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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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15話 「貧乏ポンコツ泥棒女」

 翌日。授業が終わって部室に行ってみたが鍵が閉まっていて誰もいなかった。鍵を開けて中で待つことも考えたがめんどうだったので帰ることにした。まあたまにはいいだろう。アパートに着くと、階段を上り二階に向かう。ドアの前に立ち鍵を開けようと鍵を鍵穴に差し込んでみるが鍵が回らない。


「ん?」


 不思議に思い鍵を抜こうとするが抜けない。


「おいおいなんだよ。まさかあのおかま昨日壊しやがったんじゃねえだろうな」


 俺がぼやいていると、中から物が倒れる音が聞こえ、甲高い悲鳴が聞こえてきた。なんだ天ヶ崎か。あのやろう今度はどうやって侵入しやがった。ドアをガチャガチャしようと思いドアノブをひねると、ドアが開いた。開いてたのか。


「おい天ヶ崎てめえ鍵壊しやがったな!どうやって侵入した!」


  怒鳴りながら家の中に入ると散乱した洗濯物の中に俺のパンツを被り座り込んでいるやつがいた。


「おいお前人にパンツがどうだとか言ってた割にお前が俺のパンツ被ってんじゃねえかこの変態が!新しい遊び覚えたんか」


 しかしパンツを頭から外し、顔を見せたのは淡い水色の髪のボブカットの整った顔をした女の子だった。



「ど、どうしようどうしよう!帰ってきちゃったよ!またやっちゃった!ああまずい!パンツ外さなきゃよかったかな。でも男の人のパンツ被ったままなんてありえないし。


ていうか僕男の人のパンツ被っちゃったんだ。うう終わりだ。もうお嫁に行けないよ。なんでいつもこうなんだよはあ。

てかそんなこと言ってる場合じゃないよ早く逃げないと!」


 などと一人ぶつぶつ言っている。


「おい誰だお前は何をぶつぶつ言っている。この下着泥棒が!いくら俺のパンツが欲しいからって頭に被るとは驚いたぞ!」


 俺は腕組みをし下着泥棒を見下ろす。


「し、下着泥棒⁉ち、違うよ!僕はちょっとお金になりそうな物を盗みに来ただけで君のパンツを盗みに来たわけじゃない!これは君の洗濯物干しにぶつかっちゃったら降って来ただけだよ!」

「ええい嘘をつくなこの性犯罪者が!俺のパンツが金にならんとでも言うのか!本当は男のパンツを被ってくんかくんかするのが趣味なんだろ!それともぺろぺろか!まさかの両方か!吐け」

「どっちもしないから!そんな発想になる君の方が怖いよ!」


 だが数ある家の中からこの俺のパンツがあるこの家に入り込み、俺のパンツを盗みに来たそのセンスだけは褒めるに値する。


「言い訳は警察でするんだな。危なかった。危うく俺のけつ筋を堪能されるところだったぜこの痴女め」

「ま、待って!お願い警察には言わないで!君の家金目の物なんて何もなかったから僕何も取ってないよ!」


 警察に行くと聞いた途端ギョッとして慌てだす。


「何も取っていなくても家宅侵入罪で逮捕だな。何よりこの俺の家に侵入しながら何も取るものがなかったというのが気に食わん。一番重い罪だ」

「えええ⁉だってほんとに何もないし!ていうかお願いします!警察には言わないで!何でもするから!何でも言うこと聞くから。うう。ああ僕の純潔は今日で汚されちゃうんだ。今まで大切に守り抜いてきた貞操も今日で終わるんだ」


 などと言って嘆きだす。


「おい待て待てまるで俺が悪いみたいになってきてない?大丈夫?」

「何でも言うこと聞くからこのことは内緒にしてください!エッチなことも我慢しますから!お願いですから酷いことしないで!」

「おおい大声でそんなこと口にするんじゃねえ!逆に俺が捕まっちまうだろうが!分かった分かった言わねえから」

「ほ、ほんと⁉あ、ありがとう!ほんとに!ああよかった!じゃ、じゃあこれで僕は失礼します。ありがとね。この御恩は忘れません」


 そう言って立ち上がるとドアの方に向かい帰ろうとする。


「わざと大声で言いやがったな。あ、待てお前鍵壊しt――」

「それ逃げろ!」


 言い終わるうちにあっという間にコソ泥は逃げ去って行った。


「あの泥棒今度会ったら修理代請求してやるからな」


 大事なものが取られていないか確認のため押し入れを開けるとトイレットペーパーの数を数える。


「ん?」


 念のためもう一度数えてみるがやはり数が足りない。一パック分のトイレットペーパーが足りない。




「あの女ぁぁぁぁ!やってくれたなあ!」




 俺は急いで靴を履くとドアを勢いよく開け階段を駆け下りる。歩道に出て左右を確認すると右の方の少し先に先ほどの泥棒が歩いていた。俺はクラウチングスタートのポーズをとると、よーいドンでスタートし、全速力で泥棒に向かって走る。


「きさまぁぁぁぁぁ!よくも俺の大事な大事な、命の次に大事な物を盗んでくれたなあ!逃げられると思うなぁぁぁぁ!」

「きゃあああああああなになに⁉僕そんなもの盗んでないよ⁉怖い怖い怖い!」


 俺に気づいた泥棒が半泣きになりながら全力で逃げだす。


「嘘を吐くな!トイレットペーパーを盗んだだろ!この俺からトイレットペーパーを盗むとはいい度胸じゃねえか!地の果てまで追いかけてやるからなあ!」

「と、トイレットペーパー⁉トイレットペーパーくらい別にいいじゃないか!あんなにいっぱいあったんだから!」

「いいや一つだって盗ません!この泥棒が!捕まえたらトイレットペ―パーでぐるぐる巻きにしてお仕置きしてやる!」

「それほんとに大事かな⁉そんな使い方するくらいなら僕が持って行ってもいいじゃないか!」


 走りながら会話する。


「いいや許さん!全身の穴と言う穴にトイレットペーパーを詰めてやる!」

「いやあああああああああやめてえ!この人おかしいよ!またはずれの家に入っちゃったよ!分かったよ!トイレットペーパー返すから追いかけてこないで!」



 しかしその前に泥棒に追いつき腕をホールドし捕獲する。



「よーし捕まえたぞこの極悪人が。トイレットペーパー窃盗罪で警察に突き出してやる。重強盗過失罪だな。重いぞこれは」

「いやあああああ放して!誰か助けて!トイレットペーパーでぐるぐる巻きにされる!」


 全力で抵抗して大声で助けを求めて叫ぶ。


「おい冗談だろうがそんなにガチで叫ぶんじゃねえ」

「もうトイレットペーパーの特殊プレイは嫌なの!謝るから許して!」


 周囲の人が俺と俺に掴まれまるで痴漢されそうになっているみたいに叫ぶ泥棒女を見てひそひそ話している。


「よーし分かった。トイレットペーパーを返してくれるなら警察に突き出すのはやめてやる。だからこれ以上叫ぶなまじで!俺が悪かった」

「ふふーん。そうだよね?でもそれだけじゃちょっとなー。お詫びにトイレットペーパー二つくらいは――」


 などと言ってしたり顔で調子に乗り始める。


「調子に乗るなよ?」


 俺はそのまま泥棒女の腕をギリギリ絞める。


「いだだだだだだだ。ごめんなさい調子に乗りました!警察に言わないでいてくれれば十分です!」


 俺が泥棒女の腕を放すと涙目でこちらを睨みつけてきた。


「女の子に締め技使うなんてどうかと思うよね」

「いや悪かったよ。だが俺のトイレットペーパーに手を出すやつは女だろうと容赦しない」

「怖すぎだよ君。はあ。どうして僕の泥棒物件はこんなにはずれるんだろう」


 などと失礼なことを言い溜息をついている。


「失礼なやつだな。そんなことよりお前俺の家の鍵弁償しろよ。下手くそなピッキングしやがって。壊れちまってるじゃねえか」

「そ、それだけは勘弁してください!」

「何?警察行くのとドア弁償するのどっちがいいの?」


 俺はしれっと鍵じゃなくてドアごと弁償させることにした。


「う。お願い!僕お金ないの!もう一か月くらいもやししか食べてないの!もしドアなんか直したらまた雑草食べるしかなくなっちゃう。ぐうううう」


 泥棒女の腹の音が大きく鳴った。


「うう。お腹空いた」


 お腹に手を当ててつぶやく。


「な、なんかめちゃめちゃ可哀想だな。それで泥棒なんかしてんのか?」

「うん。両親が借金しちゃって、それで僕だけおいて夜逃げしちゃったんだ。だからいくらバイトしても全部借金返済に消えちゃうんだ。だから泥棒もしてるんだけど…」

「だけど?」

「僕ドジだからいつも下手こいちゃって、なかなかうまくいかないんだ。行く先々でドジしちゃって。この前は高級住宅ビルと警備会社を間違えちゃったんだ」

「お前アホすぎるだろそれは」


 そう言えばさっきも洗濯物干しにぶつかってパンツ頭から被るとかいうミラクル起こしてたな。


「う、うるさいなあ。それでね、それだけじゃなくて運も悪いみたいで、最近侵入した家は五軒とも室内犬がいて、僕が家に入ると――」

「なるほど。吠えられたり嚙まれたりするわけか。お前ほんとついてないのな。分かるぞ。俺も犬は大嫌いだ。あいつらなぜか俺のことを目の敵にするんだ。可愛げのかけらもねえ。それどころかあいつらのするうんこのせいで俺の靴はいつも――」

「あのなんか共感してくれてるところ申し訳ないんだけど、そうじゃないんだ。僕はなぜかワンちゃんたちに気に入られるんだよ」

「は?」



 何だと?



「しっぽをふって延々と追いかけてきたり、遊ぼうよって吠えられたり、いたずらで靴を隠されたりしてうまくいかないんだ」

「そ、そうか。ま、まあ俺と似たようなもんだな。うん」

「き、君とはだいぶ違うと思うけどね。あはは」


 そう言って愛想笑いをする。


「それでもう大きい家は無理だってなったんだ。本来はお金持ってそうな大きい家に入るんだけど、

やむを得ず目に入ったぼろいアパートに入ってみたら、また変な人が帰って来て――」

「悪かったなぼろいアパートに住んでる変な人で」

「あっ、いや今のは違うんだ。あの、その」


 口が滑ったようで焦って手を胸の前に出して言い訳しようとする。


「ふうん。可哀想だからドアの請求しないでおこうかなあって思ってきてたのになあ。はーあ」

「ううう。お願いだよお。間違えただけなんだ。僕だってこんな家に入るのは心が痛かったし、実際こんなトイレットペーパーでぶち切れて叫びながら追いかけてくる人なんて初めて当たったんだよお。許してよお。ごめんなさいぃ」


 などと言って地面に座りこんで謝ってくる。


「お前謝ってるつもりかもしれねえが結局悪口しか言ってねえからな?」




「分かったよ。ドアは別にいいよ。もともと昨日野生のモンスターが壊したようなもんだしな」

「ほ、ほんとに⁉うう。君いい人だったんだ〝ねえっ。ありがどうううっ。ありがどうねえっ」


 俺の足に縋りついてくる。


「おい汚え!鼻水つけんなっ」

「てかじゃあなんで俺のトイレットペーパー盗んだ?」


 お金が欲しいだけならいらないはずだ。


「お金と生活必需品もちょっともらっていくんだよね。まさかお金よりトイレットペーパーで怒る人がいるとは思わなかったよ。世の中は広いんだね」


 まるで珍獣に会ったかのように俺のことを見てくる。


「バカたれ。トイレットペーパーは金なんかよりよっぽど価値がある品物だ」

「あれ⁉スーパーに三百円とかで置いてるんだけど⁉」

「それに気づけないからお前は泥棒に失敗するんだ」

「それ絶対関係ないよね⁉」


 そろそろ警察が来るかもしれないからここから離れた方がいいかもしれない。


「じゃあな。まあなんだ。次はいい家に当たるといいな。頑張れよ」



「ぐううううううううっ」


 再び大きなお腹の音が鳴る。


「お腹で返事しやがってよお」

「ううっ。ごめんね。は、恥ずかしいな。もう三日も何も食べてないんだ。あはは」


 恥ずかしさを誤魔化すように笑う。


「はあ。しょうがねえなあ。ついてこい。ご飯奢ってやるよ」

「えええ⁉嘘⁉いいの⁉」

「こんなに不憫なやつ見たことねえよ。流石にな。放っておけねえ」


 ここで見捨てるやつは鬼か何かだ。


「僕エッチなこととかできないよ?嫌だからね⁉」


 などと言って変なことを勘繰り体を抱きしめている。


「俺を何だと思ってるんだよ。別に何も見返りなんか求めてねえっつの」

「トイレットペーパーを使った特殊プレイだって嫌だからね⁉やらないよ⁉」

「それはお前が言い出したんだろうが。俺は一回もそんなこと言ってねえよ。いいから早く行くぞ。腹減ってるんだろ?」

「壺だって買うお金ないよ⁉絶対かw――」

「ああもううるせえよしつけえな。どんだけ疑い深いんだよいいから早く来いっ」



 俺は泥棒女を無理矢理近くのファミレスまで連れていった。


 

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