蓮がいないことに気づいた。


「おい一ノ瀬。和泉はどこへ行った?」


 急に声のトーンが下がる。


「逃げました」

 

 嘘をつけば殺すと顔に書いてあったので、俺は正直に答えざるを得なかった。だってさっきから二人とも殺気すげえんだよ。


「あいつめ。私が軽い罰で済ませてやろうとしているのに。次会ったら百回尻叩きの刑だな」


 右手拳を左の手のひらに打ち付けている。それ殴ってんじゃねえか。


「先生それはまじで勘弁してあげてください。血が出ちゃうんで」


「まあいい。行くぞ一ノ瀬。まったく不快なやつに会った」


 苦い顔で木山先生を見る。


「河瀬先生、あんまりプロテイン飲んだらだめですよー」


「木山先生も化粧品使いすぎると更に老けますよー」


 最後まで顔だけにこにこしながら毒をはき合う二人。


 


 木山先生がいた場所から離れると、東校舎と西校舎を繋ぐ廊下を渡る。


「西校舎なんかになにしに行くんですか?」

「着けばわかるよ。なかなか困ったやつだが、良くしてやってくれ」

「なんの話ですか?あの俺ちょっとトイレしたくなってきたんで、また日を改めてとか」

「お前がトイレを済ませるまで監視しておいてやる。安心してすませろ」


 できるかよ。


 しばらく歩いていくと、西校舎に着き、学校福祉部と書かれた部室がぽつんとあった。


「何すかここ。ここの掃除でもするんですか?」

「入るぞ二夕見(ふたみ)


 俺を無視すると、河瀬先生はドアをノックして横にスライドさせた。


「あ、先生久しぶり」


 中から女の子の声が聞こえてくる。


「朗報だ二夕見。新入部員を連れてきたぞ」

「え⁉嘘!やった!流石河瀬先生!」


 ん?今何つった?


「入れ一ノ瀬」


 俺は無理矢理首根っこを掴まれ中に入れられる。

 顔を上げると中には艶やかな黒髪セミロングの、真っ直ぐな瞳をした綺麗な女の子が椅子に座っていた。そしてその子は、俺の顔を見た瞬間に大きな目を鋭く細め、きりっとした眉毛を吊り上げると、整った顔を歪め、顔いっぱいで不快感を示した。



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