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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
17/69

16話 「サプリメント殺しの悪玉菌」

 ファミレスに着くと、ハンバーグにサイコロステーキ、から揚げ、サラダ、ポテト、コーンスープなどを頼む。


「こっ、こんなに頼んでいいの?」


 泥棒女が目を丸くして俺を見てくる。


「三日食べてないんならいっぱい食べとけ」

「ぐうううううう」

「お腹で返事するなっつうの」

「うっ。恥ずかしいよ」


 頬を赤くして目を恥ずかしそうに左右に動かす。


 料理が運ばれてくると目をキラキラさせてこっちを見てきた。


「どうぞ。俺は腹減ってないから全部食べていいぞ」

「い、いただきますっ」


 育ちがいいのか三日食べていない割にはがっつかずに、でもせかせかとナイフで切り分けてから上品に食べ始めた。


「おっ、おいしすぎるっ。お肉ってこんな美味しいんだ」

「料理ってこんなに種類があるんだっ。すごすぎるよ」

「うう。美味しいいい。もう死んでもいいかも」


 などと言って感動している。


「はは。そんなに喜んでくれるとご馳走しがいがあるよ」

「追いかけてきたときはヤバい人かと思ったよ。ごめんねひどいこと言っちゃって」


 申し訳なさそうに俺のことを見てくる。まったくだ。


「いいさ。そんなことよりさっきまた雑草って言ってたが雑草食べたことあるのか?」

「あるよ。本当にお金ない時は公園で食べられそうな雑草探して食べるの。七草は知ってる?」

「聞いたことはある。春の七草だっけ?お粥に入れて七草粥にして食べるんだよな。どんな草なのかまで知らないが」

「そうそう。春の七草はセリ・ナズナ・スズナ・スズシロ・ホトケノザ・ゴキョウ・ハコベラで、スズナはカブでスズシロは大根のことなの。それ以外は普通に雑草として生えてるから結構食べたことあるよ」


 泥棒女が食べながら説明する。


「へえ。そうなんだな。どうやって食べるんだ?生で食えるのか?」

「サラダとして食べられるものもあるけど、外に生えてるものだからちゃんと洗って加熱した方がいいんだ。僕は茹でておひたしにしたり揚げて天ぷらにしたりするんだ」

「山菜取りなんてあるくらいだし熱したら何でも食べれそうで、安上がりで悪くないんじゃないか?雑草パーリーし放題じゃねえか。もやしより安くて種類も豊富ならむしろ雑草の方がいいんじゃねえか。やっぱりドア代払ってもらおうかな」

「そそそそ、そんな簡単じゃないからね⁉山と違っていろんな人が踏んでるし、犬のおしっことかかかってるのも多いし、なにより毒が含まれてるものもたくさんあるから危険なんだよ⁉


僕もたまに体調悪くなることもあるし!できれば食べたくないんだよ!それにスーパーの袋をぶら下げて帰る人たちの横で道端の雑草抜いてる人間の気持ちになって見てよ!空しくてやってられないからね!」


 慌ててまくし立てる。


「そりゃそうか。たしかに好んで食べるものでもないか。悪かったよ。ドア代はいいや。まあ冗談のつもりで言ったんだがな」

「ふう」


 安堵して息を吐く。


「てか雑草なんてマヨネーズつけたらなんでも食えるかと思ってたわ。実際美味しいのか?」

「さっきも言ったけどいろんな人が踏んでるし犬のおしっことかもかかってるから洗うのはもちろん加熱しないとお腹壊しちゃうよ。美味しいのもあるし苦くてあんまり美味しくないのもあるよ。


アブラナなんかはからし菜みたいなのがあってちょっと辛いけど美味しいんだよ。他にもタンポポとかつくしとかヨモギとか公園や道に生えてるものなんかけっこうあるから気になるなら食べてみたら?」


「勉強になるな。学校でもこういうのを教えて欲しいぜ。食べる気はしねえがな」

「普通はそうだよね」


 あははと笑う。


「そうだ、俺はちょっとこの店のトイレを採点してくるから食べといてくれ。お代わりしたかったら頼んでいいぞ」

「うーん。これはやっぱりまずい人に関わっちゃったかなあ。僕またやっちゃった?」


 そう言って首を傾げている。




 トイレから戻ってくるとあれだけあった料理がほとんどなくなっていた。三日分食べたらしい。


「あ、おかえり。どうだった?」


 食べるのを止めて顔を上げると尋ねてきた。


「そうだな。トイレットペーパーの予備なし、床汚い、だがウォシュレットありのハンドソープありで五十点ってところだな。まあ飲食店にしては設備は上等だが管理が甘い。どんなに高性能なトイレでもそこに胡坐をかいてはいけないとい教訓を得られたな。そもそも汚いと使いたくならんからな」


 俺は採点基準を教えてやる。


「僕から聞いといてなんだけど一応今食事中なんだよね」


 ジト目で俺の方を見てくる。


「聞く方が悪いな」

「社交辞令で聞いたんだよ!汚いよ君は!」

「ほう?そんな口の利き方をしていいのかい?まだ会計は終わってないんだよ?」

「うう。この人やっぱりヤバい人だった。嵌められたんだ。この後トイレに連れていかれてあんなことやこんなことされるんだ」


 また変な勘繰りを始める。


「冗談だっての。あ、おかわりでカレーとか頼むか?」

「君わざと言ってるでしょ⁉この話の流れでカレーを勧めてくるのは悪意を感じるよ!」

「から揚げって茶色いよな」

「そうだけどそれってわざわざ言うことじゃないしこのタイミングで言うことじゃないよね⁉やめてくれないかな⁉これ何らかのハラスメントに該当するよね⁉」


 顔を歪めてそう言う。


「ジョークジョーク」

「そうださっきの続きだけど下痢に効く雑草があってね、ゲンショウノコっていうんだけど、道端とかにも自生してて薬局とかにも売ってるんだよ」

「おいおいなんだと。根っこまで食べつくすわ。だがこれまで数々のサプリメントを打ち負かしてきた俺の腹痛に勝てるかな。最強の悪玉菌が俺の腸内には生息してるぞ。魔人ブウより強えかんな」

「何でそんな自慢げなのさ。君も君で苦労してるのかな」


 向かいから呆れ顔で見てくる。


「てかそう言えば雑草には効能があるものも多いって聞くよな。薬草っていうか。どうなんだ?」

「実際そうみたいだよ。センブリ茶の元であるセンブリは腹痛に効くし、ドクダミは化膿、痔疾、腫物に効くし、シソは漢方としても使われていて食欲増進効果や殺菌作用がるんだよ。今言った以外にも雑草にはほとんど薬効があるんだよ」


「すげえな。今度センブリ美味しく調理してくれよ。あと俺の友達に痔を患ってるやついるからドクダミも」

「いいけど、センブリはすごく苦くて食べられたものじゃないよ?それに君の友達この年で痔持ちって…。た、大変だね」


 少し引いている気がした。


「たしかにセンブリ茶はそうとう苦いらしいもんな。てか雑草にそんな効能があるんだったらお前超健康体じゃん。長生きして泥棒し放題じゃねえか」

「それじゃあいつまでも借金返せてないじゃないか!おばあちゃんになっても泥棒するなんてごめんだよ!」

「ていうかお前はその前に間違いなく捕まるだろ。こんなポンコツで何年持つんだよ」

「う、うるさいなあ」


 恥ずかしそうな煩わしそうな顔を浮かべる。


「ていうかそれならなんで三日も何も食べてないんだ?そんなに雑草食べる方が嫌だったのか?」

「公園を改装するするとかで封鎖されてたんだ。公園が雑草採取の穴場なんだけど、遠くの公園に行こうと思ったら大雨が降って来て断念したし」

「とことん運の悪いやつだ」


 あははと苦笑いする。


「まだお腹空いてるか?もっとおかわりするか?」

「ううん。もうお腹いっぱいだよ。あと少しで全部食べ終わるから。ありがとう」


  顔をほころばせお礼を言う。


「もしかしてさっきのからあげとカレーで食欲なくしたとかある?」

「うん正直ちょっとね」

「ジョーク?」

「ううん。まじ」


 急に真顔でこちらを見据えてくる。


「いやなんだ。もしまた会うことがあったらご馳走するよ。な?」


 俺は申し訳なさそうな顔で向かいを見る。


「え⁉いいの⁉ただでさえこんなにお世話になったのに!悪いよ」


 驚いた顔で拒んでくる。


「いやいやいや。頼むから奢らせてくれ」

「ドア代もタダで、ご飯もご馳走してくれて、その上次もあるなんてほんとになんて言ったらいいか。本来なら厚かましくて全力で遠慮したいところなんだけど、いいのかな?」


 申し訳なさそうに、でも相当苦労しているのだろう。おこがましさと生物的欲求(食欲)との間で揺れている。


「もちろんですとも!だから、な?今さっきのことはなかったことに。ね?」

「いやあ、言ってみるもんだなあ。まあ正直最悪のデザートをご馳走になったなって思ったんだけど、次があるなら全然いいよ!」

「いやあ話が分かる!」

「ていうかこんなにお礼になっておいてそこまで気にしてないよ」


 そう言ってはにかむ。




「本当にありがとうございます。こんなにご馳走してくれて。助かりました。そうだ。君名前なんて言うの?制服着てるし高校生だよね?」


 ここで初めてお互いに名前を知らないことに気づいた。


「俺は一ノ瀬英一。楽大高校二年。よろしくな。お前は?」

「あれ?僕もそこに通ってるんだよ。同級生だ。僕は白銀しろがねゆき。よろしくね」


 そう言って少し驚いた顔をする。


「へえ。同級生か。俺のこと知らないんだな。割と有名な方なんだけど」

「バイトで忙しくてあんまり行けてないんだよね。まあ君は確かに有名そうだ。ずっとトイレにいそうだしね」


 などと言って苦笑いをする。


「よく分かったな。その通りだ」

「だから俺のこと知らないのか。じゃあ電話番号教えてくれよ」

「ああごめんね。僕携帯もってないんだよね」


 少し恥ずかしそうに頬をかく。


「持ってないの⁉ああまあそうか。金かかるもんな。大変だな。じゃあ一応俺の電話番号渡しとくからなにかあったら公衆電話からでもかけてくれ」


 俺はテーブルの端に置いてあった紙に電話番号を書くと渡した。


「き、君優しいなあ。こんなに優しくされたの始めてかも。僕バイト先でもよくドジして怒られてばっかしなんだよ」


 なんだか感動しているようだ。


「そうか。お前そのうち下手こいて新聞載りそうだな。てか賄い出る店で働けばもやし以外も食べられるんじゃないか?」

「前までは賄いの出る飲食店で働いてたんだけど、つまみぐいがバレてどこもクビになるんだよね」

「なんでそんなデブがクビになりそうな理由でクビになってんだよ。賄い出るんだから我慢しろよ」

「あんまり食べられないから常に空腹なんだよね。あはは」


 恥ずかしそうに頬をかく。 


 同級生にこんなやつがいるとは知らなかった。この学校はどこかおかしいかもしれない。




 全部食べ終えた白銀と店を出ると夕方になっていた。


「じゃあな。俺もう帰るから」

「うん。ほんとにありがとうね。またね。なにかあったら電話するね」


 電話番号が書かれた紙を大切そうにポケットにしまった。


「ああ。腹減ってどうしようもなくなったら電話しろ」

「それはさすがに図々しいよ。盗みでどうしても囮が必要な時に呼ばせてもらうよ」


 などと言って口元をニヤッとさせる。


「そっちの方が図々しいんだよ。この俺を囮に使うとはいい度胸してるじゃねえか。じゃあまたパンツ被りたくなったら電話してくれ。なんなら次は俺の脱ぎたてほかほかのパンツを被らせてやる」

「だからあれは事故だって言ってるでしょ⁉君の脱ぎたてのパンツなんかいらないよ!」


 恥ずかしそうにむきになって必死に否定してくる。


「パンツは新鮮なものに限ると」

「違う!そういうことじゃない!」

「ははは。冗談だ。またな」

「うん!ばいばい。また今度ね」




 白銀と別れた後、家に向かって歩いた。そういえば最近よく変なやつに出くわすなとふと思った。




 帰り道。急な腹痛に襲われた。急いで近くのコンビニに駆け込む。


「ぐおおおおおおお」


 出るものが出ていく。しかし出し尽くしたと思っても腹痛が止まらない。三十分ほど経ちさっきの話を思い出す。俺は頑張って立ち上がるとある物を購入した。そう。センブリ茶だ。こいつは腹痛に効くらしいからな。試しに飲んでみよう。


ふたを開け口に含む。


「ぶふうっ⁉まっず⁉」


 あまりのまずさに口から吹き出してしまう。はあ?意味わからんくらい苦いんだが?しかし良薬は口に苦しと言う。俺は頑張って何とか流し込む。まずすぎておえってなるのを堪え半分ほど飲んだ。効くまでに時間がかかるのか痛みをこらえてふらふらしながら歩いて帰り、家に着いた瞬間ベッドに横になる。



 しかし何時間経っても腹痛はおさまらない。あれだけの劇薬をもってしても俺の悪玉菌には勝てなかったようだ。まじこいつどんだけ強いんだよ。そっちゅう夜中に起こすし大事な時ほど邪魔してくるし性格も悪いしな。純粋悪の魔人ブウみたいなやつがいるんじゃねえか。


 



 俺は横向きになり体を丸めるとタオルケットを抱きかかえお腹を優しく包み込む。お腹が痛いときはこうすればいいと小学生の時保健室の先生が教えてくれた。




 小学生の時は腹痛に耐性が無さ過ぎてお腹痛くなった時はすぐ保健室に行っていた。その際先生が教えてくれたのだ。蓮も便秘がひどくてよく通っていた。俺たちはクラスでもトイレばっかり行くからいじめられていて居場所がなかったためよく保健室に逃げ込んでいたのだ。




 そういえば河瀬先生に似てるんだよな。さばさばしていて美人な人だった




 そんな風に昔のことを思い出していたら暖かい気持ちになっていつの間にか腹痛は消えていた。 

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