13話 「ロリコン警察」
「うおい!てめえら何警察呼んでんだよ」
ヤンキーのくせに恥ずかしくねえのかこいつらは。
「うるせえこの変質者が!てめえみたいなうんこ野郎は交番に連れていかれろ!」
「お巡りさんあいつです!さっき話した通りこいつが鞄からうんこがついたトイレットペーパー取り出して振り回してたんすよ」
などと言ってチクっている。
「ほんとにうんこなんかついてるわけねだろうがよ」
「なんじゃなんじゃ公園で変質者が暴れてる言うき、小さい子が危ないと思うて来たんにおまんらだけかあ。テンション下がるのお」
土佐弁の警察官があからさまに落胆する。
「女子高生が危ないんすよ!あいつしょっぴいてくださいよ」
「変質者言うが制服着ちゅうやないかい」
警察官は俺の方を見て言う。
「聞いてくださいよお巡りさん。こいつらが集団で俺のことうんこコールしていじめてきたんすよ。俺がお腹弱いからって」
「それはいかんのお。こらおまんらそんな怖い顔していじめたらそらトイレットペーパーくらい振り回すぜよ」
など言って俺の肩を持ち二人に注意する。
「まったくだ。顔面凶器どもが」
「「うっせえ何が顔面凶器だぶっ殺すぞ!」」
取り巻きの二人がキレる。
「ほんなら顔面脅迫罪で逮捕じゃな。18時36分と」
「「「えええええ⁉嘘だろ⁉」」」
三人とも驚愕している。
「おおあんた話が分かるっすねえ。俺一ノ瀬英一です。高2。よろしく」
なんて素敵な警察官なんだ。よし、ぼくも大きくなったら警察官になって公園のトイレ付近にたむろするヤンキーを駆逐するぞ!
「わし津田十太郎。17歳無職。よろしくの」
「そうか十太郎か。ん?17歳無職?警察っすよね?」
どういうことだ?
「ん?わし警察官ちゃうよ?」
などと当たり前じゃという顔で言う。
「いやお前警察じゃねえのかよ!なんかおかしいなと思ったら!」
「じゃあなんでそんな恰好してんだよ!」
ケバギャル二人がまくし立てる。
「おまんらがいいから来てくれって言うからついてきたんじゃ。わし小学生の女の子が大好きじゃき、毎日朝と放課後小学生が登下校する時間に学校の近くで挨拶しとったら職質されての。
それからはこの格好で見守っとるぜよ。いやーこの格好じゃったら小学生もみんな元気よく挨拶してくれて最高じゃ。まったく小学生は最高ぜよ!」
「てめえが捕まれよこのロリコン野郎が!」
「なんでそれで警察のコスプレしようと思ったんだよ!なんらかの犯罪に該当するだろ!」
取り巻き二人が口々に喚く。
「いやいや何言うんじゃ。わしは危険な変質者から無垢な女子小学生たちを守っとるんじゃ」
「てめえが一番危険なんだよ変質者が!なんで女子小学生しか守らねえのか言ってみろよ!」
「そりゃ男の子は喧嘩ばっかりで可愛くないしのお。男なら自分の身は自分で守れるようにならないかんぜよ」
などと恐ろしいことを言っている。
「こりゃたまげたぜ。とんだロリコン野郎だ」
俺は自覚のないロリコンに軽い恐怖を感じる。
「あれ?そういえばリーダーかつらどうしたんすか?」
取り巻きの一人が気になっていたであろうことを尋ねる。
「…こいつに取られたんだよ。正体もバレた。だからこいつを警察に突き出すのはやめておこう。弱み握られてるしニュースになったら困る」
「そうですね。おいてめえ運が良かったな。リーダーがアイドルだって人に言ったらぶっ殺すからな!あとてめえは警察に突き出してやるからなロリコン野郎!」
俺から十太郎に目線を移し、宣言する。
「わしはロリコンじゃないぜよ。児童愛護家と呼ばんかい。そんなことよりそっちのおなごはアイドルなんか?」
「あれ十太郎こいつ知らねえのか?おいお前実はあんまり人気ねえんじゃねえのか?」
「うっせえニヤニヤすんな。知らねえんならべ、別にいいんだよ。別に」
月野が気にしてるように「別に」と繰り返す。
「リーダー気にしないで下さい!リーダーのこと知らない高校生なんていませんから!このロリコンくらいですよ!」
取り巻きがすかさずフォローする。
「ああなんかテレビで見たことがあるかもしれんのお。あれやっぱりなかったか?まあいずれにしても年取りすぎじゃなあ。現役時代過ぎちょるけんそろそろ引退した方がええんやないか?」
「リーダーはまだバリバリの現役の華の女子高生だこのロリコン野郎が!」
「そうなんだよ十太郎。こいつ若作りに必死で実はめちゃめちゃケバいんだよ。あれ?お前らもそれ若作りだった?ごめんなバケモンとか言っちゃって」
「「「若作りじゃねえよクソが!」」」
三人仲良くツッコんでくる。
「じゃあおまんらなんでそんな怖い顔しとるやが。ああそうじゃ、ランドセル背負ったら可愛らしさが生まれてよくなるかもしれんプゥー」
話の途中で屁をこく。
「きったなこいつ屁こきやがった!うわくっさ!」
取り巻きの一人が鼻をつまむ。
「わっはっはっはっはっはっは。すまんのう。わしよく屁が出るんじゃ。そんな嫌がらんでわしの体から毒が出たんじゃからみんなでもっと喜ばんゲエ――ップッ」
次はゲップをする。
「お前キショすぎんだろマジで!近寄んなカスが!」
もう一人の取り巻きが叫ぶ。
「わっはっはっはっはっはっは。すまんすまん。ゲップも出てしもうたか。こりゃ失礼したのお」
「ぎゃはははははははっ。お前面白すぎるだろ十太郎!最高だ!いいぞもっとやれ!」
「ダメだ同類のクズが喜んでる。なんか気が合ってるの嫌な予感がしたんだよ」
「とんでもねえ奴を連れてきてしまった。すいませんリーダー」
俺たちを見て取り巻き二人が頭を押さえる。
「あ。そうじゃ。おんしのことは知らんがわしうんこぶりぶり軍団なら知っとるぜよ」
「そいつら知ってるのてめえらぐらいだよ!」
月野もそうとう不快だったらしくキレ始めた。
「お、お前も知ってんのか!やっぱ分かってんなあ」
「おんしも知っとるのか?あいつら面白いぜよ。『お腹痛い人あるあるぅ』言うてなあゲッププゥーッ。おっと失礼」
「ぎゃははははははははは」
「汚えからもう喋んなてめえらは!」
月野が我慢できずに叫ぶ。
「てめえは十太郎じゃなくてプー太郎だ!」
「どっちの意味でもな!」
ギャル三人がそれぞれわめく。ふと横を見ると公園横の歩道を通りかかった小さい女の子がこちらを見ていた。隣にはその女の子の母親が手を繋いでいた。
「ママあの人たち顔怖いよ。なんであんな格好してるのー?変な顔」
「しっ。見ちゃダメよ!いい?まおも悪いことしたらあんな顔になってああやって警察の人に捕まるのよ」
「あの人たち捕まるの?」
「そうよ。だからまおもお母さんの言うことちゃんと聞くのよ?」
「うん聞く!だってまおあんな変な顔になりたくないもん」
「いい子ね。帰ろっか。今日の夕ご飯はオムライスよ!」
「やったー。まお大好き!」
こちらに筒抜けな会話をして親子は帰っていった。目の前ではケバギャル軍団が虚ろな表情を浮かべていた。
「え?うちらってそんなに顔怖いっすか?リーダー。悪く見られるのは嬉しいんすけどこういうのは望んでいないっていうか」
「それ。子供に犯罪者って思われたんだけど。てか怖いっていうか変な顔って言ってなかった?ね?リーダー」
純粋な子供のリアクションに、自分たちの相貌に疑問を持ち始めた二人が深刻な表情で月野に問いかける。
「だ、大丈夫だ!二人のことじゃない。この変態二人のこと言ってたんだよ!」
慌てて月野がフォローする。
「そ、そうっすよね!なーんだびっくりしたあ。やっぱこいつらのことっすよね」
「焦ったー。うちらのこと言ってんのかと思ったー。はー良かった」
などと言って現実逃避している。
俺はポケットから棒の着いた飴を取り出すと十太郎の口に向けてインタビューを開始する。
「今回凶悪な犯罪を犯した女子高生三人組の知り合いということらしいですが、普段の三人はどんな感じだったのですか?」
「そうですねー。正直いつかやると思ってました。はい。まず顔から凶悪的ですよねー。特に目がやばかったです。真っ黒でバッサバサ。あれは何人か殺ってる人の目つきでしたね。子供にもよく怖がられてました。はい。あ、これ顔隠してくれますよね?大丈夫ですか?」
ボイスチェンジャーアプリで声にモザイクをかけ高くなった声で、大分なまった標準語で十太郎が答える。
「ああ大丈夫ですよ。ちゃんとモザイクかけますからね。なるほどありがとうございます。子供にも見抜かれていたということですね。まあ何より顔が怖いですからね。続いては今回の事件の首謀者にインタビューしてみたいと思います!」
「キャンディーをこっちに向けんなくそが!誰が首謀者だよ!あたいらは何もしてねえ!何が怖い顔だよこのうんこ野郎とコスプレ変質者が!」
月野がそもそもお前らのせいだとばかりに八つ当たりしてくる。
「失礼致しました。先ほどの表現に間違いがありました。怖い顔ではなく正しくは変な顔でした。失礼致しました」
「いつまで続けてんだボケが!変な顔でもねえよ!てかややこしいんだよ!なんで警察の恰好したやつにインタビューしてんだよ!」
俺から奪った飴玉を十太郎に投げつける。
「しっかし惜しいのお。おんしもっと若かったらかなりいい線いくと思うんやがな」
「まったく科学者は何をやっとるぜよ!小惑星探査機のはなくそなんか作ってる暇があったら全力でAPTX4869を作らんかい!」
十太郎が突然怒り出す。
「まったくだ!人工知能なんか作ってる暇あるなら詰まらないトイレを作らんかい!」
「はなくそじゃなくてはやぶさだろうが!はなくそはてめえのことだよバカが!」
月野がキレてツッコむ。
「リーダー。もうこいつらの顔見るのも声聞くのも嫌になってきました。そろそろ帰りませんか?リーダーも明日仕事で忙しいんですよね?」
「そうですよ。これ以上この格好と素顔でいるのはまずいっすよ」
「そ、そうしようか。あたいももう意味わからんくらい疲れた。こいつらキモすぎる」
三人とも俺たちにゴミを見るような目を向けながら話し合う。
「何言ってんだ。お前らから突っかかってきたんだろうが」
「まったくぜよ。おんしらがどうしても来て欲しい言うからわしは付いてきたんじゃ」
「うっせえ!お前がボール当ててきたのがそもそもの始まりだろうが!」
月野が疲れ切った様子で叫ぶ。
「そうだ!それにてめえは紛らわしい格好してるからどう考えてもてめえが悪いわ!このロリコンコスプレ野郎が!」
「よせ菅原、荒木。疲れるだけだ。アホどもは放っといて帰ろう」
月野が二人を見てゆっくりと首を横に振る。
「おう元気でなケバ野。あんまり厚化粧しすぎるとこの先きついぞー。まだ十七なんだからなー」
「あたいはアイドルの時はほとんど化粧してねえよ!てか誰がケバ野だよ!あたいは月野だぶっ殺すぞ!」
「正直現役過ぎとるのに頑張る根性はええぞい。きついと思うがあんまり気にするなのお!」
「高校生は十分若いんだよ!全然現役過ぎてねえよこのロリコン犯罪者予備軍が!」
月野が髪を乱れさせて叫ぶ。
「「いいことあるぞお」」
「もうしゃべんなてめえらは!死ね!」
取り巻き二人が中指を立てながら黒ギャル軍団は去って行った。
「じゃあ俺らも帰るか」
俺は十太郎の方を向く。
「そうじゃのう。もう暗いし帰るか」
「そうだ連絡先交換しようぜ。お前とは仲良くやれそうだ」
「おおええのお。よろしくの英一」
そう言って握手する。
「またな。コスプレは自重しないとそのうちマジで捕まるぞ」
「わしの小さきものたちを思う心は誰にも止められやせん」
「それだけ聞くといい言葉に聞こえるのヤバすぎるだろ」
「わっはっは。それじゃあの。また会おうぜよ」
「おう!」
公園で十太郎と別れた俺は家に帰るともう夕飯の時間になっていた。ちなみに天ヶ崎はいなかったがベッドの上にポテチの食べかすが散らばっていたので壁を強めに一発殴っておいた。
その日の夜、夕飯を買いに行くのが面倒だったのでピザを頼むことにした。電話で注文し三十分くらい経った頃インターホンが鳴った。




