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一ノ瀬英一のおバカ譚  作者: 八野はち
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14話 「おかまデリバリー」

「はーい今行きます」


 玄関のドアを開けるとそこにはピザ屋の制服を着て帽子を被った身長180センチくらいの毛深い大男が立っていた。いかつい顔つきに青々とした髭の痕。しかし男の割には奇妙なことに真っ赤な口紅をさして頬には赤いチークがされていた。


「デリバリーピザですー。あーら可愛い顔の男の子ねえ。私すっごい好みよー」


 地獄みたいな恰好で、重低音を響かせる。


「なんで今日はこんなのにしか会わねえんだよ。勘弁してくれよ」


 思わず愚痴がもれる。


「あら照れ屋さんなのねえ。可愛いわあ。ますます好きよお。うふふ」


 頬に手をやると首を傾ける。


「あのー早くピザ渡して帰ってもらえます?」

「一人暮らしなの?洗濯物とか洗い物たまってるんじゃないのー?私がやってあげるわ」


 俺の言葉を無視して差し出がましいことをぬかしてくる。


「早く帰れっつってんだよ。いくら?」

「あら失礼。千五百円よ」

「じゃあ二千円で」


 俺は英世を二枚渡す。


「はーい五百円のお釣りよ」


 お釣りを渡すついでに俺の手のひらを数本の指でなぞってくる。


「ひいいっ。気色悪いな!何してんだてめえはあ!」

「もう赤くなっちゃってっ」

「鳥肌たったわ!二度と言うなお前」


 セクハラされる側の気持なんか知りたくなかったわ。




「じゃあ今だけサービスで私からのキッスがついてくるから――」

「ありがとうございましたー」


 俺はそのままドアを閉めようとしたがおかまがドアを掴んできた。


「まあまあまあまあせっかちさんなんだからもう。話はまだ終わってないわよ」

「もう終わったんだよ。放せ。くそこいつなんて力してやがる!」


 ドアを閉めようとするがびくともしねえ。


「まずは中でお茶でも飲んでお話しましょうよ。ね?」

「さっさと仕事に戻れよ!放せ!てめえクレームの電話入れるぞ!」


 ちくしょう。モテるためじゃなくて自衛のために筋トレすべきだったと後悔する日が来るとは。


「あらそんな心配しなくても大丈夫よ私が店長だから」

「とんでもねえ店にピザ頼んじまったあ!てめえのとこのピザ二度と頼まねえからな!おい放せてめえ警察呼ぶぞこら!」


 そこで隣の部屋のドアが開き天ヶ崎が顔を覗かせた。


「もう先輩うるさいですよ。今いいところなんですから静かにしてくださいよ」

「よし!でかした天ヶ崎!こいつなんとかしてくれ」


 初めてお前が引っ越してきたことに感謝したぞ。


「高校生にもなってドアを開け閉めして遊ぶなんて幼稚すぎですよ先輩。静かにしてくださいね」


 などと言ってドアを閉め中に引っ込もうとする。


「待て待て待て待て!こいつ変質者!どこが遊んでるんだよ!」


 俺は慌てて天ヶ崎を呼び止める。


「変質者さんなんですか?」


 おかまに向かって首を傾げる。


「違うわよ。この子の彼女よ。照れ屋さんだから中に入れてくれないのよ」


 などとぬかすおかま。


「あ、そうなんですね。先輩彼女できたんですか。彼氏かな?まあとにかくおめでとうございます。中に入れてあげないと可哀想ですよ」

「そんなわけあるか!真に受けんな!早く警察呼べ!こんなのが彼女なわけあるかあ!」

「へー。じゃあ先輩今かなり追い詰められてる感じですかあ?」


 急に悪い笑顔を浮かべる。


「あ⁉見たら分かるだろ!」

「でも先輩私のことやばいやつ扱いしてくるしなー。そっちゅう暴言吐くし床に落とすし。女の子扱いしてくれないしなー。どうしよっかなー」


 ちくしょうこいつ。


「おいおいおいまじで頼むよ!分かったこれからはちゃんと女の子扱いするから!」

「ほんとかなあ?ゲロ子とかゲロ女とか呼ぶしなあ」

「二度と呼ばないまじで!早く呼んでくれ腕がもう限界なんだよ!」

「もうしょうがないですねー。約束ですからね。あっ、コマーシャル終わった。すいません先輩今いいところなのでこのアニメが終わったら電話しますね。じゃ」


 そう言ってドアを閉め部屋の中に戻って行った。


「はあ⁉おまふざけんな!おい待て天ヶ崎!あいつ終わってる!絶対許さん。恩を仇で返しやがって!あのゲロ女が!」

「ちょっと他の女と仲良くしすぎじゃない?やけるわねえ」


 おかまが顔を近づけて気持ち悪いことを言ってくる。


「お前はマジ帰れよ早く。いつもこんなことやってんのか⁉」

「やーねえ。気に入った子にだけよお」

「このカマ野郎が!放せ!」


 と、突然おかまの力が増した。


「誰がおかまだごらあ!中身が女の子だったら問題ねえだろうがおらあ!」


 おかまが地雷だったらしく唐突にぶちぎれたおかまがドアをさらに強く引っ張り、ドアがみしみし音を鳴らし始めたところでサイレンの音が聞こえてきた。


「ちっ。しょうがないわねえ。今日のところは見逃しといてあげるわ!」


 そう言い残すとおかまはすごい勢いで走り去って行った。


「まじあいつやべえ。最後逆ギレして帰って行ったし。まじあのピザ屋二度と注文しねえ。ていうか潰れちまえあんな店」


 ちなみにパトカーは通り過ぎて行っただけで誰かが通報したわけじゃなかった。さてあとはあのクソ女だな。




「ピンポーン」

「おい天ヶ崎ィ!出てこい!」


 俺はチャイムを押すとドアをドンドン叩く。


 しかし天ヶ崎は案の定出てこない。恐らくいくら叫んだところでアニメが終わるまでは出てこないだろう。


「おーい天ヶ崎。ピザ届いたから一緒に食おうぜー。開けてくれ~」


 気のいい声を作るとおおらかな風に呼びかける。


 するとドタドタ音がしたと思うと天ヶ崎が出てきた。


「ええ!いいんですか⁉やtt」

「いいわけあるかボケがあ!」


 俺は天ヶ崎のこめかみを掴むとアイアンクロウを食らわせる。


「いだだだだだだだっ。いだい先輩痛い!」

「てめえ昨日あれだけお世話になっておきながらよくも見捨ててくれたなあおい。あれか?お前の中では俺の優先度はアニメより下か?ん?」

「痛い痛い痛い!先輩ピザくれないんだったら放して今いいところなんです」


 俺の言うことには一切関心を示さず、ピザしか眼中にないらしい。


「お前これっぽっちも反省する気ないな?おい」

「あやばいです気分悪くなってきたかも。うっぷ」

「おいおいおいおい!恐ろしい女だなお前はっ」


 俺は慌てて手を離すと天ヶ崎から距離をとる。


「一日に二回もゲロかけられてたまるか」

「分かりましたよ先輩。次からはアニメより先輩を優先してちゃんと通報しますから」

「次があってたまるかよ。あんなピザ屋二度と呼ばんわ。ついでに隣人も引っ越してくれると助かるんだが」

「まったくですよね。こんな騒いでも警察呼ばないなんてどうにかしてますよね先輩の隣人さんは」


 などと言って右隣の部屋を見る。


「てめえのことだよ!右隣は空き家だ!お前何か犯罪が起きてもテレビ優先しそうで心底恐ろしいよ。最悪の隣人だお前は。色んな意味で。一刻も早く引っ越せ」

「やーですー。べべべべべえ」

「クソガキが」


 ダメだこいつイライラする。


「もういいお前と喋んの疲れた。じゃあな」


 俺は自分の部屋に足を向ける。


「そうだ先輩。先輩の家でのお泊り会の話なんですけど――」

「やるかあバカが!少なくともお前だけは二度と部屋に入れんわ」


 嬉々としてさっき部室でした話を始める。


「そうだその時はピザ頼みましょうよ!あのピザ屋さんに」

「お前俺の話何も聞いてないのな!おかまもクソガキも呼ばねえって言ってんだよ!」

「えー何でですかー」


 不服そうに頬を膨らませる。


「うるせえ腹減ったからもう戻る。じゃあな」

「はーい。おやすみなさーい。あ、そうだちょっとピザ味見させてくださいよ。ちゃんと返しますから。ちょっとドロドロになるかもですけど」

「それはピザやないゲロや。早くアニメでも見てこい。ていうかてめえは永遠にアニメ見てろ」

「あっそうだ忘れてました!もう終わっちゃったかなあ」


 


 ドアを閉めて部屋に戻っていった天ヶ崎を見届けると俺もお腹が空いたので部屋に戻りピザを食べることにした。何か恐ろしいものが入ってるかもしれないと警戒したが、普通のピザで、普通においしかった。ただの個性的なピザ屋なのかもしれない。



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